北朝鮮に対する独自制裁の一部解除について
今日はこの話題を簡単に…
ブログランキングに参加しています。応援クリックお願いします。
7月4日、日本政府は、北朝鮮に対する独自制裁の一部を解除することを閣議決定した。解除となったのは、「人の往来」「支払いの届け出義務」「北朝鮮籍船の入港禁止」の3項目。
「人の往来」は、北朝鮮籍者の入国禁止や在日の北朝鮮当局職員による北朝鮮からの再入国禁止を解除するもので、例えば、朝鮮総連の許宗萬ホジョンマン議長ら幹部が北朝鮮に渡航し、再入国することも可能になる。
「支払いの届け出義務」については、現金の場合は現行の下限10万円超から100万円超に、送金は現行の300万円超から3000万円超に戻し、他国と同等の扱いとなる。
そして「北朝鮮船舶の入港禁止」は、日本側が事前に認めた食料や医療品、衣料などの個人用の人道物資の輸送に限定して解除するものの、輸出の全面禁止措置は維持。「万景峰号」の入港禁止はそのまま継続する。
政府が独自制裁解除に踏み切ったのは、北朝鮮が日本人拉致被害者らを再調査する特別調査委員会を発足したことを外務省を通じて確認した為で、菅官房長官は、「北朝鮮が特別調査委員会を立ち上げ、すべての日本人について包括的、全面的な調査を開始することから、国内法上、必要な手続きをとった」と述べている。
まぁ、北朝鮮のことだから、またぞろ騙そうとしているのでは、という見方もあることは否定しないけれど、1点注目したいのは、北朝鮮側が拉致被害者側の調査について、積極的に情報発信しようとしているように見えること。
7月4日、北朝鮮の宋日昊・日朝交渉担当大使が緊急記者会見を行い、「特別調査委員会は国防委員会からすべての機関を調査でき、必要に応じて該当の機関や関係者を動員できる特別な権限を受ける。…日本側の意向を十分に理解し、最大限の努力を果たしたい」と調査を急ぐ方針を明らかにした。
特別調査委員会の委員長に任命された徐大河氏について、秘密警察にあたる国家安全保衛部の実質的な責任者であり、そうした人物を責任者にあてたこと自体が、北朝鮮側が調査に力を入れていることの表れだと強調。「すべての問題を明確にし、合意の履行のために相当力を入れている証だ」と述べている。
北朝鮮の国家安全保衛部は、去年、粛清された張成沢・前国防委員会副委員長の特別軍事裁判を実施した機関で、北朝鮮内では大きな権限を持つ組織。その副部長を今回の特別調査委員会のトップに当てた。
そして、委員会の下には、、拉致被害者、行方不明者、日本人遺骨問題、残留日本人と日本人配偶者について、それぞれ調査する4つの分科会を設置するとしているのだけれど、拉致被害者に関する調査を担当する責任者には、国家安全保衛部の局長を指名し、、行方不明者を担当する分科会の責任者には、北朝鮮各地に拠点を持ち、住民登録台帳を管理している人民保安部の局長が指名されている。
拉致被害者の分科会は、日本政府が認定している拉致被害者について改めて調査し、それぞれの被害者の入境からの経緯を調査確認し、行方不明者の分科会は、日本側からの資料なども参照しつつ、人民保安部の住民登録台帳の精査を含め、北朝鮮へ入境したかどうかや、行方不明者の現状などを確認するとしている。
また、日本人遺骨問題の分科会は、北朝鮮に点在している日本人遺骨の埋葬地について、これまでに把握している資料や証言を基に現地調査を行い、試験的な発掘を行い、残留日本人・日本人配偶者の分科会は、人民保安部及び人民政権機関が持っている住民登録台帳に基づく調査や証言などを通じて、現状を確認し、対策をとるとしている。
それぞれの活動が、やけに具体的で、進捗状況をトレースできるような運用をしようとしていることに加え、日本側との資料と突き合わせるなど、検証も可能なようにしているところは押さえておくべき点だと思われる。
ここまで具体的な内容が公にされ、また、それなりの部署の責任者を人選していることは注目していいかもしれない。
静岡県立大学の伊豆見元教授は、特別調査委員会の人選について、「知っている人はいない。この委員会は属人的なものではなく機関であり、国防委員会が統括するということに意味がある。委員長のソ・テハ氏が国家安全保衛部の副部長であることから、北朝鮮としてきちんと調査に取り組むという姿勢を示した形となっている」とし、また、関西学院大学の平岩俊司教授は「特別調査委員会の委員長や副委員長の名前を見ると、私が見たことのある名前は1人もない。今回は、実務に詳しい人を中心に構成しているという見方もできる」と述べている。
北朝鮮が、実務者を担当にあてたのが本当であれば、それなりの調査結果を出してくる期待はある。むしろ、ここまでやると宣言しておきながら、鼠一匹見つからないのであれば、逆にその調査の本気度が疑われるし、日本側、自分達に現地調査させろと要求する可能性がある。
既に、今回の調査委員会は、その運営について、進捗状況を日本側に随時、通報する他、適切なタイミングで日本側関係者を受け入れる用意があるとしている。
今回の一部制裁解除については、今年の5月29日、北朝鮮との間で、日本人拉致被害者を再調査することで合意がなされた際、北朝鮮が、3週間程度を目途に強力な権限を持つ特別委員会を立ち上げ、日本をそれを受けて、今回の3項目の独自制裁解除を行うとしていた。
確かに、北朝鮮は3週間程度で、"権限を持つ特別委員会"を立ち上げた。日本政府もこうした北朝鮮の動きを踏まえ、約束通りの独自制裁の一部解除をしたのだろうと思われる。
菅官房長官は「北朝鮮の前向きで具体的な行動を引き出すため、我が国独自の措置、国連安全保障理事会決議に基づく措置を引き続き着実かつ厳格に実施していく」と述べている。だから、恐らく、今後も、北朝鮮の調査の進捗を見ながら、少しづつ制裁緩和のカードを切っていくと予想されるし、その次の解除のための条件について、日朝両政府間で取決めがなされているのではないかと思う。
むしろ、北朝鮮との交渉には、そういう形で一歩づつ進めていくほうがよいかもしれない。
こうしてみると、国連制裁以外に、日本が独自制裁を科したことが、今になって日本の手持ち交渉カードとなって機能しているのは日本に取ってはラッキー。しかも、当時、それを提案し決めたのが菅官房長官だというのも、また感慨深いものがある。
まずは、第一歩を踏み出した。今後の進展に注目したい。
この記事へのコメント