原発ファウンデーションの彼方に

 
今日は、昨日のエントリーで、白なまず様から戴いたコメントに触発されてのエントリーです。

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10月29日、安倍総理はトルコを訪問し、イスタンブールでエルドアン首相と会談した。会談の概要はこちらに公開されているけれど、注目したいのは、やはり、原発についてトルコ政府と商業契約が合意したこと。

会談後の共同記者会見で安倍総理は「原発事故の経験と教訓を共有することで、世界の原子力安全の向上を図ることは日本の責務だ」と、原発輸出を推進する旨を述べた。

トルコは、「2023年に世界10位の経済大国になる」という目標を掲げ、それまでにエネルギーの5%を原発で賄うとしている。特に、今のトルコ政府は、原発推進に力を入れていて、2011年6月の総選挙では、福島原発事故直後の時期であったにも関わらず、エルドアン首相率いる与党AKPは、原発建設の是非を争点のひとつとして戦い、50%近い得票率を得て圧勝している。

現在トルコでは、2つの大きな原発建設プロジェクトがある。一つは「アックユ・プロジェクト」で、もう一つが「シノップ・プロジェクト」。

アックユ・プロジェクトは、地中海沿岸のアックユにロシア製加圧水型炉(AES2006モデル:出力120万kW)を4基を建設するプロジェクトで、建設・運転・保守等をロシアに発注している。

建設期間は11年間で、初号機の運転開始は2019年。それ以降は毎年1基を運転開始するのだけれど、建設費約200億ドルはロシアが負担し、トルコはその返済のため、アックユ原発で生産する電力を、15年間に渡りロシアとトルコ政府間で合意された固定価格(12.35セント/kWh)で買い上げる。

アックユ・プロジェクトは、民間の事業請負者が自らの資金で対象施設を建設(Build)、所有(Own)、運転(Operate含保守・管理)する、世界初の原子力発電での「BOO(Build・Own・Operate)」契約であり、建設作業の95%、設置・組立作業の最大40%、装置・資機材の20%がトルコ側企業に発注されることになっている。また、原発の運転・保守要員が一基あたり500~600名が必要とされ、その為の要員育成として、トルコ人学部生を2013年から毎年200人ずつロシアに留学・研修させるとしている。



このアックユ・プロジェクトと並行して、2019年までに黒海沿岸のシノップに140万kW級原発を4基程度建設するとして計画されたのがシノップ・プロジェクト。このプロジェクトの受注は、当初は韓国が先行していた。

2010年3月にトルコはシノップ地方での立地事前調査で韓国と合意したのだけれど、韓国は、2009年12月にアラブ首長国連邦(UAE)から、原発の超大型受注を獲得していて、それが決め手になったと見られていた。続く6月には、トルコと韓国の政府間覚書を交わし、トルコ側から韓国に対して、アックユ・プロジェクトと同じく、合計約200億ドルの資金調達が要請された。

ところが、同年11月に韓国は、シノップ・プロジェクトからの撤退を表明。その理由は、既に受注を決めていたUAEの原発に対する融資契約が重荷となって、シノップ・プロジェクトへの資金調達が上手くいかなかったからだとされている。

韓国の撤退表明を受けて、トルコは、2010年12月に日本と東芝にプロジェクトの優先交渉権を与えたのだけど、2011年3月の福島原発事故により交渉は中断してしまう。

トルコは地震大国日本の蓄積してきた技術と事故からの教訓の反映に期待し、交渉を続けると発表したのだけれど、2010年7月27日に今度は、東京電力がこのプロジェクトからの撤退を発表する。

日本とトルコ政府の要人はその後もシノップ・プロジェクトについて協力を模索していたのだけれど、2011年11月にトルコのエルドアン首相が、韓国にプロジェクトへの再参加を要請。2012年2月に韓国の参加交渉再開で合意する。

