困難な御嶽山救助活動

 
昨日の続きです。御嶽山の噴火で亡くなられた方のご冥福を心よりお祈りいたします…

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9月29日、長野県警は、御嶽山の噴火で陸自のヘリコプターで麓に運んだ心肺停止状態の8人の死亡を確認した。前日28日には男性4人の死亡を確認しており、死者は計12人となった。

警察関係者によると、死者や心肺停止状態になった人は、山頂付近の神社から約500メートル南東にある山荘までの登山道周辺で集中して見つかっていた。麓に降ろした8人は、この山頂付近の登山道などに取り残されていた人達だった。

今回の噴火は前回1979年のマグマ水蒸気爆発と同程度と見られているそうなのだけれど、当時は翌日の朝には噴火は殆ど収まっていたのに対して、今回のそれは、翌日になっても、まだ続いていた。それに、前回、1979年の噴火では、死者の記録がないのに対して、今回は多数の死傷者を出している。

だから、噴火も被害も今回のほうが大きいのではないかと筆者は思う。

今回、人命が失われたことについて、日本火山学会元会長の宇井忠英・北海道大名誉教授は、今回の噴火が、小規模な水蒸気爆発だとした上で、「紅葉シーズンの土曜日、午前11時52分という噴火のタイミングと場所だった」と述べている。

多くの登山客は絶景を眺めながら昼食をとろうと山頂付近に集っていて、噴火は丁度その時に起こった。

ネット動画では、山頂付近で噴火に遭遇し、慌てて下山を始めた様子がアップされていたけれど、頭上の晴天がみるみるうちに灰色の火山灰に覆われていくのをみると、その場の瞬時の判断の差や、噴石に当たらなかったといった、ちょっとした"運"が生死を分けたのではないかとさえ。



国立病院機構災害医療センターの小井土雄一救命救急センター長は「火山灰を吸い込み、呼吸困難を起こした人は多いのではないか。噴石に当たって身動きが取れず、火山灰に埋もれ窒息した人もいるかもしれない」と述べている。救助者の中には、高温の灰で喉をやけどしていたという。

また、灰だけでなく、火山ガスだって致命傷になる。現在、御嶽山の山頂付近では、硫黄を含む有毒な硫化水素がたちこめており、捜索救助活動の最大の障壁となっている。

捜索に当たっている県警も自衛隊にも、硫化水素を防ぐマスク等の装備がなく、防塵マスクを使っている。無論、防毒マスクの代わりになるはずもなく、火山性ガスを検知する装置を使いながら捜索している。酸素ボンベは1本20分ほどしか保たないため、装備できなかったという。

また、上空からのヘリ救助も、ホバリング中に風で火山灰が舞い上がり、それをエンジンが吸い込むと故障する危険があることから、これも使えない。結局、人力に頼らざるをえない状況。

しかも、現場には膝まで埋もれる程の火山灰が積もってる。噴火翌日の28日は比較的乾燥した砂のような灰だったのだけれど、朝晩が過ぎると、灰は結露を吸ってぬかるみ、捜査隊員の足を滑らせる。

頭上からは、石粒の雨が降り注ぎ、目はゴーグルをかけても痛む程。ちょっと風向きが変われば視界は悪化し、硫化水素濃度測定器が危険値を知らせるといった状況だという。

28日夜、気象庁は、噴火で斜面を流れ落ちた噴煙について火砕流が発生したとし、今後の噴火でも「火砕流を伴う可能性がある」と述べている。まだまだ危険。そんな中での捜索の困難さは想像に余りある。

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現場の人は最善を尽くしている。

山頂直下、標高2900メートル付近にある山小屋の支配人は、噴火直後に逃げ込んできた登山者ら、一旦小屋の食堂に誘導したものの、次々と屋根に降り注ぐ噴石に危険を覚え、全員を屋根が二重になった場所に集め、ヘルメットを配った。

そして、1時間ぐらいして、噴石が降る音がしなくなると、「噴火口からできるだけ離れます。今なら大丈夫です」と誘導。登山者らは騒ぐことなく指示に従い9合目の山小屋「石室避難小屋」へと下山した。

一行が「石室避難小屋」に到着すると、支配人は「まだ誰かが来るかもしれない」とスタッフに一緒にきた登山者の下山を委ね、自分は小屋に残った。そして、夕方になってようやく下山した。

登山者の安全を確保しつつ、下山誘導するのみならず、自身の身を危険に晒しながらもギリギリまで小屋に残る。どこかの国のセウォルなんとか号が転覆した際、真っ先に船員たちが逃げ出したのとは大違い。全く賞賛すべき対応。

山小屋の支配人を始めとするスタッフの頑張りによって助かった命も間違いなくあると思うし、自衛隊も民間も与えられた環境で全力を尽くしている。

ただ、その一方で、こんなことになる前にもっと何かできなかったのか、という声も高まるだろうと思われるし、そのための検討と対策も必要だと思う。

登山で事故が起こった場合に、捜索の重要な手掛かりとして登山届が使われるという。登山届とは、登山者が氏名や住所、緊急連絡先、装備などを記載して登山口のポストに投函するもので、御嶽山には長野、岐阜両県の計4ルートにそれぞれ設置されている。

だけど、その提出は任意で、特に義務付けはされておらず、面倒だからとか、頂上まで登らないから登山じゃないと勝手に決めつけて登山届を出さないケースも少なくないらしい。

富山県や群馬県では、登山条例で登山届の提出を義務づけているから、今後はこうしたところにもメスが入っていくだろうと思われる。

以前、「ホリエモンの『尖閣明け渡せばいい』発言について」のエントリーで、商品は不良だからといって取換ができても、人命は取換できない。商売の論理で政治を考えるべきではない、と述べたことがあるけれど、国家予算で安全に関する予算までも何も考えずに削っていいのかといった議論も起こっていくと思われる。

水も安全もタダじゃない。それを保全するための必要経費は用意しないといけないということを、私たち日本国民は、改めて自覚する必要があると思う。




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