ダボスの安倍発言と海外記事について

昨日のエントリーと少し関連するかもしれませんけれども、今日はこの話題です。

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1.ダボスでの安倍総理発言の余波

先日行われた、スイスのダボス会議で、安倍総理が、日中関係について第一次大戦前の英国とドイツの関係と「類似性」があると発言した-とイギリス・フィナンシャルタイムズ紙が報じた問題で、安倍総理が述べていない内容を通訳が補足説明していたことが分かったとの報道がされている。

朝日新聞の報道によると、例の発言を通訳が伝える際に「我々は似た状況にあると思う(I think we are in the similar situation)」と付け加えたとしている。

安倍総理のこの発言については、筆者も「安倍総理のダボス会議基調演説」のエントリーで取り上げ、安倍総理は「似たような状況だ」とは発言していないものの、どちらとも取れる曖昧な表現をしたからではないかと述べたのだけれど、通訳がはっきりと"similar situation"と付け加えたのなら、どうしようもない。日本語が分からない記者が、通訳の英語だけを聞いても、何処までが安倍総理の発言の翻訳で、どこからが通訳の補足かなんてわかるわけがない。

くだんのフィナンシャルタイムズの記事は、こちらにあるのだけれど、問題の部分を次に引用する。
I asked Mr Abe whether a war between China and Japan was “conceivable”. … In fact, Mr Abe explicitly compared the tensions between China and Japan now to the rivalry between Britain and Germany in the years before the first world war, remarking that it was a “similar situation”.
と、安倍総理が、"similar situation(似たような状況だ)"、と述べたとはっきりと書いている。(日本語版はこちら)だから、本当に"similar situation"という表現を、通訳が"勝手に"補ったのだとしたら、その通訳はこの騒ぎを起こした第一義的な責任があるし、また、そんな通訳を手配した外務省にも責があると言わざるを得ない。

その一方、日本政府の外交筋は「欧米での報道は一部を除き、事実を伝えるものが多かった。ただ、英国にはかつて反日ジャーナリズムがあった。記者たちが中国によるプロパガンダの影響で反日に走らないよう注意している」と述べていて、フィナンシャルタイムズの記事はそういった影響も有り得るという見解を示しているし、当のフィナンシャルタイムズ・アジア担当部長デービット・ピリング記者は、「第二次大戦などでも日本に問題があるとの見解が欧米では根強い。日本の知識がない記者ほど、その流れで書く傾向が強い。センセーショナルに書く風潮もある」と指摘している。

デービット・ピリング記者は、日本に2002年から2008年まで滞在し、現在は香港で、中国のニュースをイギリスに発信している。彼は、流暢な日本語を操り、茶の湯や文楽にも詳しいそうだ。これまで、バブル後の日本経済についても記事を書いていて、日本の通りにゴミの落ちていないことや、携帯電話のマナーが行き渡っていること。忘れ物がちゃんと戻ってくることなども伝えている。

更に、彼は、3.11の時に香港から日本に取材の為に訪れ、東北の人々の強さを目の当たりにして日本人に対する新たな尊敬の念を呼び起こしたという。

もしも、彼がダボスでの安倍総理の発言に関する記事を書いていれば、安倍総理の発言と、通訳の補足の部分とを聞き分けて、正確な記事をしたのではないかと思われる。




2.日中関係は1914年と似たような状況なのか

今回の問題となったフィナンシャルタイムズの記事を書いたのは、ギデオン・ラックマンという外交問題の首席コラムニスト。アジア外交に詳しい有名な記者だそうなのだけれど、デービット・ピリング記者ほど、日本に好意的じゃない。

何より、ギデオン・ラックマン記者は、去年の2月に「太平洋に影を落とす1914年の記憶」という記事を書いていて、次のように述べている。(日本語版はこちら
Yet the idea that the great powers of today could never again stumble into a war, as they did in 1914, is far too complacent. The rising tensions between China, Japan and the US have echoes of the terrible conflict that broke out almost a century ago.
(だが、今の大国はもう2度と、1914年の大国のように戦争に巻き込まれることはないという考えは、あまりに慢心が過ぎる。中国と日本、米国の間で高まる緊張には、ほぼ1世紀前に勃発した恐ろしい衝突に似た響きがある。)
このように、ギデオン・ラックマン記者は安倍総理に質問する前から、日中関係は1914年と"似たような状況にある"と述べている。

