困難を極める南スーダンのジュバへの補給

 
今日はこの話題です。

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1月14日、菅官房長官は記者会見で、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に関して、国連から航空輸送支援の要請があったものの、断ったことを明らかにした。

これは、先月14日、国連安保理が南スーダンでPKOに従事する軍事要員を7000人から12500人に、警察要員を900人から1323人に増員することを全会一致で承認したことが背景にある。

これに従って、国連事務局は加盟国に派遣・増派を要請し、パキスタンやバングラデシュ、ネパールなどが軍事要員や装甲車を出すことを応諾したまでは良かったのだけれど、これらの国々は、それらを南スーダンへ輸送する能力がなく、国連側は対応を検討していた。

そこで国連はアメリカとNATOが大型輸送機で南スーダンの南隣にある、ウガンダのエンテベ国際空港まで運んで、それを日本が自衛隊のC130輸送機2機で南スーダンの首都ジュバの国際空港までピストン輸送する計画を立案し、関係国に打診した。

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打診を受けた日本政府は対応を検討したようなのだけれど、結局、要請を断った。これについて、菅官房長官は「航空輸送支援の打診があったことは事実だ。法的側面などについて総合的に検討した結果、慎重に対応することにした」と述べ、小野寺防衛相も「今回の航空輸送支援というのは、我が国だけではなくて、複数国に支援の要請があったと承知をしております。我が国として、現在総合的な考え方として、今回の対応については慎重にという判断をしたということであります。…例えば、我が国しかこの対応ができないのか、他の国でそれぞれ対応を十分できる内容ではないのか、また我が国の部隊の運用の中で我が国としてこれを協力することが、今、対応能力を含め十分できるのか、いろいろなことを総合的に考えての今回の慎重な判断ということになると思います」と、総合的な判断であることを強調している。

それでも、菅官房長官が、法的側面などについて云々と言っていることからみて、メディアが推測しているように、この輸送に応じた場合、憲法9条の解釈で禁止されている武力行使との一体化にあたる可能性も検討したものと思われる。まぁ、現行憲法制約下では、致し方ない。

それに、小野寺防衛相によると、この航空輸送支援は、日本だけではなくて、その他複数の国に対しても要請していたようだから、最終的には、それらの国のどこかがそれを務めることになると思われる。

とはいえ、南スーダンへの補給は簡単なことではない。南スーダンは北にスーダン、東にエチオピア、南東にケニア、ウガンダ、南西にコンゴ民主共和国、西に中央アフリカと国境を接する内陸国。

南スーダンには、南北に白ナイル川が流れているのだけれど、ジュバの北から国境にかけての流域には、スッド(sudd)と呼ばれるアフリカ最大級の大湿地帯がある。雨季ともなれば、その広さは30万平方キロにも及び、イタリアの国土面積に匹敵する。しかも、スッドには多数の浮島や込み入った水路が広がっていて、船の航行もままならない上に、象やワニなど多数の野生動物が生息している。天然の障壁。

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従って現実問題として、南スーダンの北部からジュバへの直通の陸送は極めて困難で、どうしても陸路を使うのであれば、大きく迂回して悪路をひた走るしかない。こうした地理的制約から陸上交通において、ジュバは東アフリカの影響下にある。

それでも、ジュバは、南東に隣接するケニアのモンパサ港から1900kmあり、陸路でいくとジュバまで1カ月以上を必要とする。陸の兵站の維持は相当に大変。

では、空路ではどうかというと、これも簡単じゃない。一応、ジュバには軍民共用のジュバ国際空港があることはあるのだけれど、2400m滑走路が一本だけ。大型輸送機にとって、2400mというのはギリギリの距離で、緊急時以外に使える滑走路ではないため、大型輸送機は、直接ジュバ空港には降りれない。これに対して、ウガンダのエンテベ国際空港は、2400m滑走路1本と3600m滑走路が1本あるから、こちらであれば、大型輸送機が乗り入れできる。

