慰安婦論争とクマラスワミ報告

 
今日はこの話題です。

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1.そして舞台は国連へ

10月15日、国連総会第3委員会(人権委員会)で「女性の地位向上」をテーマにした特別会合が開かれ、慰安婦問題をめぐって日本と韓国とで激しい論戦を繰り広げた。

まず、韓国の韓忠煕国連次席大使が演説で、「慰安婦の事例は、戦時下の問題が未解決ということを示している。…差し迫った、現在も進む人間の尊厳の問題に、遅滞なく対応すべきだ」と述べたことに対し、日本国連代表部の久島直人公使は答弁権を行使、「日本は女性の人権尊重を重視し、元慰安婦を救済してきた。…安倍晋三首相は、筆舌に尽くしがたいつらい思いをされた方々のことを思い、心を痛めている。歴代首相と全く変わりない」と反論した。

韓国側はこれに対して慰安婦を「性奴隷」と位置づけたクマラスワミ報告書などに言及し、「慰安婦問題に関する日本政府の法的責任は依然としてある。日本政府に法的責任を受け入れ、被害者らに賠償するよう勧告している。…日本の政治指導者の中には河野談話を見直すような動きもある」などと指摘した。

久島公使は、2回目の答弁権を行使し、「法的責任の問題については完全かつ最終的に解決している。…報告書に強い影響を与えたとみられる朝日新聞の記事は最近、誤報として取り消された。…安倍首相は河野談話を見直すつもりはないと繰り返し話している」とも応酬した。

韓大使はこの後、最初の反論と趣旨の主張を繰り返すだけで、やはり水掛け論に終わったようなのだけれど、安倍政権が慰安婦問題に関して、国際的な名誉回復に向けた対外広報を強化して行く方針を示して以降、少しずつではあるもののその方向に進み始めた感がある。

今回の論戦で、俎上に上がった、クマラスワミ報告書についても、日本政府はその一部撤回を求めて動いている。10月14日、外務省の佐藤地・人権人道担当大使が、ニューヨークでクマラスワミ氏に直接面会し、「吉田証言」が引用された報告書の一部撤回を申し入れ、元慰安婦へ「償い金」を支給したアジア女性基金など日本の取り組みも合わせて伝えている。

クマラスワミ氏は「修正に応じられない」と拒否したようなのだけれど、政府は今後も対外広報活動を継続・強化するとし、昨年の2倍に引き上げた、今年度の政府国際広報予算を、来年度は更に2倍以上にするとしている。

クマラスワミ氏が日本政府からの報告書の一部撤回要求をどういう理由で拒否したのかは、明らかになっていないけれど、共同通信が9月にスリランカのコロンボでクマラスワミ氏と会見し、その辺りを問い質している。

クマラスワミ氏は吉田証言について「証拠の一つにすぎない」とし、元慰安婦への聞き取り調査などに基づき「日本軍が雇った民間業者が誘拐した。慰安婦たちには逃げる自由がなかった」とし、慰安婦を「性奴隷」と定義したのは妥当だったと述べている。

9月の段階でこの見解であったことを考えると、恐らく、今回の日本政府の要請に対しても同じ答えをしたのではないかと思われる。




2.クマラスワミ報告は偏った報告書

クマラスワミ報告書については、これまで何度か取り上げたことがあるけれど、今年3月の「河野談話で倍返しだ」のエントリーで、筆者は、クマラスワミ報告書が国連人権委員会に提出された当時、外務省はそれに対する反論文書を提出したものの、その後撤回したことを紹介し、「河野談話の再検証によって、それが作文であることが明らかになったとしても、韓国はそれを認めず、このクマラスワミ報告書を盾にしてくる可能性は十分にある。日本政府は、このクマラスワミ報告書に対する最初の反論文書の公開も含めて、更なる論戦の準備を検討すべきではないかと思う」と述べたことがある。

今回の国連での論戦など、正に、韓国がクマラスワミ報告書を盾にして反論するだろうという予測どおり。では、クマラスワミ報告書に対する反論文書を公開するのかというと、どうやら政府はそれも検討しているようだ。

10月15日、衆院外務委員会で岸田外相が、この反論文書の公開も含めて検討していることを明らかにしている。岸田外相によると、当時、反論文書を撤回した経緯について、「文書が『詳細すぎる』と指摘を受け、多数の国の理解を得ることを目指して簡潔な文書を改めて作成した」とし、現在反論文書が非公開となっていることについては「当時の状況を総合的に判断した」と説明している。ただ、今後は、国際社会の理解を得るのに何が最善の方法か、公開の可能性も含め、検討するとしている。

筆者などは、"詳細過ぎる文書"の一体なにが悪いのか、と思ってしまうのだけれど、ぐぅの音も出ないくらい反論されてしまうと、韓国以外にも、色々と都合の悪い勢力がいるのかもしれない。

となると余計にその非公開となっている反論文書の中身が気になるのだけれど、実はその要旨について、今年4月に産経新聞が報じている。

その内容は、報告者は中立的客観的な調査を行い、十分な根拠に基づく事実関係を記し、法的見解を示す場合も国際法を踏まえた見解を示すべきであるとした上で、報告書は、極めて限定された資料に依拠して書かれており、報告者の議論は法的には成り立たない恣意的な解釈に基づく政治的主張だと斬って捨てている。

