※ついにロシアがウクライナ侵攻しました。しかし、記事が全然追い付きませんので、ウクライナ情勢は別の機会とさせていただきます。
ブログランキングに参加しています。よろしければ応援クリックお願いします。
1.在中国日本大使館員が中国当局に一時拘束
2月22日、外務省は21日午後、北京市において、在中国日本大使館の館員が意に反して中国北京市の安全部門により一時的に拘束されるとの事案が発生したと発表しました。
拘束は約2時間にわたった後解放され、怪我はないということです。
これに対し、外務省の森事務次官は、22日19時、中国の楊宇・駐日臨時代理大使を外務省に呼んで厳重に抗議するとともに、謝罪と再発防止を強く求め、楊氏は「本国に報告する」と述べたということです。
また、北京駐在の垂秀夫・駐中大使は同じく22日夜、中国外務省を訪れ、呉江浩・次官補に対し厳重に抗議するとともに、謝罪と再発防止を求めました。
22日深夜、林外相は臨時会見を開き、ウクライナ問題について発言したのですけれども、その場の質疑で記者から大使館員拘束について問われ、次のように答えています。
【記者】昨日21日に中国で、在中国の大使館員が一時身柄を拘束される事案がありまして、外交官の身分を定めたウィーン条約に違反するものかと思うのですが、所感と政府の対応についてお願いします。またしても、いつもの遺憾砲です。抗議して謝罪するような国ならまだしも、中国にそんなことをしても意味がありません。
【林外務大臣】現地時間の昨日ですが、北京市内において、在中国日本大使館員が、その意に反して中国側当局により一時拘束されるという事案が発生いたしました。本件は外交関係に関するウィーン条約の明白な違反であり、とうてい看過できず断じて受け入れられないと考えております。本日、森外務事務次官は、楊宇(よう・う)駐日中国臨時代理大使を外務省に召致し、厳重な抗議を行うとともに、謝罪と再発防止を強く求めたところでございます。また、現地においても、垂・駐中国大使から呉江浩(ご・こうこう)・中国外交部部長助理に対しても同様の申入れを行ったところでございます。
2.外交関係に関するウィーン条約
外務省が抗議の理由として取り上げたウィーン条約というのは正式には「外交関係に関するウィーン条約」と呼ばれるもので、1961年に採択され、日本は1964年に批准しました。
このウィーン条約では、国家の独立性や外交使節団の任務遂行の保護などを目的に、外交官やその家族らが派遣先の国内法に違反しても逮捕されることはなく、課税も免除される、所謂、外交特権が規定されているのですけれども、外交官の身柄の保護については第29条に規定されています。
それは次の通りです。
第二十九条 外交官の身体は、不可侵とする。外交官は、いかなる方法によつても抑留し又は拘禁することができない。接受国は、相応な敬意をもつて外交官を待遇し、かつ、外交官の身体、自由又は尊厳に対するいかなる侵害をも防止するためすべての適当な措置を執らなければならない。このように、外交官の身柄は不可侵であり、拘束した時点でウィーン条約違反となります。
このような外交特権は外交官しかもっていないのかというと、そうとも限りません。領事官にも似たようなものがあります。
領事官については、「領事関係に関するウィーン条約」があり、同じく「身体の不可侵」規定があります。該当の条文を引用すると次の通りです。
第三五条(通信の自由)このように「身体の不可侵」規定があるのですけれども、外交官のそれよりは弱く、「重大な犯罪の場合において権限のある司法当局の決定があったときを除く」と、例外規定が設けられています。
5 領事伝書使は、自已の身分及び領事封印袋である包みの数を示す公文書を交付されていなければならない。領事伝書使は、接受国の国民であつてはならず、また、派遣国の国民である場合を除くほか、接受国に通常届住している者であつてはならない。ただし、接受国の同意がある場合は、この限りでない。領事伝書使は、任務の遂行について接受国により保護される。領事伝書使は、身体の不可侵を享受するものとし、いかなる方法によつても抑留されず又は拘禁されない。
第四〇条(領事官の保護)
接受国は、相応の敬意をもつて領事官を待遇するとともに、領事官の身体、自由又は尊厳に対するいかなる侵害も防止するためすべての適当な措置をとる。
第四一条(領事官の身体の不可侵)
1 領事官は、抑留されず又は裁判に付されるため拘禁されない。ただし、重大な犯罪の場合において権限のある司法当局の決定があつたときを除く。
