中国のA2ADには世界観で反撃せよ

更に、昨日のエントリーの続きです。 

画像
 ブログランキングに参加しています。応援クリックお願いします。

昨日のエントリーで、中国の防空識別圏の設定はA2AD戦略に基づいた、戦略的なものだと述べたけれど、それは、設定された空域をみてもそう推測できる。

昨日のエントリーでも触れたように、中国の防空識別圏は沖縄トラフのギリギリ手前で、中国から延びる大陸棚を、ほぼすっぽり覆う形で設定されている。東シナ海のこの海域は比較的浅瀬だから、ここを移動する潜水艦は、たちまち日米の哨戒機で発見されてしまう。

ところがここを防空識別圏に設定して、日米の哨戒機の侵入を拒否することができれば、中国の潜水艦は自由に航行することができるようになる。それを考えるとやはり、中国の防空識別圏はA2ADに基づいたものだと思われる。

今回の防空識別圏の設定について、どうやら中国政府は前々から考えていたらしい。
今年2月に、太子党に属する軍事科学学会副秘書長の羅援少将が、環球時報に寄稿し「防空識別圏を設けるのは日本人の特権ではない。私たちも設置することができる」と述べている。この羅援少将は、以前「戦争が始まれば、東京を空爆する」と発言して物議を醸したした人物なのだけれど、その背後には習近平主席の意向があることはよく知られている。

一説には、そうすることで、国内外の世論がどう反応するのか探る意図があるのだとも言われているけれど、だとすれば、今回、防空識別圏の設定を発表したのは、国際世論に対しても押し切れると判断しているということになる。

中国は、防空識別圏を通過する航空機には須らく、フライトプランを提出するよう要求しているのだけれど、日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)は、安全確保のため止むを得ないとし、JALは23日から、ANAは24日から中国に台湾線と香港線のフライトプランの提出を開始した。

また、ロイター通信によると、日本の航空会社だけでなく、台湾や香港、韓国の航空会社も、識別圏を飛行する便は中国にフライトプランを提出するようだ。

画像

だけど、中国が一方的に決めたにものであるにも関わらず、中国に申請するとなると、中国の防空識別圏を認めたも同じになるし、そんな身勝手で一方的な行動を黙認しては、今後やりたい放題になる。そんな無法を認めるわけにはいかない。

これを受けて、11月25日、国土交通省はJALとANAに対して「中国側の措置はなんらわが国に効力を有さず、付近を通る航空機もこれまで通りのルール通りの運用を行う」との政府方針を伝達し、今後は飛行計画を提出しないよう通知したようだ。岸田外相も「中国の対応にしっかり意志を示すためにも、官民の連携は重要だ」と政府と歩調を合わせるよう求めており、官民連携してこの問題に対応する方針を示している。一応、JALやANAなど国内航空各社は、中国当局へのフライトプランの提出を27日以降は取りやめると国土交通省に報告している。

だけど、そうはいっても、当の航空各社にとってみれば、乗客の安全確保ができるできないは死活問題。航空各社からは「国が本当に守ってくれるのかというのもある。乗客の安全確保が最優先」との声も出ているそうだ。JALやANAは、通知を受けて、今後どのような対応をとるか、慎重に判断していくことにしているけれど、彼らの立場から見れば当然の声だと思われる。

では、実際にどう守るのかとなると、結構大変。完璧に守ろうとすれば、それこそ、防空識別圏を通過する航空機の一機一機に直掩の戦闘機を付けて守ってやらなくてはならなくなる。

ネットに、航空機の飛行状況をリアルタイムで見られる「フライトレーダ―」というサイトがあるのだけれど、そこから、ある日の昼の沖縄・尖閣付近の飛行状況をピックアップしてみると次のとおり。

画像


一目見て分かるように、日本周辺は四六時中、航空機が飛んでいる状況なのだけれど、これを見ると、九州と台湾を結ぶ空路が、中国が設定した防空識別圏に入っていることが分かる。だけど、現実は、九州と台湾の間だけでも、ひっきりなしに何機も航空機が飛んでいる。そんな状況で、それら全部を空自がエスコートするなんて殆ど不可能ではないのか。

だから、国は航空各社に対して、これこれこういう具合に守りますと具体策を提示すべき。

それが出来ない限り、航空各社も中々納得しないだろう。少なくとも、日本側の防空識別圏ギリギリを哨戒機で飛んで、中国側からやってくる空軍機を24時間監視して、少しでも気配があれば、すぐさまスクランブルをかける体制を整える必要がある。だけど、そんな切羽詰まった状態を常に強いられる防衛体制では、何時、不測の事態が起こっても不思議じゃない。シビアに過ぎる防衛体制は、常態化すべきじゃない。

