今日はこの話題です。
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1.ヤルカンドの虐殺
7月28日、中国ウイグル自治区(東トルキスタン)のカシュガル地区ヤルカンド県及びその周辺地域で、ウイグル族住民と中国武装警察との間で、数百人から数千人規模の大規模な衝突があったと報道されている。
中国当局は、「28日の朝、刃物を持った武装集団が地元政府庁舎などを襲撃し、市民に無差別に切り付け、 漢族35人、ウイグル族2人が殺された。警察は法に則り、暴徒59人を射殺した」と発表し、事件を「テロ」と断定している。
だけど、アメリカ政府系放送RFA(自由アジア放送)は調査した結果として、全然別の情報を伝えている。
何でも、RFAに「3000人以上のウイグル人が武装警察に殺された」という手紙が届いたとのことで、現地に電話取材を行ったところ、現地住民から「28日から1日までの5日間で、警察の車がずっと走っていて、村の家から外に出た人を武装警察が無差別に発砲し、2000人以上の人が死んだ。 町のあらゆるところで死体が見え、家から外に出られない」との証言を得たのだという。
中国当局とRFAの発表は丸っきり食い違っている。尤も、都合の悪いことは徹底的に弾圧・隠蔽する国のこと。当局の発表は、どこまで信じていいのか怪しい。
既に、衝突現場から約150キロ離れたカシュガル地区の中心部では、武装警察の装甲車など多数の警察車両が巡回し、厳戒態勢となっている。インターネットは遮断され、マスメディアも排除。現地情報は中国当局に制御され、ヤルカンドに向かう道路にはいくつも検問所が設けられているという。隠蔽体制を整えている。
8月8日、日本ウイグル協会イリハム・マハムティ会長は永田町で緊急記者会見を行い、ヤルカンド県での事件について「この情報が本当かどうか、外国のメディアが現地に入って、日本政府はじめ、国連の代表部はじめ、このことを国連に提出し、 国連から指定して第三者の機関が独立的な調査をして欲しい。これが真実であれば、世界的に中国を非難して対応していかなければと考えている」と述べた。
イリハム会長によると、ウイグルでは中国当局による理不尽な弾圧が起きており、中国政府はその真実を一切外に出していないという。
イスラム教を連想させる服装はウイグル自治区では政策として禁止され、髭をのばすだけでも違法にあたり、コーランの所持も厳禁。パソコンなどにイスラム教に関するデータを持っているだけで罰せられるという。
当局の監視はそれだけじゃない。2009年のウイグル騒乱以来、住人はGPSで携帯電話の位置が監視されている。それゆえ、長時間一カ所に5人も集まっていると「テロ計画の疑いあり」として取り締られてしまい、5人が公的な場所以外で一カ所に集まって集会をすることができないのだという。
そして、中国政府がウイグル人の家を捜索するのは当たり前で、武装警察が村人の家に勝手に入り、 イスラム教のスカーフを女性がつけているところを見て、それを無理に剥がしたところ、 その夫が警察と喧嘩になって、幼い子供から老人まで無差別に射殺される事件が多数起きているそうだ。
それにも関わらず、殺されたウイグル人は、中国政府によって皆「テロリスト」扱いにされる。
イリハム会長は、今回の事件について、「これは怒りから突発的に起きた事件であり、ウイグル人が計画的にやったわけではない。組織的なレジスタンスは現在不可能だと考えている」と述べている。
更に、今年7月、UNPO代表なき国家民族機構は、当局が、ウイグル自治区のイスラム教徒がラマダンを行うことを禁止したと報告している。
ウイグルの現実が、イリハム会長の言う通りだったとするならば、自治区とは全く名ばかりの恐るべき恐怖政治という他ない。
2.過激武装集団ISIS
そんな中、イスラム教スンニ派の過激派組織「イラクとシャームのイスラーム国(ISIS:Islamic State of Iraq and Syria)」が、中国、インド、パキスタン、ソマリア、アラビア半島、コーカサス、モロッコ、エジプト、イラク、インドネシア、アフガン、フィリピン、シーア派イラク、パキスタン、チュニジア、リビア、アルジェリア。東洋でも西洋でもムスリムの権利が強制的に剥奪されている。中央アフリカとミャンマーの苦難は氷山の一角。われわれは復讐しなければならない!」との声明を発表。中でも、中国政府の新疆政策を特に非難し、中国のムスリムに対し、全世界のムスリムのように自分たちに忠誠を尽くすよう呼び掛けているという。
※「シャーム」はシリア地方またはレバントを指す地理的概念
ISISとは、2000年頃にアブー・ムスアブ・アッ=ザルカーウィーがヨルダンなどで築いた「タウヒードとジハード集団(As Jama'at al-Tawhid wal-Jihad:JTJ)を前身とする武装集団で、アフガン戦争後はイラクに接近。2003年のイラク戦争後、イラク国内でさまざまなテロ活動を行っていた。
