南シナ海、波高し

 
昨日のつづきです。

画像
 ブログランキングに参加しています。応援クリックお願いします。

昨日のエントリーでは、APEC閣僚会議の場で、航行の自由と法の支配について議論されたことを取り上げたけれど、この動きの裏にはどうやら、アメリカも一枚噛んでいたようだ。

AFP通信は、9月27日、ニューヨークで行われたASEAN各国外相との会談の中で、アメリカのケリー国務長官は、「東南アジア地域の安定と周辺国の繁栄は密接に関係している。各国が国際法を尊重し、南シナ海での貿易の安全が保障されることを望む」として、南シナ海での平和的かつ、拘束力のある南シナ海行動規範(COC)を早期に策定するよう各国に求めたと伝えている。

おそらく、これを受けてのことだと思われるけれど、9月29日、ベトナムのグエン・タン・ズン首相はニューヨークで記者会見し、紛争回避のため法的拘束力のある「行動規範」の策定が必要だと述べている。

現在、南シナ海問題の平和的解決を謳った「南シナ海における関係国の行動宣言(DOC)」が2002年に中国とASEANとで署名された。

この2002年の「行動宣言」では、「領有権をめぐる紛争の平和的解決を目指し、敵対的行動を自制する」という紛争処理と「軍関係者の相互交流や環境調査協力を実施することで信頼醸成を高めていこう」とする関係強化の2つの宣言がされているのだけれど、拘束力がなく有名無実化していた。

そこで、この「行動宣言」を拘束力のある「行動規範」にしようという声が高まり、2012年にカンボジアで開かれたASEAN会議では、南シナ海における「行動規範」を策定しようと話し合いが行われたのだけれど、このときはその策定に失敗している。

その理由として、中国とASEANとの対立もさることながら、ASEAN内でも意見が分かれていたことが挙げられる。。

先にも述べたとおり、2002年の「行動宣言」には、紛争処理と関係強化の2つの宣言がされているのだけれど、

ここで、南シナ海で中国との領土問題を抱える、フィリピンやベトナムは、前者を重視し、「行動規範」を紛争解決のためのルールとして、国連海洋法条約などに基づく解決方法を行動規範に盛り込むことを主張したのに対し、中国は、後者、すなわち、共同資源開発や環境調査協力を通じた信頼醸成を高めることに重点を置くべきだと主張して対立。この件で、直接的利害をもたないカンボジアやタイなどはこの中国の主張に賛同し、ASEAN内部が分裂してしまっていた。

10月9日に、ブルネイで行なわれる、中国とASEANとの首脳会議で、この「行動規範」策定に向け協力していくことをうたった共同声明を採択する見通しであることが伝えられている。だけど、まだ"策定に向け協力する"という段階であり、この会議で「行動規範」が策定されるわけじゃない。

そもそも、これまで中国は「行動規範」の策定に消極的だったし、協力姿勢を見せ始めたのも今年の6月にブルネイでのASEANとの外相会談からのこと。それに中国は、依然として「領有権問題は2国間で解決すべきだ」との原則を崩していない。

故に、今回の「行動規範」策定に向けての協力するという方針転換もただの時間稼ぎではないかという見方もある。

事実、中国は、フィリピンと領有権を争っているスカボロー礁に軍事施設を建設している。「行動規範」策定協議とやらにだらだらと時間を費やした挙句、やっと、行動規範の策定できたとしても、そのとき、スカボロー礁が中国の要塞と化していたら、もう手遅れ。

だから、フィリピンにしてみれば、行動規範の策定と並行して、中国に既成事実を作らせないための牽制力というか強制力を欲している筈で、相当の危機感を持っているのではないかと思われる。

実際、最近になって、フィリピンは、アメリカと、国内での米軍の展開拡大を可能にする新たな軍事協定の協議を始めている。8月14日には、アメリカの外務・国防の高官が参加した第1回協議が行われ、米軍部隊の巡回拡大や軍事施設の共同使用、装備の移転などを話し合ったという。

拠点としては、スービック旧米海軍基地やクラーク旧米空軍基地を想定しているようで、協定が締結されれば、かつての在フィリピン米軍基地の復活となる。

このように、南シナ海では、領有権を巡っての激しい鍔迫り合いが繰り広げられている。「航行の自由と法の支配」には、軍事力という裏付けが必要という現実から目を逸らすことはできない。




画像

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック