靖国参拝と東京裁判

 
正月3ヶ日も今日で終わりですね。まずはこの話題から…

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新年、1月1日午後、新藤総務大臣が靖国神社を参拝した。これは、去年10月の秋季例大祭に参拝して以来、大臣就任後、6度目になる。

参拝後、新藤総務相は、私的参拝とした上で「二度と戦争が繰り返されないように平和の思いを新たにする。本日は正月なので、家族とともに参りました。…戦争で命を落とした方々に尊崇の念を込めてお参りした。平和への思いを新たにした」と記者団に説明し、中韓両国には「説明する必要はあるが、どこの国でも国のために命をささげた方には同じような行為がなされている。問題になるとは考えていない」との認識を示した。

今の所というか、やはりというか、中国が素早く反応した。1月1日、中国外務省の華春瑩・副報道局長が「安倍晋三首相の参拝に続き、日本の閣僚が歴史問題で取った新たな挑発行動だ。…世界反ファシスト戦争の結果と戦後の国際秩序に挑戦する日本の危険な動向を再び明らかにした。…中国国民と他のアジア国家の国民は、日本が歴史を後戻りさせることを決して許さない」と「強烈な抗議」を表明した。恐らく韓国もこれに追随するだろう。既に、安倍総理の参拝については、12月31日に強力に糾弾する決議なるものを全会一致で採択している。

だけど、新藤総務省は、靖国参拝そのものに反発するのは中韓2ヶ国しかないとはっきりと認識している。今年8月に靖国参拝したときには、「中国と韓国が反応しているが、ほかのアジアの国から反応は聞いていない」と述べている。

先日も、朝日新聞記者から、靖国参拝について、「海外からの批判を招いている、靖国参拝についての質問ですが『国の為に命を捧げた人たちをお参りするのに何がいけないんだ!』という答えは若干論法がずれているといると思います。そのことについて大臣の考えをお聞かせ願いたい」との問いに、"海外"とは具体的にどこの国なのか、と問い詰め、結局中韓の2ヶ国しかないことを白状させている。中韓2ヶ国を"海外"とすり替えることを許さなかった。

「国の為に命を捧げた人たちをお参りする」という意味でいえば、同じく1月1日、韓国の朴槿惠大統領が、国立ソウル顕忠院に参拝している。

ソウル顕忠院は、1955年に朝鮮戦争で戦死した軍人・軍属を埋葬するための国軍墓地として作られ、1965年3月に国立墓地となった。そして、1996年6月に国立顕忠院に名称変更の後、2006年1月に国立ソウル顕忠院と再度名称変更した。

現在、顕忠院には16万9千人が眠っており、このうち埋葬されているのは亡骸がある5万4444人なのだけれど、朝鮮併合時代における独立運動家や国家功労者、朝鮮戦争、ベトナム戦争の戦死者や歴代大統領が祀られていて、2009年5月には新潟日赤センター爆破未遂事件に係わった工作員12名も戦没者として祀られている。 

日本からは2006年に安倍総理が内閣総理大臣として参拝し、2011年には野田前総理が公式参拝している。

中韓が"犯罪者"を祭っているから、靖国参拝は駄目だというロジックを使うのであれば、日本も同様に、安重根やテロリスト工作員を祭った顕忠院に韓国大統領が参拝することは言語同断だ、ということだって出来る。だけど、日本はそうするどころか、安倍総理さえも、顕忠院に参拝している。これは、「国の為に命を捧げた人たちをお参りする」ということを身を持って示していることに他ならない。

だから、朝日新聞が「戦犯を祭る」行為が問題だというのなら、、同じく朴槿惠大統領に対しても、安重根やテロリスト工作員を祭った顕忠院に参拝するのは問題だと抗議しなくてはいけない。だけど、朝日がそんな抗議をしたとは寡聞にして知らない。ここでも朝日のダブスタが炸裂してる。

だけど彼らは批判を止めない。ひたすらに「戦犯を祭る」行為が問題だと非難する。



昨年の12月30日、中国紙環球網は、安倍総理の靖国参拝を受け、国内の専門家にどう対応すべきかを尋ねた記事を掲載したそうなのだけれど、その中で、北京航空航天大学戦略問題研究センターの王湘穂主任が「外交部が抗議するほかに、国連に日本の首相がA級戦犯を祭る靖国神社を参拝することを批判する議案を提出すべき。この議案は必ず通過する。参拝するごとに議案を提出していけば、日本の国連常任理事国入りの夢はますます遠ざかるだろう」とのコメントを伝えている。

だけど、A級戦犯云々を穿り返すのであれば、国際法上、既に彼らは"犯罪人"では無くなっている。それは、日本政府の勧告およびサンフランシスコ平和条約に基づいて、すでに彼等の名誉回復が為されているから。

