もう少し続けます。
1.トーンダウンする中国
11月29日、中国が自国が東シナ海に設定した防空識別圏に入ったアメリカのP3対潜哨戒機、EP3電子偵察機と、空自のF15など計10機を識別したと発表した件で、日本側はそんなことはないと速攻で否定した。
小野寺防衛相は「急に航空機が接近してくるなど特異な状況として公表する事態はない」と述べ、外務省幹部も「でたらめではないか。形を見せようとしている」とコメント。他の政府関係者も「全くのいんちきだ」と斬って捨てた。
また、アメリカ政府筋も、「中国の警戒・監視能力を誇示し、米軍と自衛隊を牽制するための宣伝だ。…中国の早期警戒能力は日米に大きく劣る。中国は、防空識別圏全域をカバーする警戒・監視能力を備えているわけではない」との見方を示している。
例えば、先日、B52が中国の防空識別圏を飛行した件についても、中国国防省は、26日正午(日本時間)から午後2時22分(正午)までの2時間22分と発表しているのだけれど、ウォール・ストリート・ジャーナルは、26日午前9時(日本時間)から1時間の飛行としていて、飛行開始時間も飛行時間も食い違っている。
中国の哨戒能力が口ほどではないことが世界にばれ始めるにつれ、中国政府の物言いが、どんどんトーンダウンしている。
中国空軍の喬良少将は、26日の段階では、防空識別圏に侵入した不審機が警告に従わない場合、実弾で攻撃する可能性もあると勇ましかったのだけれど、28日になると、識別圏は「黄色信号」に過ぎず、警告しても応答がない場合は「どうしようもない。…実弾攻撃なんて声高らかに言うのはおかしい」と自身の発言を180度翻してる。
また、強硬発言で有名な羅援少将も 27日に「防空識別圏は軍事衝突区ではないし、飛行禁止区域でもない。国の主権を守り、偶発的な衝突事件を減少し、国土防衛に早期警報の時間を与えるためで、『緩衝器』や『防火壁』の役割を担う。…中国は防空識別圏を設定したからには、外部の反応に対する準備は十分整えており、同圏内での警戒能力も有している。そのため、米軍爆撃機のような行為にも大げさに驚く必要はない。東シナ海の緊張問題は外交ルートを通じて解決すべきだ。中国軍の現段階の反応は穏当だ」と述べている。
今頃になってそんなことを言うのなら、防空識別圏を設定したときに「中国の指示に従わない航空機には武力行使する」としたものも撤回して貰わないと筋が通らない。一部には、中国は防空識別圏の意味を理解していなかったのでは、という声もあるけれど、本当にそうかもしれない。
これについては、小野寺防衛相が11月29日の記者会見で「恐らく中国側がよく理解をしていないのは、防空識別圏というのは、何か領土とか領海とかそういうもので位置付けられるものではありません。…ただ、今回中国側が設定したのは、一つはわが国の領土であります尖閣上空も含まれるという内容になっているということ、それから、今回中国側の発表は、通常の各国が行っている防空識別圏はあくまでも自国の領土に向かう場合に対して様々な対応を要求するということでありますが、そういうものが無いということ、こういう通常から考えた場合に、とても受け入れられないよう内容でありますので、中国側の主張というのは全くお門違いと私どもは思っています」と、はっきり中国が防空識別圏を理解していなかったのではないかと述べている。
中国、あるいは周近平政権の国際感覚の無さは、満天下に晒されたと言っていいだろう。
2.世界を味方につける日本
「中国のA2ADには世界観で反撃せよ」のエントリーで、今回の中国の動きに対しては、戦略の階層を上げて、上位階層から攻めるべきだと述べたけれど、果たして、日本政府はその方向に動き出しているようだ。
11月29日、日本政府は、カナダのモントリオールで開かれた国際民間航空機関(ICAO:International Civil Aviation Organization)の理事会で、中国の防空識別圏設定について「安全が脅かされる」として、対応策を検討するよう提案している。
ICAOとは、国連の経済社会理事会の専門機関の一つで、1944年に締結された国際民間航空条約(通称シカゴ条約)に基づき、1947年に発足。国際民間航空に関する原則と技術を開発・制定し、その健全な発達を目的としている。
シカゴ条約に批准した国は自動的にICAOに加盟することになっていて、2008年の時点で加盟国は190ヶ国。理事会の任期は3年で、総会で選出された36ヶ国の理事国で構成されているのだけれど、3つのカテゴリーに分けられている。
第1カテゴリーは、航空運送において最も重要な国とされ、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ロシア、イギリス、アメリカの11ヶ国で構成され、以下、国際民間航空のための施設の設置に最大の貢献をする国とする第2カテゴリーに12ヶ国。そして、指名すれば世界のすべての主要な地理的地域が理事会に確実に代表されることになる国とする第3カテゴリーに13ヶ国が指名されている。
今回の日本の提案については既に、アメリカ、イギリス、オーストラリアの3ヶ国が賛同を示しているけれど、中国は反発している。政府は、次回理事会で正式議題に取り上げられるよう関係国への働き掛けを強めるとしているから、恐らくは、まず第1カテゴリーの残り6ヶ国に対して働きかけをしていくものと思われる。
