更に更に、昨日の続きです。

1.RCEPの背景
かつて、ASEAN諸国は、大国の脅威と圧力から自国を守るために、ASEAN として一枚岩の団結を誇示することに腐心していた。それゆえ、ASEANは、求心力を高めるために域内経済協力や経済統合を深化させてきた歴史がある。
ASEANは、早くから、域内の経済統合を目指し、1976年から域内協力を開始していたのだけれど、1990年代になると、中国の改革・開放に基づく急速な成長で対中投資が急増し、ASEANは投資を呼び戻す必要に迫られた。
そこで、1993年にASEAN自由貿易地域(AFTA)を発足させ、共通効果特恵関税(CEPT)を設け、工業製品の関税を2008年まで(その後 5 年前倒し)に5%以下にする目標を掲げたのだけれど、2003年1月に見事、原加盟6カ国が達成している。
ASEANの周辺国は、先行してFTA締結した国に潜在成長性の高いASEAN市場を奪われることを警戒し、ASEANとFTAを締結しようと動き、現在、東アジアのFTAは、AFTAを中心に日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インドの周辺6カ国に広がっている。これらASEANとその周辺国のFTAは「ASEAN+1」型FTAと呼ばれている。
こうして、AFTAは、ASEAN統合の牽引役として、外国企業による国際的生産・流通ネットワークの構築を促しつつ、ASEANの輸出増大と成長の原動力となった。
AFTAは内政不干渉を原則としていて、加盟国の主権放棄に繋がるような政策の一本化は目指しておらず、将来的に、AFTAを高度で包括的なEPA(経済連携協定)の性格を持つASEAN経済共同体への移行を目指しているとされる。
現在、これらのASEANを中心した5つの「ASEAN+1」型FTA(AJFTA[対日本]/ACFTA[対中国]/AKFTA[対韓国]/AIFTA[対インド]/AANZFTA[対オーストラリア&ニュージーランド])が結ばれているのだけれど、FTAごとに、対象分野、原産地規則、自由化の水準、例外規定、関税削減方式などバラバラ。
例えば、原産地規則では、対日本、対韓国、対オーストラリア。ニュージーランドとのFTAだと、付加価値基準40%以上又は関税番号変更基準のいずれかを満たす選択型となっているのだけれど、対中国とのFTAでは付加価値基準だけ。またインドとのFTAでは、両方を満たさなければならない併用型となっている。
これだと、日本から輸入調達した部品をASEANで完成品として組み立て、インドやオーストラリアに輸出するような場合、原産地規則を満たすことができないケースが発生することなどが考えられ、これら5つの「ASEAN+1」型FTAは、実際の運用において煩雑で効率が悪いとの指摘があった。
こうしたことから、これら5つの「ASEAN+1」型FTAは、実際の運用において煩雑で効率が悪いとの指摘もあり、纏めて統一化できないかという構想が持ち上がった。これがRCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership)。
RCEPは、2011年11月にASEANが提唱し、その後、16カ国による議論を経て、2012年11月のASEAN関連首脳会合において正式に交渉が立上げられたのだけれど、この裏にはTPPの進展があると指摘されている。
TPP交渉には、ASEANからはシンガポール、ブルネイ、ベトナム、マレーシアの4ヶ国が参加しているけれど、ASEANは、今後さらにTPPに参加する国が増えれば、ASEANそのものがTPP参加組と非参加組に分断されるのではないかという懸念を持っていたことに加え、アメリカ主導のTPP交渉の進展に警戒感を抱いた中国が、これに対抗する形で、東アジア広域FTAの実現に向けて、日中韓FTA交渉開始の動きをみせたことから、FTAの主導権を奪われることを恐れたASEANは、求心力を保つために、ASEAN主導の広域FTA構想を具体化させる必要が出てきた。
RCEPには、こうした背景がある。
2.RCEPとTPPを支える土台
2012年8月、ASEAN+6経済相会合で、「RCEP交渉の基本方針」が取りまとめられ、RCEPは高水準で包括的な経済連携協定(EPA)であると位置づけられ、2015年末までの妥結を目指すとされた。
だけど、RCEPは、TPPとは違い、参加国の事情に配慮してある程度の例外を認めるなどの方針が出されていて、自由化のレベルはTPPよりうんと低くなると見られている。
RCEPでは8つの交渉分野が設けられ、それは、「物品貿易」、「サービス貿易」、「投資」、「経済技術協力」、「知的財産権」、「競争」、「紛争処理」、「その他」となっている。
このうち、「経済技術協力」というのは、域内に途上国が存在し、経済格差の是正を求めるASEAN自身の主張によるもので、ここでも参加国の事情に配慮するという方針が反映されている。
実際、RCEP交渉に参加するASEAN10ヶ国と、ASEANとFTAを結んでいる6ヶ国(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)の計16ヶ国との間の経済格差は大きく、RCEPが、高水準かつ包括的な協定を目指せば目指すほど、交渉は難航するのではないかという指摘もされている。
こうした、各国の事情に配慮するというRCEPの基本方針は、共産国家(国家資本主義)である中国にとっては好都合。中国はRCEPをTPPへの対抗手段と位置づけ、ASEAN各国の対中依存度を高めさせることで、域内の海洋覇権を握ろうとしているとみる向きもある。
TPPには中国が入っておらず、RCEPにはアメリカが入っていないことも、また更に、米中対立の構図を浮かび上がらせている部分も否定できない。
こうしたことから、特に、南シナ海で中国と領有権争いをしているASEANの一部の国は、RCEPを進めることで、「中国の罠」に陥るのではないかと警戒している。
一方、TPPを主導するアメリカには、RCEPを歓迎する見方と警戒する見方の二つがあり、歓迎する方は、TPPとRCEPは、ともに発展しながら、最後には融合するからは必ずしもマイナスではないとし、警戒する方は、RCEPがTPPと比べて、自由化レベルが低いことから、アジア諸国がTPPよりも楽なRCEPに流れてしまうのではないかとしているようだ。
そこで、オバマ政権は、2012年11月のアメリカ・ASEAN首脳会議で、「米国・ASEAN拡大経済対話イニシアティブ」を表明。アメリカとASEANの間の貿易手続きの簡素化、投資の自由化・保護等を認定することで、ASEANの取り込みに入っている。
その意味では、オバマ大統領が、先頃のアジア歴訪を中止したことを後悔したというのは、その通りではないかと思われる。
果たして、TPPとRCEPは対立するのか、それとも共に補完し合っていくものになるのかどうかは分からない。だけど、どちらにしても、ASEANとの経済協定が協定として成立させうる大前提がある。
それは、先日のASEAN閣僚会合の岸田外相が述べた、「航行の自由と法の支配」。
どんなに素晴らしい、経済協定が結ばれたとしても、その法が守られず、商品を運ぶ船が海賊に襲われ奪われてしまうのであれば、全く意味がない。
貿易協定は、互いの国が法を守り、航行の自由が保障されていて、初めて成立するもの。その肝心要の土台を尊守しない国とは、真の貿易協定は結べないことを忘れてはいけない。
この記事へのコメント
とおる
(1)戦勝国で安保理常任理事国だったソ連からロシアになり、中華民国が追い出されて中国人民共和国になり、
(2)中国は、西太平洋を戦勝国として残っている米国に要求し、
第2次大戦後の国際秩序も随分と変わり、戦後レジームへ果敢に挑戦している中国。
その中国に融和的で親近感のある米国のパンダ・ハガー。