毒抜きされる河野談話と位取り
今日はこの話題を簡単に…
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10月21日、参院内閣委員会で菅官房長官は、河野談話の発表に際し、当時の河野洋平官房長官が強制連行を認める趣旨の発言をしたことについて、「大きな問題だ。そこは否定し、政府として日本の名誉、信頼を回復すべくしっかり訴えている」と批判した。
これは、共産党の山下芳生議員が河野談話について継承する方針を問われたことに対しての答弁で、菅官房長官は、「河野談話については、継承し、見直しはしないということは、私たちは明確に申し上げている。ただ、河野談話発表の際に問題になったのはここだと私どもは思っている。…報告書の中には強制連行を示す資料はないということが書かれていて、会見の中で河野官房長官(当時)が強制連行の事実があったという認識を問われ『そういう事実があったと、結構です』。ここがまず大きな問題だと思う。」と答えた。
そして、「朝日新聞が報じていた吉田清治氏の証言によって、あたかも強制連行があったような事実認識が韓国をはじめ国際社会に広まった。…政府としては、客観的事実に基づいて、正しい歴史認識が形成されて、日本の名誉や信頼の回復をはかるべく、日本の基本的な立場、取り組みというものを、今、海外に徹底して広報しているところ」と答弁した。
ここは重要なポイント。
つまり、河野談話そのものには問題はなく、それに付随した河野洋平氏の発言および朝日の誤報が問題であり、そこを否定することで、河野談話と"強制性"の切り離しを行ったということ。
河野談話については、既に色んなところで指摘されているから、改めていうことはないのだけれど、「河野談話」の本文には、"強制連行が行われた"という記述は一言もない。
ただ、河野談話には「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった」という記述があり、これこそが、軍による強制連行があったと認めているじゃないか、という批判がある。
だけど、この記述については、談話発表後の記者クラブで河野洋平氏自ら「官憲等が直接これに加担したこともあったこと」とは白馬事件のことを指しており白馬事件以外には官憲等が直接これに加担した事実はなかった説明している。
白馬事件とは、1944年2月、日本軍占領中のインドネシアで、南方軍管轄の第16軍幹部候補生隊が、オランダ人女性35人に対して行われた監禁・強姦事件のことで、軍が組織的にやった事件ではなく、韓国の慰安婦に対するものでもない。戦後、彼らは、国際軍事裁判において有罪を宣告されている。
当時の日本軍による強制連行がなかったことについては、2007年3月、第1次安倍内閣が「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」との答弁書を閣議決定している。
ということで、「河野談話は継承するけれど、軍による強制連行は否定する」というロジックそのものに破綻はない。
だけど、それが世界に理解されないどころか、日本批判の道具として利用され、国益を棄損するまでになった今、その責任は、河野洋平氏の発言と朝日新聞にあると切り離した意味は大きい。
先の河野談話検証によって、河野談話は韓国との政治的妥協の産物であることが明らかになったけれど、その河野談話を根拠に批判されていた"強制連行"が、河野談話とは無関係だということになると、日本批判するネタとしての河野談話の価値は非常に小さなものとなる。まるで、河野談話から"毒抜き"でもしているかのよう。
しかも、菅官房長官が否定した、河野洋平氏の証言と朝日の吉田証言の2つの"毒"のうち、吉田証言の方は、朝日自身が"嘘"だと認めた。こちらの"毒抜き"の大義名分を政府は得たことになる。
従って、今後、日本政府は「河野談話は継承するが、強制性は否定する。強制の証拠とされた吉田証言は嘘だった。ゆえにクマラスワミ報告など吉田証言を元にした報告・勧告はその撤回を求める」というスタンスで国際社会に働きかけることになると思うし、実際、クマラスワミ氏に対して、報告書の一部撤回を求めている。
まぁ、「河野談話」そのものの撤回を求めている人達からすれば、こんな対応は不十分であり、生温く見えるかもしれないけれど、周りの情勢を観ながら、着実に駒を進め、"位取り"くらいはしたのではないかと思う。一気に王手までいければいいけれど、早々上手い話ばかりではないだろう。
ただ、一度"位取り"をしたのであれば、もうこの位置は譲り渡してはいけない。折角、取った"位"が無駄になる。
10月22日、韓国の尹炳世外相は、日韓首脳会談開催の可能性について、「ただ握手をするために会うのは意味がなく、環境が整わないまま、会談だけ行えば状況がさらに悪化しかねない。…日本が従軍慰安婦問題で明確に誠意ある措置を示すことが重要だ」と、またいつもの批判をしている。
これに対して、23日、菅官房長官は「いつものことだ。ただそれだけだ。日本の立場は明快だ」と斬って捨てた。
官房長官の立場で、ここまで明快にコメントするとは、政府として、金輪際、妥協などあり得ないという意思の現れだろう。少なくとも、安倍政権はその方針で固まっていると言っていい。
今年の8月に日経新聞とテレビ東京が行った世論調査では、日韓首脳会談を急ぐ必要はないとの回答が47%と、直ぐ開く必要があるとの回答39%を上回っている。
国内も、段々とこの問題についての世論が固まりつつあるのではないかと感じている。菅官房長官ではないけれど、韓国に対する国内世論は「いつものことだ」が当たり前になるのだろう。
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