因みに第2カテゴリーに指定されている国は、デンマーク、スペイン、ベルギー、インド、シンガポール、アルゼンチン、メキシコ、コロンビア、エジプト、ナイジェリア、サウジアラビア、南アフリカで、第3カテゴリーに指定されている国はスロベニア、韓国、マレーシア、ペルー、キューバ、グアテマラ、パラグアイ、カメルーン、スワジランド、モロッコ、ブルキナファソ、ウガンダ、アラブ首長国連邦となっている。
まぁ、今回の中国の横暴具合を考えると、第1、第2カテゴリーの諸国の賛同は比較的集めやすいと見られるから、多分、日本の議題は取り上げられるのではないかと思う。
ここまで、全世界的に批判を受けてしまった中国は、今後どう動いてくるのか。
3.戦略的に決定されていた中国の防空識別圏
どうやら、中国は、今回の防空識別圏の設定について4ヶ月ほど前に決定していたようだ。
香港誌「亜洲週刊」によると、防空識別圏の設定は、以前から中国軍が提案していて、それを共産党指導部が取り上げてこなかったらしいのだけれど、4ヶ月前に習近平主席が、識別圏の設定を決断したのだそうだ。その際、習近平主席は、日中関係が「資源の争いから、戦略的争いへと変わった」との見解を示したという。
これが本当であれば、やはり防空識別圏の設定は明らかに戦略的なものであるとみていいだろう。であれば、中国は防空識別圏の設定について簡単には引き下がらないであろうと思われる。
繰り返しになるけれど、こういう時、中国は、古来の兵法に従って、分断工作してからの各個撃破や、正面からぶつかることを避けての側面や背後からの攻撃といった手段に切り替えてくる。
今回の例でいえば、日米の離間工作であり、中国の行動は正当であるといったプロパガンダになるだろう。
既に、環球時報は11月29日付の社説で「日本の気勢をそぐことに力を集中させ、あらゆる挑発行為に断固反撃すべきだ。…米側がやり過ぎない限り、米軍を闘争目標に据えてはいけない」と強調して分断工作を仕掛けているし、人民日報は、「中国が設定した防空識別圏を米民間航空機が通過する際、中国当局に飛行計画を伝えるよう航空各社に要請する方針を米政府が固めた」とする29日付のニューヨークタイムスの記事を引用する形で報道、自らの正統性をアピールし始めている。
尤も、後者のニューヨークタイムスの記事については、外務省が、アメリカの国務省や連邦航空局に問い合わせたところ、連邦航空局は「中国当局へのフライトプラン=飛行計画書の提出は指導していない」との回答を得ている。
こちらのブログでは、この報道についての検証をしていて、国務省は「外国によって出された『航空情報(NOTAMs)』にそって運航することを予想しているけれど、それと、アメリカ政府が、『中国が発表した防空識別圏』を認めることとは違う」と明確に述べているとして、ニューヨークタイムズの記事は「飛ばし記事」ではないかと指摘している。
ニューヨークタイムスの日本支局は、朝日新聞東京本社内にあるのだけれど、その朝日新聞は人民日報と業務提携している。つまり、人民日報とニューヨークタイムスは、朝日新聞をハブにして繋がっているとも言え、その意味では、ニューヨークタイムスの記事が、人民日報に引用されるのは不思議でもなんでもない。
そして、もしも、このニューヨークタイムスの記事が、中国の裏工作によるものであったとしたら、中国は既にここまで手を回していることになる。
4.孫子の兵法に逆らっている防空識別圏
このように、孫子の兵法ばりに色々、手を打ってくる中国なのだけれど、肝心の防空識別圏については、後手を踏んでいる。それは、設定した防空識別圏を自身がカバーしきれていないこと。
アメリカのB52や空自のF15が識別圏を飛行しても、スクランブルも掛けられなかった。後になって、識別したといっても、速攻で否定される。
中国のレーダーが識別圏全部をカバーできていないとすると、それを哨戒しようとしたら、それこそ、大量の航空機を投入するか、バケツリレー的に常時哨戒機を飛ばしまくるしかなくなってしまう。だけど、これは兵を相当に疲弊させる。
尖閣の領海には、中国の船が毎日のように侵入しては、その度に海保が対応しているのだけれど、それは海保や海自を疲弊させることにあるという指摘がある。
これは正に孫子の兵法にいう「佚して之を労し」を地でいく作戦。
だけど、防空識別圏ではこれが逆になる。空自や米軍の飛行機が侵入する度に、スクランブルを掛けなければならないのは中国の方。空自や米軍は、決められた計画に沿って、通常の哨戒活動をするだけ。勿論、中国機がくるかもしれないという緊張感はあるにしても、緊急発進とは違うから、疲弊の度はずっと小さい。
ところが、中国は、いつ入ってくるか分からない、航空機に備え、スクランブル体制を取り、かつ、それを実行しなくちゃいけない。その能力があればの話だけれど。中国は自分で設定した防空識別圏によって、自分の首を絞めたともいえる。
それでも、中国が戦略的に防空識別圏を設定したのなら、易々と識別圏を撤回することは考えにくい。日本は長期戦の構えで、世界を味方にしつつ、慎重に対処するしかないだろう。


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almanos