昨日のエントリーのつづきです。

3月6日、EUは、ロシアに対し、段階的経済制裁を決定した。同日行われた、臨時EU首脳会議では「ロシアがウクライナの主権を侵害している」と強く非難。第一段階の制裁としてビザなし渡航の交渉中断。第二段階は、ロシア政府幹部らに対してのEU渡航禁止や資産凍結と6月に予定するEU・ロシア首脳会議の中止。そして第三段階は、武器や資源など、具体的な品目での禁輸措置等、広範囲な制裁。
EUはまず第一段階の制裁で、緊張緩和へ結論を見いだすとし、それでもロシアの軍事的行動の停止などの成果が得られなければ第二段階の制裁に移行するという。
元々、EU内部ではロシアに対する経済制裁について意見対立があった。
旧ソ連に圧迫されてきた歴史を持つポーランドやエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国や、1960年代の民主化運動「プラハの春」を軍事介入で鎮圧されたチェコはロシアへの強硬姿勢を主張していたのに対して、ロシアとの経済的結びつきが強いドイツ、フランス、イギリスなどは制裁には慎重。
「ロシアへの経済制裁と日本のアドバンテージ」のエントリーでも取り上げたけれど、ロシアとの貿易額の大きいドイツなどは特にそう。
ドイツでは、6000社がロシアビジネスに携わり、対ロシア輸出の内訳では、機械が全体の23%、自動車が22%を占める。ドイツの経済界は制裁を思いとどまるようにドイツ政府に働き掛けているという。
こうしたEU内部での意見対立から、ロシアに対する具体的な制裁にまで踏み込むのは難しいとみられていた。
ところが、ウクライナ南部クリミア自治共和国の議会が、ロシアへの編入案を全会一致で可決し、ロシアへの併合の是非を問う住民投票を決めるなど、ロシア編入への動きを受け、フランスのオランド仏統領が「領土の一体性に問題を生じさせるなら、多くの経済分野に関わる措置をとる」と強調するなどして、制裁に傾いたようだ。
これについてポーランドのトゥスク首相は、「激しい議論だったが、予想以上の結果だ」と評価している。
面白いのは、EUでロシアへの制裁に賛成しているロシアに近い国は、ロシアにエネルギー依存しているのに、制裁に賛成し、逆に遠い国はロシアへのエネルギー依存が低いのに、制裁には慎重であること。過去の歴史あるにせよ、「遠交近攻」の原則は、エネルギー安保に優先されうるという意味で興味深い。
こうしたEU及びアメリカの制裁の動きに対して、3月7日、ロシアは「極めて非建設的」として反発。ロシアのラブロフ外相はアメリカのケリー国務長官との電話協議で「制裁はブーメランのように米国に返ってくる」と報復を示唆し、既に、ロシア国営天然ガス企業ガスプロムのミレル最高経営責任者が、代金の支払いの遅れを理由にウクライナへのガス供給を中断する可能性があると警告している。大なり小なりガスをロシアに依存しているEUにとっては、ロシアからのガス供給停止は大きな痛手となる。
ただ、このガスの問題については、アメリカがシェールガスをEUに供給するのではないかという指摘もある。
へインズ・アンド・ボンヌ(Haynes and Boone LLP)社のアンドリュー・ヴァイスマン・シニアアドバイザーは、シェールガス供給可能量は、数年前のデータに基づいたアメリカ政府予測の数倍になるとし、政府が天然ガスを積極的に輸出していく方針を打ち出し、EUにシェールガスを供給していけば、ロシアのEUに対する影響力を低下させることができると述べている。
だから、穿った見方をすれば、たとえロシアからの天然ガス供給が止められたとしても、シェールガスがあるから大丈夫だ、とアメリカがEUに裏で囁いている可能性だって考えられなくはない。
