
今日はこの話題です。
1.戦略特区の本気度
10月18日、政府の日本経済再生本部は「国家戦略特区」での規制緩和の概要を纏めた。
それによると、当初案では雇用規制緩和の特例措置として「解雇ルール緩和」、「労働時間法制」、「有期雇用制度」が挙げられていたのだけれど、「解雇ルール緩和」は、労働側と企業側がともに反対した為、政府が雇用契約の指針をつくり企業に助言するという妥協案で決着。「労働時間法制」は企業側からは賛成の意見があったものの、厚生省の強い反対で見送られた。
最後の「有期雇用制度」についても、専門職に限り、全国一律で5年から10年に延長する案に修正することで合意した。
筆者は9月23日のエントリー「解雇しやすい経済特区の未来」で、解雇規制緩和については、厚生省の見解と国家戦略特区ワーキンググループの見解が対立して、全く噛み合っていないことから、纏めるのは相当大変になるのではないかと述べたけれど、やはり当初案からは相当後退する形となった。
ただ、経団連の米倉会長は10月21日の会見で「解雇ルール」の導入見送りについて「特区での導入はなじみが薄い。もう少し広いルールづくりが合っている。…海外では必要なときに必要な人が時間制限なく働いている」と述べているから、何が何でも反対ではなくて、全国一律に導入されるなら賛成するのではないかと思われる。
これについて、ハフィントン・ポスト紙は「戦略特区で解雇自由の対象となる予定だったのは、設立5年以内のベンチャー企業や外資系企業であった。これらの企業が解雇自由となり競争力を付けることになると、解雇なしを前提とする既存の大企業が不利になってしまう。政権内部にはこれを支持する人がほとんどいない状態であり、導入断念はある意味で予想された結果だ」と述べているけれど、米倉会長のコメントは、このハフィントン・ポストの指摘を裏打ちしている。
政府は、来年の通常国会に労働契約法の改正案を提出する方針だそうなのだけれど、話はこれで終わりじゃない。
10月20日、政府は、今秋の臨時国会に提出する、国家戦略特区を進めるための関連法案に「特区諮問会議」の設置を盛り込む方針を固めた。
この諮問会議は何処を特区にするかや特区毎に、どの規制を緩めるかを決める組織で、菅官房長官は、「来年に全国3~5ヶ所程度を指定する」と述べている。
だけど、この諮問会議のメンバーは、総理、官房長官、特区担当相、経済財政相らと民間議員とで構成され、厚生労働相、農林水産相など関係分野の大臣を外すとしている。その理由は、各省庁の「抵抗」を抑え、トップダウンで規制緩和を進める狙いではないかと見られている。
ネット等をみていると、こうしたやり方について、民主主義を無視したやり方だとの反対の声もあがっている。
2.安倍総理の本心は人事と外交にある
確かに、こうしたやり方は聊か強権的であるように見えなくもないのだけれど、筆者は、これをみて、安倍総理の本心は、実は「人事と外交」に現れているのではないかと思うようになった。
確かに、これまでの安倍内閣は、大きな政策変更にあたっては、それに賛同している人をトップにする人事を行っていた。アベノミクスの象徴たる大胆な金融緩和にしても、日銀総裁に黒田氏を充てる人事があった。
また、昨日のエントリー「安倍総理のマスコミ包囲網」では、安倍総理は、集団的自衛権や「積極的平和主義構想」について、まず世界各国の支持を取り付けることで、国内マスコミを包囲して、反論させにくくする戦略を取っていると述べたけれど、これについても、人事を見ると、これまで集団的自衛権の憲法解釈で反対の立場を取っていた、内閣法制局の山本庸幸長官を退任させ、後任に行使容認派の小松一郎氏を充てている。
そして、今回の戦略特区については、抵抗勢力になりうる関係省庁の大臣を外す人事を行った。
物事を動かすには人事が基本であり、総理大臣の権力の源泉は人事権にあるとはよく言われることだけれど、安倍総理が本心でやりたいと思っている政策については、やはり、それに沿った人事が行われていると見ていいように思う。
そして、人事で足りなければ、国内外でそれを発表し、外国の支持を取り付けることで、安倍憎しの国内マスコミを封じて世論を形成。そういった真綿で首を絞めるように、じわじわとやりたい事をしようとしているのではないか。
事実、アベノミクスにしても、集団的自衛権にしても、規制緩和にしても、安倍総理は海外の演説で触れ、宣伝して回ってる。
安倍総理は、アベノミクスについては、政権交代前後から口にしていたけれど、集団的自衛権と規制緩和は、先日のハドソン研究所とニューヨーク証券取引場での演説辺りから強調しだしている。
この辺りを見ると、安倍政権の裏では政策の実施順というか工程表があって、それに従って、順番に"仕込み"をしているだけなのかもしれない。
まぁ、それだけ国内にはマスコミを中心に余りにも"敵"が多すぎて、思ったことを迂闊に口にすれば、たちまち叩かれて足を引っ張られるからなのだろうけれど、そういう視点でみると、安倍総理が話すことは、国内よりは、むしろ海外で何を喋ったのかに注目すべきということになる。
確かに、海外で日本国総理として発言したことは、国の信用に関わるから、嘘をついて信用を落とすわけにはいかない。
