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1.ウクライナ侵攻
2月24日、ロシアのプーチン大統領はウクライナ東部ドンバス地方での軍事作戦決行を発表しました。
プーチン大統領は、軍事作戦の目的について「ウクライナ政権によって8年間にわたり虐げられ、ジェノサイドに遭ってきた人々を保護すること」を挙げています。
プーチン大統領は、ウクライナの「非軍事化」を目指すものの、ウクライナの占領は計画していないと説明し、ウクライナ軍に武器を捨てるよう呼び掛けると共に、ロシアは最新兵器を持つ核保有国だとして「ロシアへの直接攻撃は侵略者の壊滅と悲惨な結果につながる」とも警告しています。
けれども、西側情報当局の高官によると、ロシア軍の部隊はドニエプル川の両岸からキエフ制圧に向かっているそうです。これまでのところウクライナの東部と南部、中央部に集中しているものの、プーチン大統領は全土掌握を目指していると考えられると指摘していて、最終的には現政権の転覆と傀儡政権樹立を狙っているとみられています。
既に25日の段階でロシア軍の戦車が首都キエフに入ったという情報も流れています。
2月23日のエントリー「プーチンのウクライナ東部親露派独立承認について」の最後に、全面戦争にならないことを祈ると述べましたけれども、ほぼ全面戦争になりました。残念です。
ロシアによるウクライナ侵攻の最初の数時間をまとめました。 pic.twitter.com/HV2Ny6fDdR
— 試作兵器bot (@sisakuheiki) February 24, 2022
2.共に戦ってくれる者はいないようだ
2月25日現在、このロシアのウクライナ侵攻に対し、米欧は武力での反撃はしていません。それどころか派兵すらしていません。
24日、アメリカのバイデン大統領は、ホワイトハウスで演説し「プーチン大統領は侵略者だ」などと、強く非難したうえで大規模な制裁を科すと発表しました。
また、NATOも同じく24日、ストルテンベルグ事務総長が記者会見で「NATOの兵士をウクライナに送る計画はない」と述べています。
米欧はウクライナを支持すると口ではいうものの手は出しません。
なぜなら、ウクライナはNATO加盟国ではなく、NATO加盟国に防衛義務が発生しないからです。けれども、これは裏を返せば、NATO加盟国に対してはロシアの脅威に対して防衛しなければならないということです。
アメリカのバイデン大統領は、今週、ノースカロライナ州フォートブラッグの基地からポーランドとドイツに約2000人を派兵するとみられ、更にドイツ駐留の「ストライカー部隊」に所属する約1000人を、NATO東部に位置しロシアに近いルーマニアに配備するとしています。
米欧の強力は軍事支援がない以上、彼我の戦力差をみれば、ウクライナに勝ち目はありません。
これについて、ウクライナのゼレンスキー大統領は国の防衛に努めると言明した上で、自身と政権はキエフにとどまるとしていますけれども、「我々は孤立無援で防戦している。共に戦ってくれる者はいないようだ」と述べたのが全てを物語っているように思います。
3.ロシアが取り得る6つのシナリオ
では、これからウクライナはどうなるのか。
これについて、アメリカのシンクタンクであるCSIS(戦略国際問題研究所)は1月下旬に"ロシアが取り得る6つのシナリオ"をレポートしています。
そこに示された6つのオプションは次の通りです。
①ウクライナの東側を占領この6つのシナリオについてCSISのセス・ジョーンズ上級副所長は、①の「ウクライナの東側を占領する」シナリオと⑤の「親ロシア派の武装勢力の支配地域に部隊を派遣する」の2つのシナリオの可能性が高いと指摘しています
ウクライナの中央部を北から南に流れるドニエプル川の東側まで占領する。ドニエプル川を境にウクライナを東西に分割し政権を破壊工作などで崩壊に追い込む
②ウクライナ全土を占領
③黒海沿岸を占領
黒海沿岸はウクライナの貿易の拠点にもなっており、ここを奪うことでウクライナ経済に打撃を与える
④黒海沿岸+東側を占領
黒海の西には、ロシアの影響力が強い「沿ドニエストル地方」がある。ウクライナの隣国モルドバから一方的に独立を宣言し、ロシアが軍を駐留させていることから、ここを足がかりに占領する。
⑤親ロシア派武装勢力支配地域にロシア軍派遣。ミンスク合意まで撤退を拒否。
本格的な戦闘は行われないが、ウクライナ政府に揺さぶりをかける
