中国に差し押さえられた商船三井の貨物船

 
今日はこの話題です。 

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4月19日、中国・上海市の上海海事法院(裁判所)は、海運大手「商船三井」が所有する貨物船1隻を浙江省の港で差し押さえた。

差し押さえられた商船三井の船舶は、中国向けに鉱石を輸送する大型ばら積み船「バオスティール・エモーション」積載能力22万6434トン。

これは、1936年当時の中国の船舶会社である中威輪船公司の創業者である陳順通氏が当時の日本の海運会社の大同海運に船舶2隻を貸し出したのだけれど、大同海運は、1937年の日中戦争の勃発後、用船料支払いを停止。その後2隻は、旧日本海軍に徴用され、魚雷攻撃を受けて沈没した。

ところが1988年になって、船舶を貸し出した陳順通氏の孫が、20億元(約310億円)の損害賠償を求める裁判を起こした。

裁判で、大同海運を吸収合併した商船三井は「2隻は旧日本軍に徴用され、契約は終了した」と主張したのだけれど、2007年、海事法院は大同海運が船舶を不法占有したとして賠償責任を認め、商船三井に1億9000万元(約29億500万円)の支払いを命じる判決を下していた。

当時は、世界貿易の景気回復と軍需工業の発展に伴い、日本の原料輸入が大幅に増加していたのだけれど、それを運ぶ肝心の船が不足し、傭船料や運賃が高騰していた。

そこで、船であれば何でもとばかり、海運業者はボロ船でも使おうとする動きが起こり、外国の老朽船を輸入して運航することを計画した。ところが当時の海運を主管する逓信省が、海運競争力を高める「優秀船主義」を堅持して旧船の輸入に反対した。

だけど、そこは抜け目のない民間業者。業者は外国人名義を借り、船を外国船籍にして海運を行った。この半ば脱法行為とも取れる手段を逓信省は防ぐことができず、この方式の船は大層流行った。

この種の船は、1934年から1937年の累計では40万トン近くにまで膨れあがり、当時の日本船舶の総トン数のおよそ7%を占めるまでになっていたという。

しかし、その後の日中戦争、太平洋戦争で、これら船舶は旧日本軍に徴用され、軍需物資や兵員を輸送する手段として活用された。そのため多くの船舶が沈没し、1945年おn終戦時には、日本の商船隊は船舶の実に8割を喪失、残存した船隊もボロ船ばかり。

船員の損失も甚大で6万人に上り、喪失率は43%と帝国陸軍の20%、帝国海軍の16%を遥かに超えていた。

日本海運業界は、こうした歴史を持っているのだけれど、戦時、日本政府に徴用された船については、日本政府に対して損害請求をするのが筋。だけど、日中間の戦時賠償については、1972年の日中共同声明で、中国は賠償請求を放棄している。

21日、菅官房長官は記者会見で「商船三井は原告との間で和解の可能性を探っていたと聞いている。突然の差し押さえ通告は極めて遺憾だ。…中国側の対応は1972年の日中共同声明に示された国交正常化の精神を根底から揺るがしかねないものだ。中国側の適切な対応を強く期待する。…中国でビジネスを展開する日本企業全般に萎縮効果を生むことにもなりかねない。深く憂慮する」とコメントをしている。

また、北京の日中外交筋も「『戦争賠償の放棄』を明言した中国が、戦時中の問題をめぐり、現在の日本企業の財産を差し押さえることは、外交条約から見ても法律的に見ても非常識な暴挙だ。…トウ小平ら中国の指導者の呼びかけに応じて中国の経済発展を支えるために進出してきた企業が、戦前のことを理由に財産を取られるならば、だまされたというほかない」との見方も示しているという。まぁそのとおりだろう。

これに対して中国外務省の秦剛報道局長は「このケースは中日戦争の賠償問題とは無関係だ」とし、一般的な民事訴訟だと主張しているけれど、こんな理屈が通るのなら、あとからいくらでも似たような賠償請求ができることになる。

まぁ、見方を変えれば、80年も前のネタでないと日本に嫌がらせすることもできないとうこともできるかもしれないけれど、やはり、最近の中国、特に習近平政権になってからの中国は、ゴリ押しというか、なんというか今の時代とちょっとズレているような気がしてならない。

これがどういう形で決着するにせよ、チャイナリスクがより一層認知されたことは間違いない。




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この記事へのコメント

  • 八目山人

    大同海運が借りていた期間の賃料は、もう支払い済みではないですか?
    確かそう聞いていたが。
    2015年08月10日 15:20
  • 白なまず

    中国人「ソマリアの海賊じゃねーか・・」商船三井の船舶差し押さえ問題についての中国人の反応 (海外の反応) よりコピペ
    http://www.japohan.net/archives/1683

    ■ 杭州さん
    みんなに聞きたいことがいろいろある。

    1. 中国政府も地主から土地を接収したけど、利息すら払ってないけどこれはいいの?
    2. なんで船主は日本人に船を貸したの?
    3. なんで日本政府は中国政府みたいに中国人の船を強制接収しなかったの?
    4. もし今回のことが合法だとしたら、日本と台湾が結んだ条約は何だったの?
    5. こういうときは相手のところに取り立てに行くのが筋じゃないの?なんで日本で起訴しなかったの?
    6. お爺さんが回収し損ねた債権って孫が引き継げるの?

       ■ 浙江さん
       まったくその通りだ。だから忘れろ

    ■ 山東さん
    そもそも時効じゃないの?

       ■ 済南さん
       中国の法律では20年で時効だ。自分で決めといて自分で破ってるんだからホント情けないよな
    2015年08月10日 15:20
  • almanos

    日本が「在華邦人撤退勧告」をする絶好の根拠ですね。で、コメントで中共が条約を破棄したとして、その根拠として今回の件を上げて「文明国では法の不遡及は原則だ」とした上で「我が国がかつて戦ったのは中華民国であって中国共産党では無い」といったら大朝鮮たる中共はもの凄い火病になったりして。「事実をいうな! 」と。
    2015年08月10日 15:20
  • kk

    問題の時期に中国共産党は井岡山という南部の山から、延安という北部の砂漠に逃亡している途中くらいでつwwww
    2015年08月10日 15:20
  • sdi

    追記
    今回の訴訟の最大のポイントが「戦時賠償を求めたものではなく傭船契約上の不履行および不作為を問うた」というのは事実です。特に「不作為」という点を相手は突いてきているように見えます。そして、訴訟の被告・賠償請求先は商船三井であり日本政府には鐚一文請求していません。あくまで民事訴訟なので、時効が成立していなければ法理論上は有効となります。
    2015年08月10日 15:20
  • ス内パー

    これねぇ・・・問題の時期に中国共産党は

     存 在 し な か っ た

    ことは意外に知られてません。
    というか今の中国の建国はもっと後の時期ですからねぇ・・・
    2015年08月10日 15:20
  • passerby

    こんな裁判がまかり通るなら、日本が満州や上海租界に打ち捨ててきた膨大な資産もすべて賠償請求できることになっちゃいますね。
    2015年08月10日 15:20
  • 日比野

    sdiさん、貴重な情報ありがとうございます。まだざっとななめ読み程度しかできていませんけれども、そうとう闇は深そうですね。

    ただ、今回のを認めてしまうと、後からあとから全部。。。となりますから表では突っぱねるしかないでしょうね。で、裏で示談交渉…と。で、更にその裏で、中国が見返り寄越せ(環境汚染対策技術かリニア辺りか)となってしまうのかもしれませんね。
    2015年08月10日 15:20

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