エボラ迎撃薬「ZMapp」

  
昨日のエントリーの続きです

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8月8日、世界保健機関(WHO)は、アフリカ西部で死者が増加しているエボラ出血熱について緊急委員会を開き、国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態との認識で一致。感染が広がっている国に対しては緊急事態宣言を発するよう要請すると共に、感染者が増えた国と国境を接する国は、原因不明の発熱や、発熱による死亡が集団的に起きていないかを調査すべきと勧告した。

昨日のエントリーでは、富山化学の「T-705(ファビピラビル)」がエボラに効果があるのではないかと見られていることを取り上げたけれど、対エボラ薬という意味では、「T-705(ファビピラビル)」以外にも薬はある。「ZMapp」という薬がそれ。

この薬は、アメリカ・サンディエゴの製薬メーカーMapp Biopharmaceutical社とLeafBio社、そしてカナダ・トロントの製薬メーカーDefyrus社の共同開発によりカナダの研究所で開発された薬で、たばこの葉にもなるナス科タバコ属の多年草"ニコチアナ"を利用し、その植物細胞で育てられた3つの「ヒト化モノクローナル抗体」を主成分に持つ薬。

人体には、侵入した細菌やウイルスに抵抗して体を守ろうとする働きがある。体内の免疫細胞であるB細胞は、自分にとって異物である細菌やウイルスに反応して、それだけに結合する、免疫グロブリン(Ig)というタンパク質を生成する。

免疫グロブリン(Ig)が侵入してきた細菌やウイルスと結合すると、今度は、それを目印として、体内の貪食細胞であるマクロファージや好中球が、免疫グロブリン(Ig)が結合した細菌やウイルスを諸共貪食してこれを排除する。

この侵入してきた細菌やウイルスと特異的に結合する免疫グロブリン(Ig)を、「抗体」という。

ただ、この"万能"にも思える抗体も、完璧というわけじゃない。抗体がB細胞から生成され放出されるには、数日といった時間を必要とする。だから蛇の毒のように、体中に速く協力に拡散するような毒が体内に入ったら、抗体が働く前に筋肉壊死や多臓器不全、呼吸困難を引き起こし、時に死に至ることがある。

こうした場合、予めその毒に対応した抗体を準備しておいて、それを体内に注入することで、タイムラグなしで抗体を起動させて回復させるという治療方法がある。それが抗血清と呼ばれるもの。

血清とは、血液が凝固したとき、その上澄みにできる淡黄色の液体成分なのだけれど、例えば、蛇の毒にやられた人が其の後回復したら、その人の血液中には蛇毒の抗体が含まれている。したがって、その人の血液から血清を作れば、蛇毒用の抗血清が得られる。

もちろん、この仕組みは、エボラ出血熱にも有効で、エボラに感染後、回復した人の血液中には、エボラ用の抗体がある。その血液から作られる抗血清は、現在、治療薬のないエボラ出血熱から患者を救う唯一の方法とされている。

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だけど、血清は人の血液から作る以上、いくらでも作るわけにもいかないし、本当に欲しいののは「抗体」だけ。

そこで、この「抗体」をエボラなどの細菌やウイルス一つ一つに合わせて、大量に作ることができれば、薬として使えるのではないか、という発想から生まれたのが「モノクローナル抗体」。1個のB細胞は1つの特異性をもった1種類の抗体しか生産しないのだけどそれを利用して、1種類のB細胞から作られる抗体のクローンが「モノクローナル抗体」。

だけど、実際、薬品として、モノクローナル抗体を作るとなると、そう簡単ではなかった。なぜなら、抗体を生成してくれる肝心のB細胞には寿命があるから。B細胞の寿命は2~3日のものから5~7週のものまで様々なのだけれど、薬として大量生産することを考えると、寿命があるB細胞では、B細胞が死ぬ度に新しいものを採取しなければならず、効率が悪い。そのため、1種類のモノクローナル抗体を大量に作り出すのは困難だった。

ところが、細胞の中には、骨髄腫細胞(ミエローマ)のように無限に増え続ける能力を持つ細胞があり、それとB細胞を融合させることで、"死なないB細胞"を作り、それによって、安定かつ大量にモノクローナル抗体を作る手法が編み出された。

医薬品としてのモノクローナル抗体には、「マウス抗体」、「キメラ抗体」、「ヒト化抗体」、「完全ヒト抗体」といったいくつかの種類がある。

「マウス抗体」は、その名のとおり、マウスの抗体だから、人の体内に入ると異物と認識されてアレルギー反応を起こしたり、効果が弱まったりすることがあり、人の抗体に近い方がより安全性が高いと考えられている。

そこで、遺伝子工学の手法を用いて、抗原に結合する先端の部分だけマウスの抗体を残して、残りはヒトの抗体に変えた抗体が作られるようになったのだけれど、その66%を人の抗体に置き換えたものを「キメラ抗体」、90%を人の抗体に置き換えたものを「ヒト化抗体」という。

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今回開発された「ZMapp」は、この「ヒト化抗体」の遺伝子を、タバコの葉でもある"ニコチアナ"の遺伝子に組み込み、葉の中で、エボラのモノクローナル抗体を生成させることで作られている。

「ZMapp」は、リベリアで医療奉仕中に感染したアメリカ人のケント・ブラントリー氏とナンシー・ライトボル氏が投与を受けて症状が改善したと報告されており、効果が期待されている。

だけど、この「ZMapp」の開発は、先にも述べたとおり、複数の製薬メーカーとアメリカ陸軍による資金協力、そして、カナダ公衆衛生庁の研究が連係したことでようやく実現したもの。

「ZMapp」の化学構造を開発した、Mapp Biopharmaceutical社は従業員が10人にも満たない中小企業であり、単独での「ZMapp」開発は困難だった。

なぜ、大手の製薬メーカーがエボラ治療薬を開発していないのかというと、どうやら作っても儲からないというのが、その理由らしい。

エボラ出血熱の治療法を研究しているテキサス大学医学部のトーマス・ガイスバート教授によると、エボラ出血熱は現在話題にはなっているものの、現時点の患者数は、マラリアやガンなどの患者数に比べればごく僅かであり、患者数が少ない病気の治療薬を売ろうとする製薬会社などないのだという。

今回、Mapp Biopharmaceutical社がアメリカ陸軍からの資金提供を受けられたのは、国家安全保障上の理由が背景にあり、治療薬を備蓄しなければ、バイオテロリストがエボラ出血熱や天然痘などの感染症を利用して大混乱を引き起こす可能性があると懸念されたためだとも言われている。

アリゾナ州立大学で感染症を専門とするチャールズ・アーンツェン教授によると、、「ZMapp」による治療が着実な成功を収めれば、それを契機に大企業も治療法の開発に向けた投資を増やす可能性があるとしているけれど、もしも、国家が安全保障を考えず、まるっきり民間だけに任せていたとしたら、「ZMapp」のような薬が実用化されることもなく、パンデミックによって国家が壊滅する危険がないとも言い切れない。

それを考えると、生命と財産を守るために必要なコストというものは、何時如何なるときでも発生し、その内容も時々刻々と変わっていくということを政府のみならず、国民も自覚しなければならないのだと思う。




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