香港の雨傘 北京の策謀
今日はこの話題です。
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10月3日、香港民主化デモを行っている組織の一つ、香港大学生連合会(HKFS:Hong Kong Federation of Students)は、大規模デモの収束を目的とする香港政府との対話を中止すると発表した。
10月2日の時点では、デモ隊の辞任要求を受けた梁振英・香港行政長官が、デモ隊との対話のため政府高官を派遣すると発表し、学生側も応じるとしていた。
だけど、10月3日午後3時頃、青いリボンをつけたデモ反対派数千人が九龍島の旺角(モンコク)で、デモ参加者を襲った。
学生を襲撃した人々のほとんどは中年男性で、学生達がネイザンロードとアーガイルストリートの交差点に設置したテントを一つずつ撤去、現場から持ち去った。夜になると、学生グループが暴力的なデモ反対派を逆に取り囲んだのだけれど、学生たちは暴力に訴えないことを示すため両手を上に挙げ、警官に暴力を振るう反対派の逮捕を求める学生が声を挙げた。
だけど、多くの警官は腕を組んだまま反対派の後ろに立っていたという。デモ隊は、夜9時の時点で131人が負傷し、病院に搬送された。
事態を知った「オキュパイ・セントラル」発起人の1人、戴耀廷氏は、デモ参加者に金鐘の主会場に戻るよう呼びかけ、デモ隊は一時撤退したのだけれど、現場は4日朝までに学生らがに再びテントを張るなどして占拠している。
それでも、香港警察は、暴力を振るったデモ反対派を拘束、最終的に20人を逮捕している。だけど、その内8人は「三合会」と呼ばれる犯罪組織との関係が疑われていて、背後に親中派がいるとの見方もある
香港大学生連合会は、デモ隊への襲撃について、犯罪組織が騒ぎを起こすために金を払って襲撃犯を雇ったと主張。政府と警察はデモ参加者を狙った三合会の暴力行為を見て見ぬふりをしたとして「対話の中止以外に選択肢がなくなった」としている。
三合会(サンホーフイ)とは、香港を拠点とする幾数かの犯罪組織を総称する呼名で、犯罪組織のネットワークを指す。現在、三合会は10系列56の組織があり、メンバーの合計数は、20万人を超えるとの言われているのだけれど、実際に活動を行っている「三合会」に属する組織は13組織で、中でもに活発なのは「新義安(SanYeeOn)」「和勝和(WoShingWo)」「14K」「和合桃(WoHopTo)」「和合楽(WoOnLok)」「14K大圏(14K TaiHuen)」「大圏(TaiHuen)」の7組織と見られている。
その影響力は香港をはじめとして、マカオ、台湾、中国大陸といったアジア圏に加え、欧州、北米、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランド等の華人社会にまで至り、世界的規模であるとも言われている。
三合会という名は、天・地・人の三要素の調和を表すものとされ、その創設は清の時代、「反滑複明(清朝を滅ぼして漢民族の明王朝を復活させること)」を目的として、少林寺の修道士によって結成された秘密結社(「洪門」或いは「天地会」)にさかのぼると言われている。
1949年、中国共産党が中国大陸を支配すると、犯罪組織に対する締め付けが行われ、三合会は、当時イギリスの直轄植民地であった香港への移動して勢力を伸ばしていった。
そして、1960~70年代には、香港警察が、問題解決の為に三合会に協力を依頼したり、逆に三合会の地方有力者が自らの地盤における懸案の解決を目論み、警察に協力を依頼するなど、一種の共生関係が成立していた。1970年時点で、実に香港警察の三分の一の人間が黒社会の成員を兼ねている者かまたは黒社会と何らかの繋がりを持つ関係者であるという証言もあるほど。
10月2日のエントリー「雨傘は天安門を打ち破れるか」で、筆者は、当局がデモを弾圧できない理由を潰すために、デモ隊に"便衣兵"を紛れ込ませる可能性があると述べたけれど、香港警察と三合会が裏で繋がっていた過去を考えると、今回のデモに対して、反対派なる"便衣兵"を送り込んだ可能性は否定できない。
やはり、香港当局はデモ隊を挑発して暴発させることで"暴徒"に仕立て上げ、合法的に弾圧しようとしているのではないかと思えてならない。
だけど、デモ隊は其の手には乗らない。それどころか、冷静に対応することを基本方針に置いている。
デモ隊にはボランティアもいて、デモ参加者に対してお菓子や飲み物を配り、催涙ガス対策のゴーグルも用意している。更に念の入ったことに、新たなデモ参加者には、挑発されても冷静に対処する方法などを記した手書きのパンフレットを手渡し、人が多すぎる場所を避けるようガイドしたりしているという。物凄く組織立っている。
先にも述べた、「オキュパイ・セントラル」発起人の1人で香港大学の戴耀廷氏は、市民的不服従運動に関する研究をしていて、マハトマ・ガンジーは勿論のこと、「ウォール街を占拠せよ」に大きな影響を与えたジーン・シャープ氏の研究もしたのだという。
ジーン・シャープ氏は、アメリカの政治学者で、マサチューセッツ大学の名誉教授。現在は、ボストンのアインシュタイン研究所の上級研究員を務めている。
シャープ氏は「非暴力抵抗運動の父」と呼ばれていて、本人も「自分の考えは、マハトマ・ガンジーの影響を受けている」と述べている。
シャープ氏は、いかなる国家の政治的権力も、どのような統治機構も、支配者の命令に対する国民の服従に由来するのであり、いかなる権力機構も国民が服従しないのであれば、支配者の権力は消滅するとし、故に、国家は、国民を服従させるため、警察や裁判所などの強制機構や、神や大統領の尊厳や、倫理、タブーなどの文化的な仕組み。更に、投獄や罰金や追放などの制裁や、身分や富や名声などの報酬も利用するという。
そしてシャープ氏は、独裁政権について、独裁政権側は、兵器、軍隊、秘密警察の全てを持ち合わせている。その状況で、武器を取るのは、敵の最強の道具で勝とうとするようなものだとし、戦術的な観点から「非暴力」を勧めている。つまり、抵抗運動は、偶発的なものであってはならず、独裁体制からの自由を達成するには、非常に慎重な考えと戦略計画が求められると説いている。
香港の「雨傘革命」を戴耀廷氏が主導し、その背後にシャープ氏の「戦術的非暴力」の考えがあるのだとすれば、今回のデモが非常に組織立ち、かつ"平和的"に行われているのも合点がいく。
また、それだけでなく、今回のデモの秩序だった行動は自然発生的に行われている面もあり、デモ参加者同士の協力の多くは当意即妙で行われているという。それに加えて、デモ経験が豊富な人たちがその場でさまざまなことを教えているとも言われている。見事なもの。
香港大学の世論調査によると、香港市民が関心を持っている問題は何かという質問に対して、2006年頃は、7割が経済問題で、政治問題は2割程しかなったのだけれど、2013年1月には、政治問題が60%、経済問題が20%とすっかり逆転している。だから、例え、今回のデモが解散させられることになったとしても、民主化を求める流れは、簡単に下火になることはないと思われる。
10月4日、梁振英・香港行政長官がテレビ演説を行い「このままでは制御不能となり、市民の安全に重大な結果を招く。…政府と警察には社会秩序回復のために行動する責任と決意がある。…最も差し迫った問題は6日に政府職員が出勤できるかだ」と述べ、強硬手段も辞さない構えを見せている。
緊迫した状況はまだまだ続く。
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