日本というファウンデーション

 
今日は、雑談で…

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1.アシモフの「ファウンデーション」

最近は、ライトノベルを漫画化した作品が随分と増えてきた。そして、コミカライズされた作品で人気が出たものは、更にアニメ化されたり、また逆に、オリジナル映画作品を、コミカライズしたり、小説化したり。段々と、媒体の垣根が無くなってきたという印象を受けている。

少し古いけれど、こちらのサイトでは、ライトノベルをコミカライズした一覧を載せているけれど、これをみると、もう数年前から増えていたようだ。

筆者も、時折、そんなコミカライズされた作品を読むことがあるのだけれど、最近、有名な古典SF小説がコミカライズされた。アイザック・アシモフの代表作「ファウンデーション(邦題:銀河帝国興亡史)」がそれ。

原作の「ファウンデーション」はシリーズ長編小説で、全7作からなる。特に1940年代に執筆され、1950年代に単行本化された第1巻から第3巻までは3部作と呼ばれている。

その内容は、1万2千年続いた銀河帝国の衰退後、新たな第二銀河帝国の核となるべく設立されたファウンデーションに関係する人間を中心に描かれた物語。彼らは、帝国の衰退とともに混迷の度を深める銀河系の中、降りかかる危機を乗り越えることで覇者へと成長していく。

アシモフは、この作品について、エドワード・ギボンの『ローマ帝国衰亡史』を参考にしたといわれ、その辺のSF小説にありがちな戦闘描写は非常に少なく、政治や社会の動きや人間の活動がメインに描かれている。

この作品は、遥かな未来、爛熟期を迎え、衰退しつつある銀河帝国の首都・惑星トランターから始まる。

人類の行動パターンを数学的に導き出す未来予測の学問"心理歴史学"を確立した天才数学者ハリ・セルダンは、自らの"心理歴史学"によって、銀河帝国は、5世紀以内に滅亡するという計算結果を導き出す。

この結論に、ハリ・セルダンは、人類の文明を守る壮大な「セルダン計画」を構想する。それは、銀河帝国崩壊後に3万年続くはずの暗黒時代を、あらゆる知識を保存することで、1000年に縮めようとするもので、知識の集大成となる銀河百科事典を編纂するグループ「ファウンデーション」を設立する。

だけど、ハリ・セルダンは帝国崩壊を公言し平和を乱したという罪で裁判にかけられ、セルダンのグループは銀河系辺縁部にある資源の乏しい無人惑星ターミナスへ追放される…。

こんな序章で始まるファウンデーションは、その舞台を惑星ターミナスに移し、追放された人々が第二帝国を建設してゆく姿を描写していくのだけれど、「セルダン計画」には、第二帝国へ向かう流れの中で、「セルダン危機」と呼ばれる避けられない幾つかの歴史の分岐点が予測(計算)されていて、それをセルダンが予期した通りに解決して初めて「セルダン計画」が成就されることになっていた。

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2.戦後日本にそっくりなファウンデーション

シリーズの中で、「セルダン危機」は、最初の3部作に収められた「百科事典編纂者」「市長」「豪商」「将軍」「ザ・ミュール」「ミュールによる探索」「ファウンデーションによる探索」などの各章で描かれているのだけれど、舞台の中心となる惑星ターミナスの設定が、戦後の日本に良く似ているということで、SF愛好家達の中では有名だったらしい。

それについて、原作の翻訳者が、あとがきで次のように述べている。
「この物語を読んでいると、現在の日本とそれを取り巻く世界の状況が奇妙な二重写しになって見えてくる。銀河系の最果てにある、天然資源をまったく持たない、孤立した小さな惑星ターミナス。そこには軍備はほとんどなく、科学技術(それも小型のものほど得意なのだ)だけを頼りに、便利な日用品を生産して近隣の諸国に売り込み、それで支配権の拡張を図っている。それにたいして、強大な軍事力を背景にし、巨大な規模でしか物を考えることができず、巨大なものしか作ることのできない銀河帝国およびその残党は、どうしても勝つことができないのである。」
と、このように科学技術立国で、軍備にものを言わせられない惑星ということで、確かに戦後日本と良く似ている。そして、その取り巻く状況も。

