このほど、国際成人力調査(PIAAC:Programme for the International Assessment of Adult Competences)の調査結果が発表され、日本が3項目中2項目で世界一になったという報道があった。

国際成人力調査(PIAAC[ピアック])とは、経済協力開発機構(OECD)が世界24カ国・地域(日、米、英、仏、独、韓、豪、加、フィンランド等)の16~65歳の成人約15万7千人対象に、日常生活や仕事で必要な力を調べるもので、今回が初の調査。
何でも、OECDに加盟する先進国では、経済のグローバル化や知識基盤社会への移行に伴って、 雇用を確保し経済成長を促すため、国民のスキルを高める必要があるとの認識が広まっているそうで、OECDは、各国の成人のスキルの状況を把握し、各国の政策に資する知見を得ることを目的として、この調査を実施した。
この調査によって、成人のスキルの社会経済への影響や、スキルの向上に対する教育訓練制度の効果などを検証して、各国における学校教育や職業訓練など今後の人材育成政策の参考となる知見を得ることが期待されている。
PIAACでは、3つのスキルを調査する。それは次のとおり。
●「読解力」(Literacy)これらの調査は、原則、対象者の自宅等で専用のパソコンを使っての対面調査だったのだけれど、コンピュータを使った経験がない人や、コンピュータでの調査を拒否した人、及びコンピュータの導入試験で「不合格」になってしまった人については、紙による調査をしている。
社会に参加し、自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発展させるために、書かれたテキストを理解し、評価し、利用し、これに取り組む能力。
・ホテルなどにある電話のかけ方の説明を読んで、指定された相手に電話をする。
・図書館の蔵書検索システムを使って、指定された条件に合う本を選ぶ。
●「数的思考力」(Numeracy)
成人の生活において、さまざまな状況の下での数学的な必要性に関わり、対処していくために数学的な情報や概念にアクセスし、利用し、解釈し、伝達する能力。
・食品の成分表示を見て、その食品の一日の許容摂取量を答える。
・商品の生産量に関する表を見て、グラフを作成する。
●「ITを活用した問題解決能力」(Problem solving in technology-rich environments)
情報を獲得・評価し、他者とコミュニケーションをし、実際的なタスクを遂行するために、デジタル技術、コミュニケーションツール及びネットワークを活用する能力。
・指定された条件を満たす商品をインターネットで購入する。
・表計算ソフトで作成された名簿を用いて、条件を満たす人のリストを作成した上で、そのリストをメールで送信する。
PIACCは、各調査の得点をそれぞれスケール化し、「読解力」と「数的思考力」はレベル1(最下位)からレベル6(最上位)までの6段階、「ITを活用した問題解決能力」はレベル1からレベル3までの3段階の習熟レベルに分けている。
実際、どんな調査だったかについては、こちらに調査問題例が公開されているから、見ていただければと思うけれど、テキストを読んで類推を働かせて正解を答えたり、表がグラフ、図形が読めるか、メールやサイトを指定どおり閲覧して処理できるかといった、実社会で必要になるであろう場面を想定した問題となっている。
この調査で日本は、日本は「読解力」で平均得点296、「数的思考力」で平均得点288をマークしトップとなった。残りの「ITを活用した問題解決能力」については、マスコミは10位とふるわなかった、なんていっているけれど、その10位というのは、紙の調査受験者を含む全回答者に対して、レベル2とレベル3の人の占める割合でみたときの場合。
ところが紙の調査者については、「読解力」と「数的思考力」の調査だけで、「ITを活用した問題解決能力」の調査は実施していない。従って、母数に紙の調査者を含めてしまうと、その数だけレベル1未満の人が増えてしまう。
日本は、紙による調査になった人の割合が36.8%とOECDの平均24.4%よりも多く、この割合は、この調査で1位となったスウェーデンの12.1%の3倍、2位のフィンランドの18.1%の2倍もある。だから、単純に割合だけで比較してしまうと日本の順位は低めにでることになる。
事実、「ITを活用した問題解決能力」の調査を行った人を対象にした平均得点でみると294点でトップになっている。2位はオーストラリアとフィンランドの289点、3位はスウェーデンの288点になるから、日本で紙調査となる人の割合がOECD並みの割合になれば、レベル2とレベル3の占める割合でみてもトップになるだろうと思われる。
このように、PIACCの調査によって、日本の教育が世界的に高いレベルにあることが示されたのだけれど、PIACCで調査した3つのスキルが高いということは、テキストや図解から、その意図を正確に読み取り、適切な答えが導き出せるということ。これは、ロスやミスの少ない仕事に繋がり、結果として非常に効率の良い経済活動を生む。
今回の成人力テストで、日本は、他国と比べて、職業による上位レベルと下位レベルの差が小さく、全体の母集団としてレベルが高い傾向があることが明らかになっている。
日本が江戸の昔から識字率が高く、寺子屋など教育に力を入れてきた歴史がある。日本の教育が世界でベストだなんていわないけれど、日本の教育に対する考え方や伝統も、今回の結果に繋がっている部分もあるように思う。教育の力は馬鹿にならない。
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白なまず