2 領事官は、最終的効力を有する司法上の決定の執行の場合を除くほか、拘禁されず又は身体の自由に対する他のいかなる制限も課されない。ただし、1のただし書に該当する場合を除く。
3 領事官は、自已について刑事訴訟手続が開始された場合には、権限のある当局に出頭しなければならない。もつとも、刑事訴訟手続は、領事官としての公の地位に相応の敬意を払いつつ行うものとし、1のただし書に該当する場合を除くほか、領事任務の遂行をできる限り妨げない方法で行う。1のただし書に該当する場合において領事官を拘禁したときは、当該領事官についての訴訟手続は、できる限り遅滞なく開始する。
3.不可侵規定の論理のすり替え
23日、外務省の抗議に対し、東京にある中国大使館は「駐日中国大使館報道官、在中国日本大使館職員への調査について記者の質問に答える」という報道官談話を発表しました。
その内容は次の通りです。
駐日中国大使館報道官、在中国日本大使館職員への調査について記者の質問に答えるこのように中国側は日本の抗議を撥ねつけています。2022-02-23 00:22
問:報道によれば、中国の関係部門は21日、北京で在中国日本大使館の職員1人を一時拘束して調査・質問を行い、日本の外務省責任者はすでにこの件について駐日中国大使館に申し入れを行ったという。これについてコメントは。
答:事実確認を行ったところ、報道で言及されている日本大使館の職員は中国でその身分にふさわしくない活動に従事し、中国の関係部門は法律と規則に従って調査・質問を行った。彼の合法的権利は保障されている。中国は日本のいわゆる申し入れを受け入れない。日本は中国の法律を尊重し、中国駐在する外交職員の言動を厳格に律するべきであり、その身分にふさわしくない活動に従事させてはならない。
これについて、外務省はNHKの取材に対し「拘束された職員は、あくまで正当な公務を行っていた。中国側の対応がウィーン条約に違反していることは明白であり看過できず、重ねて抗議するとともに、引き続き謝罪と再発防止を求めていく」としています。
けれども、「外交関係に関するウィーン条約」では、何時如何なる場合でも「身体の不可侵」が規定されています。つまり、外交官やその家族らが派遣先の国内法に違反しても逮捕されることはありません。
にも拘わらず、外務省は「拘束された職員は、あくまで正当な公務を行っていた」とわざわざ「正当な公務を行っていた」と付け加えています。これではまるで、拘束された職員は、外交官ではなく領事官だといわんばかりであり、更には、中国がいう「日本大使館の職員は中国で身分にふさわしくない活動に従事し、中国の関係部門は法律と規則に従って調査・質問を行った」との主張を認めていると受け取られかねません。
つまり、最初から外務省は中国の土俵に乗っかっているのであって、正当な公務をしたかしてないかの押し問答というか、泥試合に持ち込んで有耶無耶にしようとしているのではないかとさえ穿ってしまいます。
4.オーストラリア空軍機にレーザー照射
中国の横暴は今に始まったことではないのですけれども、ちょうど同じタイミングで他の国にも似たようなことを行っています。オーストラリアです。
2月19日、オーストラリア国防省は今月17日、オーストラリア北部沖の排他的経済水域(EEZ)上空を飛行していたオーストラリア空軍の哨戒機が、中国海軍の艦艇からレーザー光線を当てられたと発表しました。
発表によると、現場はオーストラリア北部とインドネシア東部の間のアラフラ海で、哨戒機は東に向かって航行していた中国海軍の艦艇2隻のうち1隻からレーザー光線を当てられたということで、国防省は「兵士たちの安全と命を危険にさらす可能性があった」と非難しています。
これを受けて、翌20日、オーストラリアのモリソン首相は「脅迫行為に他ならない。挑発がなかったにもかかわらず行われたもので、正当化できない。このような脅迫行為は断じて受け入れられない」と、外交・防衛ルートを通じて中国側に抗議しました。
これに対し、中国国防省の報道官は21日に発表した談話で、オーストラリアの哨戒機が海中の音波を探知するソナーを「艦船に近い距離に投下した……悪意ある挑発的な行為は誤解を招き、双方の安全を脅かす」と批判しました。
また、中国外務省の報道官も同じく21日の記者会見で「中国側の艦船は公海上にあり、関連する国際法や国際慣行に従って正常に航行しており、完全に合法だった……悪質なデマを流布するのは控えるべきだ」とオーストラリアを非難しました。
