米露対立は経済制裁フェーズに突入した

 
昨日のエントリーの続きです。

画像
 ブログランキングに参加しています。応援クリックお願いします。

3月16日、ウクライナのクリミア自治共和国で行われたロシア編入の是非を問う住民投票は、開票率50%以上の段階で、その95.5%がロシア編入を支持したと報じられている。クリミヤのミハイル・マリシェフ選挙管理委員長によると、投票率は83%。

投票開始の午前8時前から投票所には行列ができ、投票所からはウクライナ国旗は消え、中にはロシア国旗が掲げられたところもあったようだ。

投票前は、ロシア編入に反対する住民が投票をボイコットするとも言われていたのだけれど、蓋をあけてみれば、非常に高い投票率。83%が投票してその内95.5%がロシア編入に賛成したということは少なく見積もっても、クリミア住民の8割はロシア編入に賛成したことになる。尤も、クリミアでは3月10日からは、ウクライナ側のテレビ放送が遮断され、ロシア側の主張や暫定政権を「ファシスト」と決めつける政治宣伝が流されていたようだ。

ロシアの国家会議(下院)のメリニコフ副議長は「明日午前にクリミアに関する声明を公表する」と18日にもクリミア住民投票結果を支持する声明を公表すると発言している。

これに対し、アメリカは直ちに声明を発表。「ウクライナの独立、主権と領土保全を支持し、クリミア住民投票がウクライナ憲法に反するもので、アメリカはそれを受け入れない。住民投票は暴力的脅威、ロシアの不法軍事介入の脅威の下で行われ、国際社会は住民投票の結果を認めない」と非難し、ロシアがアメリカ、EU、国連およびほかの国際機関の要求を無視し、クリミアへの軍事介入をエスカレートさせ、ウクライナ東部国境で軍事演習の実施を宣言したのは安定を破壊する危険な行為であるとした。

そして、「軍事介入と国際法違反により、ロシアが払う代償を大きいものにする。アメリカとその同盟国のこの措置は、ロシア自身の安定破壊行為の直接的な結果である」と追加制裁の実施を警告。

そして、17日に、ロシアのロゴージン副首相やプーチン大統領の補佐官ら7人と、ウクライナの大統領職を追われたヤヌコービッチ氏やクリミア自治共和国のアクショノフ首相ら4人の合わせて11人を対象に、アメリカ国内の資産の凍結やアメリカへの入国禁止の措置に踏み切った。ホワイトハウスは、「ロシア政府への強いメッセージを送るもので、ロシアが軍の部隊を基地に撤収させ、ウクライナの主権と領土の保全を尊重しないなら、アメリカはさらなる代償を負わせる用意がある」とコメントしている。

また、EUのファンロンパイ大統領とバローゾ委員長も共同で声明を発表。「住民投票はウクライナの憲法や国際法に違反し違法であり、その結果は認められない」と強く非難した上で、「この危機の打開策はウクライナの領土の一体性と主権、独立を尊重するという原則に基づくべきであり、ウクライナとロシアの政府による直接対話といった外交的な手段によってのみ可能だ」と、ロシアに対し、ウクライナの暫定政権との対話に応じるよう求めている。

そして、EUもロシアとクリミアの当局者21人(ロシアの政界関係者10人、軍当局者3人、クリミア関係者8人)に対し、渡航禁止や資産凍結などの制裁を発動することで合意。更に20日から行われるEU首脳会議で、制裁対象を拡大する可能性も示唆したのだけれど、ギリシャやキプロス、イタリア、スペイン、ポルトガルなど数ヶ国が早急な対応に慎重姿勢を示していて、制裁に加盟28ヶ国の全会一致を必要とするEUがどこまで踏み切れるかははっきりしない。



このようにアメリカやEUはロシアとの対決姿勢を強めているのだけれど、市場は逆の反応を示した。17日の米国株式市場は急上昇。クリミアの住民投票が大きな混乱なく終了し、ウクライナからの独立宣言も市場の想定の範囲内だったことことから、過度にリスクを避ける動きが後退し、買いが先行したと見られている。

また、ニューヨーク外為市場でも、円が下落。市場では、アメリカとEUが発表した経済制裁措置は、それほど厳しい措置ではないと受け止められているという見方が強く、円が売られる展開になっているという。

更に、アメリカ連邦準備理事会(FRB)が13日に外国中銀が保有する米国債が前週比で1045億3500万ドルの減少と、過去最大の3倍以上の下落幅を記録したと公表。市場はロシア中銀が売っ払ったのではないかという噂でもちきり。売却額は日本円換算で10兆円にも及び、ロシアが保有する米国債の80%に相当するという。

実際、ロシアのクリミアへの軍事介入後、ロシア通貨ルーブルは対ドルで大幅に下落。ロシア中銀は3月3日に1.5%の緊急利上げを実施し、政策金利を7.0%に変更。更に、ロシアからの資本流出(ルーブル売り・ドル買い)を抑えるため、130-160億ドルのドル売り介入を実施していると伝えられているところからみて、ロシア中銀がドル売り介入用に米国債を売った可能性は有り得る。ロシアだって無傷というわけではない。

ただ、これまでの米ロの動きを見ている限り、オバマ大統領よりプーチン大統領のほうが一枚上手で、プーチン大統領が2手先、3手先を読んで手を打っているように見える。

この決断力の差というか行動力の差というのは、或いは、同盟国の支援や支持を取り付けてからでないと動けないアメリカと、ほぼ単独で判断・行動できるロシアとの差なのかもしれないけれど、アメリカが後手に回っていることは否めない。

しかも市場の反応は、必ずしもアメリカ政府の思惑と一致しておらず、逆行しているところさえあることをみても、オバマ政権に対して市場は結構醒めた目で見ている可能性もある。

クリミアを巡る米露の対立は経済制裁フェーズに突入した。




画像

この記事へのコメント

  • sdi

    「経済的相互確証破壊(Mutual Assured Economic Destruction:MAED)は抑止力となるか」という命題と関連しますね。
    以前に、北朝鮮を巡る米中関係について「米中が衝突すると、双方ともに経済へのダメージが最も大きく、これが強力な抑止力になる」という分析がありました。今回はロシア対EUプラスアメリカとプレイヤーは変わっていますが、状況はより緊迫しているでしょう。
    WW1の勃発直前も似たよう議論があった、ということを私たちは忘れてはいけないと思います。
    2015年08月10日 15:21
  • 泣き虫ウンモ

    民族主義的なものを体験して、どの国も真の国家になると仮定すれば単なる通過点でしかないですし、その次の時点で露国に屈服させられたという思いが残るようなものであれば、遺恨をのこすでしょうね。
    日本の維新のように、うまい具合に作用してればいいのですが、そうではないのかな。
    ただ、日本とは単純比較はできないですよね。露人が多く住んでいる地域ですからね。
    欧に近づいて経済的苦境を味わい、また欧に近づこうというのですから、露に対する不信感もあるでしょうが、それだけではない感じがするかな。
    民族主義勢力に関しては、露の工作活動ではという憶測もありますが、火のないところに油を注いでも激しくは燃えませんからね。
    どうなんでしょうね?
    2015年08月10日 15:21

この記事へのトラックバック