ルック・イースト政策と積極的平和主義

 
今日は、この話題です。

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9月27日、国連総会に出席するため訪米していたインドのシン首相は、ワシントンでオバマ大統領と会談し、アジア太平洋諸国と一層緊密に協力することを確認した。

その中で、軍事力のアジアシフトを目指すアメリカの新たな国防戦略と、インドのルック・イースト政策を調和させるため、両国は、まず、日本との関係を強化していくことを確認。更に、日米印の3カ国協議の仕組みなどを確立しながら、「海洋の安全保障や天然資源の保護など横断的な問題で対等な関係を深化させるために、両国の協議をインド洋地域に関する対話などに拡大させていく」ことで合意した。

ルック・イースト政策とは、日本の集団主義と勤労倫理を学べという主旨で、マレーシアとインドネシアが採用していた政策なのだけれど、1981年12月に、当時、マレーシアのマハティール首相がこれを提言し、以後そう呼ばれるようになった。

かつてインドは、ルック・ウェスト政策を取っていたのだけれど、1990年代前半に、これを転換。ルック・イースト政策を打ち出した。その背景には、ソビエトの崩壊、中国の台頭、東南アジア各国の高度成長などがあるとされる。

インドは、このルック・イースト政策によって、東南アジア諸国との政治・経済・安全保障関係の強化を進め、2002年11月には、カンボジアのプノンペンで第1回のアセアン=インド・サミットを開催。インドは中国、日本、韓国と並んでアセアンのサミット・パートナーとなった。続く2003年10月にバリで開催された第2回アセアン=インド・サミットでは、インドはアセアンとの親善友好条約(TAC: Treaty of Amity and Cooperation)に署名。更に、インドとアセアンとの包括的経済協力協定の枠組み合意にも署名している。

このように、東南アジア諸国との連携を深めてきたインドと、日米同盟を軸に東アジアに影響力を持つアメリカの接近は、安全保障の観点からみれば、インド洋から東南アジアを経由して東アジアに至る広い範囲をカバーするものとなり、同時にシーレーンの安全強化にも繋がるものとなる。

そう考えると、アメリカともインドとも良好な関係を持つ日本は、地政学的にも、両者を仲介する、接着剤的な立ち位置にあり、インドとアメリカが共に日本を重視するのは、ある意味当然とも言えるだろう。

ただ、これは、同時に、アメリカの国防戦略と、インドのルック・イースト政策の両者の中に、日本が重要な存在として位置付けられたことを意味している。故に、今後の日本はインド洋から環太平洋に至る広い地域の安全保障について、それなりの役割を求められることになると思われる。

これまでは、憲法の縛りもあって、世界の安全保障について、日本が積極的な役割を果たすのかどうか、今一つ疑問なところがあったのだけれど、偶然か必然か、先日安倍総理が国連で「積極的平和主義」という概念を打ち出した。これは、先のアメリカとインドの国家戦略とも合致する方針であるから、米印首脳会談で確認された「日米印の3カ国協議」の確立も、加速・推進されることになるだろう。

将来的に、日本がインドと軍事同盟を結ぶところまでいくことになったとしたら、日米同盟・日印同盟と日本を中継ポイントとしたインド洋と環太平洋をカバーする巨大な軍事同盟が形成されることになる。

今月3日には、東京でアメリカとの日米安全保障協議委員会(2+2)が行われるけれど、東京で行われる「2+2」でアメリカの国務長官と国防長官の2人が揃って出席するのは今回が始めてなのだという。これについて、国防総省の高官が「日本は経済と安全保障の分野で主導的な役割を果たしており、日米同盟は歴史的に見ても最高潮に達している。…国務長官と国防長官の2人がそろって出席する協議が日本で開かれるのは初めてで、歴史的な会談だ」と述べたそうだけれど、態々この二人が雁首揃えて、日本にまで来るからにはそれなりの意味があると見るべきだろう。

9月27日、ホワイトハウス国家安全保障会議のメデイロス・アジア上級部長は、ニューヨークでの記者会見で、今回の日米安全保障協議での共同宣言の中に「アメリカは強い日本を支持する」という文言が盛り込まれることを明らかにしているから、さもありなん。先の米印会談の内容と合わせて考えると、やはり、日本に対して、世界の安全保障についてのそれなりの役目を求めてくるものと思われる。

9月30日、安倍総理は、東京都内での講演の中で、「国家安全保障戦略の策定や集団的自衛権と憲法の関係など『積極的平和主義』の旗を掲げるにふさわしい枠組みをいかにすれば充実できるか、衆知を集めて検討している」と述べ、集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈の見直しや国家安全保障戦略の策定に意欲を示しているから、これらアメリカやインドの国家戦略とリンクさせながら、新しい安全保障体制を構築しようとしているのではないかと思う。

日本国内では、公明や民主、一部マスコミなどが、憲法改正なんてとんでもないとか、集団的自衛権の行使容認には反対だとか喧しいけれど、世界情勢は、そんな段階をとっくに通り越して先に進んでいる。




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この記事へのコメント

  • 白なまず

    既に、様々な仕込みは完了しているとみて良いかもしれません。

    【アメリカ「日本よ、憲法改正を手助けしてあげようか?」】
    http://military38.com/archives/32616556.html

    憲法改正、同盟国の立場から助言 米国防長官が表明

    【ワシントン共同】ヘーゲル米国防長官は28日、韓国に向かう国防長官専用機内で記者会見し、安倍晋三首相が意欲を示す憲法改正に関し、日本から意見を求められた場合は「手助けすることは可能だ」と述べ、同盟国の立場から助言していく考えを表明した。同時に、憲法改正は「どの国もそれぞれの理由に基づき決断するべきだ。日本国民の判断だ」と指摘。日本国内の議論を見守る基本的な立場を示した。シリア情勢では「地中海と中東の部隊展開に変更はない」と述べ、アサド政権に化学兵器廃棄を迫る圧力として武力行使の選択肢を維持する米政府の方針を強調した。http://www.47news.jp/CN/201309/CN2013092901001536.html
    2015年08月10日 15:22
  • sdi

    >軍事力のアジアシフトを目指すアメリカの新たな国防戦略
    留意しなくてはならないのは、アジアにシフトする戦力をどこから調達するかです。
    現在のアメリカは軍縮というより軍事費の削減を進めているため、アメリカ軍というパイの大きさは小さくなるか精々現状維持です。この状態でアジアに配置する戦力を増やすなら、当然とこかの戦力を削減するしかありません。と、なるとそれはどこかといえば「中東」でしょう。もちろん減らされるのは「中東」だけではないでしょうが、おそらく「中東」が減らされる戦力として最大になるのではないでしょうか?
    もちろんこのトランスフォームが今日・明日に実施されるわけではなく、一定期間かけて進むでしょう。
     これは同時にアメリカの中東でのプレゼンスの後退も意味します。中東原油・天然ガスにエネルギー需要を依存している国家にとって、中東の不安定化はそのままマクロ経済に波及するでしょう。そのとき日本はどうするか?それを考えるとインドとの関係はかなり重要ですね。
    2015年08月10日 15:22

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