ソチ五輪と森発言と葛西紀明

 
ソチ・オリンピックもいよいよ閉幕ですね。今日はこの話題です。日本選手団は頑張りました…

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1.森元総理の問題発言

2月23日、日本選手団の橋本聖子団長らが、五輪公園内のジャパンハウスで総括会見を行った。会見の中で、橋本団長は「1人1人の選手が金メダルに向かってくれて、全体で8個まで増やすことができた」と選手の奮闘を称えたけれど、海外で開催された冬季五輪では過去最多となる8個のメダルを獲得したことからみても素直に健闘したといえると思う。

注目を集めていた、フィギュアスケート女子の浅田真央選手は、フリーで自己最多得点となる素晴らしい演技をしたものの、SPでの失敗が響き、メダルを逃してしまったけれど、記録より記憶に残る演技だったのではないかと思う。

麻生副総理は、21日の閣議後の会見で、浅田真央選手の話題に触れ、「スポーツ選手は超一流になる条件が違う。才能、努力、それをやれる環境があれば、一流くらいまではいく。しかし、超一流にはプラスあと3つの要素がいる。ライバルに恵まれる、いいコーチに恵まれる。最後は運だな。運は超一流についてくる。浅田選手に関していえば今のが答えだ」と話している。

メディアでは、浅田真央選手について、コメントしている人は多々いるけれど、中でも、森元総理の発言が物議を醸している。時事通信の記事から、次に引用する。
浅田選手は「大事なとき転ぶ」=森元首相 時事通信 2月20日(木)19時48分

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長を務める森喜朗元首相は20日、福岡市内で講演し、ソチ冬季五輪のフィギュアスケート女子の浅田真央選手がショートプログラムで16位と出遅れたことについて「見事にひっくり返ってしまった。あの子、大事なときは必ず転ぶ」と述べた。配慮を欠く発言として批判も出そうだ。
 森氏は、浅田選手が団体戦に出場したことに関しても「負けると分かっている団体戦に出して恥をかかせることはなかった」と語った。
森元総理については、かつて「神の国」発言で、マスコミの"切り貼りMAD編集"で叩かれた過去があるから、一応、全文も確認してみたのだけれど、案の定、やはり、前後の文脈をみると、印象は変わる。森元総理は、浅田真央選手が転倒したことについては、浅田選手のトリプルアクセルに期待して団体戦に出場させたことに問題があったのではないか、というニュアンスでの発言であり、どちらかといえば、スケート協会を批判する文脈でのもの。

これについては、J-CASTニュースが、全文が明らかになって、森発言を擁護する声も出てきたことを紹介している。

ただ、筆者は、「問題発言」云々よりも、森元総理が、この講演の中でより重要な指摘をしていることに注目したい。浅田真央選手について触れた部分を含めて、次に抜粋引用する。

森喜朗 元総理・東京五輪組織委員会会長の発言 書き起し

『第262回「毎日・世論フォーラム」』より

森喜朗です。少し寝不足ですが私も。一昨昨日ですか、ソチから帰ってきたばかりでもあります。ソチというのは、とても良いとこです。しかし、足の回りが非常に悪いんですね。ロシアっていう国は、サービス精神がよくない国なんですね。もともと長い間社会主義国ですから。来たけりゃ来いよという感じです。モスクワから飛行機で2時間もちょっとすればソチへ行くんですけど、モスクワに着いても、モスクワからの接続便がないんですね。サンクトペテルブルク行ったり、あるいはいくつかの都市を通って行ったり、なかなかその日のうちに着かないんですね。計画的にわざと時間を接続させてないんじゃないかなと。そこに皆で泊まれば、そちらでお金が落ちますから。そうしてんじゃないかなということを思うぐらい、連絡の便がとても悪いですね。悪いんです。まあ、うまく乗り合わせても、27時間ぐらいかかりますね。東京からソチに着くまで。

