一応、今日のエントリーで、防空識別圏シリーズは、ひとまず終りとさせていただきます。

11月29日、安倍総理は、官邸で自民党の岩屋毅安全保障調査会長らと会い、中国が設定した防空識別圏の即時撤回を求める決議文を受け取り、「冷静かつ毅然たる対応をしっかりやっていく。同盟国、周辺諸国、国際機関と連携していきたい」と伝えた。
自民党は、即時撤回を求める国会決議の採択を各党に呼び掛ける考えを記者団に明らかにしているけれど、国内は元より国際的にも連携して対処することが求められる。
ところが、11月30日、ユナイテッド、アメリカン、デルタのアメリカ航空大手3社が、東シナ海に独自の防空識別圏を設定した中国当局に飛行計画を提出し始めたことが明らかになった。
昨日のエントリーでも触れたけれど、アメリカ政府自身は、中国が発表した防空識別圏を認めないとしているし、安倍総理も「アメリカ政府が民間航空会社にフライトプランを提出するよう要請したことはないと、外交ルートを通じて確認している」と述べている。アメリカの政府方針とアメリカ民間航空会社との対応に食い違いがでているのだけれど、中国に誤ったメッセージを発しないためにも、日米間での調整は必要と思われる。
安倍総理は、「今週訪日するバイデン米副大統領と協議し、日米で緊密に連携を取りながら対応したい」とも述べているから、この辺りも間違いなく話題になるだろう。推移を見守りたい。
ただ、「中国のA2ADには世界観で反撃せよ」のエントリーでも述べたように、民間航空は安全第一。国が航空各社に対して、これこれこういう具合に守りますと具体策を提示できないと、航空各社も飛行計画を提出しないで飛行するには二の足を踏む。訴訟社会のアメリカであれば尚更。
確かにアメリカ政府は、自国の民間航空会社に中国に飛行計画を出すように要請してはいないけれど、出すなとも言ってない。だから容認だという報道がされるのだと思うけれど、アメリカ政府内でも、具体的な対応策となると、意見が分かれている可能性はある。
では、日本は如何なる判断で、JALやANAに飛行計画を出さないよう要請したのかというと、どうやら外交ルートで大丈夫だと判断しているようだ。
11月25日、外務省の斎木昭隆事務次官が中国の程永華大使から、「今回の措置は民間機を含めて、飛行の自由を妨げるものではない」との言質をとっているのだけれど、これが実質的に日本の航空会社が飛行計画を提出しなくても、運行を妨げないと判断する決め手になったようだ。
だけど、程大使の言葉を持って、大丈夫だと判断できるということは、程大使自身に対する信頼があり、ひいては大使を通じた中国政府にも一定の信頼があることを意味する。例えば、北朝鮮のように、嘘だらけの相手だったとしたら、たとえ「飛行の自由を妨げるものではない」なんて言われても、飛行計画を提出しないという判断にはならないのではないかと思う。
もう、ネットでは結構広まっているけれど、ジャーナリスト山村明義氏は、25日に斎木事務次官が程大使を呼び出したときに次のようなやり取りがあったと、自身のFacebookで伝えている。
齋木次官 「本日、日本側は強く抗議するから、早く外務省に来て下さい」ここで筆者が注目したいのは、日本が中国に対して強気に出ているということではなくて、程大使が「齋木次官が怖いのです」と白状している部分。面子の塊のような中国にあって、その大使を務めている人物が、当の相手に向かって、恐いと告白している。これは裏を返せばそういえるだけの信頼関係を築いているともいえる。日本と中国との関係は冷え込んではいるけれど、断絶しているわけじゃない。
程中国大使 「行きたくありません」
齋木次官 「なぜ来ることが出来ないんだ!」
程中国大使 「・・・・(齋木次官が)怖いのです」
齋木次官 「いいから、2時に早く来て下さい」
元外務省職員の小川修平氏によると、中国は建前では勇ましいことを言うものの、直ちに一線を超えるほどバカではなく、日本政府もあらゆるルートを通じ中国と折衝を重ねているのだそうだ。まぁ、これは東スポソースなので、どこまで本当かという気がしないでもないけれど、先の齋木次官と程中国大使とのやりとりのように個人的な信頼関係を他でも築いているのなら、何らかの折衝は可能だろう。
