今日も極々簡単に…
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7月15日、集団的自衛権の行使容認を巡る参院予算委員会の閉会中審査が行われ、安倍総理は、朝鮮半島有事の際の在日米軍の出撃について「アメリカの海兵隊は日本から出て行くわけで、当然、事前協議の対象になる。日本が了解しなければ、韓国に救援に駆けつけることはできない」と述べ、日本政府の事前の了解が必要だという立場を示した。
この安倍総理の発言が、韓国で波紋を呼んでいる。
韓国軍関係者は「真偽はともかく、朝鮮半島有事の際の在日米軍の投入について、日本政府が介入できる根拠はない。…在日米軍は有事の際に後方の軍事的需要や戦闘力を支援できるよう、基地化されている。…朝鮮半島有事の際には在日米軍も軍事戦略に基づき、自動的に投入される」と、安倍総理の発言を「根拠のない言い方だ」と強く非難。
韓国のネットでは、「安倍、お前は正気か。朝鮮半島への派遣の決定権は米軍にあって日本にはない。知ってて言ってるのか」、「安倍の妄想だな。ついに、在日米軍が自分のものと思ったか」、「韓国と米軍の問題だ。日本は引っ込め」と罵詈雑言の嵐だという。
筆者は去年11月のエントリー「韓国…それは叛逆の物語」で、韓国国防研究院安保戦略研究センターの金斗昇氏が韓国は「米国との同盟関係を強化すれば朝鮮半島有事の際に後方基地としての日本を戦略的に活用することに問題はないと思い込んでいるのである。そして、この認識は韓国の政策樹立者及び決定者の脳裏を依然として支配していると言える」との発言を取り上げたけれど、図らずもそれが証明された形となった。
では、実際のところはどうなのか。その鍵は日米安保条約第6条の中にある。次に引用する。
日米安保条約 第6条このように、アメリカ軍は日本および極東の安全と平和のために、日本の施設・区域を使用することができると規定されている。この第6条の本文には、その日本の施設を使用できる条件等は触れられていないのだけれど、その条件は別の文書で規定されている。それが「岸・ハーター交換公文」と呼ばれるもの。次にその一部を引用する。
日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリ力合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。
前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基づく行政協定(改正を含む)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。
合衆国国務長官から内閣総理大臣にあてた書簡このように、アメリカ軍の「配置における重要な変更」、「装備における重要 な変更」、「戦闘作戦行動のための基地使用」の3点については、日米間の事前協議の主題となるとしている。
書簡をもつて啓上いたします。本長官は、本日付けの閣下の次の書簡を受領したことを確認する光栄を有します。書簡をもつて啓上いたします。本大臣は、本日署名された日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に言及し、次のことが同条約第六条の実施に関する日本国政府の了解であることを閣下に通報する光栄を有します。
合衆国軍隊の日本国への配置における重要な変更、同軍隊の装備における重要な変更並びに日本国から行なわれる戦闘作戦行動(前記の条約第五条の規定に基づいて行なわれるものを除く。)のための基地としての日本国内の施設及び区域の使用は、日本国政府との事前の協議の主題とする。
本大臣は、閣下が、前記のことがアメリカ合衆国政府の了解でもあることを貴国政府に代わつて確認されれば幸いであります。
本大臣は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。
本長官は、前記のことがアメリカ合衆国政府の了解でもあることを本国政府に代わつて確認する光栄を有します。本長官は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。千九百六十年一月十九日
アメリカ合衆国国務長官 クリスチャン・A・ハーター
日本国総理大臣 岸 信 介 閣下
この「岸・ハーター交換公文」は1960年1月に交わされているのだけれど、当時の日本は、60年安保闘争の真っ只中。改正安保によって、日本が関与しない戦争のため在日米軍部隊や基地を使っているという印象を日本国民がもてば、自民党内から離反者が出て岸内閣が崩壊し、結果、条約改定が国会で否決される恐れがあると見られていた。
そこで、「日本側が知らないうちに核兵器が持ち込まれたりすることがないようにする」とか、「日本がその意に反し戦争にまき込まれる可能性に対する国民の危惧に答える」という名目で、日本側からアメリカに"事前協議"が提案され、この「岸・ハーター交換公文」が交わされた。
だけど、当時のアメリカは「核持込」と「基地の自由使用」を絶対条件として譲らず、この「岸・ハーター交換公文」の交渉は難航したようだ。かといって、アメリカの要求を丸呑みすれば、今度は岸政権が倒れてしまう。
そこで苦肉の策として、表向き「交換公文」を交わしつつ、裏でアメリカの要求を満足する「密約」を結ぶことで、対応しようとしたとされる。
これについて、平成21年9月、当時の岡田克也外相が、薮中三十二外務事務次官に対し、事前協議を含む4つの「密約」について外務省内に存在する原資料を調査するよう命じ、また、当時の鳩山内閣が設置した有識者委員会にて調査させている。
その結果はこちらで公開されているのだけれど、半島有事に関する密約については、存在は確認したものの、現在ではその効力は失われていると結論づけられている。次に該当部分の概略を引用する。
第三章 朝鮮半島有事と事前協議と、このように、今では半島有事に関する在日米軍の出撃に関して「事前協議」は必要であり、安倍総理の発言は間違っていないと思われる。
(1)朝鮮半島有事の際は場合によっては事前協議を免除する非公開の「朝鮮議事録」は、今回の調査でその存在が確認された(ただしイニシャルなし)。
(2)一昨年フォード大統領図書館で発見された「朝鮮議事録」は、外務省でみつかった最終案と本文は同一。しかし日付は60年6月23日付。政権交代を予測して、批准書交換時に「準備会合」を開催し、署名した可能性あり。
(3)今回その存在が確認された「朝鮮議事録」が密約という性格を帯びた文書であるとの認識を日本側交渉当事者が持っていたのは確実。
(4)「朝鮮議事録」について日米間で連日会談を重ねたとされる1959年1月後半から12月にかけての会談記録文書が存在しないが、その理由は不明。
(5)沖縄返還交渉で日本側は対外表明により「朝鮮議事録」を置き換えることを目指した。朝鮮議事録の有効性については、日米間で明確な決着がつけられることはなかったが、事前協議なしの基地使用は考えられず、朝鮮議事録は事実上失効したとみてよい。
(6)70 年代、米側は「朝鮮議事録」の延長を日本側に提起することが検討されたが、結局、「議事録を未解決のままとし、正式に消滅させることとしない」という形で、 米側も日本側の立場を事実上受け入れた。90年代のガイドライン策定等により、事実上、本件議事録は過去のものとなった。
尤も、日本政府は、昭和25年8月19日に、朝鮮戦争に介入した国連軍への協力を表明し、翌26年9月8日の旧日米安保条約締結時に同時に交わされた「吉田・アチソン交換公文」で、「国連の行動に従事する国連加盟国の軍隊に対する日本及びその周辺における支持を日本が許しかつ容易にする」と定めていることと、この「吉田・アチソン交換公文」が新日米安保締結後も引き継がれていることを考えると、既に半島有事に関しては「合意」はとれており、「事前協議」は完了している、という建前で、強硬できるという指摘も一部にある。
まぁ、いずれにしても、事前協議を行う、もしくは事前協議が終わっている、という判断は必要で、日本政府の預かり知らぬところで、勝手に在日米軍が出動するということはないと思われる。
第一、そんなことをされたら、日本本土の防衛にも影響が出てくる。現時点では、ちょっとあり得ない。韓国もいい加減に日本に対する「甘え」から卒業すべきだろう。
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