ロシアへの経済制裁と日本のアドバンテージ
更に、昨日のエントリーの続きです。
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3月3日、ロシアを除く主要国首脳(G7)は、ロシアによるウクライナへの軍事介入を非難する声明を発表した。声明では、ロシアがウクライナの主権と領土の統一を侵害しているのは明らかとし、ロシアの行動はG8やG7の価値観、原則に反すると指摘。6月にソチで開催予定のG8サミットについては、G8が意味ある議論を行える環境が取り戻されるまで、活動を一時停止するとした。
更にアメリカは、ロシアへの経済制裁の可能性についても匂わせている。
3月2日、ケリー国務長官が、NBC放送の番組「ミート・ザ・プレス」に出演し、アメリカは制裁を検討していると言明。ロシアが軍事侵略から「後戻り」しなければ「最終的には資産凍結やビザ発給停止、貿易の途絶もあり得る」と、ロシアに対する経済制裁の可能性についても言及した。
これに対して、ロシアも黙っていない。ロシアのセルゲイ・グラジエフ大統領補佐官は、アメリカが、ロシア企業・個人の米国口座を凍結した場合の対応について「制裁が発動された場合は、米銀がロシアの機関に行った融資は返済できなくなる。他の通貨に乗り換え、独自の決済制度を創設する必要が生じる。…東や南には貿易・経済面で非常に良好な関係を維持している国がある。われわれは、米国への金融依存をゼロに減らし、制裁から大きな利益を得る道を探す」とし、アメリカが経済制裁をすれば、ロシアは外貨準備からドルを外し、米銀に対する融資返済を拒否すると述べた。
ただ、経済制裁といっても、制裁に参加する国のロシアとの貿易額や国際決済通貨(ハードカレンシー)で行うかどうかという点でその効果は違ってくる。アメリカが経済制裁する場合は、もちろん世界最大の国際決済通貨であるドルでの取引がストップするから、それはクリアするとしても、ユーロ(EUR)、日本円(JPY)、イギリスポンド(GBP)、スイスフラン(CHF)など他にも国際決済通貨はある。
ここで、ロシアの世界各国との貿易額を見てみると次のとおり。
これをみても分かるとおり、ロシアはその地域柄、EUとの貿易がその大半を占めている。しかも、輸出入TOP10の中でG7に入っているのは、フランス(輸入6位)、アメリカ(輸入5位)、イギリス(輸入10位/輸出10位)、ドイツ(輸入2位/輸出3位)、日本(輸入4位/輸出9位)、イタリア(輸入7位/輸出4位)とカナダ以外は全部TOP10に顔を出している。だから、G7がこぞってロシアに経済制裁を行うとそれなりのダメージを与えるだろうと推測される。
では、G7はみんなアメリカに追随して経済制裁に入るのかというと、そうとも限らない。イギリスが二枚舌外交を展開している。
ガーディアン紙とテレグラフ紙は、イギリス政府は、EU諸国が制裁を発動した場合、ロシアの投資家たちがロンドンの金融センターにアクセスすることを可能とする案を作成する一方、ロシアの高官に対するビザ発給停止やビザ規制などの制裁には反対しない見込みだと伝えている。
更には、イギリスのフリーカメラマンのスティーブ・バック氏が、イギリス国家安全保障会議が開かれる首相官邸へ向かう外務省高官とみられる人物が手にした文書をカメラで撮影したところ、そこには「ロンドンの金融街をロシア人に対して閉鎖すべきでない」「当面は貿易制限も支持すべきでない」「軍事行動に関する議論は妨害すべきだ」と書かれていたことがスクープされたと伝えられている。
このイギリスの態度は、ぱっと見、アメリカの経済制裁方針に同調しないと見えるのだけれど、金融制裁には反対しつつも、ロシアの高官に対するビザ発給停止やビザ規制などの制裁はOKだというところがミソ。
フィナンシャルタイム紙は、何十億ドルというロシアマネーが西側の銀行に預けられたり、欧州の資産に投資されたりしていることから、ロシアの指導者達にビザ発給停止を行えば、彼等は欧州で蓄えてきた資金や資産に手を出せなくなるとし、実質的には経済制裁を行うのと同じだ、と指摘している。
