昨日のエントリーの続きですけれども、簡単に…

ナンバー2と関係者を大粛清した北朝鮮は、目下求心力の回復に力を注いでいる。
12月12日、朝鮮労働党機関紙の労働新聞は1面で「われわれの命を懸けて、革命的なリーダーを守ろう」との主張を掲載。金正恩第一書記への忠誠を国民に呼び掛けている。また、北朝鮮軍内部でも忠誠競争が激化すると見られている。
確かに、金正恩第一書記の叔父でナンバー2の張成沢氏をも葬ったのだから、金正恩第一書記に近ければ近いほど、忠誠心を見せなければ首を刎ねられてしまうから、少なくとも表向きは忠誠を尽くしているように見せなくてはいけない。
張成沢氏の代わりに、ナンバー2の座に就くとみられるのが、崔竜海・朝鮮人民軍総政治局長。軍の政治部門のトップがナンバー2となり、軍部の発言力が高まるのは間違いないと見られている。「コリア・レポート」編集長の辺真一氏は「張氏の更迭は、誰であっても権力を奪えない、という正恩氏のメッセージだ」と指摘した上で、崔竜海氏について、「前任者の失敗を見ている崔氏は正恩氏に逆らわず、偉大なるイエスマンとして振る舞うだろう。正恩氏が完全な独裁体制を敷いたといえる」と述べている。
その一方、むしろ金正恩第一書記の影響力は小さくなるのではないかとする見方もある。北朝鮮駐在ドイツ大使のトーマス・シェーファー氏がそう。
12月10日、トーマス・シェーファー氏はベルリンで開催された独韓協会主催の講演で、張成沢氏の失脚について「金正恩氏の権力を強化するためと考えるのは間違い。…多くの北朝鮮専門家による主張とは異なり、(張成沢氏の失脚は)権力争いで金正恩氏が守勢にあることを意味している。…金正恩氏は周囲の軍関係者から(張成沢氏の追放を)強要されたはずだ。これは間違いない。…現在、北朝鮮内部で金正恩氏の立場は非常に不安定だ。権力層はもちろん、一般の住民たちも金正恩氏に失望し『金正日の忠実な息子』程度にしか考えていない」と述べている。
更に、北朝鮮の一人独裁体制について「事実上、金正日総書記の政権末期から弱体化していた…一般的に金総書記は偉大な独裁者だったと考えられているが、実は金総書記が単独で決められることなどなかった。金総書記の政策が強硬路線と穏健路線の間で揺らいでいた理由は、内部で政策論争や権力争いがあったためで、金総書記はこれら異なる路線の双方に配慮せざるを得なかったからだ」と指摘し、「現在、北朝鮮指導部は力が非常に弱くなっているため、今後も分裂は続くだろう」としている。
そういえば、金正恩体制になってから、北朝鮮は実に97人の幹部を入れ替えているけれど、シェーファー氏の言うとおり、内部の権力争いが関係しているとするならば、大量の幹部の入れ替えも、内部の権力争いに配慮した結果だと見ることもできるだろう。ただ、筆者には、このように、絶えず幹部を入れ替えて、政権内部に「ナンバー2」作らないことで、結果的に自らを脅かす存在を育てないようにする狙いも金正恩第一書記にあるのではないかと思う。
もしもそうであれば、張成沢氏の失脚は、遅かれ早かれ必然の出来事だということになるし、新たにナンバー2の座に就くと見られる崔竜海氏にしても、いつまでその地位にいられるかどうか分からない。
昨日のエントリーでも触れたけれど、本当に金正恩政権が張成沢氏と関係のあった2万人もの人を粛清したのなら、今後の国家運営に大きな影響が出ることは避けられない。
特に、張成沢氏は中国とのパイプも太く、北朝鮮の経済部門を切り盛りしていた存在。それを失った今、国家体制を維持できるのか。韓国のケーブルテレビ「テレビ朝鮮」は、処刑された張成沢氏に近かった副首相を兼任する盧斗哲・国家計画委員長と李務栄・化学工業相の2人が中国に脱出し、亡命を申請し、中国当局が現在、身辺を保護していると、中国消息筋の話として伝えているけれど、この2名は経済担当の副首相でもあったから、尚更、経済が分かる人材が必要な筈。
現在、中国に駐在する北朝鮮の企業幹部が、続々と帰国しているとの情報もあるようなのだけれど、空いた人材の穴が埋まるまでは、北朝鮮内外で相当な混乱が予想される。
実際、張成沢氏の処刑には、中国の対北朝鮮関係者らが大きな衝撃を受けているとされ、張成沢氏側近の粛清もあって、北朝鮮の対中関係者との連絡が付かなくなっているほか、中朝貿易の一部が中断、急遽延期となった地方政府間の交流事業もあるという。
遼寧省でも、張成沢氏の粛清後に商談取り消しが相次いでいて、100万元(約1600万円)以上を損失したという丹東の貿易商は、「誰が張氏の後継になろうと信用できない」と話していて、中国の外交関係者は「両国間のパイプは一夜にして切れてしまった感じだ」と述べていることからすると、中朝間に生まれた溝は、簡単には埋まらないかもしれない。
これについて、韓国紙、中央日報は、北京の外交関係者の間で「中朝高官の交流中断、石油や食糧支援の減少、経済協力中断などの措置がとられるという見方がでている」と述べ、中朝の経済協力も当面、中断する可能性が高いとしている。
こうしてみると、北朝鮮は、今後しばらくは経済問題で苦境に立つことが予想され、それだけにより警戒が必要になるだろう。
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almanos