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1.サイバー攻撃を受けたウクライナ
2月15日、ウクライナ国家安全保障防衛会議情報安全保障センターは、国防省や軍参謀本部、大手銀行がサイバー攻撃を受けたと発表しました。
ウクライナのサイバーセキュリティ機関「State Services for Special Communication and Information Protection(SSSCIP)」によると、今回のサイバー攻撃は「DDos攻撃」と呼ばれるもので、偽のトラフィックを大量に送りつけてウェブサイトへのアクセスを邪魔するというものです。
DDos攻撃は比較的安価で容易に実行でき、混乱を引き起こすことができる一方で、高度な知識を必ずしも必要としないとされています。
ウクライナ当局によれば、現地時間午後7時半までに銀行2行のウェブサイトへのアクセスは復旧したそうです。
ただ、SSSCIPは今回のサイバー攻撃について調査を進めていますけれども、今のところ攻撃の主体は明らかになっておらず、責任を明確にするには時期尚早としています。
また、サイバーセキュリティーの専門家のマット・タイト氏は、今回のDDos攻撃について、ロシア政府が促している、一般の人々に対する嫌がらせや士気をくじくための全般的な組織的運動の一環のようだとの見方を示したものの、公共施設の無効化や軍事目的の達成といった直接的な紛争時に使われるであろう軍事的なサイバー攻撃や、物理的な破壊を行うサイバー攻撃とは明確に異なっていると指摘。そのため、今回の事案をウクライナ侵攻の直接的な前触れとみなすことには注意を促すと述べています。
これについてロシアは繰り返し、サイバー攻撃の実施について否定していますけれども、勿論、たとえ攻撃していたとしても、そうと認める筈もありません。
2.監視されるロシア軍の動き
2月15日、ドイツのショルツ首相は、モスクワでロシアのプーチン大統領と会談しました。
首脳会談を前に、ロシア国防省はウクライナ国境近くから演習を終えて撤収を始めたとする軍部隊の映像を公開したのですけれども、会談後の共同記者会見で、ショルツ首相はロシア軍の一部撤退について「良い兆候だ」と評価し、「すべての欧州諸国にとって持続的な安全保障はロシアと協力しなければ達成できない」と語りました。
また、独仏ロとウクライナによる4カ国協議の枠組みについて「紛争解決に重要だという認識で一致した」と表明し、「外交による解決の可能性は尽きていない」として今後も外交努力を続ける方針を示しました。
一方、プーチン大統領は戦争を望んでいるか問われ「望んでいない」と強調し、「まさにそのためにすべての国に平等な安全を保証する合意がもたらされる交渉プロセスを提案した」と語りました。
そして更に、アメリカと北大西洋条約機構(NATO)から1月下旬に受け取った欧州安保に関する書面回答について、不満を示しつつも「いくつかの考え方があった」と評価し、協議を続ける姿勢をみせたところを見ると、それなりに水面下で交渉が進んでいることが窺えます。
ロシア国防省は各地で実施していた軍事演習に関し、演習を終えた部隊から順に「きょう駐屯地への進軍が始まる」と発表。撤収するのは南部や西部の軍管区部隊とし、各国の駐在武官にベラルーシとの合同演習に参加していた部隊撤収の監視を認めるとも述べています。
ウクライナ国境沿いのロシア軍の動きについては、こちらのサイトでみれるようです。
このサイトは、ネット上にアップされたロシア軍に関する多くの映像を文書化し、検証・地図化したものを纏めたもののようで、実に細かくかつ、1~2日遅れ程度で部隊の位置が分かるようになっています。
これをみれば、ロシア軍はウクライナをがっつりと三方から包囲していることが分かります。確かにこれはウクライナにしてみれば、大きな軍事圧力であることに間違いありません。
3.バーベキュー場にやってきた熊