そして、2004年にアルカイダと合流したのだけれど、外国人義勇兵中心の彼らはイラク人民兵とはしばしば衝突。更に、その余りにも残虐な行為故に、アルカイダからも毛嫌いされ、2014年2月には、アルカイダはISISとは無関係であるとの声明が出されている。
アルカイダからすら残虐だとされるISISとはどれ程のものなのかとも思うけれど、それ程過激な集団の呼びかけに中国のムスリム達がどこまで答えられるのか疑問が残るし、イリハム氏のいうようにウイグルで、5人集まることさえ出来ないのであれば、ISISと連携した一斉蜂起など無理な話であって、現段階では、中共軍に各個撃破される可能性のほうが高いのではないかと思う。
ただ、それでも、ウイグルのムスリム達が中国政府によって弾圧・虐殺されているのが事実なら、やがて中国が、全世界のムスリム達から敵視されることになる可能性は十分にある。
まぁ、見方を変えれば、アラーの教えに従えとするイスラムと、中国政府の考えに従えとする"中国共産党教"という一神教同士がぶつかっていると見ることもできるかもしれないけれど、異文化を持つ者同士が共存するためには、基本的に、受け入れ側の寛容をもって相手の文化を許容するか、相手を自分の文化に同化させるか二つに一つになる。
でなければ、完全に住む地域を分離・隔離して互いに干渉しないようにするしかなくなってしまう。だけどこれでは、最早共存とは言い難い。
3.ハラルにみる共存への試み
勿論、日本にも、ムスリムはいる。現在、日本ではイスラム教徒のコミュニティーが12万人にまでなっていると言われている。
アジア・太平洋地域の外交・安保専門誌「ザ・ディプロマット」は、服装や儀式を重んじるイスラム教徒の若者達は、日本での社会生活で、職場で祈りの時間を持つときや、「ヒジャーブ」と呼ばれるベールをかぶっていること、更に、"飲み会"に参加できないことを挙げ、困難に直面しているとする一方、東京の人々の正確さ、従順さ、他人に無関心であることが、イスラム教徒の生活を安易にし、戸惑うことは多いものの、東京での生活はイスラム教徒にとって住みにくいものではないと指摘している。
日本に住むムスリムが、祈りの時間を持つときやヒジャーブを被っていることに"困難"を感じているとするならば、彼らなりに日本社会に同化とは言わないまでも、調和しようと努めていることの証だともいえる。
先月16日、安倍総理は、イスラム諸国の駐日大使らを首相官邸に招き、ラマダン中の日没後に豪華な食事をとる夕食会「イフタール」を開いた。夕食会には、34ヶ国及び地域が参加し、参加者らはめいめい郷土料理を持ち寄ったのだけれど、。日本側はイスラム戒律に乗っ取った方法「ハラル」で調理した寿司を振る舞ったという。
「ハラル(HALAL)」とはイスラムの教えで許された、「健全な商品や活動」のことの全般を意味し、主にイスラム法上で食べられる物のことを指していう言葉。食べ物以外では、化粧品や医薬品、介護用品、金融などにも適用される。
それゆえ、世界各国には、「何がハラル」で、「何がハラルでないか」を認証する機関が数多く存在している。
ところが、この「ハラル」には世界的な統一基準というものがなくて、世界各国ごとにその内容が微妙に異なっている。例えば、水は本来「ハラル」の扱いなのだけれど、ミネラルウォーターなんかは、原水を採取してから、ボトル詰めするまでの処理中の汚染がないかを確認して初めて「ハラル」になるとか、自然発酵のアルコールなら「ハラル」だけれど、アルコールを添加したら「ハラル」とは認めない場合があるなどといった違いがある。
実際、イスラム国からすれば、非イスラム国で認証されたハラル認証は100%ではないというイメージを持たれているらしく、単に、日本のハラル認証機関で認証を受けたからといって、それをイスラム諸国に輸出しようとしても、厳格なイスラムの国では受け入れてくれないケースもあるそうだ。
日本人的に分かりやすい言い方をすれば、差し詰め、牛肉というは、日本の在来種である「和牛」のことをいうのであって、仔牛を輸入して日本で飼育した、所謂「国産牛」は牛肉とは認めないという感覚であるといえようか。
とはいえ、「ハラル」で調理した寿司を振る舞うという行為は、日本側にとってみれば、イスラム文化の受容と歩み寄りの一つであり、それを「ハラル」認証という手段を通じて、共存の一助とするということだろうと思う。
いずれにせよ、"我のみ正し"を相手に強要すると、そこに衝突が生まれる。サヨクが嫌われたり、昨今取り沙汰される、日本の嫌韓・嫌中感情も、そういった"彼らの正義"を、あからさまに押し付けてくることにも、その一因があるように思われる。互いの尊重と理解なくして共存などあり得ない。
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