ウクライナ進攻と盧溝橋

今日はこの話題です。
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1.ロシアの要求に文書で回答


1月26日、アメリカのバイデン政権は、緊迫するウクライナ問題について、ロシアのプーチン大統領が要求している北大西洋条約機構(NATO)の東方不拡大などの要求に対し、アメリカの立場を文書で回答したことを明らかにしました。

文書による回答は、21日にジュネーブで行われた米露外相会談で取り決められたもので、サリバン駐露米大使がロシア側へ手渡し、NATOも同じく26日にロシアに回答文書を送付しました。

プーチン大統領は昨年12月にNATOをこれ以上東方に拡大しないとの確約や、アメリカがNATO非加盟の旧ソ連構成国と軍事協力をびうことの禁止およぼ東欧からのNATO兵力の撤収などを柱とする条約・協定案をアメリカとNATOに提示。バイデン政権は、これらの要求に応じることはないとする半面、米露双方の安全保障上の懸念軽減に向けて軍事演習や軍備管理のあり方などに関しては協議の準備があるしており、今回の回答でも同様の立場を示したとみられています。

ブリンケン国務長官はこの日の記者会見で「NATO加盟を望む国々に門戸を開くとの原則に変わりはない」と強調し、ロシアが対話かウクライナ侵攻のどちらを選んだ場合でも「準備はできている」と述べました。

ただ、ブリンケン国務長官は「文書の公開はしない」とした上で、「ボールはいまロシア側にある」と述べ、プーチン大統領が緊張緩和に向けた対話に前向きな姿勢をみせることに期待感を示しました。


2.ロシアがウクライナ侵攻を目論む理由


日本のマスコミは、ロシアによるウクライナ進攻が近いのではないかと報じていますけれども、欧米ビジネス政治経済研究所代表理事の林大吾氏は、ロシアがウクライナ侵攻を目論む狙いには、表面上の目的と真の目的の2つがあると指摘しています。

林氏によると、表面的な目的は、既に明らかになっている「NATOの東方拡大の阻止を法的に保証させること」なのですけれども、これまでのロシアの自身たっぷりの動きから、EUの分断や、EUとアメリカの分断、つまり「アメリカの欧州からの排除」を一気呵成に狙っているのではないかと述べています。

そして、真の目的には、「ウクライナの民主化阻止」があり、具体的には「親ロシア政権の樹立」なのだと指摘しています。

実際、22日にはイギリス外務省が新首相候補の実名まで挙げて「ウクライナの政権転覆を狙うロシアの活動が明るみに出た」と機密情報を報道していますけれども、実際、ロシアの諜報機関の工作によって議員の半分近くが親ロシア派で固められたと見られていて、ロシア主導で親ロシア政権樹立の可能性が高まっているとの見方もあります。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、元はコメディアンでした。2015年に平凡な高校教師が政治腐敗に異を唱え、大統領にまで上り詰めるテレビドラマ「国民のしもべ」の主役を演じて人気を博し、2019年には、ドラマと同じように大統領選に立候補し当選しました。

けれども、ゼレンスキー大統領本人は、政治の素人であることに変わりなく、ロシアとの間で緊張を高める結果となりました。

林氏は、今後、プーチン大統領には3つの選択肢があるとして次を挙げています。
1)軍事侵攻をすると見せかけてこのまま脅し続け、実際は軍事行動を起こさずに西側諸国の譲歩を取り付ける
2)ウクライナの一地域、例えば東部ドンバス地方に小規模に侵攻し、一部を占拠して実効支配をする
3)大規模な地上戦を行い、ウクライナ全域を支配する。
林氏は、真の目的が親ロシア政権の樹立であるならば、西側諸国の力の無さと乱れぶりからすると、一つ目の、脅しのみで西側の譲歩を取り付けかつ同時並行的に親ロシア政権を樹立することは十分に可能であり、3つ目の選択肢を取り、大規模な地上戦を行い、キエフ占領まで見据えても、アメリカの決断力の無さからすれば大した抵抗も無く最大の結果を得られると、プーチン大統領には見えているだろうと推測しています。