ということで、空路でも、ジュバには中小型輸送機しか手段がない。今回の国連の航空輸送支援のプランも、そうした現状を踏まえてのもの。

現在、南スーダンに派遣されている自衛隊のPKO部隊は、ジュバとその周辺で道路整備や排水溝整備などインフラ整備を行なっているけれど、陸の孤島たる南スーダンでのインフラ整備は非常に貴重なものになることは間違いない。

だけど、本来、こうした"平和維持活動"は、南スーダン国内が平和なときに行ってこそ、インフラとして蓄積されるのであって、今のような内戦に近い状態でインフラを作っても、何時また破壊されるかも分からない。そうさせないための国連の増派決定なのかもしれないけれど、どこか後手を踏んでいるというか、すっきりしないものを感じてしまう。

今回の南スーダンへのPKO部隊派遣については、2011年の「南スーダン国際平和協力隊の設置等に関する政令」で、2014年10月31日まで派遣すると定められている。それまで何とか無事でいて欲しいと思うけれど、場合によっては、そこから更に延長ということもないとも限らない。

1月14日、安倍総理は、訪問先のアディスアベバで記者会見し、「引き続きアフリカの平和と安定に向けたアフリカ自身の努力を後押ししていく」と、南スーダンでのPKOを当面継続する考えを表明したと伝えられている。果たして"当面"が、元々の派遣期間である10月までのことなのか、それ以降のことなのかは分からないけれど、十分な対策と配慮を願う。

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この記事へのコメント

  • sdi

    民主党政権が南スーダンPKO派遣を決定したと聞いたとき、私が真っ先に思ったのは
    「兵站どうすんだ?ケニアから空路しかないぞ?空港になにかあったらどうすんだ」
    です。私に限らず、ミリヲタ風味の人間はみんなそう思ったことでしょう。
     今の南スーダンに必要なのはPKOではなくてPKFです。もし、南スーダンの民間インフラの整備を行うというのなら国連が南スーダンの政府軍、反政府軍の両方に対して即時停戦と民兵の武装解除を強制するくらいの戦力をつぎ込まねば、この地域に平穏はこないでしょう。
    ハングラデッシュ、ネパール軍はどちらかというと治安維持が任務での派遣ならわかりますが、中国に支援されたスーダン軍相手の内戦を戦い抜いた南スーダン政府軍、反政府軍を相手どるのは正直言って不安です。しかもコソボのときのNATO軍のように指揮系統が曲りなり一本化されているわけでもなく、協同での軍事行動の経験も乏しいのです。PKO撤退について考慮すべき時にきているのではないでしょうか?
    2015年08月10日 15:21
  • 白なまず

    もし、支那が反政府軍へ軍事支援する陰謀が本当ならば、そして、韓国が支那側へ行くのであれば、南スーダンの北部には中共軍、南スーダン反乱軍、韓国軍が配置されており、ここへ国連軍を送り出す支援をして、国連軍が殲滅する様な事になれば日本は態度をはっきりさせないと攻撃、撤退いずれもできず、世界の笑いものになりそうですね。国連軍が展開できないと反政府軍と支那が勝つので、世界酋長は韓国の立場で国連軍を撤退する命令をいずれですでしょう。米国が介入しないのであれば、EUも尻込みで、アジアを中心とする国連軍は劣勢。南スーダンを見捨てるとしても国連軍の撤退に自衛隊の空輸は必要でしょうから、結局自衛隊が行動するでしょうね。早めの決断で撤退するのか、遅く決断して、救出の為に犠牲者を増やすのか、それとも、、、
    2015年08月10日 15:21
  • 泣き虫ウンモ

    アフリカは只でさえ、民族間による村社会を形成しているのに、そこに頑固な宗教が入り込んで混乱してるのかな。
    まぁ、同じ民族で信仰を一つにしてても、風習や慣習が違うし教えがない場合は、そこで争う可能性も秘めてるのかな?
    南スーダンにおいては少数派らしいイスラム教徒も巻き込んで、争いを演出することもできるかな、中国は。
    石油の利権を一本化したいという思惑を持っていても、おかしくないでしょうね。
    いまは、中国とマレーシアとインドでしたかね?
    マレーシアが落ちるのかな?
    難しいですね、アフリカはw
    2015年08月10日 15:21

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