だけど、地政学者の奥山真史氏によると、このギデオン・ラックマン記者の見解については、ハーバード大学の国際政治学者スティーヴン・ウォルト教授が「彼の一九一四年の事例の解釈が間違っている」と反論しているようだ。

だから、必ずしも、フィナンシャルタイムズのくだんの記事が欧米の意見の相違とは限らないことには留意したい。

因みに、菅官房長官のクレームがフィナンシャルタイムズにまで伝わったのかどうかは分からないけれど、1月26日に、ギデオン・ラックマン記者が「安倍首相とロウハニ大統領が注目を集めたダボス会議」という記事で、例の安倍総理の発言について、「好戦的な発言に聞こえるものの、実際はそれほどでもなかった。その話しぶりからは特に明確な意図はうかがえなかったし、戦争になればどちらの側にとっても悲劇になるだろうと安倍氏は明言していた。とはいえ、世界の指導者の1人からこのような比較が聞かれればどきりとするし、24日には中国の外相から厳しく非難されることにもなった。」とフォローを入れている。

このように、記者のスタンスによって、その記事の色合いが変わるケースは他にもある。

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3.アメリカ政府の靖国不参拝要求というWSJの誤報

1月24日、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナル紙が「米政府、靖国参拝後の安倍政権にさまざまな注文」という記事を掲載し、「米政府関係者は、安倍晋三首相が中国と韓国を怒らせた靖国神社参拝を繰り返さないことを確約するよう日本に求めており、日本政府がこれまでの第2次世界大戦に関する公式の謝罪を確認することを検討するよう首相に要請する」と伝えたのだけれど、アメリカ政府はそれを否定するという一幕があった。

1月27日、アメリカ国務省のサキ報道官は記者会見で「米政府は日本と周辺国が敏感な問題について建設的かつ対話を通して対処することを望むと常に言ってきた。しかし、米政府が非公式な保証を求めているというのは不正確だ」と公式に否定している。

この記事の署名は"YUKA HAYASHI"となっているから、これを書いたのは、おそらく、ウォール・ストリート・ジャーナル東京支局のジャーナリスト林由佳記者ではないかと思われる。

林由佳記者については、こちらで紹介されているけれど、ダウ・ジョーンズ経済通信で10年以上経験を積み、2004年からウォール・ストリート・ジャーナル東京支局の取材チームに参加。政治、外交、マクロ経済などを担当している。

林由佳記者の政治的スタンスについては、筆者にはまだよく分からないけれど、過去に書かれた記事を読む限りでは、それほど目立った反日スタンスは感じられない。ただ、去年8月に書かれた「再び注目浴びる靖国神社 終戦記念日の閣僚参拝めぐり」では、靖国に批判的な記事が多かったことと、くだんの「米政府、靖国参拝後の安倍政権にさまざまな注文」の記事の原文では、靖国のことを"a war shrine"と記述していることから、林由佳記者は、中立からやや批判的なスタンスなのかもしれないという印象を持っている。

いずれにせよ、靖国神社参拝を繰り返さないことを要求したことについて、アメリカ政府が公式に否定した以上、くだんのウォール・ストリート・ジャーナルの記事は誤報ということになるのだけれど、それについて、訂正するのか、謝罪するのか、そのまま放置するのかは分からない。

だけど、海外配信の記事については、記者のスタンスや誤訳、誤報も含めて注意しておく必要があるのではないかと思う。

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この記事へのコメント

  • 白なまず

    そして、例えば英国の反日はもちろんメディアが主体であるが、首相の中国の経済を当てにする中国詣では弱体化する反日ユダヤの経済力を表し、兵器の共同開発、軍事同盟を画策するのは親日英国右翼の姿、英国の鉄道を改善していて利用者などは日本の技術力を実感しているだろうから、反日よりは親日となり強い英国の復活を夢見るだろうし、ポンド高のEU経済圏では英国への外国人労働者が減らない傾向だろうから、自分の仕事を守り、治安が良くなる様な事が日本との連携で生まれるようであれば、親日英国人は増え続ける。とにかく反日メディアの記者は親日英国人ではなく、反日非英国人であり、ユダヤ支那朝鮮絡みの傀儡。彼らを黙らせるには吉備団子でも与えればよいだけの事で難しい問題ではない。心の底から日本が憎い親の仇が何処に居るというのか。せいぜい金の問題、その程度。
    2015年08月10日 15:21
  • opera

