今日は、この話題です…。

3月26日、ウクライナは家庭用ガス料金を5月1日から平均50%値上げする。
これは、モスクワに拠点を置くロシアの非政府系通信社であるインタファクス通信が、ウクライナ国営ナフトガス幹部の話として伝えたもの。
それによると、2018年までに「経済的に適切な」水準に料金を引き上げる計画があり、暖房料金も7月1日から40%値上げされる見通しだという。
いきなり、4割とか5割もアップするなんて、普通では考えられないのだけれど、ウクライナ政府は消費者向け天然ガスに多額の補助金を出していて、予算を圧迫しているという事情を抱えている。
3月27日、IMFは、ウクライナに対して2年間で140億~180億ドル(約1兆4300億-1兆8400億円)を融資すると発表したのだけれど、その支援の見返りに、ガス代の値上げを要求していた。ウクライナ政府は、このIMFの要求を全て飲むと約束していたから、是も非もない。
IMFは、今回の融資によって、国際社会による追加支援が可能となり、今後2年間の支援総額は270億ドルになるとし、IMFのマーレイ報道官は「仮にプログラムが持続不可能と見なされれば、それを進めることはない。すなわち、われわれが今回の融資計画を進めるということは、現時点で債務再編は見込んでいないということだ」と述べている。
このIMFの融資で、ウクライナは楽になったのかというと、世の中そんなに甘くない。
ウクライナの外貨準備高は、今年初めのウクライナ国立銀行(中央銀行)の発表によると、178億ドルあるとなっている。だけど、昨今のウクライナ情勢を受けて、ウクライナ通貨「グリブナ」が急落。その下支えに介入したことで、その額を大きく減らしている。国際金融協会(IIF)によると、今年1月だけでウクライナ中央銀行はフリブナの下支えに17億ドル費やしたようだ。
更に、ウクライナの銀行の預金者が自分の預金をドルで引き出し始めていて、準備高は日に日に減少しているとみられ、今では120億ドルくらいしか外貨準備がないのではないかという観測もある。ウクライナは今の状況が落ち着かない限り、準備金の目減りは続いていくものと思われる。
ウクライナは、来年償還期限の来るIMF等向けの対外債務82億ドルを抱え、ロシア系銀行Sberbank、Gazprombank、VEB、VTBの4行に280億ドルの債務がある。これだけの債務に減る一方の外貨準備高があるとなれば、2年で180億ドルの支援をうけたとしても、決して楽観できるものじゃない。
しかも、先日、ロシアがクリミヤ編入に伴い、セバストポリ海軍基地の貸与を受ける見返りに天然ガス代金を割り引くウクライナとの合意を破棄し、計160億ドル(約1兆6360億円)の返済をウクライナに求める方針を決めている。この請求額はちょうど、IMFの支援の額に相当する。ウクライナがロシアに真面目に返済すると、IMFの支援額がそっくりそのままロシアに渡ることになる。
ウクライナにはロシアとEUを結ぶパイプラインが横断しており、もしも、ロシアとの関係が更に悪化すれば、2009年のガス紛争のときのように、ガス供給停止なんて事態が起こらないとも限らない。EUにとっては大きな懸念材料。
そんな中、26日に、アメリカのオバマ大統領は、ブリュッセルのEU本部でファンロンパイEU大統領、バローゾ欧州委員長と会談し、ウクライナ情勢などをめぐり協議している。
会談後、オバマ大統領は、ウクライナ危機により欧州連合(EU)が天然ガスの調達先の多様化に向け、米国からの天然ガス輸入や域内のエネルギー源開発を検討する必要性が浮き彫りになったとし、アメリカとEUで交渉中の自由貿易協定(FTA)が締結されれば、輸出ライセンスの付与が容易になるとの見解を表明。近くエネルギー担当者の会合を開き、問題について話し合うと述べている。
筆者は3月10日のエントリー「ウクライナを巡る欧米とロシアの駆け引きとプーチン大統領の勝利を予測した市場
」で、ロシアからの天然ガス供給が止められたとしても、シェールガスがあるから大丈夫だ、とアメリカがEUに裏で囁いているのではないか、と述べたけれど、オバマ大統領は、裏どころか表の正門から堂々をシェールガスを外交カードに使ってきた。
何とも露骨というか、分かり易いというか、あまりスマートな外交とは思えないのだけれど、それだけウクライナ問題では追いつめられていると見ることできる。
そうした動きの中、日本は、アメリカとロシアの間で絶妙なバランスの立ち位置を保っている。
3月27日、国連は総会で、ロシアによるクリミア併合は無効だとする決議案を提出し賛成多数で採択している。日本は、この決議案の40ヶ国以上の共同提案国のひとつで、西側諸国の一員として対ロシア制裁に参加しているのだけれど、オランダ・ハーグでのG7首脳会議の席上で、「ロシアが経済的な制裁に、無責任な報復をするかもしれない」と、ロシアへの経済制裁を牽制するかのような発言もしている。日本は、G7の中で尤もロシアに近い位置にいるといっていい。
ハドソン研究所首席研究員の日高義樹氏によると、プーチン大統領がアメリカに対する核戦略を大きく変え、核兵器削減交渉を断絶するのではないかと怯えていたオバマ大統領は、ハーグの「核安全保障サミット」にプーチン大統領の代わりにラブロフ外相が出席することが分かってほっとした様子を見せるようになったという。
だとすると、オバマ大統領にとって、ロシアとのパイプが切れてしまうことだけは避けたい筈。そうなると、プーチン大統領と太いパイプを持つ、安倍総理の存在がクローズアップされてくる。
そんな折、4月に来日するオバマ大統領の予定が、1泊から当初の2泊に戻る可能性が浮上しているという。日本は、オバマ大統領を国賓として迎える方向で調整していて、予定が1泊になったあとも、水面下で延長を求めていたようだ。
オバマ大統領にとっても、ウクライナ問題について日本の支持は欲しいだろうし、日米韓3ヶ国首脳会談も実現できたことも考慮しての日程延長なのかもしれない。
ただ、そぅしたものとは別に、日本政府は、各国への根回しというか、水面下での下交渉を相当やっているのではないかと思われる。あれほどロシア寄りの発言をしてもG7から批判されていないし、経済制裁に参加してもロシアから問題視されていない。先日、韓国がロシアへの非難声明を出した途端に、ロシアから韓国との経済協力会議をキャンセルされるなど、報復されたことをみると、安倍総理は、プーチン大統領の良好な関係以外だけでなく、水面下での根回しをした上で、あのような発言をしているのではないかと思う。
表向きは、G7とロシアとの対立ばかり取沙汰されているけれど、真に重要なのは表に出てこない部分ではないかと見る。日本の水面下のネゴ力が試されている。
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