《中略》

今朝も真央ちゃんが最後ひっくり返った時は、4時だったと覚えておりますが。皆さんそれご覧になると、それまでずーっと真央ちゃんがまだ30番目で一番あとだったもんだから。ずーっと皆見てるわけでしょ、あれ。ショートプログラムだから、1回何分かな。3分半くらいかな。そんなもんだったと思いますけど、それ全部やって一番最後に真央ちゃん。なんとか頑張ってくれと思って皆見ておられたんだろうと思いますが、見事にひっくり返っちゃいましたね。あの子、大事なときには必ず転ぶんですよね。なんでなんだろうなと。

僕もソチ行って、開会式の翌日に団体戦がありましてね、あれはね、出なきゃよかったんですよ日本は。あれは色んな種目があって、それを団体戦で。特にペアでやるアイスダンスっていうんですかね。あれ日本にできる人はいないんですね。あのご兄弟は、アメリカに住んでおられるんだと思います確か。ハーフ。お母さんが日本人で、お父さんがアメリカ人なのかな。そのご兄弟がやっておられるから、まだオリンピックに出るだけの力量ではなかったんだということですが、日本にはいないもんですから、あの方を日本に帰化させて日本の選手団で出して、点数が全然とれなかった。

あともう皆ダメで、せめて浅田さんが出れば3回転半をすると、3回転半をする女性がいないというので、彼女が出て3回転半をすると、ひょっとすると3位になれるかもしれないという淡い気持ちでね。浅田さんを出したんですが。また見事にひっくり返っちゃいまして、結局、団体戦も惨敗を喫したという。

その傷が浅田さんに残ってたとしたら、ものすごくかわいそうな話なんですね。団体戦負けるとわかってる、団体戦に何も浅田さんを出して、恥かかせることなかったと思うんですよね。その、転んだということが心にやっぱ残ってますから、今度自分の本番のきのうの夜はですね、昨日というか今朝の明け方は、なんとしても転んじゃいかんという気持ちが強く出てたんだと思いますね。いい回転をされてましたけど、ちょっと勢いが強すぎたでしょうかね。ちょっと転んで手をついてしました。だからそういうふうにちょっと運が悪かったなと思って見ております。

総じて見てますとね...今日はオリンピックの話するつもりじゃなかったんですけど、司会者がたくみにオリンピックに誘導したもんですから。(会場ちょっと笑い)竹内さんという女性がボードで2位になりました。あれ見てたら完全優勝なんですよね。転んだんですね。もったいないことしました。ですが、彼女にしても、非常に大胆であっけらかんとしてますよね。あれ日本の中で規律と規制とかなんとかに囲まれた中でやってたという感じはなくて、あの子は自分で勝手にカナダかスイスかどっかに出かけて行って、向こうの人たちの中に入って練習して、あそこへ伸ばしたんですね。

だからそういう意味で、非常になんというか明るくやってますね。非常に自由奔放にやってるという感じで。本番の時にはそういうのは強いですね。スキーの連中見ましても、41歳の彼も、もう7回目だというし、負けて当たり前だという気持ちでやってますから、非常に自由にのびのびとしてて、日ごろの国内でやってる練習よりもいい記録を出せる。逆に新しく初めてになったやつはガチガチになっちゃっててですね、思ったほどの記録が出てこないということでしょう。それから男の子の15歳の子と18歳ですか、二人が銀と胴とりました。あれもスノーボードですか。なんかおもしろい、ああいうのは僕らの時代なかったですよ。サーカスみたいな。

あれも自分たちで勝手に、日本でやってても面白くないからアメリカでやってるんですね。アメリカとかカナダでやっているわけですね。そういうのがふぁっと出てきて、すっと優勝さらっていってしまう。日本の連盟にも登録してやったろうかなと思うくらいの名前も聞いたことないような若者が出てきて、さーっと世界と堂々と戦っていくなんていうのを見てると、どうも日本の各競技団体のやり方が本当に正しいのかどうか。もっと自由奔放にやらせたほうがいいのかなという感じもいたしますが。

《中略》

ロンドンオリンピックの時に、組織をやった人がジョン・コーツと言って、金メダルをとったかつての陸上の選手だったそうなんですが、彼は今IOCの組織なんとか委員長というのをやってました。マスコミの皆さんは、「や、ロンドンの組織委員長は金メダルを獲った陸上の選手をすぐそこのCEOに置いてやってると。日本はなんだと。古びた政治家持って来て」と、こうなるわけですけどね。よくよく向こうで調べてみたら、金メダル獲ったのは昔獲ったけど、そのあとは、会社の社長になっておられて、会社経営やっておられたんですね。だからゼネラルマネジャーができたんだろうと思います。