日本政府は、1952年6月9日に戦犯在所者の釈放等に関する決議を行っている、その内容は次の3点。
1.死刑の言渡を受けて比国に拘禁されている者の助命
2.比国及び濠洲において拘禁されている者の速やかな内地帰還
3.巣鴨プリズンに拘禁されている者の妥当にして寛大なる措置の速やかな促進のため、関係諸国に対し平和條約所定の勧告を為し、或いはその諒解を求め、もつて、これが実現を図るべきである。
という具合にA、B、C級戦犯について、その罪の減免ないし赦免を求めるもの。そして、東京裁判によって罪を課された彼らの減免・赦免については、サンフランシスコ平和条約の第11条に規定されている。次に第11条を引用する。
サンフランシスコ平和条約 1951年9月8日

第十一条

日本国は、極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾し、且つ、日本国で拘禁されている日本国民にこれらの法廷が課した刑を執行するものとする。これらの拘禁されている物を赦免し、減刑し、及び仮出獄させる権限は、各事件について刑を課した一又は二以上の政府の決定及び日本国の勧告に基く場合の外、行使することができない。極東国際軍事裁判所が刑を宣告した者については、この権限は、裁判所に代表者を出した政府の過半数の決定及び日本国の勧告に基く場合の外、行使することができない。
このように、日本政府の勧告の他、東京裁判に代表者を出した各国政府の過半数の賛成があれば、赦免・減刑が出来ることになっている。この辺りについては、2005年10月17日に、野田前総理が「『戦犯』に対する認識と内閣総理大臣の靖国神社参拝に関する質問主意書」を提出している。該当すると思われる部分について、次に引用する。
「戦犯」に対する認識と内閣総理大臣の靖国神社参拝に関する質問主意書

《前略》

一 「戦犯」の名誉回復について

 1 極東国際軍事裁判に言及したサンフランシスコ講和条約第十一条において、「これらの拘禁されている者を赦免し、減刑し、及び仮出獄させる権限は、各事件について刑を課した一又は二以上の政府の決定及び日本国の勧告に基づくの外、行使することができない。極東国際軍事裁判所が刑を宣告した者については、この権限は、裁判所に代表者を出した政府の過半数の決定及び日本国の勧告に基づくの外、行使することはできない」とある。これは、日本国政府が勧告し、さらに刑を課した国ならびに極東国際軍事裁判所の場合は裁判所に代表者を出した政府の過半数が決定すれば、拘禁されているものは赦免、減刑、仮出獄されるという意味に相違ないか。

 2 昭和二十七年五月一日、木村篤太郎法務総裁から戦犯の国内法上の解釈について変更が通達された。これによって戦犯拘禁中の死者はすべて「公務死」として、戦犯逮捕者は「抑留又は逮捕された者」として取り扱われることとなった。さらに「戦傷病者戦没者遺族等援護法」の一部が改正され、戦犯としての拘留逮捕者を「被拘禁者」として扱い、当該拘禁中に死亡した場合はその遺族に扶助料を支給することとなった。これら解釈の変更ならびに法律改正は、国内法上は「戦犯」は存在しないと政府も国会も認識したからであると解釈できるが、現在の政府の見解はどうか。

 3 昭和二十七年六月九日、参議院本会議において「戦犯在所者の釈放等に関する決議」、同年十二月九日、衆議院本会議において「戦争犯罪による受刑者の釈放等に関する決議」がなされ、昭和二十八年八月三日、衆議院本会議においては「戦争犯罪による受刑者の赦免に関する決議」が全会一致で可決され、昭和三十年には「戦争受刑者の即時釈放要請に関する決議」がなされた。サンフランシスコ講和条約第十一条の手続きに基づき、関係十一カ国の同意のもと、「A級戦犯」は昭和三十一年に、「BC級戦犯」は昭和三十三年までに赦免され釈放された。刑罰が終了した時点で受刑者の罪は消滅するというのが近代法の理念である。赦免・釈放をもって「戦犯」の名誉は国際的にも回復されたとみなされるが、政府の見解はどうか。

 4 「A級戦犯」として有罪判決を受け禁固七年とされた重光葵は釈放後、鳩山内閣の副総理・外相となり、国連加盟式典の代表として戦勝国代表から万雷の拍手を受けた。また、それらの功績を認められ勲一等を授与されている。同じく終身刑とされた賀屋興宣は池田内閣の法相を務めている。これらの事実は「戦犯」の名誉が国内的にも国際的にも回復されているからこそ生じたと判断できる。仮にそうではなく、名誉が回復されていないとするならば、日本国は犯罪人を大臣に任命し、また勲章を与えたということになるが、政府はこれをいかに解釈するか。

