仏露首脳会談と国民を助けないバイデン

今日はこの話題です。
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1.ロシア海軍によるアゾフ海封鎖


2月10日、ウクライナ外務省はロシアが来週予定している軍事演習により、ウクライナが海上封鎖状態に置かれていると非難しました。

ドミトロ・クレバ外相によると、ロシア海軍によってアゾフ海は完全に封鎖され、黒海もほとんど航行できない状態になっているとのことで、ウクライナ外務省は、「前例を見ない広い範囲で軍事演習が行われるため、アゾフ海・黒海双方での航海が実質的に不可能になっている」と述べています。

オレクシイ・レズニコフ国防相も、2つの海の国際水域もロシアによって封鎖されているとツイートし、更に、在ウクライナ米大使館もツイッターで、「軍事演習という建前のもと、ロシアはウクライナの海上主権を制限し、黒海とアゾフ海の航行の自由を狭め、ウクライナ経済に重要な海上交通を妨げている」と非難しています。

アゾフ海とは、黒海の北に位置する浅い内海のことです。ウクライナ南東部とロシア南西部にまたがり、クリミア半島とクバン川の三角州低地に囲まれています。

アゾフ海は南端のケルチ海峡によって黒海と繋がり、また西端にあるゲニチェスク海峡によって、西方のシバシ湖とつながっています。

けれども、アゾフ海の南西部に位置し、両海峡を形成しているクリミア半島は、ロシアに事実上併合されている為、ロシアがケルチ海峡を閉鎖すると、西側の船舶やNATOの軍船は黒海からアゾフ海に入ることが出来なくなり、ウクライナ東部に海上からアクセスできなくなってしまいます。

ただ、今回のロシアによる海上封鎖は更に広い範囲に及んでいるという見方があります。

2月10日、ウクライナ外務省広報室は声明を発表。今回の封鎖は前例のない広範囲が対象となっており、黒海・アゾフ海の航行を実質的に不可能とするものだと指摘し、国際航行が著しく複雑になることから、ウクライナの港をはじめ、ウクライナに経済的・社会的な被害をもたらしうるものだと指摘しました。

声明では「ロシア連邦による、ウクライナに対するハイブリッド戦争の一部としての類似の攻撃的行動は、看過し得ない。それら行動は、国連憲章、国連総会決議、国連海洋法条約をはじめとする、国際法の規範と原則をあからさまに無視していることを示すものである」と批難し、ウクライナは、そのようなロシア側の行動が然るべき評価と対応を受けるよう、パートナー国、とりわけ黒海地域の国々とともに行動していくと伝えています。

では、ウクライナ外務省がいう「前例のない広範囲」とはどれくらいなのかというと、ニュースサイト「黒海ニュース」の編集者であり、ウクライナの黒海地域研究者として知られるアンドリー・クリメンコ氏が、今回、ロシアが海上軍事演習で封鎖する領域を示した地図をフェイスブックで公開しています。

それによると、アゾフ海の南側の過半とクリミア半島西端から黒海を跨いだ対岸付近と、クリミア半島南端のセバストポリから、イスタンブール方面への沖合と、かなりの範囲が封鎖対象となっているようです。

ロシアは軍事演習実施に先立ち、沿岸地域にミサイルや銃砲の発射演習があると警告しているとのことですから、少なくとも軍事演習が終わるまでは、一般船の航行は殆ど不可能になるのではないかと思います。

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2.マクロン・プーチン会談


2月7日、フランスのマクロン大統領は訪問先のモスクワでロシアのプーチン大統領と会談し、ウクライナ問題を巡って「向こう数日間が正念場になる」との認識を示しました。

ロシアがウクライナ国境沿いで軍増強を開始して以降、西側諸国の首脳がプーチン大統領と会談するのは初めてのことですけれども、会談は6時間にも及びました。

会談後、マクロン大統領は「向こう数日間が事態を決めることになるだろう。集中的な議論が必要であり、われわれは共に取り組む」としながらも、ウクライナ、モルドバ、ロシアが軍事演習を行っているベラルーシの独立を守る必要があると述べ、「結果を出すのは簡単ではないかもしれないが、協力すればきっとできると確信している」と語りました。

一方、プーチン大統領も「マクロン氏のアイデアや提案の多くは、おそらく協議するのはなお時期尚早だろうが、われわれの共同措置のベースにすることは全く可能だ」と会談で一定の進展があったことを示唆しましたけれども、もっとも、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、クリミアを武力で奪還しようと試みれば、「欧州諸国は自動的にロシアとの軍事紛争に引きずり込まれる」と述べ、軍事紛争が起きても「勝者はいない」と強調。ウクライナに対して「ミンスク合意」を順守するよう求めました。

その後、フランス大統領府は、今回の首脳会談で、ロシアが演習の終了後にベラルーシから部隊を撤退させることを確認したことを明らかにし、両首脳は、段階的な緊張の緩和に向けて軍事的な行動をとらないことで一致したと発表しています。

