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1.蔡英文が中国に武力行使の禁止を勧告
1月1日、台湾の蔡英文総統は、総統府ビル前で行われた国旗掲揚式に出席した後、演説を行いました。
蔡総統は、今年は多くの課題に向き合わなければならないとした上で、「台湾の国際参加」、「経済発展パワーの維持」、「社会安全システムの強化」、「国家主権の防衛」を「2022年の堅実な政権運営」のための4つの柱だと強調しました。
台湾の国際参加について蔡総統は東南アジア諸国などとの関係を深化させるほか、自由貿易協定(FTA)締結に向けたアメリカとの貿易投資枠組み協定(TIFA)協議、環太平洋経済連携協定(TPP)への加入などに注力する考えを示しました。
また、経済では、台湾産業の影響力と競争力を高めなくてはならないと指摘。更にサプライチェーンの協力を強化する新しいプロジェクトで、EUとの交流を改善することを目指すと付け加えました。更に、インフレや住宅価格の高騰に対応し、実質所得の増加や生活水準の向上を図ると述べました。
更に、台湾はこの一年、国内のCOVID-19事件により浮き沈みに直面したとし、4つの国民投票をめぐる激しい議論を経たが、すべて可決されなかったことを取り上げ、これは、台湾人の質の高さと、民主的なメカニズムで違いを解決し、国家が団結していることを表しているとしました。
また、蔡総統は、「香港の情勢を引き続き注視する」と表明。投票率がわずか3割にとどまった昨年12月の立法会選挙や多くのメディア関係者が逮捕されたことに触れ、香港の民主主義の発展と人権や言論の自由に対する懸念を示し、「民主主義と自由の追求は犯罪ではないし、香港を支持する台湾の立場に変わりはない。蔡英文総統は、香港を支援する台湾の立場に変わりはなく、懸念するだけでなく、自分たちが苦労して手に入れた自由と民主主義をより深く大切にするつもりだ」と中国を牽制しています。
そして、中国との関係については、「圧力に屈せず、支持を得ても冒険はしない」とする台湾の立場を改めて説明し、「軍事的な手段を用いることは、両者の相違を解決するための選択肢では絶対にない……台湾海峡の平和と安定を維持し、双方が人々の生活を守り、安心できるように努力してこそ、双方が直面する問題に平和的かつ集団的に取り組み、解決を図るための適切な空間と雰囲気が生まれるだ。そうしてこそ、地域の緊張を緩和することができるのだ」と述べ、「情勢を見誤るべきでない」と釘を刺しました。
2.祖国の完全統一の実現は両岸同胞の共通の願いだ
一方、中国はというと、昨年12月31日、習近平国家主席が中央広播電視総台とインターネットを通じ、2022年の新年の挨拶を発表しています。
習近平主席は、「この一年を振り返ると、並々ならぬ意義があった。我々は中国共産党と国家の歴史において一里塚的な意義を持つ大きな出来事を経験した。『二つの百年』奮闘目標の歴史が重なり合い、我々は社会主義現代化国家の全面的建設という新たな道のりをスタートし、中華民族の偉大な復興を実現する道のりを力強く堂々と進みつつある」と述べました。
習近平主席は「7月1日、我々は中国共産党創立100周年を盛大に祝した。初心を忘れずに努力していけば、必ず結果は得られる。我々は気持ちを奮い立たせて奮起し、手を抜くことなく的確に実行することでのみ、歴史に背かず、時代に背かず、人民の期待に背かないことが可能となる……祖国は一貫して香港地区と澳門(マカオ)地区の繁栄と安定を気にかけている。心を合わせて協力し、共に努力して初めて、『一国両制』を安定的かつ長期的に実行していくことができる。祖国の完全統一の実現は両岸同胞の共通の願いだ。全ての中華の人々が手を携えて前へ進み、共に中華民族の素晴らしい未来を創ることを心から待ち望んでいる」と台湾統一の意思を改めて表明しました。
そして「外国の首脳や国際組織の責任者と電話で意思疎通し、テレビ会議を行った際、彼らは中国が新型コロナウイルスとの闘いと世界のコロナ防止・抑制のために行った貢献を幾度も称賛した。現時点で、中国は累計で120余りの国と国際組織に20億回分の新型コロナウイルスワクチンを提供した。世界各国が力を合わせて困難に打ち勝ち、団結・協力して初めて、人類運命共同体構築の新たな章を書き記すことができる……あと1ヶ月余りで、北京冬季オリンピックと冬季パラリンピックが開幕する。さらに多くの人がウィンタースポーツに参加するようにすることは、オリンピックムーブメントの要諦でもある。我々は誠意を尽くし、世界に盛大なオリンピック大会を捧げる。世界は中国に期待を寄せており、中国はすでに準備を整えている」と自画自賛しています。
