日豪戦略的パートナーシップの行方


今日は、この話題を超簡単に…

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7月8日、安倍総理は、オーストラリアのアボット首相と会談し、「21世紀のための特別な戦略的パートナーシップ」と題した共同声明を発表した。その内容はこちらで公開されているけれど、経済、安全保障・防衛協力、地域・国際情勢、文化・人的交流など幅広い分野での協力を進めていくとしている。

中でも筆者が注目したいのは、共同声明のまえがきで、「7月8日の会談で,両首脳は,民主主義,人権,法の支配,市場の開放と自由貿易を含む共 通の価値と戦略的利益に基づく,日本とオーストラリアとの間の特別な関係を確認した」との文言が入っていること。

民主主義,人権,法の支配といった、安倍総理は常々言っている、言葉がそのまま共同声明に盛り込まれている。これは結構大きなこと。

そして、それを後押しするかのように、オーストラリアのアボット首相は、7月8日の共同記者会見で「日本に『フェア・ゴー(公平に行こうというオーストラリアの精神)』を与えてください。日本は今日の行動で判断されるべきだ。70年前の行動で判断されるべきではない。…日本は戦後ずっと、本当に模範的な国際市民だった。日本は法の支配の下で行動をとってきた。日本に『フェア・ゴー』をというのは『公平に見てください』ということだ」と述べている。

安倍総理の「法の支配」を前面に押し出す"価値観外交"はそれなりに上手く言っているとみていいだろう。

そしてまた、今回の首脳会談で、「防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とオーストラリア政府との間の協定」が結ばれた。この協定は、防衛装備品及び技術の共同開発・生産並びに安全保障・防衛分野における協力の強化に関するもので、具体的には、防衛装備品の移転および技術の使用に関する取決めを定めている。

今のところ、日豪両政府は、船舶の流体力学分野の共同研究に取り組むとしている。既に、色んなところで指摘されているけれど、オーストラリアは日本の潜水艦技術に関心を示している。

先月、訪日したオーストラリアのジョンストン国防相は、小野寺防衛相と共に横須賀海上自衛隊基地を訪問し、「そうりゅう」級潜水艦の視察をしている。



オーストラリアが「そうりゅう型」に興味を示していることについて、筆者は2012年7月のエントリー「豪に輸出される『そうりゅう』潜水艦」や、2013年12月のエントリー「日本の潜水艦技術を欲しがるオーストラリア」で取り上げたことがあるけれど、オーストラリアは、その国防戦略を「本土防御」から「越境防衛」に転換し、より長い航続距離とより高い電子兵装、そしてより多くの武器積載を潜水艦に求めるようになっている。

現在、オーストラリアは「そうりゅう型」の購入のみならず、自国での潜水艦建造も視野に入れていて、少なくとも350億豪ドル(約3兆3660億円)を注ぎ込んで建造する大型の在来型潜水艦の新艦隊向けに、日本の推進システムを採用することを検討している。

理想的には、排水量4000トン以上で、陸上攻撃用の潜水艦発射巡航ミサイルを搭載し、特殊部隊の兵士を展開する能力を併せ持つ潜水艦が欲しいらしい。そのためには、ドイツの造船大手ホーワルツウェルケ・ドイチェ・ウェルフトのTYPE416のような船体を求めているとも言われている。

だから、オーストラリアが、日本との共同研究で船舶の流体力学を挙げたのもそうした背景が関係しているものと思われる。

ただ、一部で指摘されているように、日本の潜水艦の最新技術を簡単に他国に渡していいのか、という懸念は確かにある。今の親日なアボット政権ならいざ知らず、将来、また親中派の政権になったときに、日本の潜水艦技術が中国に流出しない保証はない。

これについて、小野寺防衛相は、4月28日に行った、オーストラリアのジョンストン国防相との会談後、「極めて秘匿度の高い技術なので今後事務レベルで様々な協議をする」と述べているから、それなりに慎重に対応するだろうとは思う。

だけど、どんなに核心技術を秘匿したとしても、100%それを防ぐのは難しいだろう。それならば、少しでもリスクを下げる意味で、オーストラリアを親中にさせないことのほうに力を入れたほうがいい。

オーストラリアの前首相で親中派と言われるケビン・ラッド氏は去年12月16日、ロンドンのシンクタンクである国際戦略研究所(IISS)で講演しているのだけれど、そこでラッド氏は、「"新たな国際秩序"を築きたがっている中国に対し、アメリカの余力が残っているうちに新しい国際秩序について中国と話し合う必要がある」と主張したそうだ。

だけど、その講演でラッド氏は、自由と民主主義、人権、空と海の自由航行については一言も触れなかったという。つまり、それだけ、人権や法の支配といった概念は、中国にとって一番受け入れがたいものだということ。

だから、その意味では、今回の共同声明に"民主主義"や"人権"、"法の支配"という文言を入れたことは、対中国を考える上で、オーストラリアに対する楔にもなり得る可能性がある。

細かいことのようだけれど、共同声明レベルの文書で、"世界観"をねじ込んでおくことは、意外と大きな力を発揮するのではないかと思う。




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