台湾化するクリミアと経済競争
今日はこの話題です。
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3月16日、ウクライナ南部のクリミア自治共和国で、ロシア編入の是非を問う住民投票が実施された。
クリミアの選挙管理委員会によると、投票は16日午後8時(現地時間)まで行われ、その日の夜には最初の暫定結果を発表する予定だという。投票は「ロシアに編入するか」と「ウクライナにとどまり、より強力な自治権を定めた1992年の独自憲法に戻るか」の二者択一。
住民投票の有権者数はクリミア自治共和国と、ロシアの黒海艦隊の基地がある特別市セバストポリ合わせて約180万人で、有効投票の過半数で決定するのだけれど、クリミアの有権者の約6割はロシア系住民であることから、賛成多数で編入が承認されることは確実と見られている。
ロシア側も「投票結果を尊重する」との立場を示しており、ロシア国内世論もクリミアの編入支持が多数を占めているようだ。ロシアの独立系世論調査機関レバダ・センターの調査によると、クリミア半島のロシア編入を支持する意見が全体の79%を占めている。
クリミアはロシア編入に向けて、一通りの手続きを踏んで、事を進めている。
クリミア自治共和国議会は住民投票に先立つ3月11日、ウクライナからの独立を宣言。出席議員81人中78人の圧倒的賛成多数で可決されている。また、半島南端のセバストポリ市議会もこれに同調、共同で「クリミアは独立主権国家として、住民投票の結果を受けてロシアに編入を提案する」と明記した「クリミア共和国独立宣言」を発表している。
更には、クリミア自治共和国は、2カ月以内にロシアの通貨ルーブルへの移行を実現する方針を打ち出している。もう完全にロシア入りの準備を進めている。
だけど、もちろん、当のウクライナ政府と西側諸国はクリミアの独立は認めない。ウクライナ最高会議は、クリミア側に独立の再考を促す決議を採択。G7も声明を発表し、クリミアの住民投票は法的効力のないものとし、投票の結果を認めないとしている。
また、15日には、国連の安保理がクリミアの住民投票に反対し、無効だとするアメリカ提出の決議案を採決したのだけれど、ロシアが常任理事国の持つ拒否権を行使、否決されている。
ということで、アメリカはアメリカで国連を通じて、クリミアの独立を阻止しようと動いたのだけれど、住民投票は実施された。
アメリカのオバマ大統領は、12日、ウクライナのヤツェニュク首相と会談し、「我々は、ロシアの軍人がクリミアを占拠している状態で行われる住民投票は完全に拒否する」とロシアを批判した上で、プーチン大統領が外交的な解決を目指さなければ、ロシアに対して金融・経済制裁を科す用意があると述べていたから、経済制裁を発動するものと思われる。また、ヨーロッパ諸国もクリミアの住民投票の強行に反発していて、17日にもロシア政府関係者の資産凍結を柱とした対ロ制裁を行なう構え。
だけど、当のクリミア住民は、ロシア編入を望み、クリミア議会もそれに向けて進んでいる。それを阻止するためには、ロシアにクリミヤの編入を拒絶(諦めて)して貰うか、実力でクリミアのロシア編入を阻止するしかない。
今の所、ロシアは前者の立場を拒絶していて、後者についても、クリミア主要部は既に"自警団"という名のロシア軍が抑えている。従ってどちらのケースも実現する見込みは薄い。
アメリカはポーランドにF16を12機と要員約300人を送ったり、黒海にイージス艦「トラクストン」を派遣して、ルーマニアやブルガリアなど同盟国との軍事演習に参加させて、ロシアに対して軍事的圧力をかけているのだけど、それに対抗する形でロシアは、大陸間弾道ミサイルRS-12M「トーポリ」の発射実験を行い、成功させている。
「トーポリ」は移動式ミサイルで10500kmあり、TEL(弾道ミサイル輸送起立発射機)車両に搭載されて運用されるのだけれど、今回の発射実験は、ロシア南部アストラハン州から発射し、カザフスタンの演習場に設置された標的に命中させたもので、その発射弾道を反対側に引っくり返すと、ポーランドやルーマニア、そして黒海への入り口となるボスポラス海峡をすっぽりと射程に収めるもの。
これを、黒海の反対側に発射したということは、西側諸国に対して、敵対する意思はないけれど、さりとて引き下がる積りもないというロシアの意思表示のように思える。
また、ウクライナのアレクサンドル・トゥルチノフ大統領代行によると、ウクライナの東側の国境周辺にはロシアの戦車部隊が集まっているという。プーチン大統領は、まるで囲碁のように西側の"石"に合わせて自分の"石"を置いて牽制している。
