ソチでの日露首脳会談とプーチン大統領の思惑

 
今日は、昨日と関連した前ふりから…

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1.日露首脳会談

2月8日未明、安倍総理は、政府専用機でロシアのソチを訪問。ソチ五輪の開会式に出席した。

ロシア政府によれば、開会式には、イタリアのレッタ首相、トルコのエルドアン首相、オランダのルッテ首相ら44ヶ国の首脳が出席。大会期間中に60カ国程度の元首・首相が訪問する見通しで、出席首脳数では2010年のカナダ・バンクーバー冬季五輪の約30を上回ったようだ。

一方、オバマ米大統領、フランスのオランド大統領、ドイツのメルケル首相、キャメロン英首相ら欧米主要国の首脳級が出席を見送った。背景には同性愛宣伝禁止法を制定したロシア政府への抗議があると見られている。

安倍総理は、開会式出席後、ソチ郊外にある大統領公邸で、プーチン大統領との日露首脳会談を行っている。安倍総理のプーチン大統領との会談は実に5回目。日本政府高官は、今回、昼食をとりながら長時間の会談がセットされたことについて、プーチン大統領が安倍総理との関係を重視している表れだと受け止めているそうで、日露関係はかつてなく良好だといっていいだろう。

今回のソチ五輪開会式に合わせた訪露は、2月7日が「北方領土の日」ということから、一度は断念していたのだけれど、欧米首脳が次々の欠席を表明する中、ロシア側が首脳会談を確約したことで、安倍総理は、逆に「恩を売るチャンス」とし、訪露を決断した。

だけど、「北方領土の日」を無視して、安易に訪露することは、国内の批判を招く恐れがあったことから、安倍総理は、この日に行われた北方領土返還要求全国大会に出席することで、それを回避しつつ、訪露するという手に出た。

これは外交的には、北方四島は日本に帰属する、というメッセージを送ることになるから、安倍総理は、プーチン大統領を牽制した上で訪露したことになる。ただ、返還要求全国大会では、「四島の帰属を確認し」というフレーズを使わなかったそうだから、同時に、裏では交渉の余地があるよ、という意味合いも含んでいる、中々絶妙な外交メッセージではないかと思う。

それに対して、ロシアは、1945年の「ヤルタ会談」などを引き合いに出し、第2次大戦の結果、ロシア領になったと主張している。安倍総理は、返還要求全国大会で「元島民が高齢となり、早急に領土問題の解決を図らなければならないことを肝に銘じ、交渉に粘り強く取り組む決意だ」と、解決を急ぐ意向を表明しているけれど、日露両者の隔たりは大きい。

この日露の認識のズレに突いてきているのが、中国。




2.露中首脳会談

これまで中国は北方領土については、日本領であるという立場でいたのだけれど、2010年の秋ごろ、中露両国の外交関係者による非公式協議の場で、中国側がロシア側に「ロシアの北方四島領有を認める用意がある」と提案したとされている。当時ロシアは「北方領土は日露間で協議する」と受け入れなかったのだけれど、中国は、北方領土をロシア領と認める代わりに、尖閣を中国領とする主張を支持する、一種のバーター取引を持ちかけたことになる。

おそらく、この種の働きかけは今もしているものと思われるし、中国の習近平主席は、ソチ五輪開会式前日の2月6日、ソチにて、プーチン大統領と会談している。会談の詳細は明らかにされていないけれど、こちらで人民日報が、そのさわりを伝えているけれど、これまでの関係を深めたいとか、経済協力を推進したいとか、当たり障りのない内容が多く、特に目を惹くようなものは見当たらない。

強いていえば、習近平主席が「私とプーチン大統領は、2015年に世界反ファシズム戦争ならびに中国人民抗日戦争勝利70周年記念行事を共同で開催することを決定した。双方が関連行事を共同で成功させ、歴史を銘記することで後世の人々に警告することを希望する」と指摘したことに対して、プーチン大統領が「欧州のナチス勢力によるソ連など欧州諸国への侵略、および日本軍国主義が中国などアジア被害国の人々に対して犯した重大な罪が忘れ去られてはならない。中国側と共に努力して、世界反ファシズム戦争ならびに中国人民抗日戦争勝利70周年記念行事を成功させたい」と答えたところくらい。

このプーチン大統領の「日本軍国主義が中国などアジア被害国の人々に対して犯した重大な罪が忘れ去られてはならない」と歴史認識について述べた部分については、ロシア政府からは正式なコメントはなく、必ずしも中国に同調した訳ではないと見られている。

プーチン大統領が、会談で、習近平主席にそのようなコメントをしたかどうかは分からないけれど、ほんの少しでもそれを匂わせる発言をしたならば、安倍総理を目の仇にする中国がほおっておく訳がない。だから、それに類する発言はあったと思うし、それを中国側が喜び勇んで報道することも計算のうちと思われる。

そして、そのプーチン大統領の計算の中には、習近平主席との会談で中国の面子を立ててやることは勿論のこと、その裏には、日本に対して、北方四島はロシア領だというメッセージを送っているように見える。

つまり、安倍総理は、表で、ソチ五輪開会式出席という友好アピールをしつつ、その裏で、北方領土返還要求全国大会に出席するという行動で、北方四島は日本領だとのメッセージをプーチン大統領に送り、プーチン大統領は、表で露中首脳会談後のコメントでは日本批判を抑えさせたその裏で、中国側の報道という形で、北方四島はロシア領だ、とメッセージを返した、という具合に、安倍総理とプーチン大統領は、互いに牽制し合ったのではないかと見る。



3.チップをライズしていくプーチン大統領

筆者は1月21日のエントリー「ソチ五輪と外交」のエントリーで、安倍総理とプーチン大統領は互いに外交的駆け引きを駆使していると述べたことがあるけれど、今回も同じように強かな外交的駆け引きを繰り広げているように見える。がっぷり四つの外交。

ただ、これはただの印象というか直観にしか過ぎないのだけれど、プーチン大統領は日本に対して、どんどんとチップをベットして、掛け金を釣り上げたいのではないかというが気がしている。

安倍総理は、プーチン大統領が重視する東シベリアや極東でのエネルギー開発など、経済面の協力を進めようとしているし、安全保障分野でも、昨年11月に初めて日露外務・防衛担当閣僚級協議(2プラス2)を開くなど、北方領土問題以外の分野では、驚くほど、日露間の関係が深まってきている。

つまり、プーチン大統領は、北方領土カードを持ったまま、場に全然だすことなく、経済カードやエネルギーカード、そして安全保障カードを切っては、チップを上乗せして、日本にベットするよう誘っている。肝心要のカードをギリギリまで温存して、それ以外のカードをバシバシ切って、パッケージ型の超大型案件として安倍総理と交渉しているのではないか。

何となれば、交渉を進めるうちに、何百兆規模の経済協力や通商条約、或いは日露安全保障条約などが決まっていって、北方領土問題が片付くころには、ロシアが準同盟国になるくらいの関係になってしまっているのではないかとさえ。

ロシアにとって、北方領土は対日本カードとしては、切り札に近いくらい大きなカード。プーチン大統領は、これを最大限に生かして、日本からがっつり利を得ようとしていると見る。

もちろん、これは筆者の直観にしか過ぎないし、その証拠もないけれど、もしもそうであれば、プーチン大統領は相当に強かかつ、大きな構想を描いていることになるし、まだまだ、北方領土を餌とした交渉はこれからも続いていくことが予想される。

ソチでの日露首脳会談でどこまで進展するか。安倍総理には頑張っていただきたい。




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