日本の核不使用声明支持の裏
今日はこの話題です。
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1.「核不使用」を訴える共同声明支持への方針転換
10月21日、核兵器の人道的結末に関する共同声明が国連総会第1委員で発表され、国連加盟国全体の約3分の2に当たる125ヶ国がこれを支持した。この種の声明は過去3回出されていたのだけど、日本はこれまで、アメリカの核抑止力に頼った安全保障政策に合わないことを理由に見送っていた。
だけど、日本はその方針を転換。今回初めて声明を支持することとなった。
方針転換について、岸田外相は「声明が修正された結果、わが国の安全保障政策とも整合性があると判断し、今回は参加を決めた」と述べているのだけれど、こんな大きな方針変更ができた修正とは何なのか。
前回の声明は今年の4月24日にされているのだけれど、こちらにその翻訳がある。
この声明を出したときのNPT再検討会議第2回会合で、日本の天野万利・軍縮会議日本政府代表部大使が演説しているのだけれど、その中で「日本を取り巻く安全保障環境を考慮し、我々は、声明中の記述が矛盾ないかどうかを慎重かつ真剣に検討し、それらの修正について協議を行った。残念ながら、双方にとって合意できる結果がもたらされなかったので、日本は声明に加わらないと決定した」と述べている。
修正協議が安全保障関係のものだとは分かるけれど、具体的にはどの文言なのかというと、菅官房長官が4月25日の記者会見で「わが国を取り巻く安全保障環境は厳しいので、『いかなる状況でも』という文言を削除してほしいと働きかけをした。日本の置かれている安全保障の状況を考えたときに、ふさわしい表現かどうかを慎重に検討した結果、賛同することを見送った。」と述べているから、この「いかなる状況でも」の文言が駄目だったということ。
では、今回の声明ではどうなっているかというと、こちらの外務省のサイトで、本文と仮訳が公開されている。
前回と今回の声明とざっと比較する限りでは、双方とも内容は殆ど同じで、くだんの「いかなる状況でも」の文言も削除されていない。
これについて、外務省のサイトでは「同ステートメント全体の趣旨が、我が国の安全保障政策や核軍縮アプローチとも整合的な内容に修正されたことをふまえ、今般、同ステートメントに参加することとしました」と説明されている。どうやら、例の文言が削除されてなくとも、全体の主旨をみてOKということのようだ。
だけど、前回と殆ど同じ内容の声明で、どこがどう変わったからOKとしたのか具体的な言及がないから、筆者には、はっきりとこれだというのは分からない。一部報道では「核軍縮に向けた全ての取り組みと努力」を支持する文言が入る修正がされたから、としているけれど、それがどう「いかなる状況でも核を使わない」の削除に匹敵したのか。
今回の方針変更について、菅官房長官は「首相は『核兵器のない世界の実現』を基本的考え方としていた。首相の強い指示があった」と述べ、安倍総理の意向が働いていることを明らかにしている。
2.声明支持の裏に隠されたメッセージ
今回、声明を支持したことによって、日本は世界に対してメッセージを発信した。
勿論、「核廃絶に向けて、日本が努力する」という声明どおりのメッセージが第一であることは言うまでもないけれど、その裏側にもいくつかのメッセージが隠されているように見える。
それは、「日本は核武装せずに、国防強化する」というメッセージ。日本が「いかなる状況でも核を使わない」という声明を支持した以上、大っぴらに日本が核武装する可能性は殆ど無くなった。その上で、日本がこれまでの安保政策を維持するということは、核が完全に廃絶されるまで、今後も日本はアメリカの核の傘の下に入り続けるという宣言に他ならない。
アメリカは、自身と同盟国に対する核抑止力は維持しつつ、その上で、核の不拡散と核戦力の低減を目指している。日本が核武装をしないならば、その核抑止力はアメリカが肩代わりしなくちゃいけない。これは同時にアメリカが今後も日本、ひいてはアジアの安全保障にコミットしつづけなくちゃならないことを意味してる。
これで、アメリカは逃げられなくなった。アジアから軍を完全に引いて、自国に引きこもることが出来なくなった。
先日、オバマ大統領は「アメリカは世界の警察官ではない」と発言したけれど、もしかしたら、安倍総理は、この発言を受けて、今回の声明の支持を決断し、これを表明することで、アメリカに「世界の警察官を止めたとしても、日本を守る警察官は止めないように」と釘を刺しているのではないか。そういう裏のメッセージを発したように思える。
今回の日本の支持について、アメリカの政府筋は「核兵器使用がもたらす深刻な結果を、十分に理解している。…核軍縮に『応急処置』はない。このような(共同声明の)努力は、イランや北朝鮮のような核不拡散体制への脅威から焦点をそらせつつ、核兵器全廃への非現実的な期待を高める」と指摘し、暗に日本を非難したという。世界から核を無くすのは容易でないことはアメリカ自身が一番よく知っている。
だからこそ、このタイミングでの日本の声明支持表明は意味がある。安倍総理は、アジアから逃がさないぞ、と先手を打ったのではないか、と。
と同時に、日本の今回の声明支持は、日本の国防体制強化の口実的な意味も持っていると思われる。なぜなら、今回の声明の支持は、日本の周囲に核武装国があるにも関わらず、日本は核武装を放棄するも同然の宣言をしたことになるから。今回の声明支持によって、日本は、核兵器を保有する相手に、核無しで対抗しなくてはならなくなったという構図を成立させた。
この構図の中で、日本が抑止力を維持しようと思ったら、MDだろうが、敵基地先制攻撃だろうが、ありとあらゆる実効的な国防政策を採らなくちゃいけなくなる。つまり、更なる国防強化の"口実"を確保したといっていいだろう。
そして更に、核不拡散の建前の下、核兵器保有国に対して、そこに使われる部品やパーツなどの輸出をストップさせる口実も得た。これは地味なようで結構効く。世界の兵器に使用されてる部品には日本製のものが一杯ある。
例えば、先日、香港メディアが、中国の長距離地対空ミサイル"紅旗9"の部品のうち、電流制御装置である「AZ8112」というスイッチがパナソニック製で、中国の潜水艇は古野電気の誘導レーダーを使用していると報道し、中国のネット上でちょっとした騒ぎになったことがあったようだけれど、そうした部品の輸出を「核不拡散」を口実にしてストップさせることが出来るようになる。
核ミサイルのような、滅多に使わない兵器については特にそうだけれど、兵器に使われる部品類は、万が一の時にこそ、100%の動作が求められる。どこかの国のイージス艦のミサイルではないけれど、目標の反対方向に飛んでしまっては全くその意味を為さない。ゆえにこそ、兵器に使われる部品にはとんでもない信頼性が要求される。世界でそうした部品を安定供給できる国はそんなに多くない。
その意味では、兵器のキーパーツを握るというのも安全保障の一部であり、その元栓を握っている意味は重いといえる。
安倍総理は今回の声明支持によって、アメリカに迫ると同時に更なる国防強化への道筋をつけようとしているのではないかと思う。
この記事へのコメント
日比野
>核兵器と原発はセットと考えると、、、と単純化してみると、日本の原発技術をNPT加盟国への輸出を可能にする大義名分を…
なるほど。この視点は気が付きませんでした。ありえますね。お蔭様で11/1付エントリーのタネにさせていただきました。ありがとうございます。
P.S.
…アシモフ、やっぱり凄いですねぇ。昨日マンガを読んだので、それと絡めてみました(爆)。
白なまず
almanos