アジアは理の国を必要としている

 
今日はこの話題です。

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アメリカのロバート・ゲーツ元国防長官が、このほど出版した回顧録「Duty(任務)」が、話題を呼んでいる。なぜかというと、その中でゲーツ氏がオバマ政権を痛烈に批判しているから。

評論家の宮崎正弘氏が自身のメルマガで、そのさわりを紹介しているけれど、率直というか、言いたい放題というか、まぁ凄い。

曰く、「オバマは無能で数人の側近しか信用しないことで知られているが、側近でさえもウンザリしていた」とか、「大統領は自分の戦略を信じていないし、この戦争を他人事のようにとらえている。彼にとって、抜け出すことがすべてだった」とか。

ゲーツ氏の批判はそれだけに止まらない。

バイデン副大統領についても、軍のリーダーに対する不信が激しく、ことごとに妨害し、井戸に毒を入れるようなことをしたと述べている。更に酷いのは、バイデン氏について、「アメリカ40年来の外交問題の、すべてにおいて間違った見解を持っている」とまで言っていること。

アメリカ副大統領が、全てにおいて間違った見解を持っているなんて、流石に拙いのではないのかと思うのだけれど、バイデン副大統領のアジア外交を見ていると、それが嘘だともいえなさそうなのが笑えない。

昨年末の安倍総理の靖国参拝前の12月12日の夜、安倍総理は、日中韓を歴訪してきたバイデン副大統領から電話を受け、「韓国の朴槿恵大統領には『安倍氏は靖国神社に参拝しないと思う』と言っておいた。あなたが不参拝を表明すれば、朴氏は会談に応じるのではないか」と話したのだという。

安倍総理は驚いて、「私は第1次政権のときに靖国に参拝しなかったことを『痛恨の極み』だと言って、衆院選に勝った。参拝は国民との約束だと思っている。いずれかの段階で行くつもりだ」と参拝の意思を伝えたのだけれど、バイデン副大統領は「行くか行かないかは当然、首相の判断だ」と答えたという。

日本政府は、これで、アメリカは参拝を認めたと解釈したようなのだけれど、参拝後、在日アメリカ大使館が、例の失望声明を出した。

当時、失望声明をアメリカが出そうとしていることを事前に察知した外務省は、出さないように働きかけたそうなのだけれど、複数の日米外交筋によると、バイデン副大統領が声明発表に拘り、「ホワイトハウスの指示」として声明を出させたのだという。

日本政府筋は「米側は、日本は韓国とは戦争しておらず、韓国は本来、靖国問題とは関係ないことを分かっていない。また、日本で靖国が持つ意味をあまりに軽視している。…韓国のことは米国よりわれわれの方が分かっている。朴槿恵大統領がこだわっているのは第一に慰安婦問題であり、靖国に行かなければ関係が改善されるというものではない」と不満を口にしている。

オバマ政権が東アジアの安定云々を口にしながら、日本と韓国が戦争していない事実を知らないなどとはちょっと信じられないのだけれど、もしも本当だとしたら、不勉強もいいところ。

ただ、去年、ケリー国務長官が、ブッシュ共和党政権の元高官と、アジア問題で協議した際、ケリー長官が「どうして日本はアジアで孤立しているのか」と問われ、元高官が「それは中国と韓国だけのことで、日本の安倍晋三政権は、他のアジア諸国から歓迎されている」と答えると、吃驚していたというエピソードを考えると、不安になってくる。

韓国の朴大統領へ安倍総理が靖国参拝しないと思うと言ってみたり、参拝後、失望声明を出させるといった、バイデン副大統領の行動に関する限り、率直にいって、あまりにも軽すぎるという印象を禁じ得ない。

もしそれが、東アジアの歴史に関する無知ゆえのことであれば、しっかりとしたサポートと説明をするしかないだろう。

ただ、それでも、アメリカ国務省はほんの少しは反省が入ったようで、例の失望声明について「在日大使館がdisappointedを『失望』と訳したのは表現が強すぎた。せめて『落胆』か『残念』とすべきだった」と零している。また、アメリカ政府高官も、声明には米国の世界戦略として全く意味がなかったとしているようだ。