    ※重複コメントを削除願います。

     また、以前もコメントしましたが、日本が「尖閣諸島に領土問題は存在しない」と明言し『棚上げ論』を明確に否定した以上、中国側は尖閣諸島を諦めるか現実に侵略するかの二択を迫られる(『棚上げ論』を前提に外交関係を維持しつつ事実上の侵略行為を繰り返すという誤魔化しができなくなる)のは当然で、この点に対する認識が、アメリカでも国防総省周辺は別でしょうが、オバマ大統領のインナーサークル及び国務省はまだまだ不十分ですし、日本国民はさらに、最近の南シナ海での中国海軍の不穏な動きも注視しておく必要があるでしょう(この海域は日本の重要なシーレーンで、輸入原油・天然ガスを積んだタンカーの大半がここを通過します。それなのに、日本のメディアは脱原発は都知事選の争点と喚いているのですから、能天気では済みませんね)。

    【参考】
    ◇徒労に終わった中国の「日本包囲作戦」
     2014/01/27 石 平(中国問題・日中問題評論家)
    http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3541

    ◇安倍総理の反撃? 靖国参拝と日中、日韓関係
     2014/01/27
    2015年08月10日 15:21
  • 泣き虫ウンモ

    中国の指導者は負の連鎖が続いていますので、慣性の法則から言うともっと恐ろしい指導者が出現する可能性も否定できませんね。
    特にヨーロッパは資源が無い国が多いし、大戦後の和解ムードがあり中国の脅威に関して傍観を決め込みたいようですが、調子に乗りヨーロッパまで攻め込むかもしれません。
    仮にヨーロッパまで行かなくても、近隣諸国に基地がつくられる可能性もあるわけですから、人事では済まないと思いますけどね。
    2015年08月10日 15:21
  • とおる

    食品に毒物(農薬)を入れる事件がありましたが、報道には毒物を入れてもお構いなしの天国のような場所です。
    2015年08月10日 15:21
  • プチ農

    米CNNテレビでの安倍首相とのインタビューですが、私はとてつもない不安を感じました。
    アメリカは中国と戦火は交えたくないのに、安倍首相はアメリカの軍事力を傘に挑発をしている。
     中国軍に関する首相の話は、10年前の話で脅威を煽っている。子供じみた発想というのがあちらの見方です。ちょっとわかっている層は、安倍を警戒しています。

     安倍首相はその右翼的な側面があるが故、それが大きく誤解されて報道されるのです。靖国神社で不戦の誓いをしたのなら、「紛争はあってはならない」と繰り返し強調すべきでした。
     中韓の罠に見事にはまったと言えます。とはいえ、罠にはまった安倍主要を締め上げることもできないくらい、中韓も危ないようです。
    2015年08月10日 15:21
  • ナポレオン・ソロ

    見知らぬ者同士が殺し合いをしなくてはならない戦争は、人類にとって最悪の凶事であるからには、基本的に、平和時には、その平和な状態を維持継続せしめる為に、両国国民は努力や意を尽くさねばならないのは、謂うまでもない事です。 つまり、平和維持は一人国家指導者の責任に非ず、市井に一生を暮す、名も無き庶民であろうと、戦争となれば確実に戦火は、自分や家族の頭上に及ぶのですから。

     戦争を避ける努力は、昭和帝の親英王室もあって、戦前日本でも大いに為されて居ましたが、昭和帝の甥に当たる近衛文麿が首相の時にとった不審な行動が、日本の外交交渉をトンデモ無い方向に向かわ強めました。 例えば、蒋介石に対してその国家樹立を容認してさえいれば、蒋介石が日本に敵対する事はなかったのに、なぜか、相手にすらしませんでした。是は、彼が共産主義者で、シナの共産化を目論むソ連のコミンテルンの細胞=ゾルゲ事件の主犯尾崎秀美他に、日本の政治中枢を握ることを容認していた証拠です。

     彼らの様な、外国の意のままに自国民を不幸のどん底に叩き込む事を何とも思わない輩が、現代社会にもいます。 然も、彼らは表面上は社会のエリートとして存
    2015年08月10日 15:21

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