更に会談では、「ノルマンディー・フォーマット」と呼ばれる仏独とロシア、ウクライナの4ヶ国による高官協議の下で、外交を強化することでも合意が成立したようです。




3.好むと好まざるとにかかわらず耐えよ、私の美しきものよ


プーチン大統領が履行を求めた「ミンスク合意」とは、2014年9月および2015年2月に、ウクライナ政府と国内の親ロシア派間で交わされたドンバス地域における停戦合意協定のことです。

この協定はロシアとウクライナ、仏独の4ヶ国で纏められたもので、その主な内容は次の通りです。
・双方即時停戦を保証すること。
・OSCEによる停戦の確認と監視を保証すること。
・ウクライナ法「ドネツク州及びルガンスク州の特定地域の自治についての臨時令」の導入に伴う地方分権。
・ウクライナとロシアの国境地帯にセキュリティゾーンを設置し、ロシア・ウクライナ国境の恒久的監視とOSCEによる検証を確実にすること。
・全ての捕虜及び違法に拘留されている人物の解放。
・ドネツク州及びルガンスク州の一部地域で発生した出来事に関連する人物の刑事訴追と刑罰を妨げる法律。
・包括的な国内での対話を続けること。
・ドンバスにおける人道状況を改善させる手段を講じること。
・ウクライナ法「ドネツク州及びルガンスク州の特定地域の自治についての臨時令」に従い、早期に選挙を行うこと。
・違法な武装集団及び軍事装備、並びに兵士及び傭兵をウクライナの領域から撤退させること。
・ドンバス地域に経済回復と復興のプログラムを適用すること。
・協議への参加者に対して個人の安全を提供すること。
このミンスク合意について、ウクライナは合意を現状のかたちで履行すれば、東部ドンバスを支配している親ロシア派勢力にあまりに高い自治性を与え、ロシア政府が大きな影響力を持つことになるのではないかと懸念し、これまでゼレンスキー大統領は、ドンバス地域の一部地域を支配する反政府勢力にあまりにも多くのものを与えすぎているとして批判的な姿勢をみせていました。

一方、ロシアは、かねてから、ウクライナ政府がミンスク合意を履行していないと非難しています。2月7日、プーチン大統領は記者会見で、ウクライナに対して、「好むと好まざるとにかかわらず耐えよ、私の美しきものよ」と、合意の履行を呼び掛けています。


4.鍵はミンスク合意の履行


こうした背景を受け、2月8日、フランスのマクロン大統領は、前日のロシアに続きウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談しました。

マクロン大統領はロシアが近くウクライナを侵攻するとの見方はしておらす、仲介者としてモスクワとキエフを相次いで訪問するシャトル外交を展開しています。

マクロン大統領は会談後、ゼレンスキー大統領との共同記者会見で「昨日、プーチン大統領と話しましたが『自ら緊張を高めることはない』と言っていました」と述べ、「ミンスク合意」の履行が「平和と政治的解決につながる唯一の道だ」と強調。ゼレンスキー大統領が「合意を履行する意思を確認した」と明らかにしました。

更に、マクロン大統領は「こうした決意を共有することが、和平、および実現可能な政治的解決への唯一の道だ」と述べ、全ての関係者が発言と行動の双方で冷静になることが不可欠との考えを示しました。

一方、ゼレンスキー大統領はプーチン大統領について「言葉だけでは信用できない」と警戒感を示しながらも、近くロシア・ウクライナ・仏独4ヶ国による協議が改めて開かれるだろうと述べました。

この4ヶ国協議については10日、ドイツのベルリンで高官級協議が開かれています。協議は約9時間に及んだものの目立った進展はなかったようです。ただ、ウクライナ当局者はロシアと協議継続で合意したと述べ、今後、捕虜交換の実現など一定の成果につながる可能性があると説明しています。

マクロン大統領は、プーチン大統領と近く、再び会談する予定とのことですから、ウクライナの感触を伝えると同時に今回の問題の落としどころを探るのではないかと思います。

プーチン大統領は、7日のマクロン大統領との首脳会談後の記者会見で「今後の共同措置の基礎とすることは十分可能だ」と語っているところをみるとプーチン大統領自身も鉾の収め処を見極めようとしている雰囲気も感じますし、ミンスク合意を履行させた上で、ウクライナのNATO加盟を5年だか10年だか留保させることができれば、当面の政治目的は達成されるのではないかと思います。

マクロン大統領はアメリカのバイデン大統領と電話会談し、今月7日と8日にそれぞれ行った、ロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との直接会談の内容について説明したと米仏両政府から発表されていますけれども、マクロン大統領はフランス、ロシア、ウクライナ、ドイツの4ヶ国の枠組みも使って対話を続ける方針を、バイデン大統領と確認したとみられています。