だけど、失望声明が日本に与えた影響は決して小さくない。あれ以来、日本国民のアメリカを見る目は醒めてしまっている。



昨年末のエントリー「アメリカ政府の失望したに失望した」で述べたけれど、やはりオバマ大統領のアメリカは、「理」より「利」を優先するようになったように見える。

一方、日本の行動原理を漢字一字で表すならば、「和」になるのではないかと思うのだけれど、ただ、その「和」が安倍政権によって、少し「理」に近づいているように見えなくもない。

昨今、靖国にしても、慰安婦問題にしても、中国や韓国の反日キャンペーンに対して、安倍政権は、きっちり反論する行動に出ている。

竹島にしても、安倍総理は、1月30日の参院本会議の各党代表質問で、「国際司法裁判所(ICJ)への単独提訴も含め、検討・準備している。種々の情勢を総合的に判断して適切に対応する」と述べている。

このように、なぁなぁで済ますことなく、きっちりと筋を通していこうという姿勢は、これまでの日本政府には見られなかったもの。これらの行動は、「和」というより「理」と評されるべきもの。

まぁ、振り返ってみれば、安倍総理は一昨年の就任以来、特に外交演説等で、法の支配の重要性を何度も強調している。法の支配を尊重するという態度は、「理」に従うということ。だから安倍政権によって、日本外交が「和」から「理」にシフトしようとしているとしても、不思議ではない。

筆者は2008年9月に、国家の性格について考えるシリーズエントリーで、国家の性格を「理」「利」「情」「和」の4つに大別したとき、それぞれの組み合わせでどのような外交関係になるかを考察したことがある。次にそれらから少し引用する。
①理の国vs和の国
 理の国は理念と合理を全面に押し立てて交渉に臨む。和の国はその要求に対して、どこまで譲歩すればいいか、あるいは、理の国の主張そのものに自ら掲げる理に反していないか、合理の理に矛盾していないかという部分を探り、突っ込みをいれつつ妥協できるポイントを探すことになる。無論どちらの言葉も真実を映すツールだから、言葉による交渉は成立する。


②理の国vs利の国
理の国には理念の理と利の理(合理の理)があるけれど、利の国には利しかない。理の国にとっては、理念と利をともに満たす結果が欲しいのだけれど、利の国は、理念を受け入れる素地に乏しくて、理の国の説く、理念そのものすら自らの利に叶うかどうかみてる。

よって交渉は互いの共通プラットフォームである利の部分で主に行われることになる。この場合の交渉結果は、利の国がちらつかせる利益という誘惑に、理の国がどこまで耐えられるかによる。その誘惑の利が莫大であればあるほど、理の国が自らの理念とする理を打ち捨てて、利の理(合理の理)を選ぶ可能性は高くなる。

この場合、理の国の言葉は真実を映すけれど、利の国の言葉は戦略兵器だから、言葉のみの交渉成立は難しく、利を伴った強制力をどう発揮するか、させるかという点がその交渉の成否を分けることになる。


③理の国vs情の国
情の国にとっては、自分が満足するかどうかだけが基準になるから、理の国がいくら、理念の理を説いても、利の理で誘導しても、合理の理で説得しようとしても受け付けてくれるとは限らない。

基本的にこの二国間の関係では、共通プラットフォームは存在しない。だから、理の国からみれば自分の理や利に沿うように、情の国をある意味適当になだめつつ、かれらの情を満足させてやる形を取りながら、自分は実を取ってゆくという形になる。

この場合でも、情が満足している分には、言葉による交渉は成立するけれど、一旦情の国が臍を曲げれると、途端に過去の交渉は無効だと騒ぎだすから、そのときの罰則規定なり、条項を盛り込んでおいて、速やかに対処できる仕組みが必要となる。


④和の国vs利の国
和の国と利の国が交渉する場合は、利の国がその利をちらつかせ、時には押してくるのを、和の国がそれを受け入れた上で、和を創り出すところの均衡点を見つける形が基本になる。利の国からみたら最初から受け入れると分かっているからどんどん要求できるし、拒絶したらその場で一歩引いて妥結するも良し、そのような拒絶の態度は和に反するのではないか、と殊更に攻め立てて恫喝するも良し。

利の国ははっきりと言葉を戦略兵器として使っていて、時と場合によって自由に駆使する。利の国からみたら、和の国は理の国と違って絶対基準を自身で持たない。その分、理の国と比べてずっとやり易い。

