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1.即時撤退決議案否決
2月23日、国連はウクライナ情勢をめぐり総会本会議を開きました。
トーマスグリーンフィールド米国連大使は、ロシアによる侵攻で「500万人の難民が新たに発生する」と警告。日本の石兼公博国連大使は「国際法に違反し、絶対に受け入れられない」と演説した。グテレス事務総長も3日連続でロシアの行動を批判し、改めて緊張緩和を訴えました。
ウクライナからはクレバ外相が出席し「われわれは今、ロシアを止めるための助けを必要としている」と強調。全加盟国に東部ドネツク、ルガンスク両州の一部を支配する二つの「共和国」の承認につながる行動を控えるよう要請し、「迅速で具体的、そして断固とした行動」を呼び掛けました。
これに対し、ロシアのネベンジャ国連大使は「露骨なジェノサイドで踏みにじられる400万人の命に、無関心でいられなかった」と述べ、批判を強めるグテレス事務総長に対しても「国連憲章に基づく立場と権限にそぐわない」と反発しました。
一方、中国の張軍国連大使は、「全ての国の主権と領土保全を守るという中国の立場は一貫している」と踏み込んだ発言を控え、シリアは米欧が事態を悪化させているとロシアを擁護しました。
そして、25日には、国連安全保障理事会が開かれ、ロシアによるウクライナ侵攻を非難し、即時撤退を求める決議案が提出されました。
この決議案はアメリカ主導で進められたのですけれども、アメリカは決議案への賛同を示す共同提案国を理事国以外にも広く募り、80ヶ国以上が名を連ねました。
けれども、予想通りというか、決議案の採択はロシアが拒否権を行使して否決。中国、インド、アラブ首長国連邦(UAE)は棄権しました。
2.この状況を変えてほしい
ウクライナの現地には今も在留邦人120人が取り残されているのですけれども、文芸春秋は24日夜、ウクライナのキエフ在住邦人の男性に電話取材をしています。
この男性は仕事の関係で2000年にウクライナに移住し、現地女性と結婚しているそうで、そのやり取りの一部を抜粋引用すると次の通りです。
――日本に今、伝えたいことは何でしょうか?この方がいうには、ウクライナ人にとってロシア軍が隣にいるのは、昨日今日始まったことではなくて8年間ずっとそうだったというのですね。今から8年前といえば2014年、すなわちミンスク合意が結ばれた年です。
男性「2014年にウクライナのクリミア半島をロシアが独立自治共和国として認定し、実効支配するという問題が起きました。それをきっかけとしてウクライナ東部のドンバス地方も独立し、ロシアの庇護下に入ることを望んでいて、そのことが8年近く火種になっています。これまで、ウクライナ軍やたくさんの志願兵が命がけで領土を守ってきました。
今回こういう事態になって世界的に注目されていますが、どうしてもウクライナ1国でロシアに対抗するのには無理があります。まずはとにかくロシア人たちに現実を知ってほしいです。プロパガンダやフェイクニュースが多く、ロシア人の中にも今、何が実際起きているかを知らない人も多いと思います。国内は情報統制されているので、正確な情報が届いていない。SNSやインターネットを介して、正しい情報を国内外のロシア人と共有して、声を挙げてこの状況を変えてほしいというのが私たちの現在の願いです」
【中略】
――ロシア側が侵攻している現場(キエフ)に近づくことへの恐怖はありますか?
男性「そうですね。爆撃も含めて怖さもありますが、怖さ以上に「残念でならない」という思いのほうが強いです。ただ、これまでも列車で国内を移動する中で、軍服を着た志願兵や徴兵された方と一緒に乗り合わせたり、駅のプラットフォームでもそういった方たちの移動を目にすることはありました。
最近は車で移動しているときも路肩に軍関係の車があったり、列車で移動中には向かいのホームの列車に戦車やタンクを乗せていたりするのも見ていたので、怖いという感覚は日本にいるときより麻痺していると思います。
ソ連崩壊以降、ロシア人とウクライナ人は、国は違っても血のつながった親族同士のような関係だったわけです。それが互いに血を流す状況に追い込まれている。プーチン大統領がそういった行為を実行したことに腹立たしい部分もありますし、それに目をつぶっているクレムリンや周り、声を挙げないロシア人に対しても憤りを感じています」
――戦地となるのに、〇〇さんがすごく落ち着いていらっしゃるように窺えます。
男性「22年ここにいますし、実はつい先日もロシアの方に行ってきたばかりなんです。コロナの検査もそうですが、入国審査で別室に連れて行かれたりとか、国をまたぐような移動をしているとロシアとウクライナの情勢を肌で感じることも多いので、慣れてしまっているというのもあると思います。
ここ1カ月ほどで、急にロシアがウクライナを囲むように軍を配置して『とんでもないことを始めた』と世界では見られていますが、8年間この状況というのはずっと続いてきました。ウクライナ人にとっては8年間継続してきた中で、その一端が激しくなってきているという感覚なので、それほど慌ててもいなかったです。『ロシアならやるかもしれないな』という方向での心構えはあったと思います」
――今一番心配していることは?