最初の「セルダン危機」は、ファウンデーション設立から50年後に訪れる。「銀河百科事典」刊行を目前にしたこの時代、銀河帝国は早くも衰退を見せ始め、アナクレオン太守が国王を称して帝国からの独立を宣言。隣接するスミルノ、ダリボウ、コノムの三つの太守もこれに倣い、それぞれの太守が王を名乗る。

アナクレオンは、ターミナスの技術力に目をつけ、ターミナス上の軍事基地と技術供与を要求。ファウンデーショ ンの征服を企んでいた。

危機感を抱いた、ターミナス市長のサルヴァー・ハーディンは、対抗策を講じようとするけれど、ターミナスの権力を握る「百科事典編纂者」達は帝国の威信を信じ、ハーディンの警告に耳を貸さない。

ちょうどそのとき、「時間霊廟」にファウンデーション設立50年後に遺言を伝えると言い残した、セルダンのホログラフ動画が出現。その場に詰めかけた理事会の面々や市長に対し、銀河の反対の端にあるもう一つのファウンデーションの存在と、ファウンデーションの真の目的を語りだす…。

心理歴史学によって、予想された危機を乗り越えることで「セルダン計画」が成就することを告げられた彼らは、権力奪取に成功した市長のハーディンに危機への対応を託すことになる。

ハーディンは、アナクレオンに隣接する他の3つの王国であるスミルノ、ダリボウ、コノムをそれぞれ訪れ、アナクレオンが持っていない"原子力"の技術を手にいれると、スミルノ、ダリボウ、コノムの3王国が圧力を受けることになると説得。彼らに、アナクレオンに対して宣戦布告させることに成功する。これにより、アナクレオンはターミナスへの侵攻を断念。最初のセルダン危機は回避される。

これが「百科事典編纂者」の章に収められた最初のセルダン危機のあらすじなのだけれど、ターミナスを日本に、アナクレオンを中国に、銀河帝国をアメリカに置き換えてみると、恐ろしいまでに、今の世界状況にピタリと当てはまる。そして、危機への対応も。

今、安倍総理は、ASEANや、インド、トルコ、インドといった、中国を取り囲む周辺の"王国"と協調し、"アナクレオン"中国からの侵攻を食い止めるべく動いている。ハーディンと同じ方法で日本の危機を乗り越えようとしている。

この章が1940年代に書かれたとは、驚きに値するし、この小説が、今、コミカライズされたことに何か運命的なものさえ感じてしまう。

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3.日本という"銀河霊"は現代のアナクレオンに浸透するか

もしも、現実世界がファウンデーションの物語を後追いするのなら、たとえ、日本が今直面している最初の"セルダン危機"を乗り越えたとしても、やがて訪れる、次の"セルダン危機"を乗り越えないといけないことになる。

小説では、最初のセルダン危機を乗り越えたターミナスは、その30年後、第二のセルダン危機を迎える。

再び、ターミナスへの侵攻を企てるアナクレオンは、遺棄された旧銀河帝国の巡洋戦艦と遭遇。ターミナスの技術力で巡洋戦艦を修理し、アナクレオンに移譲するようターミナスに要求する。

ターミナスは要求通り、巡洋戦艦を修理するのだけれど、危惧したとおりアナクレオンは、巡洋戦艦を中心にした艦隊をターミナスに差し向ける。

しかし、第二のセルダン危機を迎えたハーディンには秘策があった。

ハーディンは、第一のセルダン危機の後、アナクレオン星系の4王国に対して、ターミナスの高度な技術力を提供する事と引き換えに"銀河霊"を崇める新宗教を広めると同時に、提供した技術を管理する現地人のうち優秀な者にターミナスで司祭教育をうけさせていた。

その新宗教は30年の間に星系の人々に広く浸透し、4王国の王族にも深く浸透していた。

アナクレオンは旧銀河帝国の巡洋戦艦の力を頼りにターミナスに宣戦布告するのだけれど、新宗教の司祭はアナクレオンの破門を宣言。巡洋戦艦はターミナスが修理の際に予め仕込んでいた仕掛けによって、全機能がシャットダウン。武装解除される。

同時に、司祭の命を受けたアナクレオン市民は、"銀河霊"に反する行為として、王家に反旗を翻し宮殿を包囲。即時停戦を要求する。こうして第二のセルダン危機は回避される。