2月15日、地政学者の奥山真司氏は、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演し、ウクライナ情勢について解説しています。
一部引用します。
奥山)ロシアと、それに対する西側、NATOの東方拡大というところが1つの焦点なのですけれども、その焦点をめぐる今回の現象を、我々は引いて考える必要があると思います。引いて考える必要は何かと言うと、「ロシアは熊である」という認識を持たなければいけないということです。このように、奥山氏は、ロシアという"熊"には「人の話」など通じない。話だけではなく、脅し返すという具合に、熊であるロシアが「最も嫌がるのは何か」というところを突き詰めて考えるべきだと述べています。
奥山)EU、西側諸国が熊の前でバーベキュー大会を開いていると、そういう認識を持った方がいいのではないかということです。これは私が言っているわけではなくて、国際政治学者でこのように言う人が多くいます。その認識は正しいと思います。
飯田)国際政治学者の方で。
奥山)西側諸国で話のわかる、話が通じる人間同士でバーベキューをやる。お互いにパーティーを森の前でして、お互いにウィンウィンの関係で頑張って、お互いに儲けてみんなで美味しい食事を食べている。そんなときに、後ろから「ガオー」とバーベキュー場に強烈な熊が入って来て、「ウワーッ」となっているのがいまの状況である、というイメージで描くのが正しいと思います。
飯田)バーベキュー会場に熊が入って来て。
奥山)熊と我々人間同士を見たとすると、ロシアはそもそも「やるかやられるか」の19世紀の世界観を持っている。
奥山)帝国主義の時代の世界観を、そのまま持っている存在ではないですか。それに対して、21世紀の現在を生きている我々としては、国家そのものが相手の民主国の同意を得て拡大したり、約束したりして話の通じる人間であると。外交交渉ができる人たちが集まって、「お互いにこのようにやりましょう」ということで寄り合いをつくって来たところなのですけれど。
飯田)国際法の上で。
奥山)そういうことですね。そこに1人だけギャングが入って来て、「お前、どう落とし前をつけるんだ」と脅しているような状況を想像すれば、しっかりと現状を考えられると思います。
飯田)なるほど。
奥山)ロシア側も当然の如く、NATO側の東方拡大を認めて来た部分もあるのです。しかし、あとからイチャモンをつけて、「いま私の近くに来るな」と言っている。
飯田)通常のやり取りが通じない。
奥山)自分の縄張りに侵攻して来れば、それに対して「ガブッとやるぞ」という姿勢を見せているというのが現状です。EU側は同じ人間としてパーティーをやりたいのだけれど、突然わけのわからない熊が吠え出したと。
飯田)熊が。
奥山)ロシアは自分たちで勝手に情報を操作して、「我々がNATOに侵攻されているのだ」という物語をロシア国内でつくっていますので、国民としては「やられているのだ」と。「だったらやり返すしかない」という状況になっているのが怖いと思います。
ゼロサム思考を持っている人に対してウィンウィン思考の私たちがどう対抗するのか
奥山)話が通じない。その1つの大事な視点として、19世紀思考のロシアという「やるかやられるか」の世界観を持っている人たちに、「ウィンウィンでやりましょう。ビジネス関係でやりましょう」と言う21世紀型でどう対処するのかということです。ゼロサム思考を持っている人に対して、ウィンウィン思考の私たちがどう対抗するのかという根本的なジレンマが起きているのが、いまの状況なのです。そういう理解をすべきだと思います。
飯田)ゼロサム思考で来ているところに、妥協案は成立し得ない。
4.ウクライナより優先順位は上の台湾
今回のウクライナ問題については、中国の圧力を受けている台湾と相似形を成しているという指摘もあります。
既に日本政府は、欧米がロシアのウクライナに対するロシアの軍事侵攻を止められなければ、中国による台湾侵攻の抑止にも影響が出るのではないかという見方が強まっているそうです。
