今日はこの話題です。

中国の大気汚染が増々酷くなっている。
3月8日、中国環境保護省の呉暁青次官は記者会見で、2013年の全国74都市の大気1立方メートルあたりの微小粒子状物質(PM2.5)の平均濃度が72μgに達したことを明らかにした。
PM2.5が体内に入ったときの挙動については、以前「PM2.5が体内に入ったら」のエントリーで取り上げたことがあるけれど、中国の環境基準は、年平均で35μg/平方メートル、一日平均で75μg/平方メートルとなっている。今回発表された年間72μg/平方メートルは、基準の2倍を超えている値。
これでも、まだ中国の環境基準は甘いほうで、日本やアメリカはこの倍以上厳しい。例えば日本のPM2.5の環境基準は1年平均値が15μg/平方メートル以下かつ1日平均値が35μg/平方メートル以下。だから、中国の年間72ug/平方メートルというのは日本の基準の5倍近くに達する。
この日本のPM2.5の環境基準は、これまで、PM2.5の長期曝露との関連性を報告されているいくつかの疫学研究(コホート研究等)報告に基づいて、健康への影響が発生すると思われる濃度水準に設定されている。
例えば、アメリカ6都市における研究では、PM2.5の濃度が20μg/平方メートルを超えると死亡リスクが上昇すると報告されているし、日本では、三府県における15年間の調査結果によると27~31μg/平方メートルを超えると死亡リスクの上昇がみられると報告されているようだ。
これらからみると、日本やアメリカのPM2.5環境基準はまだ若干の余裕を残しているのに対して、中国のそれは、死亡リスクが上昇するとされるギリギリ或いはそれを少し超えたあたりに設定されているといえる。だけど、現実の中国はそのギリギリの基準を軽く超え、2倍にも達している。
今、中国では毎年、大気汚染で100万人以上が死亡し、8億人が呼吸困難に陥っているといわれているけれど、これほど酷い汚染ならば、当然だと思われる。
2月25日、中国を訪問しているスウェーデンのビルト外相は、「スモッグが数日で消え去ることを心から願っている。気分が悪く、有害だ。スウェーデンと中国は、空気の質や環境、世界規模の気候問題について緊密に連携しなければならない。スウェーデンは多くの経験を提供できる」と大使館のミニブログで述べたと伝えられている。汚染の少ない国から中国を訪れた人にとって、この中国の大気汚染の酷さは、とても耐え難いものなのではないかと思う。
そして、3月13日には、パナソニックが中国に赴任する従業員に「大気汚染手当」を支給する、と衝撃的な発表を行っている。会社として特別に手当を出さなければならない場所。それが中国。
ここにきて中国も流石に拙いと思ったのか、3月13日、李克強首相は全人代での政府活動報告の中で「貧困に宣戦を布告したように、汚染問題との戦いを断固として宣言する」とのべ、小型石炭ボイラー5万台の淘汰、石炭火力発電所の脱硫改造1500万キロワット相当、脱硝改造1億3000万キロワット相当、集塵改造1億8000万キロワット相当、排ガス基準を満たさない車や旧式車600万台を淘汰することなどを今年の対策として打ち出した。
李克強首相は「汚染物質の違法な排出などを政府は容赦しない」と述べ、環境破壊行為を行った企業などに対して、損害賠償や、操業停止など責任を追及する制度を導入し、対策を強化するとしている。
だけど、規制だけで収まるのなら、誰も苦労しない。脱硫改造にしても脱硝改造にしても、それ用の設備設置費用も要れば、それらを運用・メンテする費用も発生する。中国企業はそれら費用を自ら負担することで、販売価格に転嫁することは渋るだろうと思われる。そんなことをすれば、たちまちのうちに同業他社が対策しないで浮かせた費用で安売り攻勢でもかけて、マーケットをごっそり持って行ってしまう危険がある。
つまり、金のかかることをやった上に売上が落ちるわけで、下手に頑張っても、踏んだり蹴ったりになることだってあり得る。
たとえ、中国政府が、対策をしなくて安売りして設けている会社を根こそぎ摘発、逮捕したりして、彼らを一掃したとしても、後に残るのは、環境対策費用を転嫁した値上げ商品ばかり。これは同時に中国の経済成長を鈍化させる。
だけど、中国は2014年度の経済成長率は、2013年度と同じ7.5%程度を目標としている。一体どういう根拠でもって、こんな設定を建てているのか。何も対策しなくても自然にPM2.5がどこかに行ってくれるとでも思っているのか。
たとえ、習近平主席が北京の街頭で深呼吸したって、PM2.5が消えるわけじゃない。そういう類のパフォーマンスが通用するのは風評被害。肉体的・物理的な被害に対して効果は見込めない。なにより、既に肺癌患者の急増など、PM2.5が実際に人の命がかかわることが、多くの人に知られるようになっている。無意味な深呼吸パフォーマンスをやる暇があるのなら、もっと実効力のある政策を実施する必要がある。さもなくば北京は遠からず毒大気の海に沈むことになるだろう。
この記事へのコメント
泣き虫ウンモ
どこの世界に、大都市のど真ん中に公害を出し続けるような工場を建て、それを維持しようとするのでしょうか。
もう、話になりません。
この青写真を変えないかぎりは、日本は協力すべきではないと思いますね。
協力しても、大して変化ないですし、日本のせいにされる可能性もありますね。