この例に日本を当てはめるとするならば、やがて訪れるであろう第二の"セルダン危機"に対処するために、日本の持つ科学技術を周辺国に供与するだけでなく、自由と法の支配や人権、文化、そして宗教などを、現代の"アナクレオン"である中国に広く浸透させ、共産党政府に対する抵抗勢力として、今から仕込んで置かなくてはならないことになる。

ただ、現代の"アナクレオン"は無神論国家だから、ストレートに宗教を受け入れることはない。だから、実際には、もう少しマイルドな形で、それに類する思想を流すことになると思われる。

以前、「漫画やアニメはキーワード検閲不可能」のエントリーで、意図なきソフトパワーの力は将来大きく中国を揺さぶると述べたことがあるけれど、漫画やアニメの中に埋め込まれた、日本の文化や思想によって、中国の内面を変えていく、つまり中国を日本化させる余地があると思う。

尤も、中国とて、薄々それに感づいているようで、日本のアニメを通じて日本に対する見方が変わり、日本が好きになったという中国の若者が現実に増えていることから、「日本人は中国人を洗脳するためにアニメを作っている」と主張する人がいるそうだ。

勿論、アニメを制作している側にとっては、そんな意図は毛頭ないだろうけれど、結果として、日本文化は小説ファウンデーションにおける"銀河霊"の役目を果たすかもしれないと、筆者は夢想している。
It is the most potent device known with which to control men and worlds.
それは人間と世界を統御する、もっとも有効な仕掛けなのだ。
サルヴァー・ハーディン

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この記事へのコメント

  • 日比野

    ちび・むぎ・みみ・はなさん。コメントどうもです。

    その経済学の大家・クルーグマンは、アシモフの「ファウンデーション」を読み、中学の時は心理歴史学者になるのが夢だったとか。それで大学で心理歴史学に精一杯近いものを選んで経済専攻になったと告白してますから、その他にも影響された人は多いかもしれませんね。
    2015年08月10日 15:21
  • 白なまず

    中共に対して日本が対抗できる宗教的な物の代わりとして古代支那の価値観を現代日本が保存していて、日本人の多くが三国志等を読んだり、映画をみても共感出来る価値観があり、古代支那人である渡来人が日本人の一部であり、その価値観を背景にする日本の文学や漫画、映画等が現代支那人には感情では反日であるにも関わらず、理性(知性)では日本へ共感し、科学技術、工業でも日本から教えを乞う必要があり、それがもどかしく「日本は憎い国」と言う表現になって支那人の口から出ている。つまり、心の底では支那人は自分たちが忘れ去った古代支那人の価値観(例えば、
    仁義礼智信)を取り戻したい現代支那人は多いはず。現代の日本でも仁義礼智信をどれだけ実践できるかは災害の時の日本人の行動が世界へ示すとおりだと思うし、支那人が日本人を簡単な相手とは出来ない理由にもなっている。字面だけ頭に入れて口では理屈を唱えるが、行動が伴わない朝鮮人とは別格であり、日本人への信頼につながり、支那人の日本製品に対する信頼が物語っている。つまり、支那人を改心させるのに必要な価値観(仁義礼智信)を小説、漫画や映画等に忍ばせる日本の文化こそ中共にとっての猛毒
    2015年08月10日 15:21
  • toshi0980

    Twitter から引かれるようにここに辿り着きました。先の大戦の前後、欧米に日本という存在は確かに異質なものとして捉えられていたのではないかと思っております。ファウンデーションを多感な頃に読んだ時、確かに日本の存在を感じたものです。アトモ灯だとか…科学がこの国を支えていくのだと。その後の職業の選択に影響を受けたと私は言えるかもしれません。アシモフと並んでその前に読んだドク・スミスのレンズマン。多神教に対する捉え方がずっと引っ掛かっていました。案外、たびたび出てくる日本異質論と根が繋がっているかもしれません。ヴォーグ(スタートレックでしたっけ、新の方だと思いますが)の集団行動、無個性、日本人の属性がネタを提供しているとしたら、アニメの国としてはなんと言って良いか解りませんが。
    2015年08月10日 15:21
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    「心理歴史学」 ― 懐かしいが,
    「経済学」さえ学問にならないという現実の厳しさがある.

    「反対の端」には振り回された.
    2015年08月10日 15:21

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