潜水艦調達は安全保障を強化する

 
今日はこの話題を簡単に…

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このほど、オーストラリアが、川崎重工業と三菱重工業に新造潜水艦を発注し、最大10隻を輸入する方向で日本と協議していることが明らかになった。日本はオーストラリアの予算と仕様に応じた艦を造る意向で、契約額は200億オーストラリアドル(約1兆9600億円)前後。もしも契約が成立すれば、日本にとって第2次世界大戦後初めての完成品の武器輸出となる。

オーストラリアが日本の潜水艦に注目していることは、これまで「豪に輸出される『そうりゅう型』潜水艦」、「日本の潜水艦技術を欲しがるオーストラリア」、「日豪戦略的パートナーシップの行方」など、毎年エントリーしてきたけれど、オーストラリアは、2030年台始めまでに自国の潜水艦の世代交代を計画している。だけど、独力で設計・建造する能力は保有しておらず、「完成品を輸入する」か、「他国からライセンスを取得して自国で生産する」か、「エンジンだけ輸入して自国で生産する」か、「他国の技術協力を仰ぐ」などの案を検討していた。

複数の日豪関係者によると、結局、最有力案として議論しているのが「完成品の輸入」ということのようだ。何でも、昨年、オーストラリアは、アメリカのランド研究所に国内での潜水艦建造コストについて見積もりを依頼したのだけれど、その答えは、設計者と技術者1000人が必要というものだった。これは実にオーストラリアが動員できる5倍以上の規模であり、財政支出の削減に取り組むオーストラリアとしては、もっと安価で確実に潜水艦を調達するため、日本に建造を発注する案が最有力となっているということのようだ。

オーストラリア国防省の複数の上級幹部は、年内の契約が見込まれると話しているそうだけれど、オーストラリアの現政権は、昨年の選挙公約で、造船業支援のため新たな潜水艦を国内で建造する方針を掲げていた。

9月8日、アボット首相は「最も重要なのはオーストラリアの納税者にとって最良かつ最も能力の高い潜水艦を、合理的な価格で調達することだ。…われわれは工業政策ではなく防衛面の必要性に基づき判断を下すべきだ」と、製造業を支援する意向に変わりはないとしながらも、国家安全保障を犠牲にすることはできないと述べている。

確かに国産に拘って、安全保障がおざなりになるのは本末転倒。オーストラリアにとって、国産化するまでの時間も金もないということ。その裏には、海洋進出を強めている中国に対する警戒感があることはいうまでもない。



中国の海洋覇権主義に警戒を示し、海軍力を強化しようとしているのはオーストラリアだけじゃない。台湾もそう。

台湾は2000年台初頭から、次期潜水艦計画を公表し取り組んでいたのだけれど、国産化計画と輸入によるものとの二本立てだった。国産化計画は国営造船会社である台湾造船公司が2002年10月に公表したもので「潜龍計画」と呼ばれる計画。従来の台湾海軍が持っているオランダ製の海龍級を前後に延ばして大型化したような艦型で、当時、試作の一部も公開sれた。

もうひとつの海外からの輸入計画は「光華8号計画艦」と呼ばれるもので、アメリカから導入するものだったのだけれど、度重なる中国からの圧力などよって、計画は伸び伸びになっている。

台湾の潜水艦国産化と輸入の二本立て計画の方針は今も変わっておらず、9月8日、アメリカ海軍トップのジョナサン・グリナート作戦部長が、ワシントン市内で行われたシンポジウムで、台湾側と潜水艦問題について交渉を行ったと発言し、それを受けて、9日、台湾国防部の羅紹和報道官が、国防部は潜水艦の国産化に取り組んできたとした上で、製造技術と防衛装備品の分野で米国の協力を得られればよりスムーズに進むと発言。更にアメリカからの潜水艦購入について、アメリカ側では審議中としながらも、国防部では「2つの構想を同時に進めたい」と述べている。

ただ、現在アメリカ国内の潜水艦建造メーカーであるノースロップ・グラマン社とゼネラル・ダイナミクス社は原潜の製造メーカーであり、通常動力潜水艦は建造できない。実際、「光華8号計画艦」でも、アメリカは当初、ヨーロッパ諸国に潜水艦の建造を依頼する計画だったのだけれど、中国がヨーロッパ諸国に政治圧力をかけ、これを潰している。

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台湾がアメリカの原潜を輸入まで考えているかどうかは分からないけれど、これまでの経緯を見る限り台湾が「通常動力型潜水艦」を入手できる経路は極めて限られているといえる。

或は、日本が台湾向けに通常動力型潜水艦を建造・売却するという案もないわけじゃないけれど、そこまで、あからさまに中国を刺激し対立することは出来ないだろうというのが、大方の見方のようだ。そこでアメリカ海軍やアメリカ防衛産業関係者たちは、日本の潜水艦メーカーにアメリカ法人を設立させるか、れらメーカーから秀な人材をアメリカメーカーが引き抜いて、新潜水艦メーカーを立ち上げ、台湾向け通常動力潜水艦を建造するというアイデアを出しているという。

まぁ、アメリカにしてみれば、台湾を出汁にして日本の潜水艦技術を手に入れられる美味しい話ではある。流石に日本政府も技術流出に繋がるそんな話を受けるわけはないだろうと思われる。

台湾については、今後の推移を見守る必要があるだろう。

そして、ベトナムも海軍力の強化を図っている。ベトナムは2009年にロシアと26億ドル(約2760億円)規模の防衛協定を交わし、潜水艦6隻を購入することで合意。すでにロシア製の最新鋭艦2隻を保有しており、この11月にも3隻目が引き渡しされる。残りの3隻についても向こう2年以内に調達が完了する予定となっている。

複数の外交筋によると、最近、カムラン湾で潜水艦2隻が定期的に訓練航行しているのが目撃されており、ロシアのインターファクス通信は11月に引き渡しを予定している3隻目に先立ち、ベトナムの乗組員がサンクトペテルブルク沖で訓練を受けていると報じている。ベトナムは着々と準備を進めている。

ストックホルム国際平和研究所のシーモン・ウェゼマン氏は「すでに潜水艦2隻を保有し、乗組員もいる。これから彼らの能力と経験は伸びていく」と述べ、香港の嶺南大学で本土の安全保障問題を専門とする張泊匯氏も「理論的レベルでは、ベトナムは潜水艦を戦闘に使える段階にある」とし、中国政府の国防当局者は、ベトナムの潜水艦を警戒していると指摘している。

何故、潜水艦が抑止力になるかというと、潜水艦はその位置が簡単に分からないことに起因する。いつ刺されるか分からないような真っ暗闇の夜道を平気で歩ける人がいないように、その心理的抑止力効果を期待するが故に潜水艦は重宝される。

今後、このような潜水艦調達を巡る安全保障は益々加熱していくのではないかと思う。




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