昨日のエントリーの続きです。

「ほえほえくま」が台湾でニュースになっている。「ほえほえくま」とは日本のネットユーザーが作った「主張する熊」のキャラ。
台湾のサービス貿易協定に反対する学生らは、デモで「退回服貿(サービス貿易撤回)」と叫んでいるのだけれど、その発音であるトゥエイホェイ・フーマオが日本人には「ほえほえくま」と聞こえたらしく、それがこのキャラ誕生の由来となったらしい。
ちょっとネットを検索しても、台湾国旗をマントのように纏った熊や、日本と台湾国旗を持った熊の着ぐるみを着た少女のイラストなど沢山の画像がアップされている。
台湾メディアの自由新報(反国民党系メディア)やアップルデーリー(中立系メディア)などは「日本のネットユーザーが萌でサービス貿易反対、ほえほえくま参上!」などとし、「多くのほえほえくまの図案を製作して台湾の公民運動を支持」と報じている。
今回の学生による台湾立法院占拠事件は、新北市永和区の花屋の主人が、抗議する民衆に"太陽花(向日葵)"を贈ったことに因み、「太陽花学運」と呼ばれているそうだけれど、今から遡ること24年前の1990年には、「野百合学運」という学生運動があった。
第二次大戦後、中国国民党は、国共内戦の勃発を受け、総動員体制を敷くため、1948年4月18日に「動員戡乱時期臨時条款」と制定した。当初、臨時条款の効力は2年間とされていたのだけれど、国民党が敗北し、台湾に逃れた後も、この臨時条款は、5回の修正を重ねながら、1991年に廃止されるまで、実に43年もの間、台湾で施行され続けた。
この臨時条款によって、台湾総統には、国防・治安などの権限が極度に集中し、また、中央の国会選挙も凍結され、中国大陸で選出された議員が半世紀近くも居座り続けることになった。彼らは「万年議員」と呼ばれ、中央国会も「万年国会」と呼ばれていた。
これらを背景に、1990年に起こったのが「野百合学運」。
1990年3月16日、万年国会に抗議する9人の台湾大学の学生が、当時デモや集会の禁止地域に含まれていた中正紀念堂で座り込みを始めた。そして、この抗議行動が報道されると、翌日から支援者が数百人規模で増え続け、最終的には6000人近い大学生が参加したとされる。
18日には、学生たちは正式に民主化に関する「四大要求」を提出。憲法改正や国是会議の招集、民主改革のタイムテーブルの提示などを求めた。
当時の台湾総統であった李登輝氏は、学生たちが寒さに震えながら座り込みやハンストをしていることを知ると、自ら中正紀念堂に赴いて学生たちと対話することを望んだそうなのだけれど、警備上の都合により、夜間に車両で中正紀念堂の周囲を走り、学生たちの様子を観察するに留めざるをえなかったという。
だけど、20日、台湾総統府は、学生たちの要望を受け入れ、国是会議を開催することなどを決定。総統府秘書長を現場に派遣し、学生代表と直接会って対話することを伝え、翌21日には、学生代表53名を総督府に招いている。
そして、李登輝総統は、学生達の意見に耳を傾け、「次期総統が選ばれる前に国是会議を開催する。出席者については、社会の各層、各党派から公平な人選を行う」、「国是会議では、臨時条款の撤廃を議論する」、「国会の全面改革を行う」、「政治経済改革の日程表を作成する」などの内容を盛り込む「共同認識」を発表し、その中に、「李総統が上記の要求を満たせなかった場合、原則を堅持し闘争を続ける」との内容を盛り込むことさえ認めている。
その際、李登輝総統は学生達に「皆さんの要求はよくわかりましたから、中正紀念堂に集まった学生たちを早く学校に戻らせ、授業を受けるようにしなさい。外は寒いから早く家に帰って食事をしなさい」と言葉をかけている。
李登輝総統との面会後、学生代表団は協議を行ない解散を決定。翌22日早朝に撤退を開始した。
一方、李登輝総統は学生との約束通り、民主化へのタイムテーブルを発表。万年国会を解散させるとともに、6月には国是会議を開いて民主化への意見を求め、翌年には臨時条款を解除。台湾の民主化が大きく進むこととなった。
野百合は、台湾の固有種であること、草の根根性が民衆の命を表すこと、生命力が強いことと、更に、ちょうど3月の時期に花咲くことなどから当時の学生運動の象徴として選ばれたという。
これらを考えると、24年前の出来事とはいえ、台湾の学生達には、こうした過去の成功体験が息づいているのではないかとも思われる。