これについて、先の奥山氏は、「中国や台湾は、ロシアに対して西側がどう対処するのか、特にアメリカはどう対処するのかということを、タスクフォースのようなものをつくって現状分析している」と述べる一方、「アメリカにとっては、ウクライナよりも台湾の方が歴史的にも深い関係がありますし、昔から支援の濃さというのもあります。すべてにおいて優先順位は上だと思います」とその立場の違いを指摘しています。
そして、当の台湾はというと、台湾総統府は「全ての軍部隊は引き続き、ウクライナ情勢と台湾海峡の動向に細心の注意を払い、合同情報収集・監視を強化し、さまざまな兆候や脅威に鑑み、各状況に効果的な対応ができるよう、徐々に戦闘態勢を強めている」と説明しています。
ただ、中台の緊張とウクライナ情勢は異なる問題のため、2つを関連付ける偽情報に惑わされないよう市民に呼び掛けるなど、不安一掃に躍起になっています。
5.安倍・蔡会談
そんな中、2月10日、安倍元総理が安倍派(清和政策研究会)の会合で、先月31日に台湾の蔡英文総統と電話会談したことを明らかにしました。
会談で、蔡総統が福島県など5県の食品の輸入禁止措置を解除する方針を伝えると、安倍元総理は歓迎の意を示すと共に「TPP参加の大きなハードルをこえましたね」と応じたそうです。
勿論、話した内容がこれだけで終わる筈もありません。
同じく10日、台湾総統府の張惇涵(ちょうじゅんかん)報道官は、会談があったことを認めた上で、両氏が日本産食品に対する輸入規制や台湾の環太平洋経済連携協定(TPP)への加入、日台の各分野での交流などについて意見を交わしたと明かしました。
張報道官によれば、蔡総統は安倍元総理の長年の台湾に対する支持に謝意を伝えたほか、日本からの武漢ウイルスワクチン支援に関し、台湾の政府や人々からの感謝を日本政府や国会に伝えてほしいと頼み、また、台湾のTPP加入申請への歓迎や支持の表明など、岸田文雄政権の台湾に対する支持にも感謝を述べたそうです。
そして、蔡総統は日台間の「善の循環」が各協力分野で引き続き深化していくことに期待を寄せたとしています。
記事にはできないでしょうけれども、緊迫するウクライナ情勢の最中での会談であることを考えると、台湾有事の際の日本の支援についても話された可能性があると思います。あるいは、そのタイミングで安倍元総理と蔡総統が会談することそのものが中国に対する強いメッセージになるという計算しての動きなのかもしれません。
6.ロシアより話の通じない中国
案の定、これに中国は反応しています。
2月11日、中国外交部の趙立堅報道官は定例記者会見で、記者から蔡英文総統と安倍元総理の電話会談に関して問われ次のように回答しました。
台湾地区は中国領土の不可分の一部であり、中国側は国交のある国による台湾地区とのいかなる形の公的な交流にも断固として反対する。我々は日本の特定の政治屋に対して、いかなる形でも中国の主権を損なってはならず、いかなる形でも「台湾独立」勢力に誤ったシグナルを送ってはならないと厳粛に促す。台湾当局にも厳正に告げる。外国を頼みに自らの目的を達成するいかなる企ても失敗に終わる運命にある。
かなりピリピリきていますね。
派閥の領袖とはいえ、閣僚でもなんでもない一議員の会談にこれだけ反応するのは、やはり安倍元総理の影響力を恐れている証左です。
日本、あるいはアメリカにとって台湾はウクライナより優先順位が上だという奥山氏の指摘には同意します。けれども、「話が通じない」という意味では、中国はロシアよりもっと「通じない」のではないかと思います。
日本は、台湾やアメリカとバーベキューをしていたときに「熊」だか「龍」だかが、やってきたときにどう対応するのか。脅し返すことができるのか。また世論をそのように纏められるのか。岸田政権の責務には非常に重いものがあると思いますね。
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