3.ロシアのウクライナ侵攻はあり得ない理由


その一方、ロシアのウクライナ侵攻はあり得ないとする見方もあります。

環日本海経済研究所共同研究員の杉浦敏広氏は、ウクライナ問題におけるロシアの政治的意思は「ウクライナのNATO加盟阻止」であり、アメリカのそれは「ロシア軍のウクライナ侵攻阻止」であるとした上で、ロシア軍がウクライナに侵攻すれば、アメリカはウクライナのNATO加盟を認めることになり、ロシアは自国の政治的意思を実現できず、一方、アメリカがウクライナのNATO加盟を認めればロシア軍のウクライナ侵攻を正当化することになり、アメリカは自国の政治的意思を実現できないことになると指摘。これらから米露両国の政治的意思を実現する手段は戦争ではないと述べています。

杉浦氏は、ロシアは自身のレッドラインとして「ウクライナのNATO加盟決定」を表明し、アメリカは「ロシア軍のウクライナ侵攻」をレッドラインと定めていますけれども、それらを意図的に公表することで戦争勃発を避けようとしていると指摘しています。

先日、アメリカは、ウクライナに武器供与を発表し1月22日に武器弾薬90トンがウクライナに到着したと報じられていますけれども、杉浦氏はこの発表を受けロシアは「第2次キューバ危機」を演出するだろうと予測しています。

杉浦氏は、この「第2次キューバ危機」ではロシアはキューバやベネズエラにロシア製ミサイルを配備すると脅して、ロシア製ミサイルを積んだ輸送船をキューバやベネズエラに向かわせ、アメリカがその船を拿捕することで、1962年のキューバ危機の再来になると述べています。

第1次キューバ危機はケネディーとフルシチョフの協議により、ソ連は輸送船を帰国させ、アメリカ軍はトルコから撤収しましたけれども、今回の第2次キューバ危機は、プーチン大統領がミサイル運搬輸送船を帰国させ、バイデン大統領はウクライナの加盟阻止を密約することで解決するだろうと述べています。

なるほど興味深いシナリオだと思います。


4.盧溝橋を演出するゼレンスキー


また、地政学者の奥山真司氏はベテランのロシア経済の専門家であるポール・グレゴリー氏が「それでもロシアはウクライナに侵攻しない」というインタビュー記事を自身のブログで紹介しています。

それによると、プーチン大統領の過去の戦争に関する意思決定のパターンとして「ロシアの犠牲者がほとんど出ないような小規模で低コストの戦争を好んでいる」ことと、「軍備を増強し、紛争に備えながら、民衆の支持を得るために国家主義的なアピールをする」という特徴があり、今回のウクライナ問題がこれらのモデルに合致しないことから、プーチン大統領がウクライナと戦争を始めるとは思えない、というのですね。

ウクライナに進攻すれば、プーチン大統領は大量の死傷者を秘密にしておくことはできず、戦争に負ければ自分の首が危うくなる。1979年のアフガン侵攻がもたらした経済的、政治的ダメージは、その10年後のソビエト連邦崩壊の条件の一つとなったのだと指摘しています。

その一方で、グレゴリー氏は、現在のロシア軍のウクライナ国境への駐留が、偶発的な武力衝突を引き起こす可能性があることを懸念しています。

実は、先に紹介した環日本海経済研究所共同研究員の杉浦敏広氏も、ウクライナ問題で心配すべきなのは、ウクライナのゼレンスキー大統領だと述べています。

なぜなら、米露協議が進展して情勢が正常化すれば、ウクライナ国民の目はゼレンスキー大統領の無能政策を批判するようになる公算が高いからです。ゼレンスキー大統領は、その批判をかわすために、"ウクライナの盧溝橋"を演出する可能性があるというのですね。

実際、2024年にはウクライナの大統領選挙があり、既に野党の新露派であるP.ポロシェンコ氏が帰国して、大統領選挙に出馬する予定となっています。

こうしたことから杉浦氏は、ロシア軍の軍事侵攻はあり得ないものの、ウクライナ軍が盧溝橋を仕掛ける可能性があると警鐘を鳴らしています。

盧溝橋を演出したとしても、見た目は"偶発的な武力衝突"ですから、この点でグレゴリー氏の懸念と杉浦氏の警告は一致することになります。

筆者としては、ロシアのウクライナ進攻よりも、演出か偶然かは別として、国境近辺での小規模な武力衝突の方が可能性が高井のではないかと思います。要警戒です。


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