男性「一番私が心配しているのは、侵攻による混乱に乗じて、ウクライナ人による強盗や盗難、空き巣が発生することです。これはまず避けられないことだと思います。
これまでも革命や混乱が起きたときは車上荒らしや空き巣、強盗は必ず発生しました。国内経済が悪化していますので、そこがやっぱり心配なところです」
3.ウクライナ週報
在ウクライナ日本国大使館は、2010年から2014年にかけて、ウクライナ及びモルドバにおける報道を取りまとめたウクライナ・モルドバ週報というのを掲載しています。
ミンスク合意が結ばれたのは2014年9月5日なのですけれども、その前後の週報をみていくと、合意後もドンバス地域で、武装集団による反テロ作戦部隊への攻撃が継続していたことが記されています。
また、間を空けて2017年からは、ウクライナ月報が公開されているのですけれども、例えば2017年の月報では、1月号から12月号までずっとドンパス地域での停戦違反が報告されています。
これについて、2005年より駐ウクライナ兼モルドバ大使を3年間務めた馬渕睦夫氏のサイトには、次のような記述がされています。
一方、ドンバスでのいわゆる「反テロ作戦」の最初の数ヶ月間は、犯罪歴のある人間を隊員に採用することが一般的になっていた。その後、ウクライナ当局は、軍の大量脱走や徴兵逃れの事例に多く直面し、ドネツク人民共和国やルガンスク人民共和国の民間人に対して、喜んで凶悪犯のギャングを投入した。また、同じ馬渕氏のサイトの別記事ではウクライナ政府にロシア人が虐殺されているとして、次のような記述があります。
ウクライナ内戦、東部紛争での大虐殺では、東部に住む多くの人々が、ウクライナ軍、ネオナチによって、全ての関節がねじ切れるように吊るされ、目をくり抜かれたり、女性の胸を切り取ったり、体に図形を描いたりと、何十種類もの奇妙な虐殺遺体が発見され、井戸には死体が詰まっていた。ある者は、足をワイヤーで装甲兵員輸送車に縛り付けられ、住民の目を楽しませるために村中に運ばれ、醜い死体は溝に捨てられた。丸腰の人は残酷に殴られ、内臓を叩き切られ、関節を吊るされ、ナイフで切られ、骨を折られ、地面に生き埋めにされた。そして、彼らはこれらの残虐行為を東部に住むロシア人だけではなく、ウクライナ政府黙認で、自国民であるウクライナ人に対しても行っていた...これが本当であれば大変なことです。
4.2016年版ウクライナ人権報告書
また、日本政府法務省の入国管理局が、2016年版のウクライナ人権報告書の仮訳を掲載しており、その中で次のように述べられています。
2016年を通じて国内で発生した最も深刻な人権侵害問題としては、以下が挙げられる。この報告書では「ロシアの支援を受けた分離主義勢力がドンバス(Donbas)地域で誘拐、拷問、違法勾留などを行った他、児童兵を採用し、反対意見を抑圧し、人道的援助を制限した。また、これより程度は低くなるが、政府部隊もこのような行為の一部を犯したという報告もなされた」とあります。つまり、程度の差こそあれ、親ロシア派もウクライナ政府もどちらも人権侵害を行っていたことになります。
紛争又は占領に関係する虐待:ロシアの支援を受けた分離主義勢力がドンバス(Donbas)地域で誘拐、拷問、違法勾留などを行った他、児童兵を採用し、反対意見を抑圧し、人道的援助を制限した。また、これより程度は低くなるが、政府部隊もこのような行為の一部を犯したという報告もなされた。クリミアでは、ロシア占領当局が反占領派と認識される人々を標的にして組織的に虐待し、また、政治的動機に基づき訴訟を提起した。
汚職及び公務員の刑事免責:ウクライナの司法部門内では、汚職をしても刑事免責される風潮がまん延している他、管理運営面においても欠陥が内在していた。検事総長室(The Prosecutor General’s Office)と司法制度は過去又は現在の大きな汚職行為の加担者に有罪判決を下す能力をほとんど有していないことが証明された。
国内避難民(IDP:Internally Displaced Persons)に対する不十分な支援:ロシアがクリミアを占領し、ウクライナ東部へ侵攻したことによって、170万人に上る国内避難民が発生している。こうした IDPは法的文書、教育、年金、金融機関及び医療を利用する際に引き続き困難に直面した。
2016年を通じて、政府は不正支払いの防止という表向きの理由でIDPが政府支配地域に居住しているという事実が証明されるまでの間、IDP に対する社会保障給付金の支払いを全て停止した。