国家の独立要件には「領域」、「国民」、「主権」の3つが必要とよく言われるけれど、クリミアは、クリミア半島という「領域」と住民投票が行えるだけの「国民」がいる。あとは「主権」だけ。ここでいう「主権」とは、その領域を排他的に支配する権力、すなわち統治能力のことを指す。クリミアは独立宣言する前からウクライナの自治共和国であり、議会も持っていた。だから、基本的な統治機構は元々持っているとみていいだろう。あとはそれを"排他的に支配する力"すなわち軍事力が担保されれば、クリミア独立の3要件が成立する。
そして、今や、クリミアには"自警団"という名のロシア軍が入って重要拠点を抑えている。既に実行支配されている状態に近いといっていい。
クリミアがこのまま住民投票でロシアへの編入が認められ、編入宣言をロシアと共に行ったとすると、クリミアは、ロシアが軍事供与・あるいはバックアップする「クリミヤ共和国軍」なるものが編成されると思われるし、それ以後の西側各国によるクリミアへの軍事介入は、ロシア側からみれば、ロシアへの軍事侵攻ということになる。だから、西側諸国がロシアと戦争をする覚悟でも決めない限り、クリミアのロシア編入はほとんど避けられない。
ウクライナのトゥルチノフ大統領代行は、ウクライナ南東部で軍事作戦を実施すれば、東側のロシアとの国境を脅威に晒すことになるので、ウクライナ暫定政権にその意図はないと述べている。軍事介入の線もないとなれば、あとはもう経済制裁くらいしか手はない。
だけど、ロシアに対する経済制裁は、特にEUにとっては、石油・ガスと引き換えの我慢比べになる。ロシア、EU双方がどこまでその我慢比べに耐えらえるのかは分からないけれど、長期化すれば、西側各国はクリミアを独立国とは認めないものの、事実上の国家扱い。例えるなら、今の台湾のような扱いになるのではないか。
ということで、今後のウクライナ情勢のポイントはクリミアを巡る経済競争にシフトしていくと見る。もしもクリミア半島の経済が、ロシアの援助などで発展していくようなことがあれば、クリミアの住民も満足してそのままロシアに留まろうとするだろうし、クリミア周辺の地域も、やはりロシアに付いたほうが得なのではないかと思い始める。クリミヤに続けとばかり独立・ロシア編入への動きが出てきてもおかしくない。
それを避けるためには、ウクライナがクリミヤ以上の経済発展を遂げて、クリミヤ住民にロシアに付いて損したと思わせないといけない。その意味では、クリミア半島を秀吉の小田原水攻めよろしく、完全に経済封鎖して、日干しにしてしまえば、あっと言う間にクリミアは音をあげて、ロシア編入を諦めると思う。だけど、もう既に、ロシア軍がクリミアに侵入して補給路を確立してしまっているであろう現状を考えると、その手も使えない。
台湾化したクリミヤが、キエフ以上の経済発展を遂げることが出来た時、プーチン大統領はオバマ大統領に勝利したとロシアの歴史書に記されるだろう。
この記事へのコメント
日比野
>台湾化という文字に違和感を感じたのですが、どこの国を選択すれば経済的に有利かで動いているところを表現したんですね。
個人的には、朝鮮化が正しいと思いますけど。
国家承認をしていないけれども、実質的に国家と同等の扱いをしている国という意味で、クリミアは台湾のような立場になるのではないかという意味で書きました。分かりにくい表現だったかもです。申し訳ないです。
>経済的に有利かで動いているところを…
クリミアの人のインタビューを聞いている限りでは、ロシアについたほうが経済的に有利だと考えていそうだということは感じています。そういった面もあるかとお思いますね。
opera
○ウクライナ:「新政権側が狙撃か」エストニア外相が指摘
http://mainichi.jp/select/news/20140306k0000e030261000c.html
wikiによると、ティモシェンコ元首相(親欧米派)ウクライナの新興財閥の一人。彼女は、1995年から1997年まで、ウクライナ統一エネルギーシステムの社長を務め、1996年には、ロシアからの天然ガスの主要な輸入業者になり「ガスの女王」と呼ばれた。現臨時政権の首相、ヤツェニュークは、ティモシェンコ元首相の側近だった人物。ティモシェンコはウォール街と直結した(ユダヤ系)グローバル金融資本の代理人。結局、NYの金融資本がウクライナを乗っ取ってユダヤ系国家にしようと企んでいるのではないか? という陰謀論がw
【参考】
◇元ソ連外交官が語る「ロシア-ユダヤ闘争史」の全貌
http://inri.client.jp/hexagon/floorA4F_ha/a4fhb500.html
蛇足ですが、ちょっと台湾について危険な兆候が指摘されていました(2/3)。
【討
泣き虫ウンモ
個人的には、朝鮮化が正しいと思いますけど。
どちらに付いたら有利かで動くのは、歴史的には朝鮮でしょうね。
台湾は、最近の話ですね。
そういう歴史はないかと思いますが?