⑥ウクライナ国境から一時的に撤収。親ロシア派反政府勢力の支援は継続。サイバー攻撃も行う。
そして、「東西ドイツあるいは北朝鮮と韓国のようになるかもしれない。一方が親欧米で、もう一方がロシアに支配されたウクライナである。ロシアによる侵攻は新しい"鉄のカーテン"が設けられる決定的な瞬間になるかもしれない」と話しています。
この①または⑤のシナリオに従えば、プーチン大統領はウクライナの東半分を衛星国化して、NATOに対する緩衝地帯にすることになります。
4.力を背景にした停戦交渉
25日、ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオ演説で「これ以上の犠牲者が出ることを止めるため、交渉の席に着くことを呼び掛ける」と述べ、停戦交渉をロシアに提案しました。
これに対し、ロシアのペスコフ大統領報道官は、モスクワで記者団に「プーチン大統領は(ゼレンスキー・ウクライナ大統領による停戦交渉の)提案に応じ、ミンスクに代表団を送る用意がある」と述べたとタス通信が伝えています。
ロシア独立系メディアのメドゥーザによると、ロシア国防省は同じく25日、ロシア軍がキエフ北西の郊外にあるホストメリの空港を奪取し、「ウクライナの特殊部隊200人以上を殺害した……キエフは西側から封鎖された」と明らかにしたそうですけれども、これが本当であれば、プーチン大統領は、キエフを完全包囲した状態にした上で、停戦交渉に乗り出そうとしているのかもしれません。
こんな、まるで映画や何かのような、分かり易い「力を背景にした停戦交渉」ともなれば、ほぼロシアの思い通りの結論になると見るのが普通かと思います。
既に一部メディアでは、ロシアはゼレンスキー政権に対して、即時退陣やNATOへの非加盟などの条件を出すのではないかとも囁かれていますけれども、あるいは、先日独立承認した東部二州、すなわち「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立承認と二州、あるいはウクライナ東半分へのロシア軍の駐留あたりまでは視界に入っている可能性は十分考えられます。
5.実は苦戦しているロシア軍
一方、実はロシア軍は苦戦しているのだという見方もあります。
ドイツのディ・ヴェルト紙によると、ウクライナの参謀本部は、ロシア軍はすでに集結した部隊の大部分を率いてウクライナに進駐。特に東と南のハリコフとドネツク地域に軍を集中させ、首都キエフの封鎖を目論んでいると発表。更に、クリミア半島から東部の分離主義地域への陸上回廊の確立と、モルドバ共和国の分離主義地域であるトランスニストリア(沿ドニエストル・モルドバ共和国)への回廊も目的の一つであったと述べているようです。これは先の6つのシナリオでいえば、③ないし④に相当すると思われます。
そしてウクライナ軍報道官は、ウクライナ南部のケルソン地方で戦闘があったことや、ロシア軍がキエフの西にあるゴストメル飛行場に空挺部隊200人を降下させようと試みたが、ウクライナ軍が主な部隊の上陸を何とか撃退したと述べています。
要するに、ロシア軍は、キエフを包囲あるいは陥落させようとしているものの、思ったほどには進軍できずウクライナ軍に足止めを食らっているという見方です。
同じくディ・ヴェルト紙は25日にプーチン大統領が、ロシアのテレビ放送でウクライナ軍に向けた演説を行い「あなた方と我々の間の交渉は、より簡単になるように思われる」とウクライナ軍にクーデターを呼びかけ、キエフで権力を握るように呼び掛けたと報じています。
これは、プーチン大統領にとって戦況は意外と思わしくないことを示唆しているとも考えられます。
つまり、ウクライナ軍にクーデターさせて内部から崩壊させろと呼びかけないといけないくらいにプーチン大統領は焦っているかもしれないということです。
もし、そうだとすれば、このタイミングでの停戦交渉となると、双方痛み分けに近く、必ずしもプーチン大統領の要求が全部通ることはなくなってくる可能性も出てきます。
実は、先に取り上げた、CSISの件のレポートの題名は「Russia's Gamble in Ukraine(ロシアのウクライナでのギャンブル)」となっているのですね。つまり最後に勝利するのがロシアだとは限らないということを暗示しているようにも思えます。
いずれ停戦交渉が始まるのではないかと思いますけれども、その内容は必ずしもロシアの思い通りのものではないかもしれませんね。
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