日本政府によるアメリカへのプルトニウム返却について

 
今日はこの話題です。

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3月24日、日本政府は、研究用として提供を受けていた高濃縮ウランと分離プルトニウムをアメリカに返還することで合意し、アメリカとの共同声明を発表した。

共同声明はこちらで公開されているのだけれど、核テロの阻止の為の削減だとしている。

声明で「2009年4月5日にチェコ共和国プラハのフラチャニ広場で行われたオバマ大統領の演説を想起…」とあるように、オバマ大統領は核兵器に転用できる核物質量の「最少化」を訴え、初の核安保サミットを主宰した2010年頃から日本に核物質の返還を求めていた。

返還するのは、茨城県東海村の高速炉臨界実験装置(FCA)で使う核燃料用プルトニウムで、原子力委員会によると、2012年末現在で331キロ(うち核分裂性は293キロ)が保管されていて、イギリス産のプルトニウムも一部含まれているという。

今回の返還で、日本から核燃料が全くなくなるかといえば、もちろんそんなことはない。今現在、日本国内の再処理施設、燃料加工施設、原子炉施設などに約9トン、イギリスとフランスに再処理を委託して両国に貯蔵されている約35トン、計44トンのプルトニウムを保有している。

なぜ、そんなにもっているかというと、これまで日本政府は、原発からの使用済み核燃料を「再処理」してプルトニウムを抽出、再び原発で燃料として使用する「核燃料サイクル」をエネルギー政策の柱として採用してきたから。

アメリカは戦後、日本を「反共の防波堤」とするために、アイゼンハワー大統領(当時)が原子力の平和利用としての原発奨励を行い、1955年に研究協定の形で「日米原子力協定(原子力の非軍事的利用に関する協力のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定)」を締結。68年の包括協定を経て、88年に現行の改定協定を発効している。

現在、IAEA(国際原子力機関)とNPT(核不拡散条約)の枠組みの中で、核兵器に転用可能な大量のプルトニウムや濃縮ウランを保有しているのは、核兵器を保有している国連の常任理事国以外では日本だけなのだけれど、なぜ保有出来るのかというと、この「日米原子力協定」を根拠にしているから。

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だけど、この「日米原子力協定」では、当然のことながら、核物質の扱いについて、細かく決められている。第8条では、「平和的目的に限つて行い、軍事転用してはならないこと」が定められ、第6条では、ウラン235の濃縮度まで規定されている。次に引用する。
第6条
この協定に基づいて移転され又はこの協定に基づいて移転された設備において使用されたウランは、同位元素ウラン235の濃縮度が20パーセント未満である範囲で濃縮することができるものとし、また、両当事国政府が合意する場合には、同位元素ウラン235の濃縮度が20パーセント以上になるように濃縮することができる。

第8条
1 この協定の下での協力は、平和的目的に限つて行う。
2 この協定に基づいて移転された資材、核物質、設備及び構成部分並びにこれらの資材、核物質、設備若しくは構成部分において使用され又はその使用を通じて生産された核物質は、いかなる核爆発装置のためにも、いかなる核爆発装置の研究又は開発のためにも、また、いかなる軍事的目的のためにも使用してはならない。
現在、核兵器に使用される核燃料は、プルトニウムの場合、プルトニウム239の濃度が94%以上、ウランではウラン235の濃縮度が90%以上とされているのだけれど、IAEAの規定では、濃縮率20%以下のウランを低濃縮ウラン、20%以上のものは高濃縮ウランとされ、高濃縮ウランは直接核兵器の材料に使えるとしている。

一見、20%と90%では大分差があるのではないかと思うのだけれど、濃縮度3.5%のウランを90%にするのと濃縮度20%のウランを90%にするのとでは、その手間は全然違ってくる。まず、濃縮度3.5%のウランから濃縮度90%のウラン1kgをつくるためには、26kgのウランを必要とするけれど、濃縮度20%のウランだと、4.5kgで済む。

一般に、20%濃縮ウランが250kgあれば、核兵器1発を製造できるとされているのだけれど、3.5%濃縮ウランから作ろうとすると、その6倍近い1.4トンものウランを必要とする。

当然、遠心分離にかけて再濃縮するための設備も時間も全然違う。トン単位のウランを一生懸命濃縮するよりは数百キロ単位のウランから濃縮するのとではどちらが楽かなんて言うまでもない。一般に20%の濃縮ウランからなら、1週間余りで90%に濃縮できると言われている。

だから、現在は、20%の濃縮ウランであっても、このレベル以上の濃縮ウランは兵器転用の可能性があるとして、監視されることになる。

当初、返還については、日本政府内でも「高速炉の研究に不可欠だ」として慎重な意見があったのだけれど、余りに要請を拒み続ければ、アメリカとの同盟関係に影響する懸念があるとして返還を決断したと伝えられている。

先日、安倍総理は、オランダ・ハーグで開かれていた核セキュリティサミットで「利用目的のないプルトニウムはつくらず、保持しない」と述べたけれど、その後の記者会見で、外国記者から、プルトニウムを大量に国内に保有している理由を問われた。

安倍総理は、それに対して、「全量についてIAEA(国際原子力機関)の保障措置のもと、すべて平和的活動にあるとの結論を得ている。更に、日本独自の自発的な措置として、プルトニウムの管理状況について、国際的な指針よりも詳細な情報を公開している。わが国は、核物質の最小化にもコミットしている」と躱したけれど、大量に核物質を持っているだけで、その意図を詮索されてしまう。

勿論、技術大国日本が核物質を大量に持っている、という事実が、いつでも兵器転用できるという疑心暗鬼を生み、それを持って抑止力の一端にするという側面もあるのだけれど、核テロの危険が高まった今では、持っているだけで危険要因と見做されるようになりつつある。

だから、"疑心暗鬼"抑止力を維持したいとするならば、日本がプルトニウムの利用目的と実績をきちんと世界に示す必要があり、そのためには、高速増殖炉(4S炉)の研究推進や「核燃料サイクル」を確立することが大切。

シェールガスなど、直ぐ使えるエネルギー資源を自前で持っている国なら、原発を無くしても特に困らないだろうけれど、日本のようにエネルギーを輸入に頼る国では、原発の重要性は他とは比較にならない。

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