バリバリ戦狼外交しています。
5.威力偵察
なぜ、中国がこのように日豪を挑発したのかというと、おそらくは台湾侵略の際に、日豪がどうでてくるかを探るためのいわゆる「威力偵察」なのではないかと思います。
威力偵察とは部隊を展開して小規模な攻撃を行うことによって敵情を知る偵察行動なのですけれども、日本に対しては外交官を拘束。オーストラリアに対してはレーザー照射をやって出方を探ったのではないかということです。
では、なぜ日本に対しては外交官拘束で、オーストラリアに対しては、レーザー照射だったのか。
やはりそれは、偵察したい内容に合わせて変えたのではないかと思います。
世界各国の軍事力を分析しランキングにして発表しているGlobalFirepower(GFP)によると、世界TOP10は次の様になっています。
1)アメリカ中国の軍事力は世界3位に対して日本は5位。オーストラリアに至ってはTOP10圏外の17位です。
2)ロシア
3)中国
4)インド
5)日本
6)韓国
7)フランス
8)イギリス
9)パキスタン
10)ブラジル
日中豪の3ヶ国で比べると中国が一番軍事力を持っていることになるのですけれども、日本は世界1位のアメリカと安全保障条約を結び、在日米軍基地もあります。一方、17位のオーストラリアは英米豪のAukusを結んでいます。
けれども、台湾を始めとする東アジア、東南アジアに限定した場合、日米の連合は即応できる反面、オーストラリアは距離があるため、即応性に欠けることは否めません。
つまり、通常兵力で戦争した場合、中国はオーストラリアには勝てるが、日本には勝てないと見ているのではないか。故にオーストラリアには軍事挑発という形の威力偵察はしても、日本に対しては軍事挑発ではなく、大使館員を拘束する、すなわち人質を取る形での威力偵察をしたのではないか、ということです。
今回、中国は、日本の外交官を拘束することで、媚中派といわれる林外相がどこまで反発してくるかを探った。
単に遺憾砲を打つだけなら大したことはない。台湾有事では、在中日本人を逮捕して人質にすれば、なんとでもいうことを聞くだろうと、多寡を括ったのではないかと危惧します。
6.ペルソナ・ノン・グラータ
オーストラリアはさておき、中国が岸田政権を舐めて掛かっている可能性は高い。あるいは、外務省は事を荒立てたくないのかもしれませんけれども、そんなことをしているから余計に舐められるのだと思います。
では、今回の中国による国際法無視の横暴にも、ただ指を咥えてみているだけしかないのかといえば、そうとも限りません。同じくウィーン条約にも対応する手段が記されています。ペルソナ・ノン・グラータです。
ペルソナ・ノン・グラータとは、もともとはラテン語で「好ましからざる人物」を意味する言葉です。
ペルソナ・ノン・グラータに関しては、「外交関係に関するウィーン条約」の第9条にその規定があります。
第九条このように、受入れ国は「いつでも」「理由を示さないで」大使館員をペルソナ・ノン・グラータであると通告することができるとなっています。
1 接受国は、いつでも、理由を示さないで、派遣国に対し、使節団の長若しくは使節団の外交職員である者がペルソナ・ノン・グラータであること又は使節団のその他の職員である者が受け入れ難い者であることを通告することができる。その通告を受けた場合には、派遣国は、状況に応じ、その者を召還し、又は使節団におけるその者の任務を終了させなければならない。接受国は、いずれかの者がその領域に到着する前においても、その者がペルソナ・ノン・グラータであること又は受け入れ難い者であることを明らかにすることができる。
2 派遣国が1に規定する者に関するその義務を履行することを拒否した場合又は相当な期間内にこれを履行しなかつた場合には、接受国は、その者を使節団の構成員と認めることを拒否することができる。
従って、これを使って、在日中国大使館員または大使をペルソナ・ノン・グラータであると通告して、送り返してやればよいと思います。ウィーン条約ではこれらは、いつでも、理由を示さないで行えるのですから、あれこれとってつけたような理屈を拵える必要もありません。
媚中の林外相にそれだけの度胸も気概もあるとは思えませんけれども、ただ遺憾砲を撃つだけでは、台湾有事の際、簡単に大使館員やあるいは在中邦人が拘束され人質にされることになる可能性は念頭に置いておくべきではないかと思いますね。
この記事へのコメント