一応、まだ優先交渉権は日本にあったのだけれど、トルコ政府は、日韓政府に対し2012年6月末が交渉期限であることを伝えた。

2012年になると、中国とカナダもシノップ・プロジェクトに関心を示し、プロジェクトは4ヶ国による交渉となった。そんな中、2013年5月の日本・トルコ首脳会談で、原発建設協力で合意。契約交渉が加速され、今回の契約締結に漕ぎ着けた。

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とまぁ、激しい受注合戦の末、獲得したのが今回の原発建設契約なのだけれど、日本政府や企業関係者の努力もさることながら、やはり日本の技術力に対する信頼の高さも契約を後押しした面もあるのではないかと思う。

現にトルコ政府は、福島原発事故を見た後でも、「日本の蓄積してきた技術と事故からの教訓の反映に期待し、交渉を続ける」といってくれた。

2012年の2月から3月にかけて、トルコで対日世論調査が行われた。それによると、日本への関心分野については、60.3%が「科学技術」と回答、2位の「文化・芸術(29.7%)」を大きく引き離し、両国間で協力関係を強化すべき分野に関しても56.4%が「科学技術」と回答している。それくらい日本の技術力は信頼されている。

日本国内では、福島原発事故以来、もう原発は駄目だから止めようという「脱・原発」の声も上がっているけれど、逆に事故を起こしたからこそ、そこから教訓を得て、より高い技術力を身に着けるはずだ、という目で見る国もある。

もしも、他国の原発で福島原発事故と同じような事故が起こってしまったら、日本に協力要請がくることはほぼ間違いない。そうした経験を積んでいる国は片手にも満たない。

日本はともすれば、一度失敗したら、復活することは中々許さないというような風潮があるけれど、安倍総理の2度目の総理就任はそうした風潮に少し風穴を空けた感がある。敗者復活を許容する社会は、失敗の経験を成功への糧にできるチャンスを提供している。

経験もそれを活かせば技術力になる。

福島原発事故を「予定された危機」だとはいわないけれど、危機は乗り越えてこそ、次の発展がある。昨日のエントリーでも触れたように、世界には日本製品でなければならないものが沢山ある。他国を凌駕する技術力を維持することもまた、安全保障の一部であり、発展の基礎。

日本の発展は、原発技術のファウンデーションの彼方にある。




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この記事へのコメント

  • sdi

    日土間でプロジェクトの契約締結の合意ができてまことに目出度い。
    ただ、東電がジョイントベンチャーに参加しなかった場合は、完成した原発の運用面でのサポート役の企業(電力会社)を探さないといけませんね。実際、今の東電にはそんな余力はないでしょう。かなり無理をし黒字決算にして、やっと銀行団から融資を取り付けたところですから。
    無事に着工→完工→臨界→営業運転開始まで漕ぎ着けて欲しいですね。
    2015年08月10日 15:22
  • almanos

    敢えてうがった見方をするなら、フランス並みの連続運転の実績を示す為かも知れませんね。電源三法体制では、頻繁にメンテナンスで止めないといけない。そんなのでは売れない。長期連続運転で安全にという実績を造るのは皮肉ですが国内では、原発におんぶにだっこの地方で仕事を減らすからという反対でできない。そういう実績と、長期的には他のアラブ諸国へのビジネス展開もあるのかも。例えばUAE。韓国に頼んだばかりにとんでもない状況に陥っている。原発は日本製で。イスラエルも文句をつけて叫ばないからなお安心というキャッチフレーズで売り込みをかけるのかも知れませんね。まあ、イランに売ると大騒動になるから、可能としても二〇年くらい先なんでしょうが。
    2015年08月10日 15:22
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    > 激しい受注合戦の末

    韓国はお金がないし, 支那は聞けば聞くほど危ない.
    地震国のトルコとしては日本が本命なのだから,
    何とか日本を協議に引き込みたかったのだと思う.
    2015年08月10日 15:22
  • まだまだな名無し人

    UAEで韓国受注した原発が何やら作る事が出来なく成ったとか。
    通りすがりにチラ見しただけなので真偽には自信が有りませんが、何方かご存知ですか?
    2015年08月10日 15:22

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