
1.世界の反応を読み違えた中国
中国が東シナ海で防空識別圏を設定した件で、世界から猛反発を受けている。
11月28日、EUのアシュトン外交安全保障上級代表は声明で、「地域の緊張を高める」と述べ、海域や空域を正当に利用する権利は国際法で認められていると指摘した上で、「この権利に疑問を投げ掛けるような行動は、東アジアの海域における意見の違いを永続的に解決することにはつながらない」と批判。
これはオーストラリアも同じ。26日にオーストラリアが「威圧的な行動に反対する」と中国を批判したことについて、中国から「中国側にとやかく言うのは間違い」と猛反発されていたのだけれど、28日、ビショップ外相がテレビ番組に出演し、「中国のそうした反応は予想していた」とした上で、「係争中の領域で、想定外のリスクを招く恐れがあるいかなる行動にも反対する」と改めて反対を表明している。
また、アメリカのキャロライン・ケネディ駐日米大使も、東京都内での講演で、日本はアジアで「最重要の同盟国」と言明し、中国の動きについて「地域の緊張を高める」と強い調子で非難している。
ついでに言えば、つい先日の26日までは、防空識別圏問題には介入しないと中立を宣言していた韓国は、28日になって、自国の防空識別圏を離於島上空にも「拡張することを検討している」と中国側に通告。一転して強気に転じている。流石は日和見には天才的な嗅覚を持つ国だけのことはある。今現在は日米側が有利とみているのだろう。
海外メディアも連日、この問題について取り上げているのだけれど、その殆どは中国に対して否定的なもので、11月28日、ワシントン・ポストは「米国がすばやく日本の側についたのは、中国にとって誤算だった」との識者の見解を紹介している。
2.北朝鮮なみの言い訳
この厳しい反応は、中国の記者会見の席でも同じ。11月27日、中国外交部の定例記者会見では、海外メディアから「米軍の爆撃機B-52、2機が東シナ海の防空識別圏を飛行したことについて中国は米国に対し公式な反応を見せましたか」とか、「米軍機の飛行、日本側がフライトプラン提出義務を無視したことで、東シナ海の防空識別圏は“張り子の虎”と思われているとの懸念はありませんか」とか、「中国国防部によると、米軍機は東シナ海の防空識別圏を飛行した際、監視と識別を受けたとのことですが、これが外国機が防空識別圏に進入した場合に受ける“深刻な結果”というものでしょうか?それとももっと厳しい対応があるのでしょうか?」など、厳しい質問が相次いだ。
だけど、中国はこれらの質問に殆どまともに答えることができなかった。中国外務省の秦剛報道官は、「強調したいのは、中国政府には国家の主権と安全を守る決意と能力があるということだ。防空識別圏もまた、有効に『コントロール』されている」とだけいうので精一杯。
それでも、中国は余程面子が傷ついたのだろう。中国空軍の申進科報道官は、東シナ海上空に中国が設定した防空識別圏で、新型の空中警戒管制機と主力戦闘機による哨戒飛行を28日から開始したことを明らかにした。
哨戒飛行が公表されたのは、大型輸送機のKJ2000と、ロシア製Su30、中国製J11などの戦闘機で、申進科報道官は、この哨戒を常態化させるとしている。
アメリカのB52や空自のF15が、中国の防空識別圏を通告なしで通過したにも関わらず、何もなかったことについて、一部からは、中国はB52やF15を捕捉できなかったのではないかという見方も出ていたのだけれど、哨戒飛行を行うということは、防空識別圏に入ってくる飛行物体をレーダーで捕捉してからスクランブルするという運用が出来ないというも同じ。これで増々、中国の探知能力が設定した防空識別圏に対して不足しているのではないかという疑念が深まった。
そして、アメリカがB52が中国の防空識別圏を飛行したことについて、中国の軍事専門家である尹卓少将が「米軍はこの任務を執行する必要があったが、非常に慎重だった。われわれの防空識別圏のふちを飛行したにすぎず、釣魚島上空にも到達していない。…これほどの大型機が中国軍にロックオンされたら絶対に逃げられない。撃墜の運命をたどるのは言うまでもなく、乗務員の死傷も免れない。だが、彼らもそんな損失を出すことは許されない。それでも、行動には出る必要があった。だから、対外的には強気の説明をしていたが、実はメディアが勝手に過大解釈していただけだ」と、述べているのだけれど、黙っていればいいのに、わざわざ、「防空識別圏のふちを飛行した」だなんて"言い訳"している当たり、返ってその捕捉能力を疑ぐってしまう。