特に「戦時における軍の性奴隷制度問題に関して、朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国及び日本への訪問調査に基づく報告書」と題された「付属文書1」は極めて問題が多いと指摘していて、問題の吉田証言もこの付属文書1の中で引用されている。

クマラスワミ氏は吉田証言について「証拠の一つにすぎない」と、共同通信との会見で答えているけれど、確かに文書の「Ⅱ:歴史的背景」の全34パラグラフの中で、吉田証言について明確に触れているのは2つ(B.リクルート、-29、-30)だけ。

では、他からの引用文献はそれだけかというとそうではなく、先の「Ⅱ:歴史的背景」の34パラグラフ中9つは「G・ヒックスの『従軍慰安婦-日本軍の性奴隷』を引用している。特に「Ⅱ:歴史的背景 A.総論」の全12パラグラフで引用されている4件の文献全てがこのG・ヒックスの文献となっている。

慰安婦に関する資料は他にも沢山ある。例えば、有力な一次資料として、1944年の米軍オフィシャルレポートがある。そこでは「慰安婦とは単なる売春婦であり、高額の報酬を得、自由時間もあった」と記載されていて、更に「親切な扱いを受けているせいで、朝鮮慰安婦たちはアメリカの兵士の方が日本の兵士より、もっと情愛的(more emotional)だと感じている。彼女らは中国軍を怖がっている」との記述もある。当時の日本軍が残酷であったなどとは述べていない。でなければ、中国軍を怖がっているなんて証言は出てこない筈。

それなのに、クマラスワミ氏はこの米軍レポートには一切触れていない。総論全体の1/3が引用であるにも関わらず、それがただ一つの文献しかないというのは、随分と偏った引用だと言わざるを得ない。




3.間違いだらけの引用文献

尤も、クマラスワミ報告でも、当時の日本軍が慰安所に対して、衛生や避妊への配慮、サービス時間の厳守、妥当な支払い、アルコールや武器携行の禁止など「慰安婦」を正しく扱うべく十分な注意が払われていたようだ、と報告している。だけど、クマラスワミ氏は、それを持って「一見規律正しさとか公正な扱いに見える事柄を押しつけようとしたところに、この慣行の残酷さと残虐性が浮き彫りにされている」と斜め上な結論に持っていっている。

だから、仮に米軍レポートを元に「慰安婦は高額の報酬を得ていて、自由時間もあった」と反論したとしても"アーアー、キコエナイ"と耳を塞ぐだけになる恐れは十分にある。

このように、"正しい扱い"でさえも、正反対の結論に捻じ曲げる手法は、どこかのかの国の言い分を思わせるものがあるのだけれど、クマラスワミ報告の柱となっている『従軍慰安婦-日本軍の性奴隷』の著者G・ヒックスなる人物も結構怪しかったりする。

経済評論家の池田信夫氏によると、G・ヒックスは、日本語も韓国語も読めず、問題の本である『従軍慰安婦-日本軍の性奴隷』の謝辞で「韓国から英訳して送ってもらった資料をもとにした」と書いているのだそうだ。また、それとは別に、実はその本は、韓国のヘイ・キュング・リー氏がゴーストライターとして書いたのだ、という噂まである。

このG・ヒックスの書籍の怪しさについては、日本軍による慰安婦の「強制性」があったと主張する中央大学の吉見義明教授でさえ認めている。

クマラスワミ報告解説書によると、吉見氏はクマラスワミ氏本人に次のような書簡を送っている。
「誤りの原因について述べますと、George Hicks,The Comfort Womenに依拠した点が問題です 。この本は誤りの大変多い著書ですので、notesから削除したほうがいいと思います 。

Hicks氏の誤りの一例をあげると、彼は吉田清冶氏の経歴を、Tokyo University卒で、のちWar Ministry administrative officerになったと記しています。しかし、実際には彼は東大卒ではなく、東京にある大学を卒業したものです。

また、彼はadministrative officerではなく、上海派遺軍の下級の嘱託 part-time emproyee に過ぎません。また、Hicks氏が引用している吉田氏の著書の「慰安婦」編集の部分は、多くの疑問が出されているにもかかわらず、吉田氏は反論していません。…吉田氏が反論することは困難だと思われます。

吉田氏の本に依拠しなくても、強制の事実は証明することができるので、吉田氏に関する部分は必ず削除することをお勧めします。」
と、吉見氏は、G・ヒックスと吉田清二は、引用文献から外せと忠告している。

このようにクマラスワミ報告が下敷きにした文献を見ると、その信憑性には疑問を抱かざるを得ないし、日本政府の反論文書でも「日本政府に批判的な立場のG・ヒックス氏の著書から、特別報告者の結論を導くのに都合の良い部分のみを抜粋して引用している」と指摘されている。

更に、引用以外の部分を見ても、その殆どが元慰安婦の"証言"ばかり。その意味では、クマラスワミ報告書は、誤りと証言を元にしたものであり、その信憑性に疑問を持たれても仕方がない。

少なくとも、誤報が確定した吉田証言の部分は報告書から撤回しないといけないし、クマラスワミ氏が、慰安婦を「性奴隷」と定義したのは妥当だったというのならば、G・ヒックス本と元慰安婦の証言以外からも、その証拠を提示すべきだと思う。

クマラスワミ氏が、報告書の一部撤回を拒否し続けるのなら、日本政府は、一度は握りつぶした反論文書を公開し、正々堂々と反論していく他ないだろう。




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