昨日のエントリーの続きです。
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1.香港デモに対する各国の反応
10月1日、香港の民主派デモ隊数万人は幹線道路を占拠し続けている。
中国の国慶節を迎えたこの日、香港の金紫荊広場で現地時間午前8時から国旗掲揚式典が行われた。デモに参加している多数の学生達は、式典会場を取り囲んだのだけれど、妨害行為をすることなく、国歌演奏の際、抗議のブーイングを送ったそうだ。
相変わらず、デモは全く衰える気配をみせないのだけれど、いくつかの国はデモに反応を示している。
9月29日、アメリカのアーネスト報道官は、定例会見で 「アメリカは香港基本法に基づく普通選挙と、香港市民の願望を支持する。…香港当局に自制を、デモ参加者には平和的に意思を表すよう促す」と述べ、デモを支持しながらも、デモ参加者と香港当局の双方に冷静な対応を求めた。
また、同じく29日、イギリス外務省は「香港の人々が基本的権利と自由を享受し、法律の枠内で行使することは重要であり、それらを保障する最善の方法は普通選挙制度への移行だ。…状況を懸念している」と声明を発表し、30日にはキャメロン首相が、スカイ・テレビとのインタビューで、香港の中国返還の際の英中合意に触れ「中国側と設置した(一国)二制度の下で香港の人々に民主的な将来を与えることが重要との合意があった。それ故、今起きていることについて私は深く懸念しており、この問題が解決することを望む」と懸念を示した。
ただ、合意の順守までは強く求めておらず、つい十数年前まで香港を統治していた宗主国にしては、ちとつれない対応。
まぁ、今のイギリスは中国との経済関係を強めていて、去年の対中貿易額は425億ポンド(約7兆5590億円)という「記録的な高さ」になっている。来年5月の総選挙で再選を目論むキャメロン首相は、この件で中国に反発されて経済に悪影響を与えたくないとの思惑があるのではないかとみられ、それが今一つ中国に強く出れない理由ではないかとの指摘がある。
2.天安門の再現にならない4つの理由
では今後、香港デモはどうなっていくのか。ジャーナリストの冷泉彰彦氏は、香港デモは天安門の再現にはならないとして次の4つの理由を挙げている。
1)この問題は香港と中国政府の間の問題だけではない1は、香港がイギリスからの返還時の条件として向こう50年間は民主的な体制を維持する「一国二制度」が約束されていたことから、香港特別行政区政府が強制的にデモ隊の排除して流血の事態を招くのは「一国二制度」が崩壊することを意味する。「一国二制度」は中国政府が台湾に統一の謳い文句として囁いているものであり、それが目の前で崩れるのは都合が悪いだろう、というもの。
2)経済危機の引き金になるのは困る
3)情報の隠蔽は不可能な時代
4)当事者はみんな「バカではない」
2は、香港の問題が収拾のつかない事態になれば、香港から上海、そして世界へと株安が連鎖して行く可能性があるが故に、北京は無茶はしないだろう、と香港のデモ隊が算盤を弾いているのではないかということ。
そして3は、今のように、スマホとネット回線が世界中を一体化している時代には、事実をいつまでも隠すことはできず、仮に強硬手段に出ても、忽ち世界に広がってしまうということ。
最後に4については、市場経済が機能していること、情報が瞬時に駆けめぐるインフラがあることを前提として、デモ隊も、北京も、西側各国も冷静に事態を見守っていることから、「政治的な妥協」が成立する可能性があること。
冷泉氏はこれら4つの理由から天安門の再現はない、と主張している。
確かに、この主張にはそれぞれ説得力があり、頷かせるものがあると思うのだけれど、裏を返せば、この4つの理由さえなければ、好き勝手にできるということでもある。
3.中国政府の弾圧マニュアル
昨日のエントリーで、中国政府駐香港特区連絡弁公室トップの張暁明主任が香港民主派を指して「あなた達が生きていられるのは、共産党の寛容のお蔭だ」と言い放ったことを取り上げたけれど、中国共産党政府が本音では、民主派を弾圧したいと思っていたとするならば、この4つの理由を潰せばよいことになる。