だけどそれはガスの話であって、ドイツのように工業製品をロシアに多く輸出している国にとっては、ロシアが報復措置として輸入禁止なんかされたら堪らない。そうでなくてもドイツが経済的にEUを支える屋台骨。ドイツが沈んだら、EU全体が傾いてしまう。だからそう簡単な話ではないと見る。
「プーチンの幕引きとウクライナ経済圏」のエントリーで筆者は、ウクライナをEUに所属させたい新政府側とそれを食い止めたいプーチン大統領との争いだとし、クリミヤ自治共和国の重要拠点を抑えたロシア軍は、新政府を牽制しながらの撤退になるのではないかと述べたけれど、ウクライナのヤツェニュク首相は、クリミアは誰にも渡さないと強硬姿勢を取っているから、直ぐに撤退どうこうという話ではないだろうと思われる。
現在、クリミヤに侵攻しているロシア兵は階級章や記章を着けていないそうなのだけれど、プーチン大統領が、クリミアに展開している部隊は「地元の自警団で、ロシア軍は関与していない」と、ぬけぬけとシラを切っているところを見ると、ある程度の期間、少なくともウクライナの大統領選やクリミヤの住民投票が終わるまでは、進駐を続けるものと思われる。
ロイターに所属するジャーナリスト兼金融エコノミストのアナトール・カレツキー氏は、EUとアメリカの経済制裁を受けて、プーチン大統領がクリミアを手放すことなどある筈がないとした上で、既にプーチン大統領は、欧米がクリミア占領を認めない場合、戦争しか選択肢がないという「既成事実」を作り出したと指摘している。
確かに、クリミヤ議会がロシア編入を採択し、その是非を問う住民投票を行なうところまで決めている上に、クリミヤの主要拠点は"自警団"という名のロシア兵が抑えている。これを覆すのは、もう軍事行動を起こすしかない。
カレツキー氏は、最後には、欧米がロシアのクリミア併合を黙認し、ロシアの影響力をより増した形でのウクライナ新政府ができると予測。市場は既にプーチン大統領の勝利を織り込み始めていると述べている。
筆者は先の「プーチンの幕引きとウクライナ経済圏」のエントリーでも述べているけれど、EUに入るだのロシアに入るだのではなくて、ウクライナのままで経済成長をすることが、ウクライナ問題を解決する大きな鍵になると考えている。
ウクライナはちょうど、自由と繁栄の弧の中にある。自由と繁栄の弧の中でウクライナを経済発展させるという大きなプランを日本が提示することで解決への糸口を探る道もあると思う。
この記事へのコメント
泣き虫ウンモ
今回の騒動で、契約締結を解消する国が増えているそうです。
それで、穀物の輸出が滞っているようです。
ただ、中国の農業支援もあったようなので、弱い国から食べる国なので注意が必要だと思いますね↓
http://blog.goo.ne.jp/pineapplehank/e/375a068fa8b4987ebe5e408482332847
opera
白なまずさんの喩えが面白かったので、ちょっと便乗すると、今回は、石田三成=ケリー(背後にソロスがいる)、秀頼=オバマ、淀殿=バイデンあたりかも知れません。日本は、黒田如水(官兵衛)あたりだったらいいなぁ、と思っていますw
白なまず
ちび・むぎ・みみ・はな
それは理想だが, 既に現実は後戻り不可能.
第一に, 民主主義を破壊したのはウクライナ西部
の勢力であり, ウクライナ一体で経済成長
するためにはロシアと関係の深い地方の
援助を受けなければならない. しかし,
クーデターを起こした西部勢力を許せるだろうか.
現実的な方策は, クリミアの更に高度な自治
を認めた上でロシア併合を止めさせて,
ウクライナ海軍をクリミアから引き上げる
しかないのではないか.
もし, クリミアの「自警団」が現在の緊張関係を
耐え切るなら, EUとウクライナにできることは
これしかない. 安倍外交にとっても, それが
最悪の中での最上の解決だろう.