尤も和の国だって反撃方法がないわけじゃない。たとえば、理の国を相手にするときのように、相手の利の矛盾をつくやり方とか。以前、中国に対して、日本が知的財産権の処遇を求めたことがあったのだけど、そのとき、中国は漢字の使用料を真っ先に求めて来た。日本は、平然とその条件を呑む代わりに 日本由来の漢字・国字について、使用料を日本が求めると返し、話は無かった事に為ったという有名な逸話がある。


⑤和の国vs情の国
和の国と情の国が交渉する場合は、情の国の気分・要求をどこまで和の国が受け入れるかで成否が異なる。基本的に情の国はその時、自分の気が済むかという基準だから、理も利もなく、感情だけ。

和の国は、理も利も度外視して、情の国の要求を丸のみするだけで和の均衡点ができあがるから、譲れる範囲で譲ることになりがちだし、場合によっては形だけで譲って、自国の利益を計ることもできる。ただそうしたことが明らかになった場合には、情の国は更に憤慨し和の国に情のレベルでの是正を求めることもある。不毛なサイクルが繰り返される可能性すらある。


⑥利の国vs情の国
利の国と情の国での交渉は、互いに言いたいことを言い合うことになりがちになる。利の国はその利を武器として押してくるし、情の国はその情を満足するように要求する。互いに交渉における共通のプラットフォームがない上に、言葉は互いに戦略兵器としてしか考えていないから、その場その場で都合の良いように言うし、聞くほうも都合よく解釈する。

だから、理の国と情の国の間での交渉結果は互いの国力差に大きく依存する。ひらたくいうということを聞かないと酷い目に遭うぞという恫喝めいた交渉になることもある。ただ、こうした交渉のやり方を理の国や和の国相手にしてしまうと、言葉を介した交渉が出来ない上に信頼もおけない国だとして相手にしてもらえなくなる。

ここで、理の国をアメリカ、利の国を中国、情の国を韓国、そして、和の国を日本に置き換えてみると、現実の外交と実によく一致しているように思える。

これまでアメリカは日本に対しては①の外交を、中国に対しては②の外交を、韓国に対しては③の外交をしてきたように思う。

だけど、アメリカが理の国から利の国へのシフトしていくとすると、利の国や情の国相手の外交を成立させるには、約束したことを守らせる"強制力"がバックになくちゃいけない。

普通は、法律がその"強制力"になるのだけれど、それが"強制力"になっているのは、警察力、平たく言えば、軍事力がそれを裏打ちしているから。最終的には腕力がものをいう。

だけど、オバマ大統領は、アメリカは世界の警察官ではないと宣言した。アメリカは世界最強の警察力を放棄しようとしている。

アメリカはそのような状態で、東アジアの利の国と情の国、そして和の国との間で揉め事を起こして欲しくないという。もちろん、揉め事が起こらないのが一番なのだけれど、東アジアの利の国、情の国は、法の支配を尊重しない。中国は、防空識別圏設定などで明らかなようにマイルールをごり押しし、韓国は、戦時徴用などで遡求法を適用している。とても法の支配を尊重しているとは思えない。

軍事力の裏付けがない強制力は、法の支配を尊重しない相手には、有効に働かない。

だから、オバマ政権のアメリカでは、東アジアを安定させることは難しいだろうと思う。東アジアは、軍事力の裏付けを持った理の国を必要としている。日本がそれに、なれるのかどうかはまだ分からないけれど、そうした国が現れない限り、東アジアの不安定化は続くと思う。




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この記事へのコメント

  • 白なまず

    馬英九の祖籍は湖南省つまり楚人、蒋介石は浙江省(越人)、習近平の父習仲勲は陝西省(漢人)であるが、習近平は上海閥系?と言われている。蜀を打つために魏と呉が連携しても事が進めば、
    結局分裂するのが支那の性。上海辺に馬英九の足場を築き台湾より上海に居る様になれば、台湾に居る取り巻き支那人もこぞって上海へ住みたがるだろう。返って台湾の中国国民党が少なくなれば、台湾は大昔の化外の地になり、台湾は日本の支援で独立国になる可能性が生まれると思います。いずれにしても彼らの行動をコントロールできないのでナスがママですが、だからこの機会をチャンスにする為には逆手に取り台湾を浄化したほうが良いと思います。バイデンはアイルランド系移民の子孫であり、ローマ・カトリック信徒。バチカンは靖国参拝に問題は無いと言っているにも関わらず、バイデンは靖国参拝を問題視するのであれば、彼の素性が、成りすましのイルミナティーフリーメイソンで結局反日ユダヤの傀儡と吐露しているようなもの。話を聞く必要なし。
    2015年08月10日 15:21
  • ななし

