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1.ロシア及びウクライナに関するG7外相声明
2月14日、G7(主要7ヶ国)財務相はウクライナ情勢に関する共同声明を発表しました。
外務省によると、声明全文(仮訳)は次の通りです。
ロシア及びウクライナに関するG7外相声明読んで分かるとおり、ロシアに対して「力による現状変更」を批難する一方、ミンスク合意の履行を促し、独仏の外交努力を支持するものとなっています。令和3年12月12日
我々、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国のG7外相及びEU上級代表は、ロシアの軍備増強及びウクライナに対する攻撃的なレトリックを一致して非難する。
12月7日にバイデン大統領がプーチン大統領との電話でそうしたように、我々は、ロシアに対して、緊張を緩和し、外交チャネルでの対話を追求し、軍事活動の透明性に関する自らの国際的なコミットメントを遵守するよう求める。我々は、ウクライナ東部の紛争を解決するためのミンスク合意の完全な履行の達成に向けた、ノルマンディ・フォーマットにおけるフランス及びドイツの取組への支持を再確認する。
国境を変更するためのいかなる武力の行使は国際法により厳しく禁止されている。ロシアは、ウクライナに対する更なる軍事的侵攻は、甚大な結果と厳しいコストを招くであろうことを明確に理解すべきである。
我々は、ウクライナの主権及び領土一体性、また、あらゆる主権国家の自らの未来を決定する権利に対する揺るぎないコミットメントを再確認する。
我々は、ウクライナの抑制的な姿勢を称賛する。
我々は、共通の包括的な対応に関する協力を強化する。
また、G7外相は、共同声明発表に当たり、ロシアがウクライナに侵攻した場合には「ロシア経済に甚大かつ即時の結果をもたらす経済・金融制裁を共同で科す用意がある」と表明しました。
G7はこれまで外相の声明では制裁を示唆してきたものの、財務相が金融制裁に言及したのは今回が初めてとなります。
振り返れば、G7財務相は、2014年にロシアがウクライナ南部クリミア半島を併合した後に声明を出していたのですけれども、当時はロシアを名指ししておらず、「経済・金融制裁」についても触れていませんでした。その意味では今回の声明はより踏み込んだ強い声明だと言えます。
2.ウクライナに寄り添う
その独仏の外交努力ですけれども、14日、ドイツのショルツ首相は、フランスに続いてウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談しました。ショルツ首相はウクライナへの経済支援を表明し、「ウクライナに寄り添う」と連帯を強調しています。
また、ロシアがウクライナに侵攻すれば強力な制裁を科すと述べたものの、制裁にロシアからの天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」を含めるかは明言しませんでした。
更に、NATO(北大西洋条約機構)をこれ以上拡大させないとのロシアの要求には、欧米側は対話の用意があるとの考えを述べました。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、「ノルドストリーム2」に関して「不一致がある」との認識を示し、ロシアの「地政学的な武器だ」と批判しました。
またウクライナのNATO加盟についても、国の安全保障に必要だと述べ、加盟を目指す方針に変わりはないとの立場を改めて示しました。
ショルツ首相は15日のプーチン大統領との会談の場でこうしたメッセージを伝えるとしています。
3.中国向けガス供給拡大
「ノルドストリーム2」に関しては、もし制裁の一環で停止した場合、ドイツのエネルギー供給に甚大な影響を及ぼす一方、ロシアにとっても供給先を失うことになり、経済的損失を被ると見られています。さもなくば制裁の手段として挙がる訳がありません。
勿論、プーチン大統領とてその辺りの手は打っています。
2月4日、ロシア国営ガス独占会社のガスプロムは、ロシア産天然ガスの中国向け供給量を拡大する契約に調印したと発表しました。
中露は2014年、パイプラインを通じて年380億立方メートルのロシア産ガスを中国に30年間供給する契約を締結していたのですけれども、ガスプロムと中国石油天然ガス集団(CNPC)がこの日結んだ契約では、供給量を100億立方メートル増やし、計480億立方メートルとしました。
「ノルドストリーム2」の年間輸送能力は550億立方メートルで、その輸送量はガスパイプラインでの欧州向け天然ガス供給量の約4分の1に当たります。まぁ、550億立方メートルをMAXで使うことはないにしても、これが停止となればロシアにとっては確かに痛手です。
今回の対中ガス輸出増は、その痛手を多少なりとも埋め合わせることになります。
4.対話継続を了承したプーチン
多くのメディアは、すぐにでも戦争になるかのような報道を続けていますけれども、ロシアのプーチン大統領は表向きでも、対話姿勢を崩していません。
2月14日、プーチン大統領は今後の対応を検討するため、ラブロフ外相やショイグ国防相をクレムリンに呼び、個別に報告を受けました。
プーチン大統領は、ラブロフ外相に対して「ロシアが懸念する重要な問題について欧米側と合意するチャンスはあるのか、それとも欧米側は終わりのない協議に引きずり込もうとしているだけなのか」と問いかけると、ラブロフ外相は、今週も外交日程が予定されているとした上で「可能性は残されていると思う。いつまでも続けるべきではないが、現時点では協議を継続し、活発化させることを提案したい」と、対話を継続すべきだとする考えを伝え、了承されています。
さらに、ラブロフ外相は、アメリカやNATOからの回答に対する返答として10ページに及ぶ草案が準備できているとプーチン大統領に報告しています。
一方、ショイグ国防相は、各地で行われている軍事演習について「完了するものもあれば続いているものもある」と述べ、演習は、事前の計画に基づいて進められているとプーチン大統領に伝えました。
この一連のやりとりは、国営テレビで中継されたそうなのですけれども、ウクライナの国境周辺に軍の部隊が集結しているのは演習目的であるとともに、欧米との間では対話重視だとする姿勢を国内外にアピールした形となりました。
ここでのポイントはやはりプーチン大統領が問いかけた「欧米側と合意するチャンスはあるのか、それとも終わりのない協議に引きずり込もうとしているだけなのか」という部分だと思います。
なぜなら、これが戦争になるかならないかの分水嶺になると思うからです。
「合意するチャンス」というのは勿論、ウクライナのNATO加盟阻止を始めとするロシアの要求が、たとえ部分的であっても何らかの形で実ることを意味します。けれども、「終わりのない協議」というのは、大多数の兵を展開させたまま持久戦に持ち込み、ロシア側の疲弊と経済的負担を強いるものになります。要するに兵糧攻めです。
前者の場合は、軍事的圧力を背景にした交渉によって、プーチン大統領の政治目的が達成されることになりますけれども、後者の場合は、政治目的が達成されないばかりか、ロシアの金が溶けていくことになります。要するにプーチン大統領にとっての敗北となります。
であれば、金と兵糧が尽きないうちに、軍事侵攻を開始し、できれば電撃戦でキエフを無傷で占領するほうがまだマシと考えてもおかしくありません。
ウクライナのNATO加盟に関して、EUが必ずしも諸手を挙げて歓迎している訳ではないことを考えると、近いうちに「合意するチャンス」を設定できるかどうかがカギを握るのではないかと思いますね。
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