 5 「A級戦犯」として受刑し、刑期途中で赦免・釈放された重光葵、賀屋興宣らの名誉が回復されているとすれば、同じ「A級戦犯」として死刑判決を受け絞首刑となった東條英機以下七名、終身刑ならびに禁固刑とされ服役中に獄中で死亡した五名、判決前に病のため病院にて死亡した二名もまた名誉を回復しているはずである。仮に重光葵らの名誉は回復されており、東條英機以下の名誉は回復されていないと政府が判断するならば、その理由はいかなるものか。
 6 すべての「A級戦犯」の名誉が国内的にも国際的にも回復されているとすれば、東條英機以下十四名の「A級戦犯」を靖国神社が合祀していることにいかなる問題があるのか。また、靖国神社に内閣総理大臣が参拝することにいかなる問題があるか。

《後略》


これに対する政府答弁は次のとおり。
衆議院議員野田佳彦君提出「戦犯」に対する認識と内閣総理大臣の靖国神社参拝に関する質問に対する答弁書

一の1について
 日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号。以下「平和条約」という。)第十一条は、極東国際軍事裁判所が刑を宣告した者については、同裁判所に代表者を出した政府の過半数の決定及び我が国の勧告に基づく場合に赦免し、減刑し、及び仮出獄させる権限を行使することができることにつき規定しており、また、その他の連合国戦争犯罪法廷が刑を科した者については、各事件について刑を科した一又は二以上の政府の決定及び我が国の勧告に基づく場合に赦免し、減刑し、及び仮出獄させる権限を行使することができることにつき規定している。

一の2について
 平和条約第十一条による刑の執行及び赦免等に関する法律(昭和二十七年法律第百三号)に基づき、平和条約第十一条による極東国際軍事裁判所及びその他の連合国戦争犯罪法廷が刑を科した者について、その刑の執行が巣鴨刑務所において行われるとともに、当該刑を科せられた者に対する赦免、刑の軽減及び仮出所が行われていた事実はあるが、その刑は、我が国の国内法に基づいて言い渡された刑ではない。

一の3から5までについて
 お尋ねの「名誉」及び「回復」の内容が必ずしも明らかではなく、一概にお答えすることは困難である。

 お尋ねの重光葵氏は、平和条約発効以前である昭和二十五年三月七日、連合国最高司令官総司令部によって恩典として設けられた仮出所制度により、同年十一月二十一日に仮出所した。この仮出所制度については、日本において服役するすべての戦争犯罪人を対象として、拘置所におけるすべての規則を忠実に遵守しつつ一定の期間以上服役した戦争犯罪人に付与されていたものである。

 また、お尋ねの賀屋興宜氏は、平和条約第十一条による刑の執行及び赦免等に関する法律により、昭和三十年九月十七日、仮出所し、昭和三十三年四月七日、刑の軽減の処分を受けた。この法律に基づく仮出所制度については、平和条約第十一条による極東国際軍事裁判所及びその他の連合国戦争犯罪法廷が科した刑の執行を受けている者を対象として、刑務所の規則を遵守しつつ一定の期間以上服役した者に実施していたものであり、また、この法律に基づく刑の軽減については、刑の執行からの解放を意味するものである。

 お尋ねの死刑判決を受け絞首刑となった七名、終身禁錮刑及び有期禁錮刑とされ服役中に死亡した五名並びに判決前に病没した二名については、右のいずれの制度の手続もとられていない。

 そして、重光葵氏及び賀屋興宣氏については、昭和二十七年四月二十八日、平和条約の発効及び公職に関する就職禁止、退職等に関する勅令等の廃止に関する法律(昭和二十七年法律第九十四号)の施行により、選挙権、被選挙権などの公民権が回復され、その後、衆議院議員に当選し、国務大臣に任命されたものである。また、重光葵氏については、昭和三十二年一月二十六日の死去に際し、外交の重要問題の解決に当たった等の功績に対して、勲一等旭日桐花大綬章が死亡叙勲として授与されたものである。

