ノーベル平和賞、憲法9条はやはり取れませんでしたね。今日は、それではなく、この話題です…

10月8日、ソウル中央地検は、例のウェブサイトに書いた記事で、産経新聞の加藤達也・前ソウル支局長を朴槿恵大統領の名誉を毀損したとして、情報通信網法違反の罪で在宅起訴し、発表した。
検察は起訴の理由について「加藤前支局長の記事は客観的な事実と異なり、その虚偽の事実をもって大統領の名誉を傷つけた。取材の根拠を示せなかった上、長い特派員生活で韓国の事情を分かっていながら、謝罪や反省の意思を示さなかったという点を考慮した」と説明している。
この話題については、これまで何度も取り上げてきたし、他のブロガー諸氏も取り上げた来たから、改めてどうこういうものはないけれど、とうとうやらかしたか、というのが筆者の偽らざる感想。
前にも述べたけれど、問題の産経の記事は、ゴシップ臭が漂っていて、聊か品性に欠けるきらいがある。
だけど、記事は、韓国紙のコラムの引用や、証券街の関係筋の話を元にして書かれていることを考えると、いくらなんでも起訴はやり過ぎ。これで起訴されてしまうなら、取材なぞ出来なくなってしまう。
今回の起訴は、韓国の情報通信網法違反がその理由としているけれど、この「情報通信網法」は、1986年に「電算網普及拡張及び利用促進に関する法律」として制定された後、25回以上もの度重なる改正を経て、規制範囲を拡大。2001年1月の第10次改正により「情報通信網の利用促進及び情報保護等に関する法律」に変更されている。
韓国では、インターネットの普及とともに、比較的早い時期からネット上での誹謗中傷が問題となっていた。
韓国の掲示板や新聞やポータルサイトのニュースの多くには「デッグル」というコメント欄が付けられている。これは、朝鮮時代に学者たちが本の貸し借りをしながら自分の意見を書き込んで次の人に渡したことから生まれた言葉らしいのだけれど、韓国では、ほぼ全てのニュースにコメントがつけられるようになっていて、コメント欄で議論する「デッグル文化」なるものがあるらしい。
これは、ユーザー同士の活発な議論を促すというメリットがある反面、名誉毀損や誹謗中傷、プライバシー侵害される危険というデメリットがある。実際、韓国では、おのネット上の誹謗中傷は、日常茶飯事に行われているという。
韓国政府は、インターネット上の虚偽事実流布や名誉毀損が多いことを理由に、2008年の段階で、ネット上での規制強化を検討する、としていた。これは、2008年5月に起こった、アメリカ産牛肉の輸入再開をめぐる抗議デモ、所謂「蝋燭デモ」が拡大した折、「BSE怪談」と呼ばれる虚偽情報がネット上にばら撒かれ、混乱が拡大したことがその背景にあったとされている。
当時、韓国世論はこの政府規制の動きについて「反政府デモ拡大の発端となったポータルサイトへの復讐だ」との批判の声が高まり「表現の自由」を侵害するとして反対する世論が優勢だった。
ところが、2008年10月、韓国の国民的女優のチェ・ジンシル(崔眞實)が、ネットで「ジンシルは、自殺したアン・ジェファンに25億ウォン(約2億2000万円)を貸していた。名義上の社長を立て、その裏で貸金業を手がけている」という誹謗中傷を受け、それを苦に自殺する、という事件が起こった。
彼女の死が韓国社会に与えた衝撃は大きく、ネット規制をめぐる雰囲気が一変。韓国のネット規制は加速していくことになる。
現在、韓国の「情報通信網法」での処罰に関する規定は次のようになっている。
第70条(罰則)このように、誹謗目的でネットに記事を流すと罪に問われることになっている。事実なら3年、嘘なら7年。今回、検察は「虚偽の事実をもって大統領の名誉を傷つけた」としているから、この70条2項によって起訴したものと思われるけれど、先にも述べた、ネット規制を巡る経緯を反映してか、重い罪となっている。
(1)人を誹謗する目的で情報通信網を通じて公然と事実を暴露し他人の名誉を毀損した者は、3年以下の懲役もしくは禁錮または2千万ウォン以下の罰金に処する。
(2)人を誹謗する目的で情報通信網を通じて公然と虚偽の事実を暴露し他人の名誉を毀損した者は、7年以下の懲役、10年以下の資格停止または5千万ウォン以下の罰金に処する。
(3)第1項及び第2項の罪は、被害者が具体的に明らかにした意思に反して公訴を提起することができない。
それにしても、検察の「長い特派員生活で韓国の事情を分かっていながら、謝罪や反省の意思を示さなかった」という説明は、どういうことなのか。これは、裏を返せば「"韓国の事情"を考慮して謝罪すれば起訴しなかった」とも受け取れる。
筆者は、法解釈については良くわからないけれど、検察のこの説明は、物凄く恣意的に聞こえるし、事実か虚偽かの云々よりも"韓国の事情"とやらが優先されるのかとも思ってしまう。
ただ、韓国でのネット規制が強化されていった背景をみると、どうもこの国は"理性"よりも"感情"が優先してしまうように見えて仕方がない。
まぁ、それも韓国国内で閉じている分には、それでいいかもしれないけれど、今回の措置は、国際基準からは大きくかけ離れていることぐらいは知っておいたほうがいい。
10月9日、菅官房長官は「報道の自由、日韓関係の観点から極めて遺憾だ。国際社会の常識と大きくかけ離れており、本日中に事実関係を詳しく確認し、韓国に懸念を伝達したい。…政府として韓国に繰り返し懸念を伝え、慎重な対応を強く求めてきた。…本件を巡っては、国内外の報道機関からも懸念の声が上がっていたと承知している。…民主国家においては最大限尊重されるべき報道の自由の関係では、法執行は抑制的でなければならない」と述べている。
また、アメリカも10月8日、国務省のサキ報道官が「起訴されたとの報道は承知しているし、当初から捜査状況を見てきた。それ以上の詳細はわからない。…我々は広く言論や表現の自由を支持しているし、韓国の法律への懸念もこれまで示してきた」とコメントしている。
ともあれ、今回の件で、韓国は、世界に対して、言論弾圧国家であるとの疑問を与えたことはほぼ間違いない。
感情に任せてあれこれするのは、かの国の"伝統"なのかもしれないけれど、あまりにも、自分の都合で全てを考え突き進むと、その反作用は、それ相応に返ってくる。
今後、韓国は益々世界から、厳しい目で見られることになるだろう。
この記事へのコメント