日本と違って欧米はもう、社長がふっと全然別の人がふっと来て、ふっと座って、ちょっとやったらすっとまた帰っていって、ま、請負みたいな社長が多いですよね。だからそういうことを受け入れる文化なんですね。欧米の場合は。日本で急にどっかそこに走ってた選手を連れてきて、社長にぽんと置けるかと言うと、どうなんでしょうかね。まあ、そこは日本のまた文化があるわけでしょうが、外国のものばっかが良く見えてくるんでしょうね。

《中略》

橋本聖子さんというオリンピックの選手、いま今度のオリンピックの団長やってます橋本さんに聞いたら、この試合が終わりましたら、ソチが終わったら、世界の有力なスケーター入賞者を全部連れて日本に来るんだそうです。東京の隣の埼玉で試合をやるそうですね。見せるそうですが、その切符はインターネットで売り出したわずか1時間で全部売り切れたそうです。それぐらい人気があるんですね。スポーツに対する。関心もとても高いということだと思います。ですからこの機会に、是非おおいにスポーツを盛んにするよう、皆さんにも色んな思索をお考えいただけたらいいかなと思っています。

毎日新聞も春の選抜の高校野球とか、花園のラグビーの大会ばっかりがスポーツじゃないんで。もっと、もっと色んなスポーツが沢山あるわけですから、大いに取り上げて頂いてですね。日本の選手、僕は体協(日本体育協会)の会長を長くやってましたから、よく言われるのは、無理もないんだろうけど、野球だとかサッカーだとかラグビーも多少は入るのかな。バスケットボールとか割と人気のあるスポーツしか、取材しないし、放送しないし、報道しない。

もっともっと沢山ですね、地味なスポーツがいっぱいあるんですね。そういうことを一生懸命やってる人たちのことも、報道してあげるように。「僕らのやってた競技が毎日新聞に出てたよと。毎日新聞あけたら、長刀やら弓道やら、そういうものまで全部出てたよ」とならなきゃだめだよ(会場笑い)どうせ読売も朝日も中身は同じですから。中身は同じ。要は何が我々の味方なのか、どの新聞が我々の味方なのかというふうにさせるほうが私は得策だというふうに思っているんで、是非、毎日新聞頑張ってください。余計なことばっかり言っちゃいけませんが、今日は毎日新聞の主催だから、大いに毎日新聞を激励しておきたいと思います。

《中略》

このオリンピックを勝ち取れた、前回は失敗しましたけども、勝ち取れたのはやっぱり安倍総理が率先をして外交を進めていった。約オリンピックIOCのブエノスアイレスのあの9月の総会まで安倍さんが回った国は25カ国ぐらいありましたね。別のそのことで外国にいくわけじゃないんですけど、えー二国間の重要な話しをしながら最後に食事をしたりお茶を飲んだ時にオリンピックの話をして協力を求める。そういうやりかたは安倍君自身が一生懸命やっていたということがやっぱり今回ニッポンが勝ち取れた最高のやっぱり私は、安倍さんの功績だろうなとこう思っているんです。

《中略》

マスコミというのは、そこのところだけ取るんですよ。前後の話は何にも書かないでね。俺が「神の国」だっつったって、別に神様だけ言ったわけじゃないだよ。仏様も、お釈迦様もキリスト様もみんな大事にしなきゃだめだよと言って、だけど、日本は神主さんが沢山いたから神様の国ですよねって言ったら、森総理は「神の国」といってと、もう袋叩きにあうです。ああいうこと書いた人みんな天罰が当たると私は思ってます。(会場笑い)私は逆に神様のお守りがあったからここまで来れたんだと思ってますが。
森元総理は流石、「座談の名手」と言われるだけあって、"ここだけの話"をさせると、絶妙に上手い。ただ、公の場となると、途端に「失言」だと叩かれてしまうのは、TPOに合わせて発言を上手くコントロールできないということなのだろう。「座談の名手」は「講演の名手」とは限らないというところか。