これが本当であれば、ウクライナ問題解決に向けての協議から米英の直接介入を排除したことになります。

4ヶ国ではロシアとウクライナはそれぞれ自国の立場を主張するのは当然でしょうけれども、ドイツは、ロシアの利益を欧米側の利益よりも優先し、もはやアメリカの信頼できる同盟国ではないと批判されるくらいですから、どちらかといえば、ロシア寄りでしょうし、フランスは仲介役を買って出た以上、どちらかに肩入れもできず中立を守るでしょう。

したがって、力関係的にみれば、4ヶ国協議はややロシアよりに傾く可能性は高いと思われますし、協議の手始めは既にロシアとウクライナ両国で合意しているミンスク合意です。

マクロン大統領の仲介が上手くいくのなら、プーチン大統領の思惑はある程度以上達成できる見込みはあるのではないかと思います。




5.アメリカ国民を助けないバイデン


一方、ロシアは来週にでもウクライナ進攻を始める可能性が高いと警告するところもあります。アメリカです。

2月4日、ホワイトハウスのサリバン報道官は記者へのブリーフィングで、「プーチン大統領が命令すれば、いつでも侵攻を開始できる状況にある」と述べました。次に該当部分を一部引用します。
バイデン大統領とブリンケン長官がすでに述べたことを、この場で繰り返したいと思う。ウクライナに残っているすべてのアメリカ国民に直ちに出発するよう勧める。

この点については、はっきりとさせておきたい。ウクライナにいるアメリカ人はできるだけ早く、いずれにせよ24時間から48時間以内に退去すべきだ。

我々は明らかに未来を予測することはできない。 何が起こるか正確にはわからない。 しかし、リスクは十分に高く、脅威は十分に迫っているため、慎重さが求められる。

ここに留まるということは、他に退去の機会があるという保証もなく、ロシアが侵攻した場合に米軍が避難する見込みもないリスクを引き受けることになる。

ロシアによるウクライナへの攻撃が進むとすれば、空爆やミサイル攻撃から始まる可能性が高く、明らかに国籍を問わず民間人が殺害される可能性がある。 その後の地上侵攻では、大規模な部隊による猛攻が予想される。

事実上、何の予告もなく、出発を手配するための通信が遮断され、商業輸送が停止される可能性がある。 軍事行動が始まれば、飛行機も鉄道も道路も、誰も出発を当てにすることはできないだろう。

さて、繰り返しになるが、私はここに立って、何が起こるか起こらないかを言っているのではない。 私がここで言いたいのは、リスクは十分に高くなり、その脅威は、「軍事行動」であるということだ。

大統領は、今すぐ避難できたにもかかわらず避難しなかった人々を救出するために、軍服を着た男女の命を危険にさらすようなことはしないだろう。 だから、私たちは人々に責任ある選択をするよう求めているのだ。
このように、サリバン報道官は、ウクライナに居るアメリカ国民に対し24時間から48時間以内に退去せよと促し、ロシアのウクライナ進攻は空爆から始まる可能性が高いとした上で「大統領は、今すぐ避難できたにもかかわらず避難しなかった人々を救出するために、軍服を着た男女の命を危険にさらすようなことはしない」と、最後にさらっと凄い事を述べています。

つまり、ロシアのウクライナ進攻があっても、アメリカ国民を助けないというのですね。こんなことをいわれたら、ウクライナにいるアメリカ人は国外退去するしかありません。

ただ、このブリーフィングで、記者からここ1日、2日で新たな懸念につながる何かがあったのかと問われたサリバン報道官は、プーチン大統領によって最終的な決定が下されたとは言っていないと断った上で、諜報機関からの情報に基づいて、そう判断するに足る十分な理由があると答えています。

これについて、「PBSニュースアワー」の外交・防衛特派員のニック・シフリン氏は、ロシアがウクライナを取り囲むように展開した兵力とその数。次に、ロシアがミサイルからウクライナの通信を標的にできる高度な装置まで、あらゆるものを移動させていること。そして、ロシア軍がキエフを襲撃し、ウクライナ政府を転覆させようとするのではないかと懸念されることの三点を挙げています。

ニック・シフリン氏‎よると、アメリカの国防当局は、ロシアのウクライナ進攻は、2日間の空爆と電子戦に始まり、政権交代を目的とした侵攻に続く血生臭い作戦を予想し、NATOのジュリー・スミス大使は、北大西洋理事会でこれについて説明したそうです。

その一方、ロシア側は、今回のホワイトハウスの強い警告は、ロシア側の要求の信用を傷つけることを目的とした「調整された情報」攻撃であるとする声明を出したと述べています。

これらを受け、バイデン大統領は12日夜、電話会談を行うとしています。

その結果は追々明らかになるでしょうけれども、アメリカ、ロシア双方から発信される情報が対立、錯綜する中、どれが真実なのかは中々分かりません。

全ては結果が証明することになります。来週は最も緊迫した一週間になるかもしれませんね。




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