今日は軽い話題です…。

このほど、大阪府はクールジャパンフロントのまちづくり開発運営事業者の公募結果を公表した。結果はなんとゼロ。
「クールジャパンフロントのまちづくり事業」とは、大阪府泉佐野市の「りんくうタウン」の敷地約10ヘクタールに、アニメ、マンガ、ゲームなどのポップカルチャーをはじめ日本製品、建築、伝統文化などさまざまな魅力あるクールジャパンの商材などを集積させ、日本の魅力を楽しみ、味わえる発信拠点とすることをコンセプトとしたクールジャパンのまちづくりを目指すというもの。
5月に募集要項を公表し、今月16日から事業者の募集を始めたのだけれど、期限の22日までに応募は1件もないという結果。
この企画は、今の橋下市長が知事だった平成23年に府のコンペで選ばれた構想を基にし、平成26年度の設置を目指していた。だけど、今回応募ゼロとなったことで、事業の根本的な見直しを迫られることとなった。企画担当者は「コンセプトの見直しも含め、事業の問題点を検証し改善しなければならない」としている。
筆者は、「りんくうタウン」に行ったことがないから、はっきりしたことは言えないのだけれど、普通こういった事業はまず、その目的と立地条件が大切になる。
人が集まらない場所に店を出したって儲からない。誰の為の何の為の街であり、それに相応しい立地であるかどうかが大事。
「りんくうタウン」は、大阪府南部につくられた関西国際空港の機能の補完と立地インパクトを活かした地域の繁栄を図る目的で、大阪府が事業主体となり、空港対岸の海岸線沿いに埋め立てた細長い街で、泉佐野市・泉南市・田尻町の2市1町に跨っており、全造成面積は318.4haに及ぶ。
「りんくうタウン」は、駅を中心とする3つの主な集客施設では、年間2000万人以上の利用客がある。大阪府の資料によると、訪日外国人が最初に触れ、最後に訪れる地域であることから、日本の印象形成に重要な街と位置付けている。
これらを見る限り、どうやら、訪日観光客などの来場者の為の、クールジャパンの情報発信としての街を目的としているようだ。その為に、関西国際空港の出入り口にあたる対岸という立地を選んだということなのだろう。その意味では、目的も立地も、どちらかといえば消費者側の目線で企画された事業のように思われる。
だけど、この事業で募集するのは、生産者たる事業者。だから、生産者側からみて「りんくうタウン」に来た方がよい、と思わせるだけのメリットを示せないと、事業者はやってこない。
では、その生産者側に対するメリットとして、大阪府は何を提示しているのか。
これについて大阪府は、「りんくうタウン」の事業用地を貸与し、民間が管理運営する事業スキームを掲げ、安価な借地料による土地の提供と、都市計画や用途地域などに係る地元市や関係機関との連絡・調整を行うとしている。
大阪府のいう安価な借地料とは、一体、どれくらい安価なのかは分からないけれど、仮に借地料がタダだったとしても、それだけで、アニメ、マンガ、ゲームなどのポップカルチャーの生産者がホイホイとやってくるかどうかは分からない。
もしかしたら、大阪府の御役所の方々は、アニメや漫画を作る人達は、ほっといてもどんどん作品を生み出してくれるものと思っているかもしれないけれど、無から有を生み出すのは、そう簡単なものじゃない。特に、今の漫画やアニメの制作には、時間や距離あるいは周辺環境といった制約があったりする。
今の漫画は、作者一人で最初から最後まで描いているものなんて殆どない。少し前に少年ジャンプで連載していた漫画家をテーマにした漫画「バクマン」でもあったように、話と作画で別の人が担当しているものなんてザラにあるし、ストーリーや構成にしても、出版社の担当編集者と二人三脚で作り上げたりする。また作画にしても、多くのアシスタントを雇って分業して描きあげるのなんて当たり前。
つまり、漫画作家一人には、アシスタントから編集者から何人もの人がぶら下がっている訳で、漫画作家一人だけに「りんくうタウン」に来てくださいと声をかけたとしても、そう簡単に承諾してくれるとは思えない。
本当に来てほしければ、それこそ漫画作家だけじゃなくて、アシスタントから編集者から、果ては、出版社まで丸ごと連れてこれなければいけなくなる。もちろんそんなことは非現実的な話。
新人漫画家や、デビューを目指す漫画家の卵だって、編集者に相談したり、出版社への持ち込みしたりするであろうことを考えると、彼らにとって利便性が整った環境から離れることはデメリットでしかない。
また、アニメ制作にしたって、今は作画を外注したり、いくつもの制作会社による共同制作が当たり前。しかも、アニメ制作はいつも日程が厳しいから、直ぐ近くに外注できる会社が欲しい。現在、アニメ制作会社の多くは都内に本社を構えており、中でも、杉並区、練馬区など西部に集中している。これは、アニメ草創期を支えた多くの企業が東京西部に会社を構えていたことや、納品時の利便性が高くタイトなスケジュールに対応しやすいからだとされている。
更にいえば、作画が追い付かなくなると、作画できる人を急募したりしてやりくりすることがある。「進撃の巨人」がアニメ放映されていたとき、その作画の質の高さが話題になったりしていたけれど、その裏で毎週の作画が追い付かず、作画スタッフを集めていた。週を重ねる度に、エンディングのテロップの作画スタッフの人数がどんどん増え、一部のファンからは「作画兵団」と名づけられたくらい。
アニメ制作はそうした環境によって支えられている。果たして「クールジャパンフロントのまちづくり事業」はそこまで考えた上で企画されたのか。
勿論、アニメ制作会社は東京だけにあるわけじゃない。大阪に近いところでは、京都を拠点とする「京アニ」こと京都アニメーションがある。
京アニは「けいおん」など数々のヒット作品を手掛けているアニメ会社で、そのクオリティの高さなどから、アニメファンから高い評価を受けている。
京アニは、アニメ制作にあたって、殆ど外注を出さないことで有名らしいのだけれど、それは、受注する作品を絞りこんで、スケジュールが過密にならないよう、徹底した管理が行われていることと、会社設立から20年くらいは他社のアニメ制作を手伝いながら、全てのアニメ作成工程を自社内で出来るようノウハウを蓄えていったなど、合理的かつ戦略的な経営方針にあるとも指摘されている。
逆にいえば、近場にアニメ関連会社がない環境で、アニメ制作をしようと思ったら、京アニくらい戦略的かつ徹底した経営をしないと成立しないということでもある。
だから、例えば、大阪府が京アニに、「りんくうタウン」に来てくださいと頭を下げたとしても、京アニは、「りんくうタウン」に引っ越すメリット・デメリットを緻密に計算した上で結論を出すと思われる。現時点で「クールジャパンフロントのまちづくり事業」に手を上げていない以上、現時点では魅力を感じていないのだろう。
机上の空論といえば厳しい言い方なるかもしれないけれど、文化は一朝一夕に出来上がるものじゃない。それを支える豊かな土壌があって初めて芽吹いていくもの。もしも、大阪府がクールジャパンだ、といってそこに金儲けの匂いしか嗅ぎ取れないのだとしたら、折角立てた企画も、その息は決して長くないだろう。
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