その意味で、安倍総理の海外での発言を見てみると、政府の政策や方針として述べているのは、アベノミクス、規制緩和、大胆な減税(法人減税)、積極的平和主義(集団的自衛権)、セキュリティダイヤモンド構想、福島原発の汚染水問題の解決、TPPあたり。少なくともこれらは本気でやると思われる。
だから、これらに対して、安倍総理がどう人事を弄ってくるかに注視すれば、次はどれに手をつけるかについて、ある程度見えるのではないかと思う。
3.「安倍のロイド」ミクス
では、第2次安倍政権の象徴ともいえるアベノミクスは、来年4月の消費増税を乗り越えて成功させることができるのか。
これまで述べたような安倍総理が本気でやろうとしていると思われる経済政策について、それぞれのスケジュールを挙げると次のとおり。
消費増税 2014年4月このように、来年に集中している。まぁ、減税等々の政策については、来年度予算に盛り込まれるから、2014年に固まってしまうのは、当たり前といえば当たり前なのだけれど、消費増税も、TPPも戦略特区指定も、2014年に軒並み足並みを揃えている。
戦略特区 2014年特区指定、規制緩和法案提出
投資減税 2014年
復興減税 2014年
法人減税 検討中
TPP 2013年内妥結目標
筆者は「安倍総理のデフレ脱却構想」のエントリーで、安倍総理は、日本の景気回復および経済成長の一端を、海外からの投資によって賄おうとしているのではないかと述べたけれど、もしかしたら、2014年から海外の投資が始まるように、狙いを定めているかもしれない。
これらを踏まえて考えると、もしかしたら、政府は、消費増税が実施される来年4月以降から、次のような仕込みというか、"仕掛け"をしてくるかもしれない。
1)戦略特区設置、規制緩和法案提出或いは施行
2)投資減税・復興減税(場合によっては法人減税も)実施
3)年金の買い上げによる株価押し上げオペレーション(プライス・ライズ・オペレーション?)
4)日銀追加金融緩和、円安誘導
これらを、1の特区設置、規制緩和、TPP妥結等々による「外資からの投資の増加」を理由にして、仕掛けてくるのではないか。確かに、これらが行われると、経済指標としては、消費増税による景気の落ち込みをある程度相殺する可能性はある。
そして、これに、政府が財界に依頼している賃金引き上げが加わると、株価上昇と相まって、国民のマインドが転換して、消費が増えるなんてシナリオ(期待)を政府が描いているならば、こんな手をつかってくることも可能性としては有り得る。そうすることでデフレ脱却を「演出」するのではないかとさえ。
だけど、こんな強引というか、無理矢理に経済指標を持ち上げて景気回復しているかのように見せるのは、自律的な経済回復ではなく、人為的、人造的な景気回復というべきだと思う。人間そっくりに見えて、実は人造のアンドロイドのような。
仮に、このやり方で、来年の消費増税以降も景気が落ち込まないように見えたとしても、それは造られたアベノミクス、いわば「安倍のロイド・ミクス」とでもいうべきもので、本物のアベノミクスではない。やはり景気が自律回復してこそのデフレ脱却でないといけない。
確かに、「安倍のロイド・ミクス」でも、国民のマインドが好転して、消費が活発になれば、デフレ脱却の目があるかもしれないけれど、自律回復でない以上、政府が手を緩めれば、たちまち経済指標は暗転する。そこに2015年の10%への消費増税が控えているとなると、一体、どれほどの「安倍のロイド・ミクス」をやらなければならないのか。
もしかしたら、その資金さえも海外からの投資で賄おうとしているのかもしれないけれど、儲からなければ外資とて撤退する。やはり、最終的には国内需要を喚起して、消費を回復させる本当のアベノミクスでなくちゃいけない。
果たして、「安倍のロイド・ミクス」に"嘘をつく機能"があるかどうかは分からない。だけど、嘘が本当になるのは、普通では起こり得ない。
アベノミクスを成功させるためには「勝つまでやる」しかない。安倍総理はどこかの段階で、嘘を本当にするための決断を迫られることになるかもしれない。
この記事へのコメント
mony
八目山人
私も地方の疲弊を見ればその通りだと思う。
この特区は過疎の県に設置して、一極集中を緩和しようとしているのではないか。
ちび・むぎ・みみ・はな
縮めれば「売国」だね.
言い過ぎかも知れないが, 日本の社会を
国際資本に合わせると言うことは, 日本の
社会を捨てて日本人の活力を国際資本に買ってもらう
のだから, どう見ても日本と日本人を売っているわけだ.
本来なら, 日本を買うものは日本人であるべきだ.
つまり, 国内資本の国内投資を刺激すべきなのだが.
sdi
白なまず
【英RBS傘下のクーツ、「第3の矢」懸念し日本株を売却】
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MV28L70YHQ0W01.html
10月23日(ブルームバーグ):英銀ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド・グループ(RBS )のウェルスマネジメント子会社、クーツは安倍政権の経済政策であるアベノミクスの「第3の矢」の行方を懸念し、日本株を売却している。