中国の"言い訳"はそれだけに止まらない。11月28日、中国国防省の楊宇軍報道官は、記者会見で「日本は今から44年前の1969年に防空識別圏を設定した。日本側が中国の防空識別圏の設定にとやかく言う権利はない。…もし撤回しろと言うのなら、日本側がまず撤回すべきだ。そうすれば、中国も44年後に撤回を検討する。…一方的に現状を変更し、事態をエスカレートさせているのはいったいどちらか、国際社会はおのずと分かっているはずだ」と述べた。
最早、何を言っているのか分からない。もう北朝鮮なみの言い訳にしか聞こえない。やはり中国政府はこんな事態になることを想定していなかったのではないかとさえ。
3.平和を乱す者への勇気ある説得
今回の中国の"暴挙"に対する牽制は批判だけじゃない。軍事牽制も行なわれている。
中国は、11月28日から、空母「遼寧」と051C型ミサイル駆逐艦「115瀋陽」、「116石家荘」、054A式ミサイルフリゲート艦「538煙台」、「550Weifang」が艦隊を組み、南シナ海で初めて、長時間の軍事訓練を行っている。
中国は、防空識別圏の設定について、東シナ海だけでなく、他の空域でも設定するとしているから、それを睨んでの南シナ海での軍事訓練の可能性も考えられる。
だけど、そうは問屋が卸さない。
11月25日、フィリピンで支援活動にあたっていたアメリカ空母「ジョージ・ワシントン」は、アメリカ海軍のイージス艦など6隻を引き連れ、沖縄南の海域に移動し、海自の艦隊と合流。共同軍事演習を行っている。
注目すべきはその規模と演習海域。
海自は護衛艦「ひゅうが」を含め、15隻が参加しており、日米合わせて21隻の大艦隊。そして、演習を行っている海域は、10月に中国が北海、東海、南海の3艦隊を集めて大規模軍事演習を行った海域と殆ど同じ。
これ程の大艦隊をこの海域に集めて、中国の遼寧艦隊の軍事訓練と合わせて行うということは、これは誰がどうみても中国に対する牽制。
しかも、海自の護衛艦15隻はほぼ2個艦隊に相当するのだけれど、フィリピンでの救援活動の最中に、2個艦隊を出すということは、ほとんど全力。要するに中国の暴挙は絶対許さないという決意の表れとみていいだろう。中国のA2AD戦略を思いっきり拒否してる。
中国への牽制はそれだけじゃない。
防衛省は、日本の防空識別圏の範囲を小笠原諸島まで拡大する検討を始めている。小笠原の上空は、他国の航空機による領空侵犯の恐れが低かったから、防空識別圏を設定していなかったのだけれど、今回の中国の防空識別圏の設定で、政府内に小笠原への防空識別圏の範囲拡大を求める声が強まったのだという。
更に、周辺の自衛隊基地にスクランブルのための戦闘機部隊の配置も検討するとしている。
この小笠原への防空識別圏の拡大は、地味なようでいて、物凄く大きな意味がある。小笠原近辺に防空識別圏が設定されると、当然のことながら、この空域に入ってくる他国の軍機はスクランブルの対象になる。つまり、小笠原周辺海域に中国の空母が出てきたとしても、艦載機を発進させた途端、空自のスクランブルの対象になるということ。
艦載機が発進できなければ、空母の意味がない。飛べない艦載機はただの豚も同じ。
中国のA2AD戦略は、第一列島線の内側への米軍の侵入を拒否し(AD)、第二列島線の内側では米軍の作戦展開をさせないというもの。
だけど、第二列島線を形成する小笠原列島周辺に日本の防空識別圏が設定されてしまうと、A2AD戦略は難しくなってしまう。だから、小笠原への防空識別圏の拡大は、そのまま中国のA2ADへの牽制も兼ねたものとなる。中国にとってこれは相当痛い筈。
中国が今回の防空識別圏の設定をしなければ、もしかしたら、日本も小笠原への防空識別圏の拡大を検討しなかったかもしれないことを考えると、中国の防空識別圏の設定は、たとえA2ADの一環であったとしても、逆にそれを拒否される行動を日米に取らせたという意味で、見事に自爆したようにも見える。
昨日のエントリーで、戦争を未然に防ぐための軍事行動というものもあると言ったけれど、今、日米が行っているのは、まさにこれ。
日本は甦りつつある。それは、平和を乱す者への勇気ある説得でもある。