先日、週刊文春が安倍総理が「韓国はただの愚かな国だ」と語ったと伝えて、韓国で大騒ぎになったことがあったけれど、その時安倍総理は中国については「とんでもない国だが、まだ理性的に外交ゲームができる」と述べたとも伝えている。
これが本当であれば、安倍総理は、今回の件についても、外交的な駆け引きの一環と認識し、理性的に対応するだろうし、少なくとも、互いの行動やコメントに込められた本音のメッセージの部分は互いにきちんとキャッチすることができるという前提に立っているものと思われる。
今回の件については、既に、日本はICAOに解決策を講じるように提起し、世界全体の問題として処理するように働きかけている。あとは、確実に味方を増やしていって、中国を孤立化し、その野望を挫くこと。
その為にも、国民ひとりひとりが国家安全保障というものをしっかりと認識して、政権を支えていかなくちゃいけない。今が民主党政権でなくて良かったと、つくづくそう思う。
この記事へのコメント
白なまず
>ユナイテッド、アメリカン、デルタのアメリカ航空大手3社
米国航空会社はロックフェラー系で、軍産複合体、米国石油メジャー(エクソン、モービル)もロックフェラー系。今回の米軍の行動と米航空会社の動きは相反するように思えるが、尖閣諸島上空での緊張を利用して、日本の本気度を確認できた米軍と米国兵器産業が航空機のセールスチャンスを得る為のダメ押しとして米国航空会社の「東シナ海に独自の防空識別圏を設定」をやったと見ても無理はないように思えます。米国航空会社が防空識別圏を設定しようが、しまいが、米軍の縄張りなので、全く必要の無い行為だと思います。つまり、これは日本の世論を煽り、日本の軍用機追加購入を助ける行為ではないでしょうか。
【アメリカ経済の主流はWASPが独占している】より
http://hexagon.inri.client.jp/floorA2F/a2f1501.html
●現在ロックフェラーの支配する企業には、エクソン、モービル、シェブロンなどの「石油カルテル」を始め、シティバンク、チェース・マンハッタン銀行などの「金融カルテル」、ニューヨーク・ライフ、
almanos
ちび・むぎ・みみ・はな
> まだ理性的に外交ゲームができる」と述べたとも
安倍晋三は何か勘違いしている.
支那を相手の外交ゲームで結局米国を相手に
戦うことになった.
支那には内部権力闘争があり, それが外交を決める.
中共政府に理性を求めるのは愚かである.
八目山人
だから韓国のADIZは北朝鮮の上に引かれています。
そして民間機は日本国に通報などしない。管制に届いている情報はリアルタイムで自衛隊に来ているとも。
韓国から台湾に飛ぶ飛行機が、日本に分かるのかどうかはわかりませんが。
また中国は軍と民間機の管制が通じているのか分かりません。
アメリカの航空会社は中国のどこに連絡しているのでしょう。
sdi
>東シナ海に独自の防空識別圏を設定した中国当局に飛行計画を提出し始めたこと
国際線の飛行計画、という問題の管轄は当然ですが、アメリカでは運輸省、日本では国交省です。他の役所の連中が何をいっても、それは権限外です。この問題でアメリカ国内の動きの中で一番重視しなくてはならないのは、米国運輸長官の発言でしょう。
アメリカ国内のパンダハガーが、中国への点数稼ぎで飛行計画提出の既成事実化をねらってしかけたリーク情報かもしれませんね。
opera
軍事的にはボロボロになった中国のADIZですが、民間航空機の場合は別です。
しかも、中国のパイロットは飛行時間が乏しく(日米の約半分)、技量が劣っていることは周知の事実ですから、民間航空会社は怖いでしょう。
10年位前だと思いますが、南シナ海で米軍と中国軍の戦闘機が接触したことがあり、その際に中国軍のパイロットの操縦が航空慣例を無視した非常に乱暴なものだと話題になったことがあったと思います。まるでパトカーに絡み付く暴走族のようだと。
まだ口だけの状態ですが、中国がADIZ内で実際に哨戒活動をしようとした場合、非常に危険な状況が発生する可能性はあるでしょうね。
>面子の塊のような中国にあって、その大使を務めている人物が、当の相手に向かって、恐いと告白している。
このエピソードが本当かどうか分かりませんが、私は別の感想を持ちます。
考えてみると、中国という国は、本物の大国同士の本気の鍔迫り合いをほとんど経験したことが無い国なんですね。冷戦も直接の当事者ではありませんでしたし。
革命第一世代なら何とか対応できたでし