だから、中国の防空識別圏にかからないように、航空各社が航路変更をすると同時に、空自がこれまで以上に、防空識別圏の哨戒活動を強化していくあたりで、調整するかもしれない。

ただ、それでも、日本やその他の国の民間の航空会社が中国にフライトプランを提出したり、航路を変更したりすることは、ある意味、中国のA2AD戦略が成功していることを意味するし、それを更に既成事実化することで、更にA2AD戦略が固まっていくことには変わりない。

アメリカは中国の防空識別圏設定について「米国の地域での軍事作戦のあり方が変わることは全くない」と断言しているから、おそらく、中国の防空識別圏設定がA2AD戦略に基づいていることを認識している。そして、その上でそれを拒否してる。

アメリカ国防総省のウォレン報道部長も「米軍はこの地域で訓練を行っており、今後も変更はしない。中国側の求めている飛行計画の提出などは行わない。…私たちは自衛の能力を常に保持している」と中国の防空識別圏は認めないと宣言している。

だから、この空域での米中衝突の可能性も有り得ない話ではなくなった。

では、こうした危険な事態に対して、日本はどう対応すべきなのか。

まぁ、軍事的に哨戒活動を強化する事は、それはそれで当然だとしても、平和的に中国を抑止するのであれば、もう三段くらい上のレベルでの対応もした方がよいように思う。

中国の防空識別圏設定に対して、日本が哨戒活動を強化するというのは、いわば同レベル、同じ階層での対応。戦略の階層でいえば、下から3番目の「作戦」階層か、いいところ4番目の「軍事戦略」階層くらいに相当すると思われる。

だけど、ここは、同一階層で争うだけでなくて、もっと上の階層から締め上げるべきだと思う。例えば、「中国が一方的に防空識別圏を設定することは、自由な航行と法の支配の破壊であり、世界秩序に対する挑戦である。全世界はそれを受け入れることはない」という具合に「世界観」の階層から駄目出しをする。

アメリカは防空識別圏設定について「地域の現状を変更しようとする試みだ」と批判し、安倍総理も「中国は力による現状変更を試みようとしており、日本だけでなく、多くの国々が懸念を示している」と述べているけれど、これは要するに、自由と法の支配という"現状"を力で"変更"しようとしているということ。

だから、ここをもっと明確にして「中国は世界秩序を破壊しようとする無法者である」というキャンペーン外交を駆使するべきだと思う。

習近平主席が、側近に過激な発言を事前にさせておいて、世界の反応を探ってから事に及ぶという手法を使っているのなら、逆にいえばそれだけ国際世論を気にしているということ。ならば、国際世論で袋叩きにしてやるのが一番効果があることになる。

「中国の現状変更の試みは、自由と法を踏みにじるものだ」という宣伝をして、世界の共通認識にさせること。実際に戦争になる前にやれることはまだまだ沢山ある。




画像

この記事へのコメント

  • 日比野

    sdiさん。こんばんは
    >ホントに提出したんですか?いくらなんでも国交省がストップかけると思うんですがね。

    これについては、佐藤正久参院議員が11/25に↓のツイートをしてるんですよ。

    「岸田外相が日航や全日空に対し、中国東シナ海防空識別圏設置に伴う、飛行計画書提出中止を要求した。当然だ、これは主権に関わる事項だ。それに比し国交省は何も判断も指導せず、民航会社に対応を丸投げした感じだ。早期是正が必要」

    これが本当だったら、大問題ですね。
    2015年08月10日 15:21
  • sdi

    >日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)は、安全確保のため止むを得ないとし、JALは23日から、ANAは24日から中国に台湾線と香港線のフライトプランの提出を開始した。
    ホントに提出したんですか?いくらなんでも国交省がストップかけると思うんですがね。
    世界観で対抗する以前に、我の世界観のなさが如実にあらわれていますね。対抗以前のレベルのような。
    両社の担当部署が、国交省に打診せず自己の判断で行ったとしたらあまりに不用意、というか自分たちの行為の重大性を理解していない。乗客の安全、とかいってますが私は「フライトプラン出せばいままで通り飛べるんでしょ。なら出せばいい。『たかが』書類の提出先が一つ増えるだけだ。」と安易に考えただけのように思えてなりません。
    もし、国交省と相談の上で提出を決めた、とするならもう何かいわんや。「日本は尖閣諸島を守るつもりはない」と、解釈されかねません。というか、そう取られるでしょう。少なくとも中国は声高に宣伝するでしょうね。
    2015年08月10日 15:21

この記事へのトラックバック