この記事へのコメント
almanos
opera
中国がADIZを設定したと発表した直後に、これを無視して空自は通常の哨戒活動を行ない、中国機と思われる偵察機2機を補足して写真撮影、web上に公開。
その後、アメリカがB52爆撃機2機がADIZ内で飛行訓練を行なったと発表(日本側には事前通告するも、中国に事前通告無し)。
この時点では中国側は反応無し。
「おそらく明日になれば、中国側は全て監視していたと発表するのではないか」とネット上で指摘される。
その通り、中国側が全てを補足していたと発表するも、ネットでは笑い者に。
「おそらく正確なB52の飛行経路および時間は公表されておらず、計器の見間違いでしたと言い訳ができないくらいズレがあるはず。したがって、米軍の情報に乗っかった今回の中国の発表は最悪の反応で、私は監視できていませんでした、と告白するも同然」、「米軍指令や空自幹部はニヨニヨしているのではないか」と指摘。
「面子を完全に潰された中国は、今度は実際に航空機を飛ばして哨戒活動を行なおうとするのではないか」と指摘。
翌日になって、その準備を始めたと報道されるも、航空機
日比野
>お互いの戦力を正確に把握した上で対峙・均衡するという「冷戦」構造が、中国との間では成り立たないということを意味するからです。
非常に重要な指摘だと思います。なぜなら、中国が日米の戦力を正確に把握できないということは、アメリカ(と日本も組んでいると想定される)のオフショア・コントロール戦略が成立しなくなる可能性がでてくるからです。
中国がこれまでのような"したたかな"中国であれば、内部からの日米離反工作を仕掛けてくるところでしょうけども、前面から斜め上の行動をとるかもしれないとなると、それに対する警戒レベルはうんと上げる必要があります。
危険な兆候かもしれないですね。
朱鷺池
アジアの日本が、震えれば、世界の世界観は下品な、価値にまみれてしまう。
藤沢周平さんは、侮られる。に拘った。一分。67年の平和。非常に大切。
震える思いで、あらゆる選択を今、前面に。
白なまず
キッシンジャー頼みの習近平と中共首脳陣だから、キッシンジャーが反中共になれば、情報操作で簡単に中共の認識のズレを発生させる事は可能でしょう。しかし、キッシンジャーは日本が嫌いで、「日本を経済大国にしてしまった事を後悔する」と発言している事からも分かる様に、日本を助ける動きをするはずはなく、そうなると、米国内部で媚中派と反勢力とで分裂し、媚中派の情報と米国の実際の動きに差が生じて、その結果中共が誤ったのならば、、、と解釈できない訳ではない。また、「キッシンジャー元米国務長官イスラエルは10年以内に消滅と表明」からユダヤ人であるはずの彼がイスラエル滅亡を予言する事は、計画(聖書預言の実現)の実行でイスラエルは無くなり、アジアの王達の軍隊=中共軍がハルマゲドンへ、、、と信じていると考えれば納得もいく。つまり、そこに日本の存在が聖書どおりになる為には邪魔な存在と思っているのではないか?また、米国内の世論はメデイアを使えば再び日本を孤立させる事もできるし、親中共にもできると考えているのだろう。しかし、世界の人々は気づきはじめていて、欧米の支配層である、デイビ
sdi
この点、沖縄問題についても中国は同じ過ちを犯している、と私は見ています。沖縄県民の世論調査で、中国への好感度が予想よりかなり低い数値で発表されるまで中国共産党は「中国は沖縄県民からて米国の支配から開放者として歓迎される」と考えていたのではないでしょうか?そう考えるようになった原因は日本のマスコミの報道内容により「反米政治運動が沖縄県民と日本国民の支持を受けている」と誤解したからではないでしょうか?
今回の暴挙も、アメリカ国内のパンダハガー(親中派への渾名)の反応を「アメリカは中国と争う気は皆無でG2による分け取りを望んでいる」と誤解したのではないでしょうか。また、中央アジアからのアメリカの撤退で自国の裏庭からの脅威が低減し、「米国は弱体化し対外プゼンスに消極的になっている。チャンスだ」と調子に乗ったこともありえます。中国の今回の自爆とぃっていい暴挙は、対中包囲網が強化に繋がるとともに「中国は話しの通じない国」というイメージを周辺諸国に植えつけてしまいましたね。
ちび・むぎ・みみ・はな
ポンコツ空母から発艦できる戦闘機がどの位あるのだろうか?