3.日台双方はコミュニケーションをとるべきだ
こうした台湾、中国のトップの発言を受け、台湾の識者は双方はコミュニケーションをとるべきだと主張しています。
蔡総統の新年の挨拶について、淡江大学の趙春山・中国学名誉教授は、「今年は台北と北京で政治権力の大きな入れ替えがあり、両岸の関係はより不透明になっている」と指摘した上で、「政治的な不透明感から、公式の対話や交流は難しくなるかもしれないが、双方はコミュニケーションをとるべきだ」と述べています。
趙春山教授は、今年は、台湾では9つの選挙が行われ、中国では中国共産党の第20回全国代表大会が開催され、それぞれの上層部が揺らぐ可能性があると指摘。COVID-19や貿易などの問題に焦点を当てた交流は、会談への道筋をスムーズにする手段になるかもしれないと提案しています。
一方、同じく淡江大学の張五岳・中国学教授は、元旦の蔡英文の演説と大晦日の習近平主席の演説は、両岸関係における過去数年間の同じレトリックを繰り返したものだと述べ、両岸関係がアメリカと中国の継続的な競争によって影響を受けていることを示しているとし、今年は両岸関係、米中関係、日中関係に関わる重要な記念日がいくつかあると述べています。
今年は、香港で海峡交流基金と中国の台湾海峡両岸関係協会が会談し、いわゆる「1992年コンセンサス」が生まれてから30年目であると同時にワシントンと北京が上海コミュニケに署名し、国交樹立への道を開いてから50年、日本と中国が国交正常化してから50年の節目の年なのだそうです。
「1992年コンセンサス」とは、2006年に大陸委員会の蘇起前委員長が2000年に作ったと認めた言葉で、中国国民党と中国共産党の間で、台湾海峡両岸は「一つの中国」であると認め、「中国」の意味についてはそれぞれの解釈があるというのが暗黙の了解とされています。
張五岳教授は、台湾とアメリカ、そして韓国とフィリピンの2ヶ国は、今年大きな選挙を行う予定であると指摘し「これらの重要な記念日や選挙は、両岸関係に関して不確実性をもたらすだろう」と述べています。
4.日米台中それぞれに記念日がある2022年
台湾では今年、統一地方選挙があり、その後2024年に総統選挙があります。
2018年の統一地方選挙では民進党が惨敗し、蔡英文総統は党主席を辞任に追い込まれました。その後2020年の総統選で圧勝し、昨年5月に民進党主席に復帰しています。
台湾政治に詳しい東京外国語大学の小笠原欣幸教授によると、今、台湾では台湾に愛着をもちつつ、中国との関係で統一でも独立でもない「現状維持」を望む「台湾アイデンティティ」というゆるやかな政治的立場が、民意の主流を占めているのだそうです。
民進党に対する最大野党・国民党の朱立倫主席は、「米中の間をうまく立ち回り、台湾の利益を最大化する」という考えのもと、中国共産党とのパイプを軸に、中台関係をうまくマネジメントして、それを台湾の有権者に訴えれば理解されると考えているそうなのですけれども、今、台湾は米中対立の激化、米中のどちらかにつくことを求められていることを考えると、米中二股外交で支持を得るのは難しいかもしれません。
小笠原教授は、国民党の路線は台湾の主流の民意から外れていることから、国民党が政権に復帰するのはかなり厳しいと述べています。
小笠原教授は、国民党は理念的に中国との結びつきを切れないし、いまから民進党が「本家」である台湾をアピールしても、上回るのは難しく、更に本来の党是である「反共親米」についても、蔡政権にお株を奪われ、中国共産党との連携しか有権者へのアピール材料がなくなったとし、中国とのパイプで存在感が発揮できない以上、国民党は蔡英文政権に反対する立場で存在意義を示すしかないと指摘しています。
これだけだと蔡政権は今後も安泰かと思えなくもないのですけれども、小笠原教授によると、ポイントは経済であるとし「統一はいやだが民進党の一強体制も好まないという有権者は、地方選だと"安心して"国民党に投票できる。これが台湾政治の難しいところだ」と述べています。
こうしてみると、確かに今年の台湾地方選、アメリカの中間選挙と台湾政策が継続できるのか否かは非常に重要になると思います。また、先に取り上げた淡江大学の張五岳教授は触れませんでしたけれども、日本も、日中国交正常化50周年だけでなく、参院選もあります。
今年の日米台、そして中国の政局は、日本の安全保障に大きく影響することは間違いないと見るべきではないかと思いますね。
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