その李登輝氏は、3月21日、メディアの質問に対し「学生たちには学生たちの意見がある。彼らだって国家のためを思って行動している。馬総統は彼らの話を聞いて、早く学校や家に帰す努力をするべきだ」とのコメントを残している。
今回の事態を受け、馬英九総統は、3月23日に「両岸サービス貿易協議」についての国際記者会見を開き、談話を発表している。その内容はこちらにあるのだけれど、最初に「政府は学生ならびに台湾経済に関心を寄せている」や「若者が国是に関心を寄せてこそ、国家に前途はある」などと謳っている。
もしかしたら、この辺りの文言は、李登輝氏のコメントを受けてのものかもしれない。馬英九総統にとって、それだけ、今回の抗議行動が相当堪えているということなのだろう。
ただ、談話の本論は、後半の「台湾はなぜ中国大陸とサービス貿易協議を締結しなければならないのか?」、」「サービス貿易についての誤解」「サービス貿易協議は条項ごとに審議し、条項ごとに表決していく」の部分であることは間違いないところ。けれども、こうした説明は、今回の事態を招く前に丁寧にやっておくべきことだと思う。
馬英九総統は談話の中で、「台湾は中国大陸からの労働者、移民あるいは出版業の来台運営を開放してはいない。現実の上でも、台湾は中国大陸資本による来台投資を開放し、5年近くになったが、台湾は事前の審査および事後の監督いずれもきわめて厳格であり、違法な中国大陸資本は直ちに処罰され、資本が締め出されることになっている」と学生達の懸念は誤解だとし、「学生たちはサービス貿易協議の条項ごとの審議および表決を希望しており、一昨日、与党はこれについて一致した支持を決議した」とその主張の一部を受け入れる発言をしている。
この馬英九総統の談話を受けて、民進党の蘇貞昌主席は、政府に抗議する学生らと早い時期に対話を行った李登輝元総統との違いを強調し、「馬英九総統は、はなはだしく劣る」と批判。台南市の頼清徳市長も「馬英九総統は、李登輝元総統が過去に野百合学運で学生と向き合った際の態度を学ぶべきだ」と批判していて、両者の違いがクローズアップされている。
それに何より、デモの学生達は、サービス貿易協議の撤回を要求して引き下がらず、政府が24日未明に、行政院に突入にした数千人のデモ隊を放水銃と警棒を使って強制排除している。まだまだ事態収拾には程遠い。
台湾の次期総統選挙は2年後の2016年なのだけれど、今年は秋の11月29日に主要7地域の主張を決める「七合一選挙」が実施される。もし、馬政権がこの「七合一選挙」で負けると、支持率が10%台の馬英九総統では、総統選挙に勝てないとばかりに、国民党内で「馬英九降ろし」が発生する可能性もあるとの指摘もある。
まぁ、今回の事態で、馬英九総統がいきなり辞任に追い込まれるなんて可能性は低いと思われるけれど、こうした民衆の抗議行動によって、台湾のトップが引きずり降ろされるなんてことが実現したとしたら、それは、中国共産党は嫌がるだろうと思う。なぜなら民衆の声や行動によって党のトップが辞職に追い込まれるモデルケースになるから。
しかも、欧米などのように、遠く離れた国の出来事ならいざ知らず、中国共産党自身が中国の一部だと宣言している台湾での出来事だから、それらを中国人民が知らされれば知らされる程、なぜ台湾で出来たことが、大陸ではできないのだ、と怒りの矛先が共産党政府に向かうことになる。
今回の台湾の抗議活動がどういう決着になるのか分からないけれど、台湾で起こっている事実そのものが、中国に対する圧力になっている可能性にはちょっと着目してもいいかもしれない。
この記事へのコメント
almanos
白なまず
【馬鹿;馬英九+鹿の角】
http://www.stormmediagroup.com/opencms/DomesticPicUnpublish/201403/image-5-03-20-2014.jpeg?__scale=h:467,w:820,cx:0,cy:77,ch:467,cw:820
【『しかまろくん』使用に関するお知らせ】
http://narashikanko.or.jp/shikamaro/
【つのがある人】
http://saigon-ronin.blogspot.jp/2012/06/blog-post_10.html