2016 年を通じて報告されたその他の問題としては、次に掲げるものが挙げられる。被勾留者や受刑者に対する殴打及び拷問行為の疑い、政府が運営する刑務所や勾留施設の過酷な状況、非政府機関によるジャーナリスト襲撃、女性に対する社会的暴力と児童の虐待、民族的及び宗教的少数派に対する社会的差別とこうした少数派に対する嫌がらせ、強制労働を含む人身売買、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー及びインターセックス(LGBTI)の人々に対する差別と嫌がらせ、HIV/AIDS 感染者に対する差別。その他、ストライキを行う労働者の権利が制限されており、また、労働法や職場における労働衛生安全基準が効果的に実施されていないという問題もあった。
政府は人権侵害行為を犯した政府職員を起訴又は処罰するために必要な措置をほとんど講じなかったため、刑事免責の風潮がまん延する結果となった。人権団体と国連は、政府の治安部隊が犯した人権侵害、特に、ウクライナ保安庁(SBU:Security Service of Ukraine)が行ったと伝えられている拷問、強制失踪、恣意的勾留その他の虐待行為の訴えに関する捜査において重大な欠陥があると語った。2014年に首都キエフ(Kyiv)で起きたユーロマイダン(Euromaidan:欧州広場の意)発砲事件やオデッサ(Odesa)での暴動事件における加害者は未だに責任を問われていない。
ロシアによるクリミア占領及びドンバス地域への侵攻継続に関係する人権侵害の訴えに関する捜査は、これらの地域における政府の統制力が失われていることやロシアとロシアが支援する分離主義勢力が人権侵害の訴えに対する調査を拒否していることを理由として、完了しないままであった。
5.国連ジェノサイド調査団を派遣せよ
冒頭で取り上げた国連総会で、ロシアのネベンジャ国連大使は「露骨なジェノサイドで踏みにじられる400万人の命に、無関心でいられなかった」と発言し、プーチン大統領もウクライナ侵攻の理由として「ジェノサイドに遭ってきた人々を保護すること」を挙げていますけれども、国連は涙目でロシアにウクライナの攻撃を止めてくれと懇願するくらいであれば、停戦後に現地に国連調査団を派遣し、ジェノサイドがあったのかを調べると宣言し調査すべきではないかと思います。
ロシアによるウクライナ侵攻という行為は決して許されるべきものではありませんけれども、なぜそこに至ったのかの動機についてしっかりとした検証が行われることなく放置すれば、また第二、第三のウクライナが出てこないとも限らないと思うからです。
もし、ロシアのいう通り、あるいは元駐ウクライナ兼モルドバ大使の馬渕睦夫氏が指摘するようなウクライナ政府によるジェノサイドがあったのであれば、ウクライナへの支援を停止するなど、今とは逆のことを考えなくてはいけなくなります。
また、親ロシア勢力側だけがジェノサイドをしていた、あるいはジェノサイドが行われていなかったとしたら、今度はロシアが親ロシア勢力の偽旗作戦に騙されたか、またはそうと知っていながら嘘をついてウクライナに軍事侵攻したことになります。これはロシア自身に対する制裁の理由になります。
今後、ウクライナとロシアの間で停戦合意がなされ、ウクライナが独立を維持できたとしても、その後、ウクライナでジェノサイドが行われたとしたら、それは放置するのか。あるいは、ロシアが国家承認したドネツク、ルガンスク両州の二つの「共和国」でジェノサイドが無くなったとしても、世界はそれを無視するのか。こういう問題が残ると思うのですね。
更にいえば、筆者は、ウクライナ東部でジェノサイドがあったかどうかの有無は、ロシアと中国を分断する一つの要素になり得ると思っています。
中国はロシアのウクライナ侵攻を「侵攻ではない」と擁護しています。2月24日、中国外務省の華春瑩報道官は定例記者会見で、記者からは「ロシアの行為は侵略か」、「非難しないのか」と中国の認識や立ち位置を確認する質問が相次いだのに対し「ウクライナ問題は非常に複雑な歴史的な背景と経緯がある」などと逃げ回っています。
これについて、中国は、台湾問題や新疆ウイグル自治区などの分離・独立運動に波及することや、ロシアに巻き添えを食う形で国際的に孤立感を深めることを警戒し、ロシアに肩入れすることを慎重に避けているのだといわれています。
けれども、ロシアはジェノサイドを否定したのに対し、中国はウイグルやチベットでのジェノサイドなどないという態度を取っています。つまり、ジェノサイドを切り口にすれば、中露を分断できる、別に扱える可能性があるということです。
まぁ、中国とロシアを纏めて制裁するという手もあるかもしれませんけれども、現実問題としてそれがやれるのかというとやはり難しいと思います。
マスコミ等々ではロシアのウクライナ侵攻という「行為」ばかり報じていますけれども、「行為」だけでなく、その「動機」にも目を向けることが、同じ悲劇を繰り返さないためにも必要なことではないかと思いますね。
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