一の6について
 靖国神社の行う合祀は、宗教法人である靖国神社の宗教上の事項であるから、政府としては、合祀についていかなる問題があるのかお答えする立場にない。
 靖国神社に内閣総理大臣が参拝することにいかなる問題があるかとのお尋ねについては、法的な観点から申し上げれば、かねて述べているとおり、内閣総理大臣の地位にある者であっても、私人の立場で靖国神社に参拝することは憲法との関係で問題を生じることはないと考える。また、内閣総理大臣の靖国神社への公式参拝(内閣総理大臣が公的な資格で行う靖国神社への参拝をいう。)についても、国民や遺族の多くが、靖国神社を我が国における戦没者追悼の中心的施設であるとし、靖国神社において国を代表する立場にある者が追悼を行うことを望んでいるという事情を踏まえて、専ら戦没者の追悼という宗教とは関係のない目的で行うものであり、かつ、その際、追悼を目的とする参拝であることを公にするとともに、神道儀式によることなく追悼行為としてふさわしい方式によって追悼の意を表することによって、宗教上の目的によるものでないことが外観上も明らかである場合には、憲法第二十条第三項の禁じる国の宗教的活動に当たることはないと考える。
と、政府答弁は分かりにくいというか、回りくどい言い方をしているのだけれど、GHQの恩典或いは、サンフランシスコ平和条約第11条に基づいて、減免・釈放されたとしている。そして、1957年迄には、サンフランシスコ平和条約に基づいて関係11ヶ国の同意を取り付けた上で、A、B、C級戦犯は赦免・釈放されているから、今はもう、"ナントカ級戦犯"なるものは国際法上も存在しないとみていいだろうと思われる。

だから、もしも、中国が、国連に日本の総理がA級戦犯を祭る靖国神社を参拝することを批判する議案を出すことは、それ自体遡及法というか、法的に終わった問題について再び断罪しようというもので、ちょっと無理がある。尤も、中国政府はサンフランシスコ平和条約が違法かつ無効だという立場に立っているから、彼らの中では、議案を出すことについては何ら問題ないと言い張ることは可能だとは思うけれど、サンフランシスコ平和条約に調印した49ヶ国にとってはそうじゃない。

だから、国連参加国が、国際法を尊重する限り、こんな無茶苦茶な議案は通過しないだろうと思われるし、この議案の提出そのものが、A、B、C級戦犯が国際法上どう扱われているのかをより明確にする。

その意味では、中国がいうところの靖国参拝非難決議案なるものは、現状の世界秩序への挑戦でもあり、主要国家に踏み絵を迫るものでもある。万が一、この決議が出され、それが可決するのであれば、国連は戦勝国だけのものであることが明らかになる。だから、靖国参拝非難決議を出すというのは結構リスクが高いといえるのだけれど、果たして中国がどう出てくるか。

また、日本にとっても、過去を本当の意味で見つめ直す機会でもあるし、これまで日本政府が、靖国について海外に理解して貰う努力を怠ってきたことのツケを払わされる機会にもなると思われる。やはり2014年は我慢の年になりそうだ。




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この記事へのコメント

  • スコッチ

    いつも朝の出勤時に拝読させていただき、自らの考えを深める目覚ましトレーニングにさせていただいています。
     今回の「靖国参拝と東京裁判」、丁寧な資料でたいへん重宝します。
     一方で、ここ最近ずっと考えていて、自分でも答えが出ないのですが、池田信夫さんが安倍首相の靖国参拝以降、ご自身のブログやツイッターで展開されている靖国参拝批判が、ちょうど東京裁判史観を見直すことへの否定へと拡大を見せ、私はこの一連の論調に同意できないのですが、自分ではうまく反論が文章化できず、苦しんでおります。
    http://ikedanobuo.livedoor.biz/
     この方とは慰安婦問題や特定秘密保護法では意見が一致するのですが、アベノミクスや靖国参拝ではまったく相容れません。
     今回も結局のところ、靖国参拝に意義を見出すかナンセンスと取るか、東京裁判を(敗戦後体制の変革までは行わないとしても)不公正なものだったと認識してそこから歴史の根っこを考えるべきかそんなものは無視して今だけを考えるべきとするか・・・という、極めて感覚的なところですっかり食い違っております。
     これを感覚ではなく論理として、それは違う
    2015年08月10日 15:21
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    > 中国が、国連に日本の総理がA級戦犯を祭る靖国神社
    > を参拝することを批判する議案を出す

    これは願ってもないこと.
    国連の場において東京裁判の理不尽をゆっくりと説明でき,
    中共政府に何の関係もないこと, つまり, 中共政府には
    何の正統性もないことが説明できる.

    もっとも, 日本がやる気満々のところを示すと
    米国が支那に止めさせるだろう.
    なぜなら, 東京裁判の議論でもっとも被害を被るのは米国.

    いずれにせよ, 支那がやることを「嫌だな」と考えると
    思う壷にはまる. 支那はヤクザであると思えば良い.
    ヤクザは人の嫌がることをやるが, 正面から反撃されると逃げる.
    2015年08月10日 15:21
  • sdi

    近代社会の法治国家において、その根本の理念として
    ・罪刑法定主義
    ・罪罰相殺
    があると考えています。
    特に後者の観点から見ると、東京裁判で裁かれて、刑が執行された人々に対していまだにぶつぶついうのは、法治国家の理念に合致してないんじゃないか、と思いますね。
    2015年08月10日 15:21

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