    アメリカだろうが中国だろうが韓国だろうが、自国の利益しか考えてません。自国の利益のためなら、平然と嘘もつくし恫喝もする。一言で言えば、ヤクザです。

    軍隊も諜報機関も持っている国が、慰安婦問題や靖国問題等々調べられないと思うのでしょうか? 最初から事実を知った上で嘘や言いがかりをつけて、日本に貢がせる戦略でしかありません。
    2015年08月10日 15:21
  • opera

    まず、実質的な同盟関係にあるインドやオーストラリアとの関係強化は当然ですが、イギリスやロシアとの軍事的関係強化が考えられます。この二国はちょっと面白い状況にあって、イギリスの現首相は有名なパンダハガーですが、軍は以前から日本に秋波を送ってきていて、最近F35用のミサイルの共同開発があっという間に決まっています(イギリスはF35用のパイロット養成シミュレータも共同開発したかったらしいのですが、日本はアメリカに遠慮して断ったそうです)。また、ロシアでは(誰が書かせているのか知りませんがw)、最近頻繁に「ロシアは将来的に日米側に立つべき」とか「ロシアのアジアでの盟友は中国ではなく日本」といった論説が報道されるようになっています。日本としては素直に乗れない話かもしれませんが、北方領土・平和条約問題や経済協力に先んじた軍事的関係強化もアリかもしれません。
     また、少し前に李登輝元総統が「日本も台湾関係法の制定を」と言っていましたが(一方、馬政権には中共から相当な圧力があるのか、時々中共よりの政策を出すものの、支持率は既に10%台に落ち込んでいるようですね)、いきなり日本版台湾関係法は無理だとし
    2015年08月10日 15:21
  • sdi

    記事中に引用されてるやりとりが実際にあったとしたら、頭が痛いというか両首脳の間に入って相互の意思疎通に誤解が起きないようにするべき外務省の連中は何をしていたんだ、ということにもなりますよ。安倍首相側の靖国参拝に対する意思が伝わってないし、バイデンというかホワイトハウスのアジア外交の方針を日本側は読み違えてる(そんなものがあったとしてですが)。それが同様なのはバイデン副大統領側もですがね。「安倍首相は参拝を控えるだろう」という前提で中韓両国を歴訪して「説得」していたら、安倍首相が靖国に参拝にしてしまったというのがアメリカから見た構図ということになりますかね。
    ケリー氏のバイデン副大統領評はあたってるのかもしれませんが、何の慰めにもなりません。バイデン副大統領は任期満了まで副大統領です。法的にはアメリカ合衆国上院議長であり合衆国大統領のスペア、慣習としてアメリカ政府のNo.2と看做される地位は本人が辞任でもしないかぎり剥奪されることはありません。最近、特にクリントン政権以降、副大統領のホワイトハウスでの権限と役割が大きくなり「上院議長」より「副大統領」としての職責の比重が大きくなったことを
    2015年08月10日 15:21
  • 泣き虫ウンモ

    理と利と情と和の分析は、面白いですね。
    各国をこれにもとずいて分析すると、もの凄い量になるかもしれません。
    歴史、政党、経済、地政、民族構成、宗教と元を探せば変化もしますし、そこに目に見えない計画が関わると面倒ですね。
    ただ、傾向性は歴史を通じて理解できると思います。
    2015年08月10日 15:21
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    一字で日本を表すのは無理だと思う.
    本来の意味は良く分からないが, 「理」と書くと
    「理屈」を連想するので好きではない.
    理屈ばかりこねると言えば平和・護憲の連中だし.
    また, 「和」も一面過ぎる. 日本人は実際には
    相手に合わせるばかりを考えてきたわけではないと思う.
    二文字の「道理」あたりが一番良いと思う.
    現在の律令のような日本国憲法は道理に合わない所
    ばかりだから明治憲法を土台とした新憲法を
    十年ほどかけて考えていくべきだろう.
    その間, 憲法による判断は停止しておくべきだ.
    2015年08月10日 15:21

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