フィナンシャルタイム紙の指摘が正しいとするならば、イギリスは、表向きは、経済制裁に反対姿勢を示して、ロシアに恩を売り、その裏で、ビザ発給停止という手段で、事実上の経済制裁をすると西側諸国にサインを送ったことになる。ロシアにも西側諸国にもチップを掛ける両張り。
果たして、イギリス政府が、フィナンシャルタイム紙にこの記事を書かせたのかどうかは分からないけれど、もしも計算してやっているのであれば、これはこれでしたたかな外交手腕だといえる。
勿論、日本もG7の非難声明に参加しているのだけれど、プーチン大統領と個人的な信頼関係を構築しつつある安倍総理は、3日の参院予算委員会で「平和的な解決を期待する。全当事者が自制と責任を持って慎重に行動し、関連国際法の順守、ウクライナの主権と領土の一体性を尊重することを求める」と述べ、あからさまな批判を避けている。
この安倍総理の対応について、ロイターは、「G7共同声明と比べるとだいぶ穏やかな対応、とし、日本はロシアとの関係改善を続けると言い、外交上・経済政策上の変更がないことを発表している、と伝えている。
また、ウォール・ストリート・ジャーナルも、北方領土問題解決に向けて、日本はロシアとの関係を崩したくないと述べている。海外メディアは日本は、ロシアに甘い態度を取っていると見ているようだ。
ただ、逆に見れば、今の状況下では、西側先進国の中で日本が一番ロシアに近い位置に立っているとも言えるわけで、G7とロシアとの仲介役になり得るポジションにいるともいえる。
その意味では、この間のソチオリンピックの開会式に西側先進国から唯一安倍総理が参加したことは、結果的に、非常に重要な布石となっているように思われる。
幸か不幸か、今の日本はロシアに対して重要なポジションにいる。ウクライナ問題についても指導力を発揮できる余地がある。
かつて、中国が天安門でやらかして、世界から総スカンを食っていたとき、日本は最初に手を差し伸べ、昭和天皇訪中を通じて、そこから救った過去があるけれど、今回もしも、ロシアが孤立するようなことがあれば、またそれに似たシチュエーションに置かれるかもしれない。
まぁ、日本にイギリスのような二枚舌外交は無理だと思うし、今の立ち位置の利点を考えれば、そんな"高度な"テクニックは必要ないだろう。安倍総理には、今の日本の利点を生かした外交を展開していただきたい。
この記事へのコメント
とおる
米国は、日本に対して、韓国・中国と争うのを心配しているようですが、そんな中、敵側にロシアを追いやるのは愚か。(あるいは、よほど、中国の影響下にある人がオバマ政権には多いのか?)
白なまず
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-N204B06JTSED01.html
3月5日(ブルームバーグ):短い期間だがウクライナは世界3位の核保有国だった。ウクライナは旧ソ連から引き継いだ数千の核弾頭を破棄。その見返りに取り付けたのが、ウクライナに対し軍事力を行使したり武力で威嚇したりしないとする米国やロシアとの約束だ。だがロシアのプーチン大統領は4日、この約束をほごにした。
ロシア軍がウクライナのクリミア半島を掌握したことで、米国とロシア、英国、それにウクライナが1994年に調印した「ブダペスト覚書」が注目されている。プーチン大統領の行動は今回の危機だけでなく、米国とロシアの核兵器削減交渉を含めた将来の安全保障協議に長期的な影響を及ぼす可能性がある。
ケリー米国務長官は5日にパリで、「非常に明白な法的義務がリスクにさらされている」と述べた。英・米・ウクライナは共同声明で、ブダペスト覚書について話し合う同日午前の会合にロシアのラブロフ外相が出席しなかったとし、「極めて遺憾」だと表明した。
泣き虫ウンモ
米国の親○派の通りには動けない。
そこで、米国が喜ぶような材料をたくさん提供できる状況があるわけでw
笑うのは、当たり前のことをしてこない日本の状況にですね。
ちび・むぎ・みみ・はな
オバマ大統領が阿呆なだけだと思う.
そもそも民主的投票で選ばれた大統領を
追放したクーデターを正当化できるかどうか
極めて怪しいものだ.