例えば、1について、9月29日に台湾の馬英九総統が、香港デモについて「完全に理解し支持できる」と述べ、中国政府に対し「香港の民衆の声を聞き、平和的で慎重な態度で処理する」よう呼びかけ、警官隊による強制排除を批判している。だけど、デモが暴力的なものであり、市民の安全を脅かすものであった場合には、治安維持を口実に強制排除したあとで、「香港の安全と平和を守っただけであり、一国二制度はいささかも揺るがない」とシラを切ればいい。なんとなれば、学生達の中に"便衣兵"を紛れ込ませ、偽りの暴力行為を起こすことだってできなくはない。尤も、デモの参加者が何万人単位になっている間は、人員的な問題でそんな仕掛けをしても、忽ちデモ隊に取り押さえられると予想されるから、やってこないだろう。逆にデモの人数が減ってきたときが危ない。
次に、2についてだけれど、既に香港経済は中国にとって左程重要ではなくなっているという指摘がある。近年の中国の成長とともに、中国のGDPに占める香港の割合はどんどん低下している。返還時には15.6%だったのが、今では2.9%にまでになっていて、中国政府は、金融ハブ機能を上海に集約する意向を示しているという。だから、多少香港が潰れようが、さして気にしていないという考えも成り立つけれど、ちょっとリスクが大きいように思われる。実際には何らかの手を打たざるを得なくなるだろうと思う。
そして3については、もう既に始めている。9月28日以降、中国本土では、画像共有アプリとして人気が高いアメリカの画像共有サービス「インスタグラム」が遮断され見る事ができなくなった。
また、中国版のツイッター「微博(ウェイボ)」上の検索規制も急増し、香港大学メディア研究センターのデータによると、街頭占拠が始まってから、発言数1万件当たり平均約160件が削除されたり、非表示になっているという。それだけでなく、アメリカ・ヤフーの画像共有サービス「フリッカー」や通信アプリ「LINE」なども相次ぎ遮断されていると伝えられている。
更に、「人民日報」系の新聞は、アメリカのメディアが香港デモを天安門事件と比べていることに対し、「今日の中国は、もう25年前の中国ではない」と反論。打消しに必死になっている。
最後に4についてだけど、普通、何某かの主張を行っている相手を引き下がらせようとする場合、その相手は、バカであればあるほど都合がいい。ちょっとした餌で釣ることもできれば、言を左右して有耶無耶のまま手玉にとって適当にあしらうことだってできる。そのためには、相手に戦うための武器を持たせてはいけない。武器とは、情報であったり、資金であったり、他の人々との連携だったり、色々あるけれど、そうした武器を持たせないように工作する。例えば、デモ隊のリーダーの一部を脅迫したり、金で籠絡したりして、バラバラにしてから、各個撃破するのが常道。
実際、既にその工作は行われている。
「オキュパイ・セントラル」の共同発起人である香港中文大学の陳健民氏や香港大学法学部の戴耀廷氏は、殺害の脅迫を含む文書が多数送りつけられたことを明らかにしている。
戴氏によると、一部の中心的メンバーが突然同団体を去ったと述べ、別の5人の学者らもデモ活動への関与により脅迫を受けていると明らかにしている。
4.香港は「4つの理由」を死守せよ
では、これら4つの理由がなくなったとき、何が起こるのか。それはウイグルやチベットをこの4つの理由の切り口でみてみれば容易に予想できる。
「ヤルカンドの虐殺とハラルにみる共存への試み」のエントリーで取り上げたけれど、今年7月に東トルキスタンのヤルカンドで、ウイグル族住民が中国武装警察に多数殺されたと伝えられている。
だけど、中国当局は、事件を「テロ」と断定し、ヤルカンド周辺を封鎖。インターネットは遮断され、マスメディアも排除し、現地情報は中国当局が制御している。東トルキスタンのGDPは2008年で4203億元で、同年度の中国全体のGDPの314045.4億元に対して1.3%程しかない。また、ヤルカンド住人はGPSで携帯電話の位置が監視され、長時間一カ所に5人も集まっていると「テロ計画の疑いあり」として取り締まられている。
つまり、ヤルカンドでは、4つの理由の殆どが成立していない。その結果起こっているのが虐殺なのだとすると、香港がその例外である保証はない。
今現在、香港デモに参加している学生達は、催涙ガスを浴びせられようが"平和的"なデモを行い、それを世界に見せつけているけれど、これは、4つの理由の一つを把持するというとても重要な意味を持っている。
デモを行う彼らは平和的であり、暴力的なのは寧ろ、香港当局のほうなのだというイメージ宣伝を、絶対に崩してはいけない。さもなくば、4つの理由の一つを失うことになる。
香港が「4つの理由」を失ったとき、第2の天安門は、目の前に迫っているかもしれない。
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