焦る中国と墨守

 
昨日に続いて、雑談エントリーです。

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子墨子帯を解きて城と為し、牒を以って械と為す。公輸盤九度城を攻むるの機変を設けしも、子墨子九度之を距ぐ。公輸盤の攻械尽きて、子墨子の守圉余り有り。
『墨子』公輸

昨日のエントリーでは、アメリカが中国に対して、正直に話すようになったことについて述べましたけれども、それを伝えられた中国はショックを受けたであろうことは想像に難くありません。

中国紙・環球時報は、在沖縄米軍のウィスラー第3海兵遠征軍司令官が、尖閣諸島を占拠されても「奪還するようにとの命令があれば、実行できる」との発言について「ウィスラー司令官の日本の島奪還を助けるという狂った発言は、ひとつの虚偽の前提の上にある。つまり解放軍が先に出兵して上陸するということだ。現代化された戦争条件では、ありえない」と述べているそうですけれども「狂った発言」というあたり、相当狼狽えているようです。

また、ヘーゲル国防長官と会談した、中国の常万全・国防相は、会談後の共同記者会見で「挑発的な行動を取っているのは日本のほうだ。…中国が日本に対して実力行使に出ると結論づけることは間違いだ。われわれは問題を自ら悪化させるようなことはしない」と述べていますけれども、常万全・故国防相は"中国が日本に対して実力行使に出ると結論づけることは間違いだ"といってるんですね。これは裏を返せば、中国が挑発していると見られているということです。

おそらく、かなりはっきりとヘーゲル国防長官に言われたのではないかと思われます。でなければ、わざわざ「挑発しているのは日本のほうだ」とし「自分からは問題を悪化させることはしない」と言い訳しないはずですから。

ここで筆者は注目したいのは、尖閣には、自分から先に手を出さない、と中国自身に言わせた点です。もしもこれが、中国こそが挑発しているのだとアメリカからはっきりと言われたこと対する返答であるとしたら、中国は自分でそれを証明しなければなりません。でなければ、益々信用を失うことになります。

そして、12日には、ワシントン・ポストが「中国は東シナ海でサインを出しているのか」と、中国が尖閣周辺海域の巡視回数を減らすことで「事態をこれ以上悪化させたくない」というサインを日本側に示そうとしているとの見方もできる、と、ブスリと釘を指すかのような記事を配信しています。結構容赦ないですね。



事実、14日には、中国の王毅外相は周辺国との摩擦について「過去の共通認識を改めて守り、当事国間の直接の協議・交渉の軌道に戻れば、最終的に対立を解決できる。…対話と協議のドアは終始、開かれている」と誰かのセリフをパクったかのような発言をしています。

今まで、日本に対して強気一辺倒だったのが、急に対話のドアが開かれているだなんて、実にわかりやすい。これまでの路線の変更を余儀なくされた可能性がある。

その意味では、アメリカ国防省が中国にはっきりと物申すように態度を変えたことは、一定の抑止力を果たしたといえるのかもしれませんね。

この相手にはっきり言うという「正直ベース戦略」をずっと推し進めていった場合、例えば、相手が、この方法で攻めるといったときに、すかさず、それはこういう方法で防御できると正直に答えるとか、或は、あなたは、何処其処にこういうミサイルを配備しているだろう。その射程はこれくらいで、命中精度はこれくらいだ。あの国のこの都市を狙っているようだが、我々はこういうシステムを使って、発射する前に破壊する、などと警告して、戦う前に諦めさせることを志向するようになる可能性があります。

けれども、このやり方が機能するためには、アメリカの軍事力が中国に対して圧倒的に上だという前提が必要だと思うのですね。相手を圧倒する力もないくせにそんなことをいってしまったら、ただ手の内を晒してしまうだけ。相手は怯むどころが、逆に熱り立って攻撃してきかねません。

ですから、正直ベース戦略を有効に機能させるためには、相手の力を凌駕する実力がなければなりません。相手の出方が手に取るように分かる情報網と分析力。そして、現実に抑止を可能とする実力を兼ね備える必要があります。

中国春秋戦国時代の思想家墨子が、宋を攻めようとした楚王に対して単身乗り込み、公輸般を相手に模擬攻城戦を行って、悉く攻めを防ぎ切ったという有名な逸話がありますけれども、アメリカ国防省の対中戦略の中に、少しこの「墨守」の影を感じますね。

ただ、それは、アメリカが墨子並の実力を持っている前提の話であり、実力差が無くなれば、その限りではないことに留意しなければならないと思います。




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この記事へのコメント

  • ナポレオン・ソロ

    >>このやり方が機能するためには、アメリカの軍事力が中国に対して圧倒的に上だという前提が必要
     上でしょう。 例え、1/4の戦力でも、全く問題にならない位上だと思います。

     一方、シナの軍事力は現在がピークなのでは? ディーゼル換装空母の遼寧の姉妹艦か、空母2隻が現在舟山地区の造船所で建造中ですが、今度は原子炉積むんでしょうかね? 然も無ければ、今回も張子の虎で御終いですが、もしそうで無かったとしても、戦略空母運用歴70年を超す米国に敵う筈が無い。

     シナが空母を持ちたがるのは、東南アジア諸国、極東、南アジアの覇権国家を目指しているからで、米国と張り合うつもりはない筈でしょう。 この先維持できる国力から云って、軍事力の膨張もここいらがピークなのではないかと思います。

     むしろ「米国を、延いては日本を敵に回すのなら全てが無駄」なのです。 然も、シナ経済にとって米国は日本と並んで、最大の「買い手」の筈、加えて、現太子党幹部にとって、シナ崩壊時の、逃げ込み先指定地の筈。 些かでもヘーゲル長官を脅す様な真似をするワケがない。日米を自分の面子を潰さないで味方にできれば、それに越したことはな
    2015年08月10日 15:20
  • ちび・むぎ・みみ・はな

    > でなければ、益々信用を失うことになります

    支那様は朝令暮改の国.
    それを信じろと言う方が不思議.
    その点で, 日本は不思議な国であった.
    2015年08月10日 15:20
  • opera

    オバマ政権が推進しようとしていたアジア重視(=中国重視)政策が完全に破綻したということでしょうね。オバマ政権1期目の終盤(野田政権末期)に公表されたCIAの報告書、及び2期目の当初から国務省を中心にしたいわゆる“G2”戦略が崩壊し、日米同盟を基軸とする国防総省が主導権を回復しつつある、と言っていいのだろうと思います。

     また、これに関連した衝撃の情報もあります。以下の冒頭のエントリーは、昨年の段階で公開されていたものが再掲されたものですが、今読んでもなかなか刺激的です。この視点を踏まえて、最近の日米中関係や台湾を含む東アジア情勢を考えると、結構面白いと思います。

    ◆中国軍事委員会対日開戦議論(遺稿記事)
    http://kt-yh6494.blog.so-net.ne.jp/2014-03-17
    【関連エントリー】
    ・中国軍事放談会
    http://kt-yh6494.blog.so-net.ne.jp/2014-01-26
    ・驚きの中国軍事委員会(遺稿記事)
    http://kt-yh6494.blog.so-net.ne.jp/2014-02-07
    ・中国軍事委員会記事検証座談会
    2015年08月10日 15:20
  • sdi

    金の切れ目が縁の切れ目、というわけではないのですが国内経済の先行き不透明さの増大が北京の中国共産党中央を弱気にした可能性はありそうですね。
    いままで「バブルが破裂したら、また膨らませばいい」を基本方針にしてきましたが、今回はさすがに無理なのかもしれませんね。
    2015年08月10日 15:20

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