それはさておき、森元総理は、確かに浅田選手について「大事なときには必ず転ぶ」と発言している。けれど、その理由として、団体戦で勝ち目がないのを分かっていたのに、浅田選手のジャンプに期待し、結果として過剰な負担を負わせ、それが心の傷となってSPの失敗に繋がったのではないかと指摘し、「ちょっと運が悪かったな」と述べている。

麻生副総理は「運は超一流についてくる」と述べているけれど、森元総理の指摘が本当なのだとしたら、浅田選手を"超一流"に為し得なかった責の一端はスケート協会にあることになる。

また、森元総理は、スノーボードの例を出して、日本の各競技団体のやり方が本当に正しいのかどうかと疑問を呈し。もっと自由奔放にやらせたほうがいいのではないかと述べている。そして、日本のメディアが、野球やサッカーといった人気のあるスポーツしか取り上げないことについても苦言を呈している。




2.レジェンド葛西

こういう話を聞いてから、改めて、日本のオリンピック報道を振り返ってみると、マスコミの煽りと国民の期待に対して、それに見合うだけのバックアップをしていないのではないかという風に感じた。

長野五輪でジャンプ個人、団体で金メダルを取り、今も尚現役として活躍を続ける船木和喜選手は、テレビ番組で「オリンピックの前に過剰な期待をあおりすぎた。メディアに取り上げられるのは力にもなるが凶器になる。選手を連盟がちゃんと守れたかどうか」と述べ、日本のジャンプ台が長野以後の16年間、風対策をしてこなかった点を上げ、防風壁がほどこしてあるジャンプ台があれば「もっと本数が飛べるし、技術が磨ける」と指摘している。

それを考えると、そのような環境で、7度のオリンピック出場と、41歳にしてジャンプラージヒルで銀メダルを獲得した葛西紀明選手は、凄いの一言。30年近くも、世界の第一線で戦い続け、大舞台で結果を出すのだから、正に"レジェンド(伝説)"の名に相応しい。

葛西選手の7度に渡る五輪成績は次のとおり。
◆1992アルベールビル
NH…31位、LH…26位、団体…4位

◆1994リレハンメル
NH…5位、LH…14位、団体★銀メダル★

◆1998長野
NH…7位、LH…不出場、団体…不出場

◆2002ソルトレークシティー
NH…49位、LH…41位、団体…不出場

◆2006トリノ
NH…20位、LH…12位、団体…6位

◆2010バンクーバー
NH…17位、LH…8位、団体…5位

◆2014ソチ
NH…8位、LH…★銀メダル★、団体…★銅メダル★
筆者がこれをみて凄いと思うのは、長野五輪あたりから、度重なるルール変更が行われていく最中、葛西選手は2002年のソルトレークシティーから着実に順位を上げていったこと。ほんの僅かな変更でさえも、世界トップで争う選手にとっては成績に大きく影響するものなのに、それに対応し、更に成績を伸ばしている。そして41歳にしての銀メダル。凄いとしか言い様がない。

だけど、葛西選手のその栄光の裏には、苦渋の日々があった。スポルティーバのこの記事には、葛西選手の競技人生の凄さがまざまざと記されている。これほどの代償を支払わなければ栄光など掴めるものではないのだと思う程に。

葛西選手は、ラージヒル銀メダルを取った直後のインタビューで、目標が出来たのでまだやります、と現役続行を宣言していたけれど、彼が背負ってきたものを考えれば、至極当然なことなのかもしれないと思える。

41歳にしての銀メダルは、日本の中高年の人々に多いに勇気を与えたと思うし、日本の復活の為にも、全ての人が力を発揮できるようになれればいいと願っている。
「僕のジャンプ人生を振り返ってみれば、95%以上は負けているんです。でもその悔しさより、勝った時の嬉しさの方が数倍も数十倍も大きいんです。だからまたそれを味わいたくて続けているんです」
葛西紀明

この記事へのコメント

  • mayo5

    森元発言、何か問題ありますか。マスコミのお得意の手法じゃないですか。問題だと思う人が出てくること自体がカスゴミの土俵に乗ってしまってること反省すべきかと。
    2015年08月10日 15:21

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